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都市中央戦 月の女神
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意識を保っている者さえも死と背中合わせの状態に手が震える。緊迫した空気の中、再びガイアが口を開く。
「もう一度言う。何をしに来た、クウガ。その満身創痍の姿で。」
ガイアの言葉にクウガは、自身の傷を舐めると
「ふんっ。主に気遣われるとはな。気にするな。名誉の勲章だ。ワシは、ワシの眷属を謀(たばか)ったそこの奴らに用があるだけだ。」
と言うと怯え続けるイヴァイルを睨みつけた。クウガの視線に失禁し、泡を吹くイヴァイル。その惨(みじ)めな姿がイヴァイル軍の敗北を間違いないものにした。クウガは、それを確認すると今度は高台にいるクレアへと視線をやった。自分を救った少女とクレアが重なり合う。
「そうか、あれがあの女の仔か…よく似ている。」
クウガの呟きにガイアの耳が過敏に反応する。
「クウガ、貴様。あの娘に何の用だ。もし手を出そうものなら八つ裂きにするぞ。」
牙を剥き、目を充血させ、殺気を強めるガイアにクウガは、
「おぅ、殺れるもんなら殺ってみろ。」
と威嚇し返した。再び睨み合う両者。一時の間が呼吸困難を起こす程の凍てついた空気。だが、クウガは、大きく息を吐くと
「はぁぁ。止めだ、止めだ。今は、主と殺り合うつもりはない。それに、ワシの用はもう済んだ。あの娘も助け出された後の様じゃしな。」
と答えた。クウガの言葉にガイアも殺気を解いたが、
「クレアの助けだと。何のつもりだ。」
と問うた。まだ警戒するガイアにクウガは、来た道を一度振り返ると
「…まぁ、ワシのケジメみたいなもんだ。それにな、あの娘を思うているのは、主だけじゃない。というところかのう。」
と答えた。その答えにガイアは、クウガが来た方向に耳を向けると
「そうか…。クレアを。一先ずは、感謝を述べた方が良い様だな。」
と言って、警戒も解いた。だが、その瞬間、ガイアに向かって、火の玉が襲ってきた。不意を突かれたとはいえガイアは、余裕で躱す。だが、それを咄嗟にクウガが土の壁で防ぐ。
「余計な事を。」
そう言うガイアにクウガは、
「呆けておるのか、ガイア。よく見ろ。こいつは、主を狙っているわけじゃない。」
と返した。教会の屋上から更に降り注ぐ火の玉。それは、ガイアではなく、凍りついた爆弾を狙っていた。幾つもの火の玉がクウガの創った土の壁を襲い、徐々にひび割れていく。
「ガイア。その氷漬けは、どうにかならんのか?ワシの壁もそう保たんぞ。」
クウガの言葉に氷漬けになった爆弾を見つめるガイア。
【……】
渦巻く冷気。ガイアは、何かを察知すると近くにあった紅牙の遺体を咥え、その場を立ち去った。逃亡?ガイアのあり得ない行動に周囲は、目を疑ったが、その瞬間、氷漬けになった爆弾を空高く浮き上がらせる様に巨大な氷の塔が建った。塔の天辺に掲げられた爆弾。そこに火の玉が襲いかかる。防ぐ術を失ったクウガは、
「どういうつもりだ、ガイア。」
と叫ぶが、ガイアは、何も答えない。誰もが成す術なく、火の玉が爆弾を襲う。そして、
(ドカンっ!!)
大きな爆発音と共に空に大きな火花が舞った。爆風がガイア達を襲う。同時に氷の塔は、粉々に崩れ、火花を反射させる。死の兵器は、暗闇を照らす花火となって散りさった。起死回生の結果に見守った誰もが胸を撫で下ろす。
「まさか爆発の被害を最小限にする為に上空に飛ばすとはな。」
クウガの賞賛にガイアは、また何も答えず、氷の塔の根本を行くと塔の残骸を触り、何かを振り払うかの様に砕き割った。そして、苛立ちをぶつける様に控えていた白狼達に火の玉を放った奴の討伐を命じた。数匹の白狼達が教会へと向かう。爆発の火花は、消え、月を遮った煙は、彼方へと流された。ガイアは、ゆっくりと高台へ近づく。張り詰めた空気。中央都市壊滅の危機に何もできなかったバーナードと翠玄軍は、その姿に武器を向ける事などできず、倒れた領民達の安全を確保するのが、精一杯だった。ガイアが高台に着くとクレアが真奈美達の静止を振り切り、降りて来た。そして、
「父様。」
と叫ぶと、ガイアの前足にしがみ付いた。傷つき、涙で顔を腫らした娘にガイアは、顔を近づけると、もう一つの前足で優しく包み込んだ。5年ぶりの再会。戦場にも関わらず、ガイアの見せる慈愛に満ちた表情。それを祝福するかの様に白狼達が次々と吠える。恐怖の権化としてしか見ていなかった人族にとって、その光景は、心を刺激するのに十分なものだった。ガイアは、クレアを守るように自分の胸下に置くと高らかに宣言した。
「この戦に立ち合った者共よ。聞くがよい。この仔は、我が娘だ。そして、この仔の母は、全ての者に愛情を捧げる高潔な人族だった。決して、この様な不毛な戦いを望む者ではなかった。その娘の前で、まだ戦いを望む者がいるなら剣を構えよ。我が愛しき者の剣と成りて葬ってやる。」
ガイアの宣言にバーナードを始め、エレナを知る者は、次々と剣を落としていく。あのクウガでさえ、ガイアの宣言に過去の少女を思い出し、戦意を放棄した。全ての者が武器を捨てるのを見届けるとガイアは、クレアを自らの背を乗せる。クレアは、懐かしい父の背に跨(また)がると戦いの果てに残された1人の死を見つめ、目を閉ざした。
「父様。…。」
クレアの詰まる言葉にガイアは、頷くと
「分かっている。紅牙も一緒に連れて帰ろう。」
と答えた。そして、バーナードに目を向けると
「この男との契りだ。この気高き男の血肉も魂も我が一族が貰い受ける。よいな。」
と言って、紅牙の半身を2匹の白狼に咥えさせた。一方的に孫娘とサハリア領の英雄を連れ去られる様をバーナードは、止めようとしたが、ガイアは、一瞥(いちべつ)すると
「もう話す事はない。だが、忘れるな。この男がいたからこそ、お前達は、生きているのだ。また、此の地を穢(けが)す日がくるようなら、13獣王の名の下にお前達を滅ぼしてやる。」
と言って、クレアを乗せたまま、飛び上がった。英雄と女神を奪った魔獣。だが、その光景を見た者は、誰もが言葉を失い、目を、心を奪われてしまった。それは、その姿がまるで月の歌に謳われる闇夜の中、希望の光を与える月の女神とその女神を守護する神獣に見えたからだった。
「もう一度言う。何をしに来た、クウガ。その満身創痍の姿で。」
ガイアの言葉にクウガは、自身の傷を舐めると
「ふんっ。主に気遣われるとはな。気にするな。名誉の勲章だ。ワシは、ワシの眷属を謀(たばか)ったそこの奴らに用があるだけだ。」
と言うと怯え続けるイヴァイルを睨みつけた。クウガの視線に失禁し、泡を吹くイヴァイル。その惨(みじ)めな姿がイヴァイル軍の敗北を間違いないものにした。クウガは、それを確認すると今度は高台にいるクレアへと視線をやった。自分を救った少女とクレアが重なり合う。
「そうか、あれがあの女の仔か…よく似ている。」
クウガの呟きにガイアの耳が過敏に反応する。
「クウガ、貴様。あの娘に何の用だ。もし手を出そうものなら八つ裂きにするぞ。」
牙を剥き、目を充血させ、殺気を強めるガイアにクウガは、
「おぅ、殺れるもんなら殺ってみろ。」
と威嚇し返した。再び睨み合う両者。一時の間が呼吸困難を起こす程の凍てついた空気。だが、クウガは、大きく息を吐くと
「はぁぁ。止めだ、止めだ。今は、主と殺り合うつもりはない。それに、ワシの用はもう済んだ。あの娘も助け出された後の様じゃしな。」
と答えた。クウガの言葉にガイアも殺気を解いたが、
「クレアの助けだと。何のつもりだ。」
と問うた。まだ警戒するガイアにクウガは、来た道を一度振り返ると
「…まぁ、ワシのケジメみたいなもんだ。それにな、あの娘を思うているのは、主だけじゃない。というところかのう。」
と答えた。その答えにガイアは、クウガが来た方向に耳を向けると
「そうか…。クレアを。一先ずは、感謝を述べた方が良い様だな。」
と言って、警戒も解いた。だが、その瞬間、ガイアに向かって、火の玉が襲ってきた。不意を突かれたとはいえガイアは、余裕で躱す。だが、それを咄嗟にクウガが土の壁で防ぐ。
「余計な事を。」
そう言うガイアにクウガは、
「呆けておるのか、ガイア。よく見ろ。こいつは、主を狙っているわけじゃない。」
と返した。教会の屋上から更に降り注ぐ火の玉。それは、ガイアではなく、凍りついた爆弾を狙っていた。幾つもの火の玉がクウガの創った土の壁を襲い、徐々にひび割れていく。
「ガイア。その氷漬けは、どうにかならんのか?ワシの壁もそう保たんぞ。」
クウガの言葉に氷漬けになった爆弾を見つめるガイア。
【……】
渦巻く冷気。ガイアは、何かを察知すると近くにあった紅牙の遺体を咥え、その場を立ち去った。逃亡?ガイアのあり得ない行動に周囲は、目を疑ったが、その瞬間、氷漬けになった爆弾を空高く浮き上がらせる様に巨大な氷の塔が建った。塔の天辺に掲げられた爆弾。そこに火の玉が襲いかかる。防ぐ術を失ったクウガは、
「どういうつもりだ、ガイア。」
と叫ぶが、ガイアは、何も答えない。誰もが成す術なく、火の玉が爆弾を襲う。そして、
(ドカンっ!!)
大きな爆発音と共に空に大きな火花が舞った。爆風がガイア達を襲う。同時に氷の塔は、粉々に崩れ、火花を反射させる。死の兵器は、暗闇を照らす花火となって散りさった。起死回生の結果に見守った誰もが胸を撫で下ろす。
「まさか爆発の被害を最小限にする為に上空に飛ばすとはな。」
クウガの賞賛にガイアは、また何も答えず、氷の塔の根本を行くと塔の残骸を触り、何かを振り払うかの様に砕き割った。そして、苛立ちをぶつける様に控えていた白狼達に火の玉を放った奴の討伐を命じた。数匹の白狼達が教会へと向かう。爆発の火花は、消え、月を遮った煙は、彼方へと流された。ガイアは、ゆっくりと高台へ近づく。張り詰めた空気。中央都市壊滅の危機に何もできなかったバーナードと翠玄軍は、その姿に武器を向ける事などできず、倒れた領民達の安全を確保するのが、精一杯だった。ガイアが高台に着くとクレアが真奈美達の静止を振り切り、降りて来た。そして、
「父様。」
と叫ぶと、ガイアの前足にしがみ付いた。傷つき、涙で顔を腫らした娘にガイアは、顔を近づけると、もう一つの前足で優しく包み込んだ。5年ぶりの再会。戦場にも関わらず、ガイアの見せる慈愛に満ちた表情。それを祝福するかの様に白狼達が次々と吠える。恐怖の権化としてしか見ていなかった人族にとって、その光景は、心を刺激するのに十分なものだった。ガイアは、クレアを守るように自分の胸下に置くと高らかに宣言した。
「この戦に立ち合った者共よ。聞くがよい。この仔は、我が娘だ。そして、この仔の母は、全ての者に愛情を捧げる高潔な人族だった。決して、この様な不毛な戦いを望む者ではなかった。その娘の前で、まだ戦いを望む者がいるなら剣を構えよ。我が愛しき者の剣と成りて葬ってやる。」
ガイアの宣言にバーナードを始め、エレナを知る者は、次々と剣を落としていく。あのクウガでさえ、ガイアの宣言に過去の少女を思い出し、戦意を放棄した。全ての者が武器を捨てるのを見届けるとガイアは、クレアを自らの背を乗せる。クレアは、懐かしい父の背に跨(また)がると戦いの果てに残された1人の死を見つめ、目を閉ざした。
「父様。…。」
クレアの詰まる言葉にガイアは、頷くと
「分かっている。紅牙も一緒に連れて帰ろう。」
と答えた。そして、バーナードに目を向けると
「この男との契りだ。この気高き男の血肉も魂も我が一族が貰い受ける。よいな。」
と言って、紅牙の半身を2匹の白狼に咥えさせた。一方的に孫娘とサハリア領の英雄を連れ去られる様をバーナードは、止めようとしたが、ガイアは、一瞥(いちべつ)すると
「もう話す事はない。だが、忘れるな。この男がいたからこそ、お前達は、生きているのだ。また、此の地を穢(けが)す日がくるようなら、13獣王の名の下にお前達を滅ぼしてやる。」
と言って、クレアを乗せたまま、飛び上がった。英雄と女神を奪った魔獣。だが、その光景を見た者は、誰もが言葉を失い、目を、心を奪われてしまった。それは、その姿がまるで月の歌に謳われる闇夜の中、希望の光を与える月の女神とその女神を守護する神獣に見えたからだった。
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