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13-②
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意地悪ばかり言うくせに、こういう時ばかり心配そうに眉を下げて気遣ってくれるから、余計に調子がくるってしまう。
悔しいような、嬉しいような、複雑な気分でどうしたらよいのか分からない。
ロザリアは変な表情になった顔を見られたくなくて、視線を横へと逸らしながら口を開いた。
「セインの口が悪いのは、もういいわ」
「は?」
…それがセインなら、もういいと思った。
口が悪くて嘘つきで、ロザリアにひどい事ばかり言う人だけど。
ちゃんと自分は大事にされているのだと、今回の事件で嫌というほど分かってしまったから。
この意地の悪い男の人を、受け入れることにした。
自分で自分が分からないけれど、受け入れたいと、思ってしまった。
ロザリアは嘘をつくのが苦手だから、どうせ誤魔化すことなんて不可能だ。
「ロザリア、お前大丈夫か?」
脈絡のないことを1人で言うロザリアを、セインが怪訝そうに見ている。
こんな時まで偉そうで、それが何だか無性に気に入らない。
だからロザリアは顔をあげてセインの金色の瞳をにらみつけてやる。
「だから!セインと結婚するって言ったの!あなたのお嫁さんになるって決めたの!」
真っ赤な顔をして叫ぶように言い放ったロザリア。
セインは、ぽかんと呆けた顔をしてロザリアを見下ろしていた。
固まってしまったセインの反応をじっと見つめて待つロザリア。
セインは丸くした目をぱちぱちと瞬きさせて、ロザリアの台詞をかみしめて、その後我に変えると同時もにまるで火が付いたかのようにとたんに顔が真っ赤に染まってしまった。
「お、まっ…!何言ってるのか分かってるのか!」
どうして怒った風に怒鳴るのか、ロザリアにはやっぱり分からない。
セインとロザリアの結婚はずいぶん前から決まっていた。
ロザリアの気持ちがやっと周囲の流れに追いついただけだ。
ロザリアはそれを宣言したにすぎないのに、なぜセインはこんなに動揺するのか。
「当たり前でしょ、分かってるわよ。一生セインの隣に居るのもいいかなと思ったの。お母様とお父様みたいな夫婦関係は無理だろうけど、それとは違う形の関係も楽しそうかもって。嫌々ながら夫婦するよりずっと良いことでしょう?どうして怒るのよ?」
「怒ってなどっー…。あぁ、もう……鈍いのもたいがいにしてくれ…」
「……?怒ってるじゃない」
不機嫌そうに髪を掻いて、眉を寄せてため息を吐くセイン。
どこからどうみても苛立っている風なのに、怒っていないなどと言うから余計に意味が分からない。
その後ずっと、王宮に着くまでセインはロザリアにもたれかかって眠っていた。
なんだか嘘寝のような気がして何度か声をかけてみたけれど、彼は頑なに目を開けてはくれなかった。
**********************
王宮のロザリアの生活する区画の裏口に、馬車はこっそりと止められた。
「姫様の誘拐事件はまだ広まって居ないから、こっそりな」
馬車の扉を開けたジンの台詞に、ロザリアは頷く。
「毒混入事件だけでも騒然としているものね。変に騒がれないようにしてくれた方がいいわ。……セイン、歩いていける?」
「俺がおぶっていこうか?」
「……構うな。1人で行ける」
目を開けたセインがため息を吐いて、首を横へ振った。
ジンの手をかりて2人そろって地に足をつけたとき、少し遠い場所から馬の嘶きが聞こえた。
ロザリアが乗ってきた馬や付き添いに居る騎士たちが居る場所より全然遠い。
「こんな時間に王宮内で馬に乗るのは、急使くらいよね。あとは…叔父様を捕縛してきた一団?」
「おっ、せいかーい。なんだ姫様、珍しく冴えてんじゃん」
セインが怪訝な表情で首をかしげる。
「罪人を王宮の中央部へ搬送したのか?」
「国王陛下が会いたいんだってさ。直接色々聞きたいらしい」
「あぁ……なるほど」
血を分けた弟が仕出かしたこと。国王にとってはひどく複雑な心境だろう。
納得して頷いたセインは、ロザリアへと視線を向けた。
「さっさと寝て休め」
「それはセインに言うべき台詞だと思うわ。私、トーマス叔父様に会いにいくから」
「「は?」」
腰に手を当てて当然のように宣言するロザリアに、呆けたジンとセインの声がかぶった。
何を馬鹿なことを言っているんだと、男2人の視線がありありと告げている。
けれどロザリアもめげるつもりだって無い。
「嫌な思いをするだけだから止めろって思ってるんでしょう?でもお断りします、蚊帳の外に置かれるのなんてもう絶対いや」
ロザリアを守るために、たくさんの人が何か月も前から動いてくれていた。
何も知らなかったときならまだしも、完全に当事者と分かったのに知らない振り何てできない。
そしてきっと、今を逃したらトーマス公爵はしかるべきところへ移送されてしまう。
そうすれば次に会えるのはいつになるのか分からないのだ。
悔しいような、嬉しいような、複雑な気分でどうしたらよいのか分からない。
ロザリアは変な表情になった顔を見られたくなくて、視線を横へと逸らしながら口を開いた。
「セインの口が悪いのは、もういいわ」
「は?」
…それがセインなら、もういいと思った。
口が悪くて嘘つきで、ロザリアにひどい事ばかり言う人だけど。
ちゃんと自分は大事にされているのだと、今回の事件で嫌というほど分かってしまったから。
この意地の悪い男の人を、受け入れることにした。
自分で自分が分からないけれど、受け入れたいと、思ってしまった。
ロザリアは嘘をつくのが苦手だから、どうせ誤魔化すことなんて不可能だ。
「ロザリア、お前大丈夫か?」
脈絡のないことを1人で言うロザリアを、セインが怪訝そうに見ている。
こんな時まで偉そうで、それが何だか無性に気に入らない。
だからロザリアは顔をあげてセインの金色の瞳をにらみつけてやる。
「だから!セインと結婚するって言ったの!あなたのお嫁さんになるって決めたの!」
真っ赤な顔をして叫ぶように言い放ったロザリア。
セインは、ぽかんと呆けた顔をしてロザリアを見下ろしていた。
固まってしまったセインの反応をじっと見つめて待つロザリア。
セインは丸くした目をぱちぱちと瞬きさせて、ロザリアの台詞をかみしめて、その後我に変えると同時もにまるで火が付いたかのようにとたんに顔が真っ赤に染まってしまった。
「お、まっ…!何言ってるのか分かってるのか!」
どうして怒った風に怒鳴るのか、ロザリアにはやっぱり分からない。
セインとロザリアの結婚はずいぶん前から決まっていた。
ロザリアの気持ちがやっと周囲の流れに追いついただけだ。
ロザリアはそれを宣言したにすぎないのに、なぜセインはこんなに動揺するのか。
「当たり前でしょ、分かってるわよ。一生セインの隣に居るのもいいかなと思ったの。お母様とお父様みたいな夫婦関係は無理だろうけど、それとは違う形の関係も楽しそうかもって。嫌々ながら夫婦するよりずっと良いことでしょう?どうして怒るのよ?」
「怒ってなどっー…。あぁ、もう……鈍いのもたいがいにしてくれ…」
「……?怒ってるじゃない」
不機嫌そうに髪を掻いて、眉を寄せてため息を吐くセイン。
どこからどうみても苛立っている風なのに、怒っていないなどと言うから余計に意味が分からない。
その後ずっと、王宮に着くまでセインはロザリアにもたれかかって眠っていた。
なんだか嘘寝のような気がして何度か声をかけてみたけれど、彼は頑なに目を開けてはくれなかった。
**********************
王宮のロザリアの生活する区画の裏口に、馬車はこっそりと止められた。
「姫様の誘拐事件はまだ広まって居ないから、こっそりな」
馬車の扉を開けたジンの台詞に、ロザリアは頷く。
「毒混入事件だけでも騒然としているものね。変に騒がれないようにしてくれた方がいいわ。……セイン、歩いていける?」
「俺がおぶっていこうか?」
「……構うな。1人で行ける」
目を開けたセインがため息を吐いて、首を横へ振った。
ジンの手をかりて2人そろって地に足をつけたとき、少し遠い場所から馬の嘶きが聞こえた。
ロザリアが乗ってきた馬や付き添いに居る騎士たちが居る場所より全然遠い。
「こんな時間に王宮内で馬に乗るのは、急使くらいよね。あとは…叔父様を捕縛してきた一団?」
「おっ、せいかーい。なんだ姫様、珍しく冴えてんじゃん」
セインが怪訝な表情で首をかしげる。
「罪人を王宮の中央部へ搬送したのか?」
「国王陛下が会いたいんだってさ。直接色々聞きたいらしい」
「あぁ……なるほど」
血を分けた弟が仕出かしたこと。国王にとってはひどく複雑な心境だろう。
納得して頷いたセインは、ロザリアへと視線を向けた。
「さっさと寝て休め」
「それはセインに言うべき台詞だと思うわ。私、トーマス叔父様に会いにいくから」
「「は?」」
腰に手を当てて当然のように宣言するロザリアに、呆けたジンとセインの声がかぶった。
何を馬鹿なことを言っているんだと、男2人の視線がありありと告げている。
けれどロザリアもめげるつもりだって無い。
「嫌な思いをするだけだから止めろって思ってるんでしょう?でもお断りします、蚊帳の外に置かれるのなんてもう絶対いや」
ロザリアを守るために、たくさんの人が何か月も前から動いてくれていた。
何も知らなかったときならまだしも、完全に当事者と分かったのに知らない振り何てできない。
そしてきっと、今を逃したらトーマス公爵はしかるべきところへ移送されてしまう。
そうすれば次に会えるのはいつになるのか分からないのだ。
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