悪役って楽しい

おきょう

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7 私は私であり続けたいので

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彼らに追い打ちをかけるかのように、今度は男子生徒が前へ出て来た。

「王子! 王子はこの冷ややかなアイスブルーの瞳ににらまれ、赤い唇から吐き出される氷の様な内容の言葉を浴びる快感をご存じではないのでしょう! それこそが彼女の魅力なのです! 素晴らしいではありませんか! ゾクゾクします! もっと言ってって感じです!」
「お、おれもそう思います!」
「え、お前たちも!?」

 王子がもうあからさまに引いている。というかおびえている。
 出来る事ならこの場から逃げたそうだ。
 さすがのエリーゼも困惑した。
 自分はどうせ国外追放だからもういいやと、この一ヶ月間、外聞もなくドS発言を連発していたが、彼らは駄目だろう。将来に響く。いや、もう注意しても遅いのだろうが。

 次々に前へと出て来るドMな彼ら。
 もうこのさい綺麗なセルビオ王子からのお叱りも受けてみたいとばかりに、そうとう不敬な態度だ。
 ぐいぐい変態な台詞を吐き出している。 
 王子は狼狽し、なんだか半泣き状態でエリーゼを見た。

「……エエエエエリーゼ。その……お前だけが悪いのではないとは…何となく理解した」
「いえ。この方々はまだしも、サクラ様に関しては嫌がっているのを知ってやっていましたし」
「そう、か……。被害者の人数が人数だから、国外追放の可能性も考えていたが、これではな……」

 食堂内を見渡した王子が、遠い目をしている。
 しかし、ぎゅっと後ろから腕を掴まれ、彼は顔を上げた。
 
「王子……」
「サクラ………」

 セルビオとサクラが視線を交わし合っている。
 彼らは顔を見合わせて頷き合ったあと、真剣な顔をしてエリーゼに向かいあった。

「エリーゼ。……もう分かってはいるだろうが、私はサクラに惹かれている。出来るのならば、彼女と添い遂げたい」
「申し訳ありません。エリーゼ様。セルビオ王子とは何もないなんて言っておきながら、私……私は、彼を愛してしまいました。すでに決定されている婚姻なのに間に入り掻きまわすようなことをするのは、絶対に許されないことだと知っています。叱責されるべきは貴方だけではない。私も、処罰を受けるべきです……」
「まぁ………」

 どんなバグか知らないが、おかしな性癖ばかりの学園の中、二人だけは本当にまっとうらしい。

 ……婚約は家同士のもの。しかも自分達には国という大きなものまでもが背後にある。
 エリーゼとセルビオの意見だけで婚約の破棄を決められるわけではない。
 本来ならばまずは両親へと進言するべきことだ。
 なのに、彼はサクラを好きだと堂々と言う。
 あまりいい行動ではないと理解しながらも、それでも。好きだと。真剣な顔をして言葉に乗せる。
 きっとそれに対する咎や冷たい目をも受け止めるつもりでいるのだろうと、彼らの目を見れば察することが出来た。

「ふふっ」
 
 エリーゼはアイスブルーの瞳を細め、口元を上げた。

「構いませんわ。私もお父さまに婚約破棄を願い出させていただきます」
「え、ずいぶんとあっさりしているな。いいのか?」
「エリーゼ様……! 有り難うございます!!」

 目を丸くする二人に視線を送りつつ。
 エリーゼは背筋をただし、ツンと顎を上げながら、氷の女王と呼ばれるにふさわしい冷たく美しい笑みで言う。

「だってセルビオ王子殿下は、ここにいる子羊たちのように可愛く泣いてくださいませんもの」

 それはエリーゼの心からの言葉だった。

(でも……)
 

 喜ぶ彼らから視線をそらし、僅かに瞼を伏せてエリーゼはこっそりと息を吐く。

 
 おそらくこの流れではエリーゼのおこなった嫌がらせと、サクラのおこなった婚約者を奪う行為、そして突き飛ばして頭を打ち付ける事態になった事故もふくめ、最終的には両成敗ということで締められるだろう。
 外での騒動だったならばまだしも、ここは学園内で、学生同士のいざこざとして纏めることが出来るから。

 しかし本人たちの気持ちがどうであれ、どんな理由があれ、法が許容したとすれ、公爵令嬢エリーゼとセルビオ王子殿下の婚約者としての立場は国中に知れ渡っている。
 破棄されれば、注目の的になる。
 この国ではもうどこへ行っても、きっと一生、国の王子に婚約を破棄された女として見られてしまうはずだ。

(そんなの無理! 私は、他人をさげすむ側なのよ! 同情されるのも叱責されるのも馬鹿にされるのも耐えられないわ!) 

 だから、たとえ今日の処罰による国外追放を免れたとしても。
 エリーゼはすでに、この国を出ることを心に決めていた。


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