神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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都市中央戦 都市集結

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紅牙の生還に喜ぶ兵士とは裏腹に紅牙の表情は晴れない。紅牙は、自分を囲む兵士達を除(よ)けると白炎の方へと歩き出した。白炎は、氷の束縛を何とか解くと目の前で分断された鞍馬の冥福を祈り、その上半身を抱き上げると見開いたままの鞍馬の目を閉ざす様に手で覆(おお)った。紅牙も鞍馬と白炎の前に着くと膝をつき、頭を下げた。そして、白炎に
「すまない、白炎殿。貴殿は、傷つき、忠臣を失ったにも関わらず、俺は、無惨にも生き残ってしまった。」
と言った。白炎は、何かを握りつぶすかの様に拳を握ると
「………。頭を上げてくれ。確かに失ったものは還らない。だが、お主のおかげで俺もあいつらも生きている。俺達は、お主に救われたのだ。」
と答えた。そして、紅牙の手を取って、引き上げると
「こいつの供養はしてやりたいが、それすらできない状況なのだろ。何もかもイヴァイルの野郎にやられてしまった。この借りは、直ぐにでも返さねばなるまい。俺は、動ける兵を連れて西門に向かう。お主は、どうする。」
と聞いてきた。紅牙は、ガイアを一目見ると
「正直、後の事は貴殿に託すつもりだったので考えていなかった。だが、こうして生き残ったのは、運命なのだろう。クレア様の救出の為とはいえ、貴殿の軍とガイア殿達を同行させるのは、酷な話だ。俺は、ガイア殿達と一緒に南門へ向かう。そして、此処に来る途中で待機させた俺の軍と合流してクレア様の救出の機を伺うつもりだ。貴殿には、クレア様救出まで上手く奴等を引きつけてもらいたい。」
と答えた。白炎は、紅牙の言葉に頷くと負傷した者と数人の救護班を残して西門へと軍を動かした。白炎の軍が西門へと向かうのを見届けると紅牙もガイア達とともに南門へと向かった。

中央都市北部 領主邸前広場
「翠玄め。老兵になったとはいえ『サハリアの大盾(シルディアン)』の名は、伊達ではないな。」
拓馬が領主邸を攻めあぐねているとイヴァイルが煽る様に
「何をやっている拓馬。さっさと爆弾で蹴散らせばよかろう。」
と言ってきた。拓馬は、積荷の爆弾を確認すると
「いいのか、イヴァイル。今ある爆弾は、ガイアを葬るための大型爆弾だ。投げ入れるにせよ、誰かに括(くく)り付けて特攻させるにせよ、この場所では俺達まで巻き込まれるぞ。」
と答えた。冷静に状況を判断する拓馬にイラつきをみせるイヴァイル。
「くそっ。これもヘタレ獣人共が戦いもせずに逃げ帰るからだ。戦うしか脳がないくせに。あの役立たず共が。」
そう言うとイヴァイルは、東門に向けて木箱を蹴りつけた。癇癪(かんしゃく)を起こす大将に後方から更に悪報が届く。
「イヴァイル様。西門より報告。ガイア討伐に向かっていた白炎軍が引き返して来たとの事です。」
「はぁ?何なんだ。くそっ、くそっ、くそっ!」
意のままにならない報告に怒り心頭のイヴァイルは、
「南の監視兵を全部西に行かせろ。絶対に西門を突破させるな。」
と指示した。イヴァイルの指示に慌てて伝令を出そうとする兵士を拓馬が
「待て、何かおかしい。」
と制したが、頭に血が上ったイヴァイルは、
「黙れ、拓馬。大将は、俺だ。お前は、さっさと南の奴等に伝えに行け。拓馬、お前は、領主邸制圧だけを考えろ。」
と言い放った。拓馬は、聞く耳をもたないイヴァイルに諦めたのか、舌打ちをすると領主邸を前に腰を下ろした。そして、顎を掴むと現状打破の為に状況を整理し始めた。
『ガイアは、攻めて来なかった?いや、それでも白炎がこちらの状況を知る術は無いはずだ。それにガイアの脅威を知っている白炎なら待機…少なくとも帰還の選択はしないはずだ。それに東門もそうだ。獣人共が逃げ帰ったにしても慎重派の翠星が帰還の判断をするのが早すぎる。これが偶然でないとしたら誰かが…』
「おい、拓馬。聞いているのか?」
『・・・。』
拓馬の集中が切れる。見え始めた糸口の光を遮るかの様に声をかけてきたイヴァイルを拓馬は、怪訝(けげん)な表情で一瞥(いちべつ)したが、イヴァイルは、気にもせずに話を続けた。
「これ以上、両門に兵を割(さ)いてもジリ貧だ。お前が動かないなら俺様がやるからな。俺様に良い考えがある。兵がいないなら作ればいい。あの女を使う。いいな。」
イヴァイルは、そう言うと近くにいた兵士に指示し始めた。

都市中央近郊の平原
「おい、見ろ。クウガ様が来られたぞ。」
クウガの姿に平原で屯(たむろ)していた獣人族達が騒(ざわ)めきたつ。そして、クウガの撤退の咆哮の真偽を確かめるべく、クウガの元に集まってくる。
「クウガ様。先程の咆哮は、どういう事ですか?我らの復讐はどうなるのですか?」
「何を言っている。森の王が我等に御力をお貸し下さる為に来られたのだぞ。あの咆哮は、俺達の聞き間違いだったんだ。」
「クウガ様。先程、ガイア様の一族が…」
クウガの登場で様々な言葉が飛び交い、詰め寄る。それを一緒に来た獣人族の長達が何とか抑えようとするが、ある意味暴徒化した獣人族達の勢いは止められなかった。だが、ある一言で周囲の視線が一気に切り替わる。
「おい、砦にいた人孤が仲間を連れて攻めて来たぞ。」
その声に再び闘争本能に火がついたのか、次々と武器を構え始める獣人族達。明らかな敵意を見せる獣人族達にオレ達も武器を抜くが、それを遮るかの様にクウガが大きな土壁を創る。そして、一言。
「鎮まれ」
クウガは、一言で殺気だった獣人族達を圧倒したが、一部の獣人族は、
「ですが、奴等は…」
と呟き、武器を構え続けた。反旗とも捉えられる行動に獣人族の長達は、
「おい、王の命だぞ。武器を下せ。それに今来た者は、奴等の仲間ではない。」
と言って、武器を下ろさせようとした。だが、砦で桜に仲間を殺された獣人族達は、武器を手放さない。怒りの炎は簡単には消えない。それを知っているクウガは、武器を構え続ける獣人族達に近づくと
「ケジメをつけたいなら止めはせぬ。だが、武器を向けたなら覚悟を決めろ。死の覚悟を。お前達の仲間もそうだったはずだ。だが、覚えておけ。少なくとも一緒にいた人族は、ワシよりも強い。」
と言った。我等が王であるクウガ様より強い。そんな信じがたい言葉に笑う者もいた。だが、付き添う獣人族の長達の顔が真実を述べていた。困惑と恐怖から武器を持っていた獣人族達も構えるのを止めた。それと同時にオレ達が土壁を避けて現れる。戦意をなくした獣人族達の姿にオレ達も武器を納める。
「悪かったな、永遠。先の戦いで此奴らも気が昂(たかぶ)っていたのだ。許せ。」
クウガの言葉にオレ達は、周囲を警戒しつつも馬を進ませる。色々な感情の視線を感じる中、オレ達がクウガの元に着くとクウガは、大きく息を吸って
「シカ丸。お前は、此奴らを先導して、モー助達に合流しろ。既に血と焼けた臭いがするな。急ぐぞ、他の者は、ワシについて来い。」
と指示し、再び都市中央へと走り始めた。
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