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一年目 ~学園編~
友人でいられる時間
しおりを挟む夕食の席で改めてレオンとクリスティーヌ様に今日からお世話になる挨拶をすると、レオンは気を遣いすぎるのも礼儀から逸れるぞと捻くれたことを言い、クリスティーヌ様は顔を輝かせて歓迎を表してくれる。
突然のことだというのに受け入れてくれることがありがたい。
クリスティーヌ様からは時間のある時によかったら勉強を教えてほしいとお願いをされる。どう答えたものかとレオンを見ると、入学も近いしぜひ見てやってくれと頼まれた。
学園での話も聞かせてほしいと言われ快く了承する。
新生活への緊張や期待や不安。
一年前の俺にも覚えのあることだ。
知れば消える不安もあるだろうし、いくらでも話すと約束すると安堵したようにふわりと笑う。
つられて浮かべた笑みが柔らかいものであるのを自覚する。
ずっと張り詰めていた気持ちがレオンに全て話し助けを求めてから少しずつ緩んでいた。
レオンとの話し合いに時間を取られてしまいお茶の約束を反故にしてしまったことを謝ると、明日も明後日もありますものと微笑む。クリスティーヌ様は本当に良い子だと思う。
こうして夕食を共にさせてもらっているけれど、本来なら俺はもう同じテーブルに着ける立場ではない。
レオンの部下になると決め、除籍届が受理されれば平民になるはずの俺は。
けれどレオンに今日はまだ客人だと固辞されて一緒に食事を取っている。
侯爵夫妻は数日間外出しているので、お二人が戻るまでは友人として過ごせと言われていた。
いくらレオンでも侯爵様に話を通さず勝手に人を雇い入れるわけにはいかないものな。
兄妹と囲む夕食の時間はとても和やかで、笑みが零れる。こんな風に和やかな食卓を過ごしたことがあっただろうか。
楽しそうに笑い合うレイチェルや男爵夫妻を眺め相槌を打つのが常だった男爵家での食卓や、騒ぐ弟妹を窘め宥めながら食事を食べさせる実家での記憶。
レオンもクリスティーヌ様もそれぞれの話を交互に聞きながら俺にも話を振ってくれる。
ホストとして慣れているのもあるのだろうけれど、言葉や表情の端々から伝わる温かさが俺の表情を緩ませた。
夕食を終え、少しクリスティーヌ様の勉強を見た後、レオンに付き合って盤上遊戯の相手をする。
駒を手に盤上を眺めているとレオンが口を開く。
「父上の許可が出たら、お前には領地の方に行ってもらおうと思っている」
「侯爵家の領地に?」
レオンの領地は国境に近くにある。
長期休暇の時でもないと中々帰れないと言っていたほどの場所だ。男爵家も田舎の方だったが、王都からの距離で言えばレオンの家の方がまた更に遠い。
「実力を示すには俺の側じゃない方がいいだろう。
俺の側ではとやかく言いたがる者も出るし、実務経験はお前の役に立つだろうからな。
領地の方が人が多いし基礎から教えてもらえ」
レオンの言う通りだった。
俺はこれまで働いたこともなく、何をすればいいかもわからない。
何もできないくせにレオンに縋って雇い入れてもらったことを快く思わない人も中にはいるだろう。
俺が悪く言われるのならともかくそんな俺を雇い入れるように進言したレオンまで悪し様に言われるのは嫌だった。
側から離れればそんな心配もないだろうし、仕事の基本を一から学べるのであればありがたい。
色々と配慮をしてくれる友人にありがとうと告げると自分のためでもあると素っ気なく返された。
それでも、だ。
レオン自身のためであっても、俺の未来を思って采配してくれてるのも事実。
まだ何も始まっていないけれど、いつかこの恩を返さなければと強く思う。
口にすればそんなことはいいから、まず自分のことを考えろと言いそうだからその思いは俺の胸に秘めておく。
公言すれば重荷になるだけかもしれないしな。
気持ちの押し付けではなくレオンが俺の力を必要とするときには力を尽くし役に立ちたい。
今日レオンが俺のためにしてくれたように。
友人としていられる時間はあと少し。
この時間を大切にしようと思い駒を動かす。
カツ、と俺が置いた駒に深くシワを作ったレオンに笑んで奪った駒を盤上からどけた。
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