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第二十四話
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よく見てみると有名な家の封蝋ばかりがおされているそれに、ティナは意味がわからず首をかしげる。
「…手紙?」
「そう。これ全部、ティナ殿への茶会や夜会への招待状だ。ロザリーの部屋を捜査させていて、これも一緒に見つかったというわけ」
「招待、状?これを…どうして?」
一体何の為に?と戸惑うティナに、シルヴェストル王は得意げに胸を張る。
「ティナ殿。リカルドは女性や子供には怖れられているけれど、男性陣には熱狂的に敬われているのだ」
「え?」
「ほら、頭も切れて腕も立つし、硬派な男前だろう?もう『兄貴ぃ!!』って感じで自称舎弟が何人もいるぞ。やたらとムサイ体育会系にばかりから好かれるから、余計に女性たちは近づけないらしいが」
ティナは反射的に傍らにいるリカルドを見上げた。
しかし気まずそうに視線をそらされてしまって、あまり聞かせたくない真実なのだと悟る。
確かにリカルドは、内面は真面目で実直。非常に尊敬できる人柄にあるから、男性たちに好意を持たれるのは不思議ではないかもしれない。
「で、そんな男性陣の妻や娘さんが、あのリカルド・グランメリエの妻になった君に興味を持って誘いをかけていたらしい。旦那の方は怖いけど奥さんとなら仲良くなりたいわ!みたいな。…だが、断られるどころか返信さえこない。まったくなんて非常識な娘なんだ!----と噂があって、まぁ興味本位で調べてみた結果がこれだ」
「これ、ですか。なるほどな」
理解したらしいリカルドが、嘆息してロザリーを見下ろす。
怒気を含んだそれに、ロザリーはびくりと身体を跳ねさせた。
ティナはまだよく分かっておらず、戸惑いながら立ちすくんだままだ。
そんなティナに、シルヴェストルは分かりやすく、簡潔に説明をする。
とても非情な現実を、王はさらりと突きつける。
「ティナ殿を孤立させたかったのだろう」
「っ……」
ティナはこの1か月、ほとんどを屋敷の中で過ごしていた。
たった一人。ロザリーしか味方がいない場所で耐えていた。
ロザリーはティナに優しくしてくれる唯一の人だと、思っていたのだ。
(でも、違った…?)
ティナがずっと一人だったのは、こうしてロザリーが手紙を隠し、誰かと出会うきっかけをことごとく潰していたからだった。
「誤解よね、ロザリー」
掠れる声で、縋るようにロザリーを見る。
嘘だと言って欲しかった。
シルヴェストル王の勘違いだと、訴えて欲しかった。
そうすれば、ティナは間違いなくロザリーの味方をするだろう。
-----なのに。
ティナを見返したロザリーの黒い瞳には、憎悪しか宿っていなかった。
彼女はきつく目を吊り上げて、冷たい眼差しでティナを憎々しげに睨んでくる。
「…あんたなんて、来なければ良かった」
「っ…!」
…突然、目の前が真っ暗になった。
腰を抱く太い腕のたくましさに、リカルドが片手でティナの目元を覆っているのだとわかった。
ティナにこれ以上醜いものを見せたくないとばかりに、リカルドはティナから視界を奪ってしまう。
「連れて行ってください。これ以上の調査は後日王宮で宜しいでしょう」
低い憤ったような声が頭上から聞こえた。
「そうだな。では我々はこれで。---リカルド、出仕は明後日からでいい。今日明日は奥方の傍にいてやれ」
「御意。有難うございます」
「ティナ殿、またな。今度は夫婦で茶会に招待しよう」
「は、はい。ごきげんよう」
本当はきちんとした礼をして見送らなければ失礼すぎる相手なのだが。
リカルドに体も視界も抑え込まれた今の状況ではままならなかった。
---しばらく、物音や人の移動する音をだた聞いているしかできなくて。
「もう、いい」
そう言う台詞とともに視界を解放された時には、もう部屋にはリカルドとティナの2人しか居なくなっていた。
「…手紙?」
「そう。これ全部、ティナ殿への茶会や夜会への招待状だ。ロザリーの部屋を捜査させていて、これも一緒に見つかったというわけ」
「招待、状?これを…どうして?」
一体何の為に?と戸惑うティナに、シルヴェストル王は得意げに胸を張る。
「ティナ殿。リカルドは女性や子供には怖れられているけれど、男性陣には熱狂的に敬われているのだ」
「え?」
「ほら、頭も切れて腕も立つし、硬派な男前だろう?もう『兄貴ぃ!!』って感じで自称舎弟が何人もいるぞ。やたらとムサイ体育会系にばかりから好かれるから、余計に女性たちは近づけないらしいが」
ティナは反射的に傍らにいるリカルドを見上げた。
しかし気まずそうに視線をそらされてしまって、あまり聞かせたくない真実なのだと悟る。
確かにリカルドは、内面は真面目で実直。非常に尊敬できる人柄にあるから、男性たちに好意を持たれるのは不思議ではないかもしれない。
「で、そんな男性陣の妻や娘さんが、あのリカルド・グランメリエの妻になった君に興味を持って誘いをかけていたらしい。旦那の方は怖いけど奥さんとなら仲良くなりたいわ!みたいな。…だが、断られるどころか返信さえこない。まったくなんて非常識な娘なんだ!----と噂があって、まぁ興味本位で調べてみた結果がこれだ」
「これ、ですか。なるほどな」
理解したらしいリカルドが、嘆息してロザリーを見下ろす。
怒気を含んだそれに、ロザリーはびくりと身体を跳ねさせた。
ティナはまだよく分かっておらず、戸惑いながら立ちすくんだままだ。
そんなティナに、シルヴェストルは分かりやすく、簡潔に説明をする。
とても非情な現実を、王はさらりと突きつける。
「ティナ殿を孤立させたかったのだろう」
「っ……」
ティナはこの1か月、ほとんどを屋敷の中で過ごしていた。
たった一人。ロザリーしか味方がいない場所で耐えていた。
ロザリーはティナに優しくしてくれる唯一の人だと、思っていたのだ。
(でも、違った…?)
ティナがずっと一人だったのは、こうしてロザリーが手紙を隠し、誰かと出会うきっかけをことごとく潰していたからだった。
「誤解よね、ロザリー」
掠れる声で、縋るようにロザリーを見る。
嘘だと言って欲しかった。
シルヴェストル王の勘違いだと、訴えて欲しかった。
そうすれば、ティナは間違いなくロザリーの味方をするだろう。
-----なのに。
ティナを見返したロザリーの黒い瞳には、憎悪しか宿っていなかった。
彼女はきつく目を吊り上げて、冷たい眼差しでティナを憎々しげに睨んでくる。
「…あんたなんて、来なければ良かった」
「っ…!」
…突然、目の前が真っ暗になった。
腰を抱く太い腕のたくましさに、リカルドが片手でティナの目元を覆っているのだとわかった。
ティナにこれ以上醜いものを見せたくないとばかりに、リカルドはティナから視界を奪ってしまう。
「連れて行ってください。これ以上の調査は後日王宮で宜しいでしょう」
低い憤ったような声が頭上から聞こえた。
「そうだな。では我々はこれで。---リカルド、出仕は明後日からでいい。今日明日は奥方の傍にいてやれ」
「御意。有難うございます」
「ティナ殿、またな。今度は夫婦で茶会に招待しよう」
「は、はい。ごきげんよう」
本当はきちんとした礼をして見送らなければ失礼すぎる相手なのだが。
リカルドに体も視界も抑え込まれた今の状況ではままならなかった。
---しばらく、物音や人の移動する音をだた聞いているしかできなくて。
「もう、いい」
そう言う台詞とともに視界を解放された時には、もう部屋にはリカルドとティナの2人しか居なくなっていた。
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