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都市中央戦 優秀の在り方
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突然の領民の怒号に戸惑うイヴァイル。
「何だ、お前達。俺様はまだ開戦の狼煙(のろし)を上げてないぞ。」
だが、領民達の勢いは、止まらない。
「月の女神に栄光あれ。」
「我らの女神を救え。」
領民達は、そう叫ぶとイヴァイルの軍に襲いかかっていく。青天の霹靂(へきれき)。領民を味方につけ、勝利を確信していたイヴァイルは、動揺を隠しきれなかった。そんなイヴァイルを見て、拓馬が叫ぶ。
「何をしている、イヴァイル。早くそのガキを人質にしろ。」
拓馬の言葉に急いでクレアの身柄を確保しようとしたイヴァイルだったが、その瞬間、何本ものクナイがイヴァイルに襲いかかった。
「ぐぁぁぁ…痛い、いたぃぃっ」
腕や足に突き刺さったクナイに苦痛の叫びを上げるイヴァイル。それと同時に
「ワオぉぉーん」
白狼達の遠吠えが聞こえる。恐怖と苦痛に悶(もだ)えるイヴァイルの前に数人の人影が見える。イヴァイルの危機に見兼ねた拓馬が高台へと向かおうとするが、目の前に武器を構えた片腕の男が立ち塞がる。
「まさか生きているとはな。イヴァイルの奴め、しくじりやがって。」
拓馬は、そう言うと静かに刀を抜いた。一方、イヴァイルの前には、暗闇に紛れる様な黒いフードで身を隠した数人の男女が立ち塞がった。涙目になりながら後退りするイヴァイルにクナイをむける女性。そして、イヴァイルを高台の隅へと追いやると
「貴方達は、クレア様の安全を確保しなさい。」
と指示をした。直様、2人の男がクレアを十字架から救いにかかる。傷つけられ、切り札まで奪われる屈辱にイヴァイルが
「貴様達何者だ。俺様にこんな事をしてどうなるかわかってるんだろうな。」
と叫ぶ。イヴァイルの言葉にクナイをもつ女性はフードを取ると見下す様にイヴァイルを見て、
「どうなるか言ってみなさいよ。ゲス野郎。」
と言って、首を掠める様にクナイを投げつけた。強烈な一撃に自分の首が繋がっているか確認するイヴァイル。首は繋がっていたが、イヴァイルの手が血に染まる。その手を見て、イヴァイルは、再び
「ゔぁぁぁ!!死ぬ、死んでしまう。」
と叫んでしまう。そんなイヴァイルの目にレオタード風の忍び衣装を身に纏う女性の姿が映る。似た女性が脳裏に浮かび、イヴァイルの顔が恐怖に引き攣る。
「う、嘘だ。お前は、死んだはずだ。あの時、紅牙と一緒に…い、生きてるはずがない。」
亡霊を見るかの様に自分を見るイヴァイルに
「そう、そんなに似てる?あの妹(こ)もお前のその顔が見れたなら、きっと満足してるでしょうね。」
と言うと、真奈美は、再びクナイを構えた。周囲の隠密兵もイヴァイルに武器を向ける。窮地に立たされたイヴァイル。それと同時に領民達の大きな歓声が聞こえる。その声にイヴァイルは、歯軋(はぎし)りをすると
「これも貴様らの仕業か。都市を守る立場の貴様らが領民を使うなど恥を知れ。」
と真奈美達を痛烈に非難した。だが、真奈美は、それを鼻で笑い捨てると
「ふっ、私達が彼等を動かしたと思っているの?馬鹿なのかしら。」
と返して、
「しかし、よく言えたものね。あのくだらない演説で領民達が動くとでも思っていたの?本当に頭が悪いのね。お前の語った四方の砦は、元々領民達の税と私達、守護之門里の者達で作った物。お前の一族は、その提案に賛成しただけにすぎない。それを然(さ)も自分達の功績と謳(うた)い、領民達から更に税を徴収し、払えなければ領地を力づく奪う。それを我らの民が知らない訳ないがないでしょ。そんな奴の言葉で動かされる領民は此処にはいないわ。」
と加えて、イヴァイルを否定した。自分の所業を暴かれ、否定されたイヴァイルは、逃げ場を失った鼠が惨めに踠(もが)く様に手足をバタつかせると
「だったら、あの愚民共は、何で戦ってるんだよ。」
と喚(わめ)いた。最早、駄々を捏(こ)ねるガキでしかないイヴァイルに呆れた眼差しを向ける真奈美は、
「月の歌…クレア様が歌っていたのは、絶望という暗闇を希望という月明かりが照らす歌。と言ってもお前には理解できないでしょうね。」
と答えた。真奈美の言う通り理解のできないイヴァイルは、
「馬鹿にしてるのか。歌だぁ?そんなのに俺様の…」
と怒りを見せるが、興奮しすぎたせいか、手を滑らせ高台から転げ落ちた。背中を強打し、泡を吹き、気絶するイヴァイル。
(カキーンっ)
それを皮切りに高台の下では金属が交わる音が鳴り響く。
「死に損ないが邪魔をするな、紅牙。」
そう言って、襲いかかる拓馬を紅牙が刀で受け流す。片腕のハンデがあるにも関わらず、拓馬の攻撃を捌き続ける紅牙に明らかに拓馬は、冷静さを失っていた。
「死ね、紅牙。家柄だけで俺の上に立ちやがったお前からは、全部奪ってやる。女も権力も命もだ。」
イヴァイルがやられ、敗戦濃厚の状況下で心のコントロールができなくなった拓馬は、心内を暴露しながら、荒々しい攻撃を繰り返す。だが、そんな雑な攻撃は、紅牙に隙を与えるだけでしかなく、たった一撃で拓馬の脇腹が切り裂かれる。
「終わりだ、拓馬。覚悟しろ。」
紅牙の言葉に睨みで返す拓馬は、
「何かの間違いだ。俺の方が優秀なはずだ。」
と吐き捨てる。そんな拓馬に紅牙は、
「優秀か…お前もイヴァイルも間違っている。周りを、ましてや家族を騙し、陥(おとしい)れる事でしか自分を良く見せられない奴は、優秀なんかではない。だから、お前達は、負けたんだよ。人を慈(いつく)しみ、共に生きようとする1人の少女に。」
と言って、刀に力を込めた。絶体絶命の拓馬。いつも自分の前に立ちはだかる紅牙。一つでも優位に立ちたくて、女を寝取り、失態を作り上げてきた。だが、それを1人の少女に諭(さと)された現実に悔し涙が出てくる。
「うぁぁぁ…。」
拓馬は、泣きながら叫ぶと握った土を紅牙に投げつけ、脇腹を抑えながら近くにあった積荷へと走って行った。
「何だ、お前達。俺様はまだ開戦の狼煙(のろし)を上げてないぞ。」
だが、領民達の勢いは、止まらない。
「月の女神に栄光あれ。」
「我らの女神を救え。」
領民達は、そう叫ぶとイヴァイルの軍に襲いかかっていく。青天の霹靂(へきれき)。領民を味方につけ、勝利を確信していたイヴァイルは、動揺を隠しきれなかった。そんなイヴァイルを見て、拓馬が叫ぶ。
「何をしている、イヴァイル。早くそのガキを人質にしろ。」
拓馬の言葉に急いでクレアの身柄を確保しようとしたイヴァイルだったが、その瞬間、何本ものクナイがイヴァイルに襲いかかった。
「ぐぁぁぁ…痛い、いたぃぃっ」
腕や足に突き刺さったクナイに苦痛の叫びを上げるイヴァイル。それと同時に
「ワオぉぉーん」
白狼達の遠吠えが聞こえる。恐怖と苦痛に悶(もだ)えるイヴァイルの前に数人の人影が見える。イヴァイルの危機に見兼ねた拓馬が高台へと向かおうとするが、目の前に武器を構えた片腕の男が立ち塞がる。
「まさか生きているとはな。イヴァイルの奴め、しくじりやがって。」
拓馬は、そう言うと静かに刀を抜いた。一方、イヴァイルの前には、暗闇に紛れる様な黒いフードで身を隠した数人の男女が立ち塞がった。涙目になりながら後退りするイヴァイルにクナイをむける女性。そして、イヴァイルを高台の隅へと追いやると
「貴方達は、クレア様の安全を確保しなさい。」
と指示をした。直様、2人の男がクレアを十字架から救いにかかる。傷つけられ、切り札まで奪われる屈辱にイヴァイルが
「貴様達何者だ。俺様にこんな事をしてどうなるかわかってるんだろうな。」
と叫ぶ。イヴァイルの言葉にクナイをもつ女性はフードを取ると見下す様にイヴァイルを見て、
「どうなるか言ってみなさいよ。ゲス野郎。」
と言って、首を掠める様にクナイを投げつけた。強烈な一撃に自分の首が繋がっているか確認するイヴァイル。首は繋がっていたが、イヴァイルの手が血に染まる。その手を見て、イヴァイルは、再び
「ゔぁぁぁ!!死ぬ、死んでしまう。」
と叫んでしまう。そんなイヴァイルの目にレオタード風の忍び衣装を身に纏う女性の姿が映る。似た女性が脳裏に浮かび、イヴァイルの顔が恐怖に引き攣る。
「う、嘘だ。お前は、死んだはずだ。あの時、紅牙と一緒に…い、生きてるはずがない。」
亡霊を見るかの様に自分を見るイヴァイルに
「そう、そんなに似てる?あの妹(こ)もお前のその顔が見れたなら、きっと満足してるでしょうね。」
と言うと、真奈美は、再びクナイを構えた。周囲の隠密兵もイヴァイルに武器を向ける。窮地に立たされたイヴァイル。それと同時に領民達の大きな歓声が聞こえる。その声にイヴァイルは、歯軋(はぎし)りをすると
「これも貴様らの仕業か。都市を守る立場の貴様らが領民を使うなど恥を知れ。」
と真奈美達を痛烈に非難した。だが、真奈美は、それを鼻で笑い捨てると
「ふっ、私達が彼等を動かしたと思っているの?馬鹿なのかしら。」
と返して、
「しかし、よく言えたものね。あのくだらない演説で領民達が動くとでも思っていたの?本当に頭が悪いのね。お前の語った四方の砦は、元々領民達の税と私達、守護之門里の者達で作った物。お前の一族は、その提案に賛成しただけにすぎない。それを然(さ)も自分達の功績と謳(うた)い、領民達から更に税を徴収し、払えなければ領地を力づく奪う。それを我らの民が知らない訳ないがないでしょ。そんな奴の言葉で動かされる領民は此処にはいないわ。」
と加えて、イヴァイルを否定した。自分の所業を暴かれ、否定されたイヴァイルは、逃げ場を失った鼠が惨めに踠(もが)く様に手足をバタつかせると
「だったら、あの愚民共は、何で戦ってるんだよ。」
と喚(わめ)いた。最早、駄々を捏(こ)ねるガキでしかないイヴァイルに呆れた眼差しを向ける真奈美は、
「月の歌…クレア様が歌っていたのは、絶望という暗闇を希望という月明かりが照らす歌。と言ってもお前には理解できないでしょうね。」
と答えた。真奈美の言う通り理解のできないイヴァイルは、
「馬鹿にしてるのか。歌だぁ?そんなのに俺様の…」
と怒りを見せるが、興奮しすぎたせいか、手を滑らせ高台から転げ落ちた。背中を強打し、泡を吹き、気絶するイヴァイル。
(カキーンっ)
それを皮切りに高台の下では金属が交わる音が鳴り響く。
「死に損ないが邪魔をするな、紅牙。」
そう言って、襲いかかる拓馬を紅牙が刀で受け流す。片腕のハンデがあるにも関わらず、拓馬の攻撃を捌き続ける紅牙に明らかに拓馬は、冷静さを失っていた。
「死ね、紅牙。家柄だけで俺の上に立ちやがったお前からは、全部奪ってやる。女も権力も命もだ。」
イヴァイルがやられ、敗戦濃厚の状況下で心のコントロールができなくなった拓馬は、心内を暴露しながら、荒々しい攻撃を繰り返す。だが、そんな雑な攻撃は、紅牙に隙を与えるだけでしかなく、たった一撃で拓馬の脇腹が切り裂かれる。
「終わりだ、拓馬。覚悟しろ。」
紅牙の言葉に睨みで返す拓馬は、
「何かの間違いだ。俺の方が優秀なはずだ。」
と吐き捨てる。そんな拓馬に紅牙は、
「優秀か…お前もイヴァイルも間違っている。周りを、ましてや家族を騙し、陥(おとしい)れる事でしか自分を良く見せられない奴は、優秀なんかではない。だから、お前達は、負けたんだよ。人を慈(いつく)しみ、共に生きようとする1人の少女に。」
と言って、刀に力を込めた。絶体絶命の拓馬。いつも自分の前に立ちはだかる紅牙。一つでも優位に立ちたくて、女を寝取り、失態を作り上げてきた。だが、それを1人の少女に諭(さと)された現実に悔し涙が出てくる。
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