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「…………ま、魔術師」
「うん?」
求婚にはうなずけない。
それだけは急すぎて心臓がもたない。
彼の言葉が本当か嘘かが分かるほどに彼をしらない。
むしろ遊ばれている可能性の方が高いのだ。
(でも、好きなの。ずっと好きだったの。憧れの人なの)
この数時間、すべてがリーリアにとって人生で最大の幸せな時間だった。
だからめいっぱい頑張ってみて、ほんの少しだけ近づいてみることにした。
これが本当に、リーリアの精いっぱいの勇気だ。
「……魔術師。の仕事には興味があります」
「うちに来てくれるの?」
うそ。本当は興味なんてない。
けれど少しだけ……少しだけ、近づきたい。
憧れていた人とできた繋がりを、これっきりで切ってしまうのは嫌だと思った。
「大丈夫? ソルベージュ伯爵は反対するんじゃない?」
「説得しますっ!」
自分でもびっくりするくらい、きっぱりとした声がでた。
一度声に出してしまうと、もう止まらなかった。必死になってでも、彼との縁を、どうにか繋ぎ留めたかった。
「絶対、絶対に父を説得します。だからエディオ様。どうか私に、魔術を教えてくださいますか? 求婚の話はええと……そう! お友達からということで!」
「お友達」
「お友達です!」
本当はいけないことだと分かっているのに、沼にはまってしまう自分を馬鹿だと思う。
でも今、こうして触れている憧れがまた離れることが、もうとても怖くなってしまった。
「それ以上の関係は気持ちがもちません。すみません」
「……うん」
小さく笑いが聞こえたと思ったら、次の瞬間こめかみに唇を落とされた。
「なっ!?」
「ははっ。真っ赤で可愛いなぁ。うん、今までの見ているだけの状態からすれば大進歩だ。お友達として、よろしく。あと魔術師団に入ってくれるのも楽しみにしているよ」
「は、はい」
――――その星空の下での求婚の後。
リーリアは勢いのまま一世一代の口論劇を両親と繰り広げ、本当に魔術師団に見習いとして入ってしまう。
上司となった彼は、パーティーで見ていた時とはまるで違った。
仕事に真摯に取り組むばかりの、噂の遊び人とは程遠い姿に、リーリアはますますのめりこんでしまうことになった。
そして仕事の合間を縫って度々誘われるのはデート……ではなくお友達としての外出だ。
最初に食事に出かけた先で力説されたのは『女遊びなんてしていない』という主張だった。
「本当にただの噂だからね? 出世が早かったから、やっかまれて色々流されてるんだよ」
「でもパーティでいろんな女性と一緒におられますよね」
「あれは全部姉の友人だよ。個人的なつながりはない」
「お姉さま? たしか五人いらっしゃいましたっけ」
「うん。なぜか皆して自分こそが弟の伴侶を見つけるんだ! て張り切ってて。次から次に紹介されて会わされるんだ……どれだけ嫌でも、弟ってのは姉に逆らうという選択肢をもらえ無いものでさ……相性を確かめるために一度はデートしてみろって脅され…いや、頼まれて」
「は、はぁ……大変ですね」
「でも姉に似た苦手なタイプばかりで辟易してた」
「苦手なんですか……その…とても美しくて自信に満ち溢れた方ばかりでしたのに」
リーリアの質問に、カモ肉のロースを食べていたエディオは手を止めると、とろけるような微笑みをこちらにむけてきた。
「私の好みは、目の前にいる清楚でひかえめな美人かな」
「っ」
何度見ても心臓に悪いほど素敵な笑顔だ。
「君以外の女性を美しいとも可愛いとも思ったことはないよ」
「……私たち、お友達ですよね」
「うん。お友達で、今は上司と部下でもあるね。そして絶賛求婚中の相手でもある」
その後、リーリアはエディオに「色々な噂があるけれど、目の前にいる自分を見て、確認してほしい」と真摯にお願いされた。
言葉通り、リーリアは時間をかけて彼を知っていく。
遊び人という噂は、本当に彼の早い出世を嫉む人たちが流しただけだということ。
五人の姉に本当に尻に敷かれっぱなしの末っ子だったということ。
遊び人の噂を外した彼はただの魔術オタクで仕事バカで、リーリアを一人前の魔術師として育てる事だけに時間を使うようになってしまった人だということ。
一つ魔術ができるようになると一緒に大喜びしてくれて。
初めて中級魔法ができたときには涙ぐんでまでくれた。
どこまで魔術に夢中なのだとやきもきするときはあっても、心配していた他の女性への浮気心を疑うような日はまったく来なかった。
自分たちはお互いにただ遠くから見ていただけの関係だ。
知れば知るほどに好きな部分も増えたし、逆に少しがっかりする部分もあった。
でもそれはお互いさまで、何度かエディオからも「想像と違う」とこぼされもした。
しかし結局は、難色をしめしていた両親をも納得させてしまうくらい、彼は一途にリーリアを想い続けてくれたのだった。
そしてリーリアは何年たっても、やっぱりエディオにときめき続けた。
初めて二人で踊ったパーティーから二年。
憧れが本当の恋に変わり、リーリアが魔術師の見習いから一人前として自立した直後ごろ。
二人は手を取り合い、夫婦になることを誓い合うのだった。
「うん?」
求婚にはうなずけない。
それだけは急すぎて心臓がもたない。
彼の言葉が本当か嘘かが分かるほどに彼をしらない。
むしろ遊ばれている可能性の方が高いのだ。
(でも、好きなの。ずっと好きだったの。憧れの人なの)
この数時間、すべてがリーリアにとって人生で最大の幸せな時間だった。
だからめいっぱい頑張ってみて、ほんの少しだけ近づいてみることにした。
これが本当に、リーリアの精いっぱいの勇気だ。
「……魔術師。の仕事には興味があります」
「うちに来てくれるの?」
うそ。本当は興味なんてない。
けれど少しだけ……少しだけ、近づきたい。
憧れていた人とできた繋がりを、これっきりで切ってしまうのは嫌だと思った。
「大丈夫? ソルベージュ伯爵は反対するんじゃない?」
「説得しますっ!」
自分でもびっくりするくらい、きっぱりとした声がでた。
一度声に出してしまうと、もう止まらなかった。必死になってでも、彼との縁を、どうにか繋ぎ留めたかった。
「絶対、絶対に父を説得します。だからエディオ様。どうか私に、魔術を教えてくださいますか? 求婚の話はええと……そう! お友達からということで!」
「お友達」
「お友達です!」
本当はいけないことだと分かっているのに、沼にはまってしまう自分を馬鹿だと思う。
でも今、こうして触れている憧れがまた離れることが、もうとても怖くなってしまった。
「それ以上の関係は気持ちがもちません。すみません」
「……うん」
小さく笑いが聞こえたと思ったら、次の瞬間こめかみに唇を落とされた。
「なっ!?」
「ははっ。真っ赤で可愛いなぁ。うん、今までの見ているだけの状態からすれば大進歩だ。お友達として、よろしく。あと魔術師団に入ってくれるのも楽しみにしているよ」
「は、はい」
――――その星空の下での求婚の後。
リーリアは勢いのまま一世一代の口論劇を両親と繰り広げ、本当に魔術師団に見習いとして入ってしまう。
上司となった彼は、パーティーで見ていた時とはまるで違った。
仕事に真摯に取り組むばかりの、噂の遊び人とは程遠い姿に、リーリアはますますのめりこんでしまうことになった。
そして仕事の合間を縫って度々誘われるのはデート……ではなくお友達としての外出だ。
最初に食事に出かけた先で力説されたのは『女遊びなんてしていない』という主張だった。
「本当にただの噂だからね? 出世が早かったから、やっかまれて色々流されてるんだよ」
「でもパーティでいろんな女性と一緒におられますよね」
「あれは全部姉の友人だよ。個人的なつながりはない」
「お姉さま? たしか五人いらっしゃいましたっけ」
「うん。なぜか皆して自分こそが弟の伴侶を見つけるんだ! て張り切ってて。次から次に紹介されて会わされるんだ……どれだけ嫌でも、弟ってのは姉に逆らうという選択肢をもらえ無いものでさ……相性を確かめるために一度はデートしてみろって脅され…いや、頼まれて」
「は、はぁ……大変ですね」
「でも姉に似た苦手なタイプばかりで辟易してた」
「苦手なんですか……その…とても美しくて自信に満ち溢れた方ばかりでしたのに」
リーリアの質問に、カモ肉のロースを食べていたエディオは手を止めると、とろけるような微笑みをこちらにむけてきた。
「私の好みは、目の前にいる清楚でひかえめな美人かな」
「っ」
何度見ても心臓に悪いほど素敵な笑顔だ。
「君以外の女性を美しいとも可愛いとも思ったことはないよ」
「……私たち、お友達ですよね」
「うん。お友達で、今は上司と部下でもあるね。そして絶賛求婚中の相手でもある」
その後、リーリアはエディオに「色々な噂があるけれど、目の前にいる自分を見て、確認してほしい」と真摯にお願いされた。
言葉通り、リーリアは時間をかけて彼を知っていく。
遊び人という噂は、本当に彼の早い出世を嫉む人たちが流しただけだということ。
五人の姉に本当に尻に敷かれっぱなしの末っ子だったということ。
遊び人の噂を外した彼はただの魔術オタクで仕事バカで、リーリアを一人前の魔術師として育てる事だけに時間を使うようになってしまった人だということ。
一つ魔術ができるようになると一緒に大喜びしてくれて。
初めて中級魔法ができたときには涙ぐんでまでくれた。
どこまで魔術に夢中なのだとやきもきするときはあっても、心配していた他の女性への浮気心を疑うような日はまったく来なかった。
自分たちはお互いにただ遠くから見ていただけの関係だ。
知れば知るほどに好きな部分も増えたし、逆に少しがっかりする部分もあった。
でもそれはお互いさまで、何度かエディオからも「想像と違う」とこぼされもした。
しかし結局は、難色をしめしていた両親をも納得させてしまうくらい、彼は一途にリーリアを想い続けてくれたのだった。
そしてリーリアは何年たっても、やっぱりエディオにときめき続けた。
初めて二人で踊ったパーティーから二年。
憧れが本当の恋に変わり、リーリアが魔術師の見習いから一人前として自立した直後ごろ。
二人は手を取り合い、夫婦になることを誓い合うのだった。
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