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第一章:ギルド加入編

#19.あっさりとしたのがいいよね

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 まずは腕の包帯を外し、傷口を洗って汚れを落とす。血は止まったけど、まだ濡らすと、しみて痛い。よっく拭いて乾かして新しい包帯を再び巻いていく。うん、自分でだとすっごくやりづらいなぁ。
 食器をシンクへ移して手袋(ロング)をして洗い、床やテーブルに無残にも散らかった食べ物も掃除道具で片付けていく。
 まったく……これじゃあ食べ物をドブに捨ててるのと同じだよ。もったいないなぁ、まったくもぅ。
 雑巾を洗いながら床や壁を掃除し、布巾でテーブルを綺麗にする。頑張った甲斐があってピカピカになった。うん、頑張った。
  さて、食材の確認しないと……って、ほとんどないや。
 これでできるのは……うん、アレができるな。道具も揃ってるし、早速作ってみるか!
 まず手袋をして台に濡れ布巾を置いて、その上にボウルを乗せて中に小麦粉を入れ、食塩水を少しずつ混ぜながら均一になるようにこねていく。
 黄色っぽいそぼろ状になったら、一つにまとめる為に全てを巻き込むようにボウルへ押さえつけ、ひっくり返して再び押さえつけ……これを何回か繰り返す。
 しっかりと綺麗にしたテーブルに強力粉(これが存在しててよかったよ)を少し撒いてボウルの生地を乗せる。
 生地の端の方を内側に折りたたむように回転させながらこねる。これを数回繰り返す。固くなってなめらかになった感じがしたらボウルを被せて熟成のためにしばらくねかせておく。
 ねかせてる間につゆを作っとくかな。
 まず、鍋に水を入れて湯を沸かし、鰹節を入れる。途中ででるアクはもちろん取り除いていく。だいたい10~12分くらいしたらだしはOK。
 次にだし、醤油、塩、砂糖を入れ、味見して……もうちょっと……うん、できた。
 生地の方は……うん、こんなもんだね。
 生地の端を内側に押し込み、少し回してまた内側に押し込む。これを数回繰り返してひっくり返したら綺麗な円形になっている。
 そしてまたボウルを被せてねかす。この工程が結構大事なんだよね。
 15分くらい経ったら強力粉をテーブルに撒き、生地にも少しまぶす。
 次に棒で生地を少し押して円形に伸ばし、俸を転がしていく。(ホントはちゃんとした麺棒がいいんだけど、今回は代用) 程よく伸びたら麺棒に生地を手前から巻きつけ、体重を乗せながら転がしていく。
 生地を外し、向きを変えてまた棒に巻き付けて転がす。
 これを何回か繰り返して厚さが約3~4mmの四角い生地になるんだ。
 次に生地に強力粉をふりかけ、たたんでいく。
 ここでやっと切ることができる。幅ははだいたい生地の厚さと同じ。
 切ったら強力粉を勢いよく払い、麺をほぐす。これで麺の完成だ。
 とりあえず布袋に入れておいて……っと。ホントはビニールの方がいいんだけど、存在しないから仕方ないね。
 けど、なんで小麦粉があるのに米がないんだろ?
 だしがあるのも異世界っていうのが食材に関しては薄く感じる。
 ……とりあえずあとの調理はマスター達が起きてからでいいかな。その間片付けてよっと。
 あー……服が粉まみれだ。洗濯……って、洗濯ってどうすればいいんだろ?
 ……あとで聞けばいいや。とりあえず外で服をはたいとこ。
 あー……保護色になってて気がつかなかったけど、毛皮にもたっぷり付着してるよ……ま、仕方ないか。
 ふぅ……さすがに疲れた……二人は起きたかな?

 「お、コウジ。ちょうど呼びに行くとこだったんだ……って、なんか粉っぽくね?」
 「あ、ヴァン。ちょっとあっさりとしたものを作っててね……二人は気がついたの?」
 「ああ。んで、お前を呼んでる」

 僕を? なんだろう、すっごく嫌な予感がする。まるで、とんでもなく酷く、失礼な勘違いをされてるような。
 とにかく行ってみよう。 ヴァンに連れてかれて医務室に入ると、マスターとシーナがボーっとした表情で明後日の方向を見ていた。
 おおう……獣人になってわかる。動物……じゃなくて獣人の表情の豊かさよ。

 「あの……二人とも大丈夫……?」
 「む……コウジか……あまりよくはないな……」

 おおう……なんという力のない受け答え。これは、精神がやられちゃってるなぁ。
 まぁ、一回しか食べたことないけど、バルトの料理を食べればああなるよね。僕だって《気絶耐性》と《危険予知》のスキルを獲得したし。

 「まず先に聞くが……仕事に行く前に何か料理を作ったか?」

 料理?作ってないけど……どうしてだろ?

 「お前たちに仕事を頼んだ後、バルトに仕事を頼んだんだが、アイツが言ってたんだ。「コウジからの伝言で、メシ作っといたからお腹すいたら食べてねーって」とな……で、食べたら気が遠くなってな……」

 やはり。というか、自分の料理を僕が作ったと言うなんて、最悪な詐欺じゃん!
 シーナのダイイングメッセージは食べた瞬間に無意識で書いたのだろうか……?
 ……死んでないけど。
 とりあえず気がついたことだし、うどんを仕上げてくるか。
 少し待つように言って、僕は再びキッチンへ向かう。
 ツユを温めながら鍋にたっぷりと水を入れて湯を沸かし、ほぐしながらゆっくりとうどんを湯に入れて、フォークでくっつかないようにしながら10分くらい茹でる。 茹で上がったらザルに移して水洗い。もいっかい湯を沸かして麺を軽く温めて、温めたツユに入れて葱を入れれば……完成!普通の動物と違って、獣人は葱とか平気でよかった。
 油揚げがあればきつねうどんになったんだけど、ないから仕方がない。豆腐があれば可能だけど、豆腐を作るのに“にがり”が必要だし、僕は作り方を知らない。食べたいなぁ……きつねうどん……狐になったからか、食べられないからかはわからないけど、すっごくきつねうどんが食べたい。
 そういえば、小麦粉はあるのになぜ米はないのだろうか?同じ麦でしょう!!矛盾してやいませんか!?
 ……とりあえず冷めたり麺が伸びたりしないうちに持っていこうか。
 うどんが入ったどんぶり二つをトレーに乗せて医務室に持っていく。
 ……しかし、僕はせっかくファンタジー世界に転生したのに、なに日本食作ってるんだろね?
 まぁ、まだファンタジーな食材知らないし、近いうちに巡り合って食したいものだね。ああ、楽しみだ。
 医務室に入り、ヴァンに用意してもらっていたテーブルにうどんを置くと、三人とも頭に“?”マークを頭に浮かべたようにポカンとした表情で僕を見る。
 うん、知らないなら仕方ないよね。

 「僕がいた世界の食べ物だよ。うどんといって、普通は箸で食べるんだけど……この世界には存在しないからフォークで温かいうちに食べてね」

 シーナは猫の獣人だし、たぶん猫舌だろうから熱いのは無理だろうけどね。
 まずはマスターがズルッという音を立てて食べた。
 すると、なんか安心感というか……ホッとした表情になった。
 続けて食べたシーナも、最初は熱がってハフハフとさせながら食べてたけど、マスターと表情は同じだ。

 「これは……ラテン粉で作ったのか?あっさりとしていて……すごくホッとするな……」
 「ですね……すごくおいしいです……」
 ラテン粉とはなんぞ?
 ヴァンに聞いてみたら、この世界の小麦粉の事らしい。
 どうやら、野菜みたいに種類を一つにまとめた言葉は同じみたいだけど、バラバラとなると名前が違うようだ。
 え、これって覚えることが増えたの?おうふ……

 「なぁ、俺の分は?」
 「ああ……まだあるから、あとで作ったげるよ。今は休ませてよ」
 「そういえば、まだ結果を聞いてなかったな。どうだった?」

 僕達は話した。
 坑道の奥にジャドーとドラゴンのグランヴァルツがいたこと。ヴァンに乗り移ったジャドーと戦い、グランヴァルツが僕の中に入ったこと、シールスを戦いの舞台にしてしまったこと、帰りにコボルトを助けたこと。一つ残らず全て。
 すると、マスターは申し訳なさそうな表情をした。

 「……明らかにEランクの仕事じゃないな。初めの仕事で……すまなかった」
 「いえいえ、おかげで僕はグランヴァルツと出会えたんで……それに、いい経験にもなりました」
 「さすがコウジ、心が広くて強いですね。サポート役どころか、身体を奪われてコウジを攻撃した誰かさんとは大違いです」

 シーナの言葉でヴァンは再びしょんぼりとする。今のヴァンの心の傷に塩を塗るのはやめてほしいな。
 シーナに腕の傷の回復をしてもらい、二人の食べ終えたどんぶりを片付けるためにどんぶりをまとめたら、玄関である扉が勢いよく開かれた音がし、誰かの声がする。

 「ライクウ!!ライクウはいるかしらぁ?」
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