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8-①
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婚約の義を終えたあとから、そのまま婚約披露を祝うパーティーが行われた。
客人たちは料理に舌鼓を打ったり、王宮付楽団の演奏に酔いしれたり、歓談に笑い声をあげたりと思い思いに楽しんでいる。
「では失礼いたします」
「えぇ。楽しんでいってくださいね」
ロザリアとセインの元へ列をなして祝いの台詞を並び立てる招待客との挨拶もひと段落した頃。
トラブルなくパーティーを終えられそうな広間の様子を上座から見渡して、席に腰かけているロザリアはほっと息を吐く。
気を抜くとさっきから気になっていたことをはっきりと自覚してしまって、思わず腹部を押さえる。
「お腹がすいたわ…降りてもいいかしら」
ロザリアの座る上座の前の開けた場所にはテーブルが広げられ、そこにかけられた白いクロスの上に今日のために王宮料理長が腕を振るった特別メニューが並んでいる。
基本は立食形式だけど、隅に添えられたカウチやテーブルまで給仕に運んで貰い座って食べることも可能な仕様だ。
目の前のおいしそうな料理の数々と香りに、もう我慢できそうにない。
しかしそう訴えるロザリアに、セインは呆れたような顔でゆるゆると首を横へと振った。
「普通に考えて主催側はもてなしに専念するべきだろう。今は途切れているだけで、おそらくまだ挨拶や歓談に来る者もいるはずだ」
「でも別にマナー違反だなんてこともないじゃない。一言給仕にお願いして摘まむものを持って来て貰うのもだめなの?」
「…………我慢しろ」
セインが立ち上がって、近くを通りかかった給仕へと片手をあげる。
応じた給仕は上座に昇ると、恭しく2客のグラスの乗った盆をセインに差し出した。
セインに習って立ち上がったロザリアへとそのうちの1客が渡される。
グラスの中身の色は透明。香りからして柑橘系の果実酒だ。
丸く黄色い実が一つだけ沈んでいた。
きっとこれで乗り切れと言う意味なのだろう。
けれど当然、こんな実ひとつとお酒なんかで空腹が満たされるわけがない。
「あとで目いっぱい食べてやるんだから」
グラスの中の果実酒を睨んで呟く台詞には、やたらと熱い決意が込められていて、隣に立って果実酒を一口口に含んだばかりのセインの眉間に深いしわがよる。
「馬鹿か。どこまで食欲旺盛なんだ。普通は思っていても口にださないものだぞ。人並み程度とはもう望まないが…それでも少しくらいは恥じらいを持て」
「だっていつものお夕飯の時間も過ぎているし…セインは平気なの?」
「見越して式の前に軽食を取っていたからな」
「ず、ずるい…」
「きちんとロザリアの分も用意されていたぞ。幕裏でこそこそ遊んでいたから逃したんだ…ろう、が……?」
小言を並べていたセインが突然口を閉じたかと思えば、厳しい表情で手を口元に当てている。
「セイン?」
不思議に思ったロザリアが彼の顔をうかがいみると、血の気が引いて白い肌は青みをおびている。
気分でも悪くなったのだろうか。
背を丸めてうつむいてしまったセインの腕に手にかけ、揺れるセインの身体を支えた。
「っ…セイン?大丈夫?」
「……ァ……の、っな…」
セインが突然ロザリアの持っているグラスをつかんだ。
強い力で引かれて手からそれを落とされ、グラスは簡単に砕け散る。
客人たちは料理に舌鼓を打ったり、王宮付楽団の演奏に酔いしれたり、歓談に笑い声をあげたりと思い思いに楽しんでいる。
「では失礼いたします」
「えぇ。楽しんでいってくださいね」
ロザリアとセインの元へ列をなして祝いの台詞を並び立てる招待客との挨拶もひと段落した頃。
トラブルなくパーティーを終えられそうな広間の様子を上座から見渡して、席に腰かけているロザリアはほっと息を吐く。
気を抜くとさっきから気になっていたことをはっきりと自覚してしまって、思わず腹部を押さえる。
「お腹がすいたわ…降りてもいいかしら」
ロザリアの座る上座の前の開けた場所にはテーブルが広げられ、そこにかけられた白いクロスの上に今日のために王宮料理長が腕を振るった特別メニューが並んでいる。
基本は立食形式だけど、隅に添えられたカウチやテーブルまで給仕に運んで貰い座って食べることも可能な仕様だ。
目の前のおいしそうな料理の数々と香りに、もう我慢できそうにない。
しかしそう訴えるロザリアに、セインは呆れたような顔でゆるゆると首を横へと振った。
「普通に考えて主催側はもてなしに専念するべきだろう。今は途切れているだけで、おそらくまだ挨拶や歓談に来る者もいるはずだ」
「でも別にマナー違反だなんてこともないじゃない。一言給仕にお願いして摘まむものを持って来て貰うのもだめなの?」
「…………我慢しろ」
セインが立ち上がって、近くを通りかかった給仕へと片手をあげる。
応じた給仕は上座に昇ると、恭しく2客のグラスの乗った盆をセインに差し出した。
セインに習って立ち上がったロザリアへとそのうちの1客が渡される。
グラスの中身の色は透明。香りからして柑橘系の果実酒だ。
丸く黄色い実が一つだけ沈んでいた。
きっとこれで乗り切れと言う意味なのだろう。
けれど当然、こんな実ひとつとお酒なんかで空腹が満たされるわけがない。
「あとで目いっぱい食べてやるんだから」
グラスの中の果実酒を睨んで呟く台詞には、やたらと熱い決意が込められていて、隣に立って果実酒を一口口に含んだばかりのセインの眉間に深いしわがよる。
「馬鹿か。どこまで食欲旺盛なんだ。普通は思っていても口にださないものだぞ。人並み程度とはもう望まないが…それでも少しくらいは恥じらいを持て」
「だっていつものお夕飯の時間も過ぎているし…セインは平気なの?」
「見越して式の前に軽食を取っていたからな」
「ず、ずるい…」
「きちんとロザリアの分も用意されていたぞ。幕裏でこそこそ遊んでいたから逃したんだ…ろう、が……?」
小言を並べていたセインが突然口を閉じたかと思えば、厳しい表情で手を口元に当てている。
「セイン?」
不思議に思ったロザリアが彼の顔をうかがいみると、血の気が引いて白い肌は青みをおびている。
気分でも悪くなったのだろうか。
背を丸めてうつむいてしまったセインの腕に手にかけ、揺れるセインの身体を支えた。
「っ…セイン?大丈夫?」
「……ァ……の、っな…」
セインが突然ロザリアの持っているグラスをつかんだ。
強い力で引かれて手からそれを落とされ、グラスは簡単に砕け散る。
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