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第二章:ライバルギルドバトル編

#32.第一勝負開始!もう一つの賭け

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 バルトは思い切りダッシュしているが、ジョルガはさらに前を走っている。
 馬獣人だけあってものすごいスピードではあるが、能力的には完全にジョルガが上なようで、徐々に差が開きつつある。
 だが、それでもバルトは諦めずに懸命に走っている。

 「ぐうぅ……さすがに速いかぁ。でも、今は単純なスピード勝負じゃなくて指定のモノを先に持っていけば勝てる勝負。絶対勝てないわけじゃない!」
 「フフフ、アイツは絶対勝てへん……こっちにはアレ(・・)があるんやからな」

 真剣に走っているバルトとは裏腹に、ジョルガは何かを企んでるらしく、悪い顔でニヤニヤとしている。
 いったい何を考えているのだろうか?
 しかし、レアな野草なだけあって、そう簡単に見つかるはずもなく、発見場所はそう多くない。
 いったいなぜ、そんなレアなモノを勝負内容にしたのかが気になるところではある。
 二人が向かっている先には、初心者でも登れるような山があり、どうやらそこで探すようだ。

 「……まてよ、山より森のほうが野草が多いんじゃないかな?ぶっちゃけ同じとこ探しても見つかるとは限らないし……賭けになるけど、エリート気取りの奴を叩きのめす!」

 バルトだけ道を外れ、外れにある森へと向かっていく。

 「ん?アイツは森に行くんか?まぁどうでもええわ。ワイはあそこから取ってくるだけやしな」

 バルトとジョルガ。それぞれが思い描く勝利はどちらに来るのか?

 「バルト、大丈夫かな……」
 「一応、以前に薬草関係は教えたことあるので種類とかは大丈夫だと思いますが……」

 僕とマスター、シーナはコロシアムの入り口をハラハラしながら見ている中、ギルテシムのメンバーはニヤニヤしながらこっちをチラチラと見ている。
 なんだろう、この違和感。
 まるで、なにかを企んでるような気がしてならない。
 そんな中、ヴァンは兄のヴァノにベタベタとハグされていた。
 人間の時はバカップルがよく道でしているのを見かけるけど、全身毛皮である獣人がやってるのを見てると暑っ苦しい。
 まぁ、ヴァンは嫌がって引きはがそうとしてるけど。

 「ウザいから離れろっつの……!」
 「別にいいじゃんかよぉ。普段会えないんだし」
 「会いたくねぇからだよ!」

 ……うん、これも見慣れるしかなさそうだ。
 なんというか、ヴァンってシーナに蹴り飛ばされたり兄に重度に好かれたりで……大変だよね。
 しかしなんだろう?
 今の勝負とは別に、逃げろって感じの警報を感じるんだよな。

 『お兄ちゃん!』

 突然聞き覚えのある声がした。
 ふと足元を見てみると、子フェンリルがこっちを見上げながら尻尾を振っていた。
 こうして見ると、ただの小さい子犬だな。

 「あれ、どうしたの?」
 『えっへへ、街にお兄ちゃんがいなさそうだったから匂いを頼りに来ちゃった』
 「あ、そうなんだ……」

 スッと抱きあげると、ペロッと顔を舐められた。
 本当に子犬のようで可愛いけど、匂いで辿ったって直接言われるとちょっと恥ずかしいんだよね……
 あれ、なんか向こうが急に騒ぎ出して……?
 「な、な、な、なぜフェンリルがいるんだ!?」
 「まだ子供とはいえ、フェンリルは魔獣族の中でもトップの存在っス!それが獣人に懐くなんてありえないっス!さてはお前、獣人じゃないっスね!?」

 ギルテシムのアムルスとベアルグがこっちを見て驚きの声を上げている。
 うーわー……なんだかめんどくさいな……
 確かに元は獣人じゃないけどさぁ……指さして直接言われると地味にショックだわ。
 ……ちょっと挑発っぽく言ってみてもいいよね?

 「うわっ!フェンリルとはいえ、こんな小さな子にまで臆するの?もしかしてマスターとは名ばかりで弱いのかな?」
 「な、なんだと!?」
 「なら倒しちゃうの?襲ってもないのに、まだ害を及ぼしてないのに?うわ、悪党ー」
 「ぐ、ぐぐ……」

 ギルテシムは子供に言い返せずにか悔しそうにしていて、マスター達は必死に笑いを堪えていた。
 あー、なんだか気持ちいい。尻尾もゆっくりだけど振ってるし。
 そう思っていたら子フェンリルが手元から消え、代わりに誰かの体が見えた。
 ゆっくりと見上げれば、ヴァノが子フェンリルの首を鷲掴みしていて、さっきとは比べられないほどの圧でこっちを見下ろして、子フェンリルは逃げようと暴れている。
 あ、なんという威圧感……これがSランク……
 そう思っていたら、ヴァノが子フェンリルを投げ飛ばした。

 「な!?」

 急いで走り、スライディングしてなんとかキャッチできた。
 あ、あぶなぁ……

 「大丈夫?」
 「う、うん……ビックリしたけど大丈夫だよ」

 よかったぁ…… 
「いきなりなにするの!」
 「お前が我々をバカにするからだ。それに、そんな魔物を連れているお前が悪い」

 あの、さっきまでと喋り方が違うんですが?
 もしかしてこれが普段の喋り方なのだろうか。

 「だ、だからっていきなり投げることないでしょ!この子がなにしたっていうの!」
 「見ろ、さっき暴れて傷だらけになってしまった。凶暴な証拠だ」
 「誰だってあんな持ち方されたら暴れるに決まってるじゃん!じゃあヴァノ……だっけ?もっと大きい奴に首掴まれても暴れないんだ?観念してやられるんだ?天才って聞いたけど、ピンチになったことないからそんなこと言えるんじゃない?」
 「なんだと?」

 バチバチと睨みあい、火花を散らす僕達を見てヴァンがオロオロとしている。
 コイツ……負けられない要素が一つ増えたよ。
 絶対に謝らせてやる!子フェンリルに!

 「いいだろう。そこまで言うのであれば、一つ、俺と賭けをしないか?」 「賭け?」
 「この試合にウチが勝ったら、お前がウチに来るんだったか?なら、俺が勝てたらお前を好きにさせてもらう」
 「は!?」
 「そのかわり、お前が勝てたらお前の言うことを何でも聞いてやろう。勝てたら……な」

 うっわ、なんていう悪い顔!とてもヴァンと兄弟とは思えない!
 今までやったRPGにこんなイベントなかったし、負けたらミサエナの言うことも聞かないといけないから色々大変に……いやいや、負ける気持ちになってどうする!
 どうせ勝たないとならないんだから、賭けに乗っても乗らなくても同じじゃないか!
 よし、負けられない要素がまた一つ増えた!

 「よし、やってやる!絶対負けないから!」
 「ふん、いい度胸だ。今から楽しみだな」

 ヴァノは鼻で笑いながらギルテシムのメンバーのとこへ歩いて行った。
 うっわ、む・か・つ・く~!!
 こんなにイラっとしたのは生まれて初めてだよ!人間時も加えて!
 イライラしながら、僕もみんなの前まで歩いて行った。

 「コウジ……だ、大丈夫か?」
 「僕、負けたくない。賭けとか以前にあんなのに負けない!ヴァン、アレを叩きのめしてもいいよね!?」
 「あ、ああ……もちろん構わないが……」

 ヴァンだけでなく、エスクリプスのみんなも僕の怒りにタジタジだ。
 待ってなよ……その自信たっぷりの顔を自身消失の顔に変えてやるんだから!
 「コウジ、やる気になるのはいいが、そんな怒りに任せてたら動きを読まれやすくなって逆効果だぞ。まずは冷静になって落ち着け。やる気に燃えるのは心の中だけで十分だ」

 ……確かに、スポーツ漫画とかでも怒りに任せたら自滅してるのが多かったっけ。
 マスターに言う通り、とにかくまずは落ち着こう。
 深呼吸を2、3回程して気持ちを落ち着かせ、熱を心の中に閉じ込めるのをイメージ……。
 ……よし。

 「落ち着いたか?」
 「はい、ありがとうございます」
 「まぁ、問題は最低でもバルトかヴァンが勝たないとですが……」

 たしかに。
 でも、さっきヴァノが明らかに絶対に僕と戦うことになるみたいな言い方をしていた。
 ということは、ヴァノは1対1の同点で持ち込むことをわかっているのだろうか?
 ……いや、まさかね。勝負なんてやってみなければわからないし、わかってるとすれば確信となる材料があるということだ。
 いったい……どこまでわかってるんだろう?
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