24 / 35
24金の瞳の正体は
しおりを挟むさわやかな秋晴れが心地いい日、リュクスくんの洗礼式はやってきた。
「さぁリュクス、シンシア。ここが大神殿だ」
「ついたー!」
「わぁ、すごく大きい建物だね」
私はお父さんとリュクスくんと一緒に、会場である大神殿の正面扉の前に立っている。
遠くからも一端は見えていたし、すでに馬車で門は通り抜けてから敷地内の長い庭園を眺めつつ道をたどって来たので、かなりな規模の施設だとは分かっていたけれど。
そびえ建つ真っ白な玉ねぎ型の屋根がのった白亜の宮殿とでも呼ぶかのような大きな建物は、すぐ近くから見上げるとやはり圧倒的な迫力があった。
ちなみに王都の中央に、この大神殿と王城は隣同士で建っている立地だ。
それぞれの間には通路がわたされ、互いに行き来できるようになっているらしい。
国政と宗教がいがみ合っていた歴史も大昔にはあれど、ここ百五十年くらいは仲良く共存しているのだとか。
正面の扉がマンションの三階に届くほど大きくてびっくりするけれど、開け放たれたその扉の向こう側に広がる神殿の中はさらにびっくりするほどに広い。
おそらく部屋数はそれほどなく、この礼拝をする部屋が大神殿の建物の大部分を占めているのだろう。
入口からまっすぐのびる通路の左右にいくつもの長椅子が並び、その奥の一段高くなったところに祭壇が置かれていた。
そのまた奥には天井ぎりぎりまで届く大きな女神像がたっていて、手からは水が流れ像を囲む池に落ちていっている。あれは噴水みたいな仕組みになってるのかな。
式典のためなのか青色の可愛らしい花がところ狭しと飾られていて、白い建物に鮮やかに栄えている。
「大きい……とにかく大きいね。それと綺麗でかっこいい。いいなぁここ」
「シンシア、しんでんすき?」
「かっこいい建物で好き」
この世界の宗教はよく知らないけれど、この神殿はすごく好みだ。
日本ではなじみのない規模と形がすごく興味深い。
なんだか外国にいる感が強くて、眺めているだけで楽しい。
「シンシア、そろそろ入ろうか」
大神殿を眺め続ける私の背を、お父さんがトンと叩いて前に進むよう促した。
そっか、入り口にずっと立っていたら邪魔だよね。早く動かないと。
「いよいよだね、リュクスくん。洗礼、頑張ってね!」
「うん! みててね!」
「もちろん! しっかり見てるよ」
洗礼を受ける今日の主役のリュクスくんの服装は白いシャツとハーフパンツ、首元に青いスカーフだ。
周りにちらほらいる子供たちも白と青を基調にした格好だから、着る色が決まっているのかな?
私はただの付き添いなので淡い桃色のドレス。
大きなお団子を頭のてっぺんに作ってもらっている。
額の竜石が見えちゃうと注目を浴びちゃって居心地が悪くなるだろうから、前髪が浮かないように気を付けないと。
「ハイドランジア公爵、ようこそ大神殿へ」
扉をくぐったところで、その脇にいた誰かにお父さんが話しかけられた。
「これはこれは……ご無沙汰しております。ここにいらっしゃるということは、もしや今回洗礼の儀を受け持たれるのですか?」
「あぁそうだ。光栄にも大神官殿に指名していただいたのでね」
「名誉なことですな。楽しみに拝見させていただきます」
「ははっ。私はいいからご子息だけを見てやれ。――洗礼式おめでとう、リュクス」
「ありがとうございます。カインおうじ」
お父さんとリュクスくんと親しげに話している人は、白い神官服を着ている若い男の人。
後ろで一つに結んだ銀色の髪に金色の瞳という、神秘的な色合いだ。
穏やかな物腰と話し方で、神官という職がとてもよく合っている感じだけど……あれ? なんとなく違和感がある。
「んん?」
私はその人をまじまじと見上げて、ぱちりと目を瞬いた。
その若い神官は私に視線を移すと、にんまりと笑う―――まるで悪戯に成功した子供みたいに。
「あー! そっか! あの時の!」
「ははっ! 気づくのが遅いな」
「シンシア、どうしたの?」
「何事だ?」
思わず大きな声を出した私にリュクスくんとお父さんがびっくりしているけれど、今はそれどころじゃない。
そう、神官は以前、夜中の散歩中に私を捕まえて屋根の上で会話を交わした黒づくめの怪しい男の人だった。
前の真っ黒な服のときはどこぞの盗賊かと思うくらいに怪しかったのに、真っ白の神官服をきると聖人君子な感じで神聖ささえ感じるなんて。
雰囲気が違いすぎるものだから、気付くのが遅れてしまった。
「あの時の不審者だ! 神官だったの!?」
「不審者とは失礼な」
「こ、こらシンシア! 我が国の第二王子に対して失礼だぞ! 申し訳ありません殿下……!」
はい? お父さん、今なんとおっしゃいました?
お父さんと神官の顔を交互に見るけれど、二人とも冗談を言っている雰囲気ではなかった。つまり本当に彼は……。
「だ、だいにおうじ? 王子様なの?」
「そーだよ? しんしあ、カインおうじでんかとしりあい?」
「一体どこで知り合ったんだ?」
「……散歩中に一度だけ会ったの。ええと、本当に本気で偽りなく王子様なの?」
聞くとカインという名前らしい彼は、とってもいい笑顔を浮かべて頷いた。
ほんとの本気で、王子様なの?
1
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話
やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。
順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。
※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
生産性厨が異世界で国造り~授けられた能力は手から何でも出せる能力でした~
天樹 一翔
ファンタジー
対向車線からトラックが飛び出してきた。
特に恐怖を感じることも無く、死んだなと。
想像したものを具現化できたら、もっと生産性があがるのにな。あと、女の子でも作って童貞捨てたい。いや。それは流石に生の女の子がいいか。我ながら少しサイコ臭して怖いこと言ったな――。
手から何でも出せるスキルで国を造ったり、無双したりなどの、異世界転生のありがちファンタジー作品です。
王国? 人外の軍勢? 魔王? なんでも来いよ! 力でねじ伏せてやるっ!
感想やお気に入り、しおり等々頂けると幸甚です!
モチベーション上がりますので是非よろしくお願い致します♪
また、本作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨムで公開している作品となります。
小説家になろうの閲覧数は170万。
エブリスタの閲覧数は240万。また、毎日トレンドランキング、ファンタジーランキング30位以内に入っております!
カクヨムの閲覧数は45万。
日頃から読んでくださる方に感謝です!
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
Wヒロインの乙女ゲームの元ライバルキャラに転生したけれど、ヤンデレにタゲられました。
舘野寧依
恋愛
ヤンデレさんにストーカーされていた女子高生の月穂はある日トラックにひかれてしまう。
そんな前世の記憶を思い出したのは、十七歳、女神選定試験が開始されるまさにその時だった。
そこでは月穂は大貴族のお嬢様、クリスティアナ・ド・セレスティアと呼ばれていた。
それは月穂がよくプレイしていた乙女ゲーのライバルキャラ(デフォルト)の名だった。
なぜか魔術師様との親密度と愛情度がグラフで視界に現れるし、どうやらここは『女神育成~魔術師様とご一緒に~』の世界らしい。
まあそれはいいとして、最悪なことにあのヤンデレさんが一緒に転生していて告白されました。
そしてまた、新たに別のヤンデレさんが誕生して見事にタゲられてしまい……。
そんな過剰な愛はいらないので、お願いですから普通に恋愛させてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる