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第二章:ライバルギルドバトル編

#29.フェンリル達の謝罪と最後の先輩メンバー

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 スキルを使い、気が付くと以前にグランヴァルツと再会した暗い場所にいた。
 外の様子を知りたいけど、どうやって見るのかわからない……だからとりあえず筋トレをすることにした。
 こんなとこでやっても、表の肉体に影響があるのかはわからないけど……とりあえずやらないよりはマシ……なはず。
 あとは剣の素振りもしたいけど手元にないから、相手が目の前にいるつもりで戦う偽装バトルをやってみる。
 三日後のギルド対抗勝負のバトルは武器を使えないから、拳やスキルでの戦いとなる。
 経験が圧倒的に足りてない僕はその分、一生懸命レベルを上げなくちゃならないんだけど……焦ってやって怪我したら何の意味もないし、迷惑をかけるだけ。
 なら、自分のペースでできることを無理しない程度にやるしかない。
 ……まぁ、完全にマスターの受け売りなんだけどね。
 しばらくして、本来ならいい汗を流してる頃に突然辺りに光が差し込み始め、一気にその光は周りを包み込んだ。
 そして目を開ければ、そこはギルド内だった。
 どうやら、グランヴァルツがスキルを解除したようだ。
 しかし、なんかヴァンを見たら胸がドキッとしたような気がしたんだけど……気のせいだよ……ね。僕にそっちのケはないない。
 さて、みんなはグランヴァルツの事をどう思ったかな?

 「……グランヴァルツと話せた?」
 「まぁ……な。なかなか愉快なお方だったぞ」

 お、お方?マスターの言い方に違和感を感じるんだけど……

 「マスターは《竜王》のスキルで跪いたのですよ」
 「え、なにそれ。すっごい見たかった」

 それってマスターが僕の身体に向かって跪いたってことじゃん?
 うっわ、すっごい見たかった!
 まぁ残念だけど、みんながグランヴァルツに不快感を持ってないようでよかったよかった。

 「ああ、そうだ。お前が魔王の一角と戦った時に共闘してたフェンリルがあのあと、できるときに外で呼んでほしいとのことだ」
 「え、フェンリルが?なして?」
 「わからん。コウジが気絶したら申し訳なさそうにしていたぞ。魔狼王のフェンリルが獣人と共に戦うのでさえ珍しいのに、さらにはあんな顔にまでさせるのはすごいことだぞ」
 あの厳つい顔で申し訳なさそうな顔を?
 フェンリルも一応は獣だし、ケモ顔での表情変化も見たかった。
 むぅ……なんかいろいろ見逃してる気もするけど、とりあえず置いておこう。
 ていうか、マスターも魔物の言葉がわかるんですね。
 とりあえず先にフェンリルの話を聞いてこいとのことで、街の外へ行くことにした。
 ギルドを出ると日の光で一瞬めがくらみ、三日ぶりに見たビスコティアは、あちこち壊れた建物や道の修復やらで以前よりも活気に溢れている感じがする。
 これ、もしかしなくても、僕を狙ってきた魔王ネリアメの仕業だよね?
 なんだかすみません……。
 この数日で知り合った街の獣人達と挨拶を交わしながら進むと、リンゴやら色々な果実を貰いながら僕は街の外のギルアナ草原に出た。
 負けイベントとはいえ、魔王と戦ったなんて嘘のように心地いい風を感じながら、街への出入り口から死角になっている場所へ移動すると、ふと疑問が頭によぎった。

 「《フェンリル呼び》って……どうやるんだろ?」

 ただスキルを使うだけじゃダメな気がする。
 よく漫画やアニメとかでは指笛で犬とかを呼んでたような?
 有名なRPGゲームでは指笛の特技で魔物を呼ぶシステムがあったし……やってみるか。
 スキルを乗せて指笛を思いっきり吹いてみた。
 "ピューイ"っていう音が辺り一帯に広がったのを聞いて、ちょっとドキドキしてしまった。

 「………」

 来ない。 やはり別のやり方があるのだろうか?
 ……と思っていたら、ギルアナ草原の奥の方からドドドドという音と地響き共に土煙が上がってるのが見える。なんだあれ?
 段々と音も土煙も大きくなって……

 「って、何か来たぁ!!」

 え、ちょ、あれってよく見たらフェンリルじゃん!!
 1、2、3……土煙で数がわからん!!怖い怖い!!
 このままぶつかるんじゃないかと思ったら、急ブレーキをかけてきて僕の目の前で完全に停止した。
 し、心臓に悪い……
 ひぃ、ふぅ、みぃ……五匹か。

 『やっと呼んだか、小僧』
 「三日間眠ってたからね……」
 『む、そうなのか……悪かったな、助けに入ったはずが役にたたず』
 前にいるリーダーらしきフェンリルが申し訳なさそうに頭を下げると、後ろにいるフェンリルが同じく頭を下げた。
 別に気にしなくていいのに。
 第一、フェンリル達が来てくれなかったらあんなものじゃなかった気がするし、僕にはまだ一対多数のバトル経験がまったくないからテンパって何もできなかったと思う。
 まぁ、あの連続攻撃で結局はほとんどなにもできてなかったけどね。

 「そんなに気にしないで。僕は充分に助けてもらったよ。実際に直接攻撃を救われた場面があったし」
 『しかし……っ』
 「それに、僕は獣人でフェンリルは魔物……異種族なのに助けてくれるのは嬉しいよ」
 言いながら首をこすると、最初は気持ちよさそうに唸っていたけど途中でハッとして首をブンブンと振り回して辞めさせた。
 うん、なんか可愛い。

 『とにかく!ピンチの時は呼んでくれ。我々、魔狼王フェンリルの誇りと意地にかけて、小僧……いや、主(ぬし)を護ろう』
 「う、うん……ありがとう」

 別にそんなのかけなくていいのに……と言いたかったけど、『いいや!それでは我々の気が……』とかなんとか言いそうだから言わないでおこう。
 右前脚を出してきたからなんとなく握ってみた。

 『熟練度が一定に到達……称号《フェンリルの主》を獲得しました』

 なんかまーた変なスキルを獲得してるし。
 仲間とは思っていても、部下みたいな事思ってないんだけどなぁ。
 はぁ……こういうスキルしかないのかな?
 フェンリルに貰った果実を渡す(銜えさせる)と、『では!』と嬉しそうに言って帰って行ってしまった。
 慌ただしいなぁ。
 よし、僕も頑張ろう!気合を入れてギルドに戻ろう!
 そして、三日後のバトルに向けて特訓だぁ!!
 帰る途中、僕は誰かに見られてることに気付かずに……
 ギルドに戻ると、みんなと一緒に知らない誰かがいたことに気が付いた。 依頼人かな?

 「戻ったか、コウジ」
 「はい……その獣人は依頼人ですか?」
 「いや、ウチの最後のメンバーだ。猿獣人の……」
 クルッとこっちを振り向いたと思ったら、シュン!っという効果音が似合うくらい一瞬で僕の目の前に来た。
 ビックリした……忍者かな?
 黒い服と口元をスカーフで覆ってて、なんだか怪しく見えるんですけど?

 「ベロニカだ。よろしく頼む」
 「あ……うん、よろしく……」

 なんという低い声だろうか。
 あまりの低さにビックリしてしまった……

 「そいつは隠密が得意でな、情報収集が主な仕事なんだ。それで、さっきの緊急事態とはなんだ?」
 「ハッ!三日後のギルド対抗のバトルパートなのですが、対戦相手がヴァノを出すようです」
 「なんだと!?」

 ヴァノ? それはいったい誰なんだろうか?

 「ち……クソ兄貴かよ……厄介な……」
 「兄貴!?」

 え、ヴァンのお兄さんなの!?
 てことは、マスターの幼馴染でもあるんだよね…… マスターがそんなに驚くってことは、かなり強いのだろうか……

 「いったいなぜだ?アイツはこういう行事には参加するような奴じゃだろう」
 「仕事の途中でシールスの街に寄ったそうです。街の状況を見て何があったのか聞き……それでコウジに興味を持ったそうでして」

 ああ、ジャドーと戦った時のか……溜息出るなぁ……まったく。
 ていうか、どんな相手なのかな?

 「ねぇ、ヴァノって?」
 「ああ、ヴァノはヴァンの兄だ。そんなわけで俺の幼馴染に当たるわけだが……とにかく、奴の戦闘センスは群を抜いている。俺より遅くスキルの開花したが、そこからグングンと実力を開花していってな……ギルドに入ってわずか半月でSランクに上り詰めたんだ。まさに天才ってやつだな」

 半月でSランク!?
 ……ないわー。勝てるビジョンが見えないわー。
 これ、バトルパートにまで持ってこられたらほぼ確実に負け決定だな……

 「と、いうわけでヴァン、バルト!お前達で先に二勝してくれ」
 「まっかして!」
 「ったりまえだ。コウジとアイツを戦わせるわけにはいかないからな」

 ヴァン……仮にもお兄さんにその言い方……よっぽど嫌いなんだね。 まぁ、とにかく今は念には念を入れて特訓をしておくしかないね。
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