ストケシア

桧山 紗綺

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騎士の考え

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  馬車に揺られながら、今しがたの訪問の内容を思い返す。
  会っていた少女を思い出すと自然と笑みが浮かんだ。
  よく表情の変わる娘だった。昨日の印象そのままに笑ったり、困ったり…。
  届けた花飾りがよく似合う少女らしい可愛さ。同じ飾りを着けていても会場で見せていた凛とした美しさとはあまりに異なる印象。しかしグレイはそれを、おかしいとは思っていない。その訳を知っているからだ。
  グレイの本当の目的は落し物を届けることではない。正直に話せることでもなかったので気づかれなかったことに満足する。
  訪問した家には娘が一人しかいないと聞いている。だとすればグレイが会ったのは誰なのか、それを確かめることがグレイの目的だった。
  しかしグレイが名乗っても特に反応は見せなかった。貴族であればグレイのことを知らないということはあまり考えられないのだが…。
  帰ると言ったとき、残念そうな顔をした彼女は本当に素直な性格らしかった。聞けば教えてくれるだろうか…。あまりに直接的な方法なのでさっきまでは考慮に入れなかったが、そのほうが楽そうな気がしていた。


 ___________________________________



  騎士が帰った後の応接室ではシアとアステリアが向い合ってお茶をしていた。
  笑顔のシアに対してアステリアは眉根を寄せて考え込んでいる。
  アステリアがそんな顔をしているのはさきほどの来客のことだった。
 「グレイ…、って名乗っていたわね」
 「はい」
  シアは髪飾りを見つめうれしそうにしている。
  そんなシアを見ながら、アステリアは騎士の来訪について考える。落し物を返す、というのは口実にすぎないと看破していた。
  騎士の目的はまず間違いなくシアとアステリアの関係を知ること、そして舞踏会に来ていたのがどちらか…、この二点を確かめることだろう。
  シアに話すかどうか、少し迷ったがアステリアは口を開いた。
 「多分、グレイ様は会ったのが私じゃないと気づいているわ」
 「それって…」
 「昨日の舞踏会にいたのがアステリアではなく、他の誰かだっていうことに気づいて確かめに来たってことよ」
 「…!」
  シアは目に見えておろおろし始めた。落ち着かせるためにアステリアは楽観的ともいえる観測を口にする。
 「大丈夫よ。 あなたが心配するほど悪いことじゃないわ」
  事実アステリアはあまり危機感をいだいてはいない。
  しかし、シアはそういう訳にはいかないようだ。
 「あの、申し訳ありません。 アステリア様…」
  うつむいて手を握りしめ、シアは申し訳なさそうにしている。
  心配を解消させることはできないが、少しでも安心させようとアステリアはシアの隣に座りなおす。頭をなでていると心がなごむ。失敗したと落ち込む姿が可愛くて、ついつい年よりも下に扱ってしまう。
  可愛い妹が笑顔になるまでアステリアは隣で頭をなで続けた。

 
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