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第十八話
しおりを挟む「くそっ……!!」
街中を全力疾走で駆け抜ける馬に、周囲の人間が何事かと振り返る。
そしてめったに見られない極上の毛並をした雄々しい馬に乗る、馬よりも雄々しい男に目をひん剥いた。
豪胆で粗野な見目の男は野山を駆ける豹か獅子を思わせる迫力で、厳しい眼差しで黒光りする目を凝らしている。
その目に狙いをつけられれば食い殺されるのではと、誰もが震えあがった。
馬の嘶きと共に急停止した男は今、獲物を見つくろうかのように周囲を見渡している。
目をつけられないようにと誰もが視線をそらし、その場から去ろうと足早に足を動かしていた。
「おい、そこの」
「ひっ……」
しかし無残にも標的になってしまった通りすがりの紳士は、涙目でその男と対峙しなければならなかった。
馬の上から話しかけられているので威圧感も倍増だ。
「ははは、はひっ…!」
「15・6歳くらいの女を探している。見なかったか?」
「女? ……え…えと。そう言われましても」
「腰ほどまでの長い薄茶の髪に、同色の目をしている女だ。今日この町に泊まっていないか?」
「…えー…あの……他に何か特徴は…」
「特徴……?」
思案するように目を細めたリカルドに、紳士は粗相をしてしまったのかと息をひきつらせた。
その怯えた紳士に構ってやる余裕は今のリカルドには無く、ただティナを思い浮かべる。
(特徴……特徴…)
「あのぅ……?」
「黙ってろ」
「は…はい!」
リカルドは毎朝毎晩見つめまくっているティナを思い返した。
彼女の薄茶の髪も目も、どこにでもある色だ。
体型も容姿も、別段目立ったところは無い。
しいて特徴と言えば何故かリカルドみたいな男に絶対的な信頼を寄せている変わり者だと言うことか。
あとは可愛い。とにかく可愛い。
見た目の部分ではなく、仕種や言動が可愛い。
リカルド的にはとりあえずティナがティナと言うだけで可愛い。
引っ込み思案なおどおどとした小動物のような濡れた目で見上げられると、比護欲が掻き立てられてもう堪らなくなる。
ぎゅうっと抱きしめて潰してしまうくらいに愛でてやりたい。
……とは言っても。
完全にリカルドの主観によるものなので目の前にいる第三者に通じるはずもない。
口下手なリカルドがティナの可愛らしさについて人に分かってもらうように説明するのも難しい。
誰からみてもティナだと分かるティナらしい特徴を、うんうんと考えてはみる、が。
(無いな)
むしろ個性らしい個性がないのが特徴かもしれないくらいだ。
(……これでは聞き込みも難しいか?)
そもそもティナがこの町にいるのかどうかも分からない。
実家へ行く道順としてこの町を通ると言うのは間違いないが、もしかすると1つか2つ先の町にいるか、それとももう通り過ぎた1つ前の町ににいるのか。
宿屋に泊っているのか貴族の屋敷に世話になっているのかさえも、分からないのだ。
彼女を見つけるのは容易ではなかった。
こうやって無暗やたらと駆けまわるくらいなら、ティナが実家に着いた頃に連絡を取ってみる方が手堅いだろう。
レジトールまで先回りしてしまって待つという選択しもある。
だがリカルドは、もう1か月もティナを待たせているのだ。
「これ以上に先延ばしになどしない」
絶対に今日中に。いや、一秒でも早く彼女に会わなくては。
そう決めて、とにかく手当たり次第聞き込みを始めることにした。
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