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都市中央戦 死別と再会
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最後の悪足掻(わるあが)きとばかりに積荷へと向かう拓馬は、周囲にいた兵士達に
「お前ら、紅牙の足止めをしろ。」
と命令する。だが、敗戦濃厚を察している兵士達は、自分の身を守る事で精一杯で駆けつける余裕はなかった。更に間の悪い声が響き渡る。
「うひゃっひゃっひゃっ。そうだ。やっぢまえ、拓馬。俺様に従わない愚民共も、そして、この国も吹き飛ばしてしまえ。」
2度目の敗北でもう後のないイヴァイルは、ヤケクソになっていた。後先の考えられない発言に拓馬は、
「黙れ!無能長者が。最後まで足を引っ張るんじゃねぇ!」
と怒りを露わにした。それでも何とか積荷に到着した拓馬だったが、イヴァイルの言葉に爆弾の存在に気づいた紅牙がすぐ背後にまで迫っていた。紅牙の刀が拓馬の首を狙う。誰もが紅牙の勝利を確信していた。だが、拓馬は、
「いや、最後に良い仕事をしたよ。イヴァイル。」
と呟くと積荷に立てかけられていた鉈(なた)を手にし、背後から迫り来る紅牙に向けて振り回した。
(ぼとっ)(グサッ)
…拓馬の左腕が落ちた。拓馬と紅牙の最後の死闘。それを見届けていた全ての者がその結末に言葉を失った。
「紅牙様ぁ!」
高台から真奈美の叫ぶ声が聞こえる。その言葉と同時に拓馬の首の寸前で止まった紅牙の刀は、地面へと転がった。紅牙は、鉈で脇腹の半分以上を切り裂かれ、辛うじて上半身と下半身がくっついていた。切り裂かれた下腹部からは、臓器が漏れ、目からは、光が消え、口からは、血反吐を吐く。死の淵に立たされた紅牙は、力無く、地面に倒れ込んだ。その姿を見た拓馬は、高らかに雄叫びを上げると
「やっと…やっとだ。俺は…勝ったんだ。あの紅牙に……。…はぁ…。もう思い残す事はない。このくだらない世界を終わらせよう。」
と言って、最後の力を振り絞ると、積荷を壊し、爆弾を起動させようとした。再び起ころうとする爆破の悲劇に真奈美達は、目を瞑ったが、紅牙だけは、光の消えた目で、月の輝く空を見ると
「ま…にぁっぁ。……ぁとぁ…ぁのんぁ、うぅぁ…ぉの…」
と言い残した。死の間際の戯言(たわごと)。拓馬には、そう聞こえたかもしれない。だが、その時だった。
(パキッ)
突然の冷気が拓馬の周囲を包み、積荷と拓馬の右手を氷漬けにした。徐々に凍りつく身体。拓馬は、諦めた様に抵抗を止めると紅牙の視線の先を見て、
「これもお前の仕業か…紅牙。本当に最期の最期まで俺の邪魔をする…このクソ…ったれ。」
と恨み節を発しながら氷漬けになった。氷の像となった拓馬。その拓馬が最期に目にしたのは、建物の上で月光に照らされながら、神獣の様に白銀に輝くガイアの姿だった。満足気な死に顔を見せる紅牙。そんな紅牙にガイアは、
「…馬鹿者が…契りを違えおって。」
と呟くと建物から降り、ゆっくりと近づいた。その姿に広場に溢(あふ)れていた殺意や熱気は、まるで凍りついたかの様に鎮まり返っていく。恐怖で身体が竦(すく)む者、中にはその気高さに目を奪われる者もいた。そんな者達が、固唾を飲む中、ガイアは、紅牙の元に行くと前足を高々と上げ、氷漬けになった拓馬を粉々に砕き割った。そして、氷の破片がガイアと紅牙を包むと
「クレアを泣かしおって。……何が見たくないだ。死ねば見なくて済む。それは卑怯だ、紅牙よ。」
と言って、舞い散る氷に紛れて、一筋の結晶を紅牙に落とした。美しく、残酷な血と氷の海に佇むガイア。その視線の先には、高台で涙を流すクレアがいた。再会と悲しみを分かち合う静寂の一時。だが、その時間は、翠玄とバーナードの到着をもって終わりを告げた。武器をむける翠玄の軍にイヴァイルは、
「もうダメだ。お前ら、早く俺様を助けろ。俺様をここから逃がせ。」
と叫んだ。だが、イヴァイルを助ける者は、誰一人いなかった。逆にその言葉を皮切りにイヴァイルの兵士達は、我先にと翠玄の軍とガイアから逃げるように走り出した。一心不乱に逃げるイヴァイルの軍。だが、その逃走劇は、直ぐに勢いを失った。それは、いち早く広場から出た兵士が、空高く吹っ飛ばされて広場に戻って来たからだ。壊れたサンドバッグと化した兵士に怯えるイヴァイル軍。更に建物の影から
「下衆な上に戦士でもなしか。つくづく救えん奴らだ。」
と声がすると大地の槍がイヴァイル軍の逃げ場を塞ぐかの様に現れた。その声と光景にガイアが威嚇する。
「何をしに来た。クウガ。」
ガイアの言葉に建物の影から出てくるクウガ。ガイアと双璧を成す獣族の登場に他の白狼達も警戒を強める。何も言わず、睨み合うガイアとクウガ。一触即発を窺(うかが)わせる空気にイヴァイル軍は、完全に戦意を失い、広場にいた領民達は、意識を失った。
「お前ら、紅牙の足止めをしろ。」
と命令する。だが、敗戦濃厚を察している兵士達は、自分の身を守る事で精一杯で駆けつける余裕はなかった。更に間の悪い声が響き渡る。
「うひゃっひゃっひゃっ。そうだ。やっぢまえ、拓馬。俺様に従わない愚民共も、そして、この国も吹き飛ばしてしまえ。」
2度目の敗北でもう後のないイヴァイルは、ヤケクソになっていた。後先の考えられない発言に拓馬は、
「黙れ!無能長者が。最後まで足を引っ張るんじゃねぇ!」
と怒りを露わにした。それでも何とか積荷に到着した拓馬だったが、イヴァイルの言葉に爆弾の存在に気づいた紅牙がすぐ背後にまで迫っていた。紅牙の刀が拓馬の首を狙う。誰もが紅牙の勝利を確信していた。だが、拓馬は、
「いや、最後に良い仕事をしたよ。イヴァイル。」
と呟くと積荷に立てかけられていた鉈(なた)を手にし、背後から迫り来る紅牙に向けて振り回した。
(ぼとっ)(グサッ)
…拓馬の左腕が落ちた。拓馬と紅牙の最後の死闘。それを見届けていた全ての者がその結末に言葉を失った。
「紅牙様ぁ!」
高台から真奈美の叫ぶ声が聞こえる。その言葉と同時に拓馬の首の寸前で止まった紅牙の刀は、地面へと転がった。紅牙は、鉈で脇腹の半分以上を切り裂かれ、辛うじて上半身と下半身がくっついていた。切り裂かれた下腹部からは、臓器が漏れ、目からは、光が消え、口からは、血反吐を吐く。死の淵に立たされた紅牙は、力無く、地面に倒れ込んだ。その姿を見た拓馬は、高らかに雄叫びを上げると
「やっと…やっとだ。俺は…勝ったんだ。あの紅牙に……。…はぁ…。もう思い残す事はない。このくだらない世界を終わらせよう。」
と言って、最後の力を振り絞ると、積荷を壊し、爆弾を起動させようとした。再び起ころうとする爆破の悲劇に真奈美達は、目を瞑ったが、紅牙だけは、光の消えた目で、月の輝く空を見ると
「ま…にぁっぁ。……ぁとぁ…ぁのんぁ、うぅぁ…ぉの…」
と言い残した。死の間際の戯言(たわごと)。拓馬には、そう聞こえたかもしれない。だが、その時だった。
(パキッ)
突然の冷気が拓馬の周囲を包み、積荷と拓馬の右手を氷漬けにした。徐々に凍りつく身体。拓馬は、諦めた様に抵抗を止めると紅牙の視線の先を見て、
「これもお前の仕業か…紅牙。本当に最期の最期まで俺の邪魔をする…このクソ…ったれ。」
と恨み節を発しながら氷漬けになった。氷の像となった拓馬。その拓馬が最期に目にしたのは、建物の上で月光に照らされながら、神獣の様に白銀に輝くガイアの姿だった。満足気な死に顔を見せる紅牙。そんな紅牙にガイアは、
「…馬鹿者が…契りを違えおって。」
と呟くと建物から降り、ゆっくりと近づいた。その姿に広場に溢(あふ)れていた殺意や熱気は、まるで凍りついたかの様に鎮まり返っていく。恐怖で身体が竦(すく)む者、中にはその気高さに目を奪われる者もいた。そんな者達が、固唾を飲む中、ガイアは、紅牙の元に行くと前足を高々と上げ、氷漬けになった拓馬を粉々に砕き割った。そして、氷の破片がガイアと紅牙を包むと
「クレアを泣かしおって。……何が見たくないだ。死ねば見なくて済む。それは卑怯だ、紅牙よ。」
と言って、舞い散る氷に紛れて、一筋の結晶を紅牙に落とした。美しく、残酷な血と氷の海に佇むガイア。その視線の先には、高台で涙を流すクレアがいた。再会と悲しみを分かち合う静寂の一時。だが、その時間は、翠玄とバーナードの到着をもって終わりを告げた。武器をむける翠玄の軍にイヴァイルは、
「もうダメだ。お前ら、早く俺様を助けろ。俺様をここから逃がせ。」
と叫んだ。だが、イヴァイルを助ける者は、誰一人いなかった。逆にその言葉を皮切りにイヴァイルの兵士達は、我先にと翠玄の軍とガイアから逃げるように走り出した。一心不乱に逃げるイヴァイルの軍。だが、その逃走劇は、直ぐに勢いを失った。それは、いち早く広場から出た兵士が、空高く吹っ飛ばされて広場に戻って来たからだ。壊れたサンドバッグと化した兵士に怯えるイヴァイル軍。更に建物の影から
「下衆な上に戦士でもなしか。つくづく救えん奴らだ。」
と声がすると大地の槍がイヴァイル軍の逃げ場を塞ぐかの様に現れた。その声と光景にガイアが威嚇する。
「何をしに来た。クウガ。」
ガイアの言葉に建物の影から出てくるクウガ。ガイアと双璧を成す獣族の登場に他の白狼達も警戒を強める。何も言わず、睨み合うガイアとクウガ。一触即発を窺(うかが)わせる空気にイヴァイル軍は、完全に戦意を失い、広場にいた領民達は、意識を失った。
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