リフェルトの花に誓う

おきょう

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7-①

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「はあぁぁーーーーー」

鏡台の前に座り、髪を結って貰っているロザリアが盛大なため息を吐いた。

「まぁまぁ、ロザリア様。そんなに大きなため息を吐いては幸せが逃げてしまいますわよ」
「……それって『セイン王子との幸せな結婚生活』を指しているのかしら。だったむしろそんな幸せには大急ぎで逃げて欲しいわ」

着替えと化粧をしているときにはもう数人の侍女がついていたけれど、髪を結う役目はいつも彼女に任せているので今は2人きり。
入れ替わりで常に10人ほど居るロザリア付きの侍女は年のころもロザリアに近い10代の女性がほとんどだった。
その中ではミシャは古株で、記憶がただしければ22歳。
花嫁修業のための礼儀作法習得と言う意味合いの強い職だから、すでに退職していて当然の立場だ。

「旦那様は元気?」
「あら、ご自分の結婚生活の参考に?」
「ただの世間話よ」

相思相愛の仲睦まじい夫婦は見ていてほほえましい。
そしてミシャがなかなか会えない旦那様を恋しがっていることをロザリアは知っていた。

(王女付の侍女になんてなったら、生活の全部が王宮になるものね)

なのに彼女はロザリアを心配して退職する時を伸ばしているのだ。
さすがにそろそろ退職を促すべきなのだろう。

「ふふっ。手紙では鬱陶うっとうしいくらい元気にしておられるようですわ。それより……今日のドレスだと髪は全てまとめ上げてしまった方が宜しいでしょうか」
「そうね。一緒につけるジュエリーも華やかなものだし…ポイントに一束だけリボンと一緒に編み込んで、全部一つに纏めてちょうだい」
「かしこまりました」

今日は朝からずっと不貞腐れているロザリアをよそに、ミシャは鏡に映る主の姿を嬉しそうに見つめている。
ミシャが主の婚約を喜んでいるようにみえて、その事実に反したいロザリアは特に気に入らないドレスの裾を摘まみあげて睨んで見せた。

この婚約披露の場のためにあつらえられたドレスは薄紫色。
胸下の白いリボンを境に切り換えがあって、そこからドレープをつけられた何重もの柔らかな布地が床へ落ちる、あまり体型が出ないものだ。
指先でつまんで広げればしなやかな生地が美しい光沢を見せる。豪奢ながらも可憐なドレス。

普通ならきっと可愛い可愛いと喜んでいただろう。

でも素直に喜べないのは、深い深い理由があるのだ。

「この長い裾が今日は大人しく座って居なさいと言う無言の重しの様に感じらるわ。せめてもう少しスカートを抑えめにしてくれれば撒くし上げて逃げられたのに。これではいくら持ち上げたって足に絡みついて走れないもの」

色々理由をまくし立ててみるものの、本当のところつまり…このドレスの送り主が問題だった。

「しかもこれを用意したのが…」
「ふふ、セイン殿下からの贈り物ですわ。素敵ですわよねぇ」
「…………絶対に嫌がらせよ」

そう言ってロザリアは子供のように頬を膨らませる。
摘まんでいた長い裾を放り投げて、ついでに勢いのまま拳も振り上げた。

「これで私が転んで恥を掻くのを期待してるのよ、きっと!」
「あらあら、本当に?」

こんなにロザリアの気分は最悪なのに、側にいるミシャはにこにこ笑顔。
いつもは癒される優しい笑みも、今日ばっかりは何だか恨めしく思える。
彼女はロザリアにはとても出来ない器用な手さばきでドレスと同じ薄い紫色のリボンと共に髪を結ってくれたあと、傍らに置いてあった小箱から出したネックレスを首元へ飾る。
ロザリアの瞳の色とよく似た色のアメジストを中央にした装飾のネックレス。
これもドレスと共にセインから贈られたものだ。

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