ストケシア

桧山 紗綺

文字の大きさ
上 下
1 / 15

迷子

しおりを挟む
  絢爛な王城の中。
  シアは広すぎる廊下で困っていた。
 「どうしよう。 大広間ってどっちなのかな?」
  昨日アステリア様とした会話を思い出す。けれど城内で迷ったときどうするか、などというアドバイスは聞いた記憶がない。
  アステリア様との約束は充分に果たせたと思う。後は帰るだけだったのに、門の位置はおろか、出て来た広間の位置もわからない。完全に迷っていた。
 「こんなに広いのに人もいないし…。 どうしようこのまま帰れなくなったら…」
  想像したら怖くなってきた。城の廊下は広すぎて誰もいない空間に閉じ込められてしまいそうな気がしてくる。
 「おい」
 「きゃあっ!」
  突然廊下の陰から声がした。
 「こんなところで何をしている」
  陰から出てきたのは黒い制服を纏った騎士だった。黒い制服な上に髪や目も黒い。シアが気づかないのも無理はなかった。
  出てきたのが騎士だとわかってシアはほっとした。騎士もシアのドレスを見て招待客だとわかったらしく声が少し軟らかくなった。
 「何故こんなところにいるんだ?」
 「帰ろうとして迷ってしまって…」
 「迷った? 城門は正反対だぞ」
  騎士は最初、シアの言葉を疑ったようだ。しかしシアの瞳を見てそれが嘘ではないと判断してくれた。
 「仕方ないな。 案内するから、ついてこい」
  騎士が先に立って歩き出す。シアはやっとこの回廊から抜け出せると知って安心した。
 「ありがとうございます。 このまま外に出られなくなっちゃうかと思いました」
 「たしかに広いけど、迷うほど複雑な構造はしてないんだけどな、本当は」
  慣れたら夜でも迷わないと騎士は笑う。
  城門近くまで送ってくれたら騎士は中に戻ると思っていたら、騎士はシアの乗ってきた馬車を呼んで、乗るまで傍に付いていてくれた。
 「本当にありがとうございます」
  城に来る機会なんてもうないので、ちゃんとお礼を言っておきたかった。
  馬車の中でシアは頬が緩んでくるのを押さえられなかった。早く帰って今日のことを大切な人に話したい。最初に言う言葉を何にしようか、胸がどきどきしていた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

赤の奇跡

なの
恋愛
あー、転生しちゃったみたいです。 よくある悪役令嬢に転生しちゃった!? ヤバイ! ……ではなく。 ヒロインになったそうなので安泰ではありますが、そんなガラじゃないのでヒーローとのハッピーエンドは遠慮します。 *************** 『転生したってわたしはわたし』のサイドストーリーです。 本編ネタバレありますので、本編閲覧してからの閲覧推奨です。 本編を見なくても問題はないです。 会話はなく、ほぼヒロインの独白。 最後の最後でヒーローが一言しゃべります。 ……本当はこれも無くしたかったけど技術の問題か、無理でした。 なろうさんでも連載中。

【完結】サルビアの育てかた

朱村びすりん
恋愛
「血の繋がりなんて関係ないだろ!」  彼女を傷つける奴は誰であろうと許さない。例えそれが、彼女自身であったとしても──  それは、元孤児の少女と彼女の義理の兄であるヒルスの愛情物語。  ハニーストーンの家々が並ぶ、ある田舎町。ダンスの練習に励む少年ヒルスは、グリマルディ家の一人息子として平凡な暮らしをしていた。  そんなヒルスが十歳のとき、七歳年下のレイという女の子が家族としてやってきた。  だが、血の繋がりのない妹に戸惑うヒルスは、彼女のことをただの「同居人」としてしか見ておらず無干渉を貫いてきた。  レイとまともに会話すら交わさない日々を送る中、二人にとってあるきっかけが訪れる。  レイが八歳になった頃だった。ひょんなことからヒルスが通うダンススクールへ、彼女もレッスンを受けることになったのだ。これを機に、二人の関係は徐々に深いものになっていく。  ダンスに対するレイの真面目な姿勢を目の当たりにしたヒルスは、常に彼女を気にかけ「家族として」守りたいと思うようになった。  しかしグリマルディ家の一員になる前、レイには辛く惨い過去があり──心の奥に居座り続けるトラウマによって、彼女は苦しんでいた。  さまざまな事件、悲しい事故、彼女をさいなめようとする人々、そして大切な人たちとの別れ。  周囲の仲間たちに支えられながら苦難の壁を乗り越えていき、二人の絆は固くなる──  義兄妹の純愛、ダンス仲間との友情、家族の愛情をテーマにしたドラマティックヒューマンラブストーリー。 ※当作品は現代英国を舞台としておりますが、一部架空の地名や店名、会場、施設等が登場します。ダンススクールやダンススタジオ、ストーリー上の事件・事故は全てフィクションです。 ★special thanks★ 表紙・ベアしゅう様 第3話挿絵・ベアしゅう様 第40話挿絵・黒木メイ様 第126話挿絵・テン様 第156話挿絵・陰東 愛香音様 最終話挿絵・ベアしゅう様 ■本作品はエブリスタ様、ノベルアップ+様にて一部内容が変更されたものを公開しております。

すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト アルフレッドの側近 カシュー・イーシヤ 18歳 ダニエル・ウイロー 16歳 マシュー・イーシヤ 15歳 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして

犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。 王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。 失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり… この薔薇を育てた人は!?

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。 仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!

処理中です...