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都市中央戦 ガイアと紅牙
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(ぷしゅっ)
遠方からの声にもガイアの攻撃は止まらず血の雨が降った。血だらけになった白炎の目に映ったのは、砕かれた斧と切り裂かれた鞍馬の姿だった。
「鞍馬ぁ!」
忠臣の死に白炎が叫ぶが鞍馬に反応はない。即死だった。だが、その人1人の死によってようやくガイアの攻撃が止まった。鞍馬の死に様に武器を落とし始める兵士達。もうガイアや白狼達に戦いを挑む者も道を阻む者もいなかった。だが、ガイア達は、先には進まず、そこに留(とど)まった。殺意をむけたまま構えるガイア。そんな中、誰もが怯える死の境地に紅牙と白狼達が現れた。紅牙は、馬から降りると周囲を見渡し、その惨状に対し、目を瞑(つむ)る。そして、ガイアを見るとゆっくりと近づいた。都市最強のギルド長の登場。だが、兵士達の士気は上がらない。寧ろ目を背ける。それは紅牙の姿がさながら白狼達に連れられた処刑者に見えたからだ。実際、紅牙は、ガイアの前に立つと他の白狼達に囲まれた。白炎を含め、誰もが紅牙に声をかける事などできず、神に祈るしかできない緊迫した状況。それに追い討ちをかけるようにガイアが口を開く。
「紅牙…クレアはどうした。」
言葉だけで人を押し潰してしまいそうな威圧に耐えながら紅牙は
「すまない、奴等に奪われた。」
と頭を下げた。紅牙の返答に周囲の白狼達は、唸りを上げる。
「覚悟はできているな。」
ガイアの言葉に白狼達がジリジリと紅牙に詰め寄る。死地を決めた紅牙は、
「…っ。覚悟はできている。だが、最期に頼みがある。」
と言って、ガイアを見た。ガイアは、返答はしなかったが、前足を軽く上げ、他の白狼達の威嚇を止めた。紅牙は、
「忝(かたじけな)い。」
と言うと再び頭を下げて
「クレア様救出の為に我らがサハリア軍に協力してもらいたい。」
と頼んだ。紅牙の頼みを鼻で笑う白狼達。
「何を言う。人族と協力だと?」
「この場を見て分からないか?この圧倒的な差。お前達の協力なぞなくとも奴等など一蹴できるわ。」
「そもそもお前ら全員殺さ…」
種族の差を嘲(あざけ)る白狼達にガイアは、目をやると
「黙れ。紅牙、続けろ。」
と制した。長の命に口を紡ぐ白狼達。紅牙は、そんな白狼達をみると
「確かにお主達の言う通りだ。だが、奴等は、狡猾だ。水帝の砦でも爆弾を使い、多くの獣人達が死んだ。奴等を舐めてかかれば、また多くの死者が出る。俺はこれ以上、此の地を血で汚したくない。ましてや2度も尊き人の死を見るなど御免だ。」
と答えた。紅牙の言う尊き人に白狼達が各々目を閉じる。そんな中、ガイアが口を開く。
「詭弁だな。戦えば傷つき血が流れる。そして、その血が多ければ生物は死ぬ。それが戦いを選んだ者達の覚悟だ。奴等もお前らも、そして、我らもその覚悟をもって此の地に立っているのだ。血、無くしては戦いは終わらぬ。」
ガイアの言葉に紅牙も口を開く。
「詭弁…その通りだ。だが、詭弁であっても俺は、仲間の、お主達の血を見たくはない。…もう見たくはないのだ。クレア様の涙もガイア殿、お主の涙もな。」
紅牙の言葉にガイアは、大地を強く叩きつけると紅牙に氷の槍を突きつけた。
「その話は忘れろと言ったはずだ、紅牙。」
睨みつけるガイア。だが、紅牙は、突きつけられた槍を握ると怒るガイアをしっかりと見た。何も言わず目で語り合う1人と1匹。だが、紅牙の死を覚悟した眼差しに沈黙が折れる。
「フンッ、もういい。紅牙、お前の甘い考えを聞いてやる。言ってみろ。」
ガイアは、紅牙への威嚇をやめると紅牙の話に耳を傾けた。紅牙は目で感謝を述べると作戦を話し始めた。
「奴等は、中央都市の防衛軍をお主らと獣人族達を囮にして外に誘(おび)き出した。そして、戦力の薄くなった中央都市に入り込むと門を閉鎖し、本丸である領主様の命を狙いにいっている。クレア様は、領主様を落とす為の切り札として使うつもりなのだろう。」
「ならば、さっさと門を突破して奴等を八つ裂きにすればいいだろ。」
白狼の横槍にガイアが目をやる。
「先程も言ったが、確かにお主達が行けば容易く制圧ができるはずだ。だが、その圧倒的な力が逆にクレア様の命を危険に晒してしまう。奴等にとって交渉の余地のない相手に切り札は、無価値だからな。無価値な存在は、容赦なく切り捨てるか…白西の悲劇を繰り返すかだ。」
紅牙の言葉に白西の事件を思い出した白狼達がまた唸り始める。
「そんな悲劇を繰り返さない為にも先ずは、我らで攻勢をかける。東門は現在、交戦中のはずだ。そして、彼らの軍にもこれから西門へと向かってもらう。排除したはずの防衛軍が戻ってきたとなれば、奴等は、戦力を分散せざるを得なくなるはずだ。この状況に加え、既に日暮れ近く。日を跨いでの戦闘は、奴等にとって不利になる。そうなれば、直ぐにでも領主様の命を狙いにいくはずだ。そして、その時、奴等は、必ずクレア様を切り札として出してくる。手薄になり、足並みの乱れた軍ならチャンスはある。そこでクレア様を助け出す。クレア様を助け出したら、お主達の好きにしてもらって構わない。ただ願わくは、これ以上、此の地で平穏に暮らす民を傷つけてほしくはない。」
紅牙の説明にガイアは、何かを決断するかのように息を吐く。言葉はない。だが、紅牙は、その姿に軽く頷くと白狼達の後ろにいるであろう白炎に向かって
「白炎殿。今の話、聞こえていたはずだ。貴殿の心中は察する。だが、俺からの後生の頼みだ。動ける兵士を連れて西門に向かってくれ。それと…クレア様を頼む。」
と頼んだ。白炎からも返事はない。だが、紅牙は、何かを信じたように一歩ガイアに近づき、
「さあ、けじめだ。すきにしてくれ。」
と言って、目を閉じた。時が止まったように周囲が静まり返る。そんな中、ガイアは、身を委ねる紅牙の喉元に鼻を近づけるとゆっくりと大きな口を開いた。そして、誰もが固唾を飲む中、勢いよく口を閉じた。英雄の死を直視できない兵士達の耳に硬く乾いた音が聞こえる。白炎も例外ではない。だが、共に都市を守り、時に友として肩を並べた者の死に様を確認するべく目を開くとそこには、紅牙の失くした右腕を喰らうように口を閉じたガイアの姿があった。決死の覚悟を受け入れられなかった紅牙は、
「どういうつもりだ、ガイア。」
とガイアを問い詰める。紅牙の怒りにも似た視線にガイアは、
「腕一本は、今までの借りだ。だが、クレアの命がなき時は、その身体(いのち)、我が一族で全て喰ろうてやる。覚悟しろ。」
と言って、紅牙の横を通り過ぎた。ガイアを先頭に軍から離れていく白狼達。一方でその光景を見た兵士達は、九死に一生を得た紅牙の元へ駆け寄った。
遠方からの声にもガイアの攻撃は止まらず血の雨が降った。血だらけになった白炎の目に映ったのは、砕かれた斧と切り裂かれた鞍馬の姿だった。
「鞍馬ぁ!」
忠臣の死に白炎が叫ぶが鞍馬に反応はない。即死だった。だが、その人1人の死によってようやくガイアの攻撃が止まった。鞍馬の死に様に武器を落とし始める兵士達。もうガイアや白狼達に戦いを挑む者も道を阻む者もいなかった。だが、ガイア達は、先には進まず、そこに留(とど)まった。殺意をむけたまま構えるガイア。そんな中、誰もが怯える死の境地に紅牙と白狼達が現れた。紅牙は、馬から降りると周囲を見渡し、その惨状に対し、目を瞑(つむ)る。そして、ガイアを見るとゆっくりと近づいた。都市最強のギルド長の登場。だが、兵士達の士気は上がらない。寧ろ目を背ける。それは紅牙の姿がさながら白狼達に連れられた処刑者に見えたからだ。実際、紅牙は、ガイアの前に立つと他の白狼達に囲まれた。白炎を含め、誰もが紅牙に声をかける事などできず、神に祈るしかできない緊迫した状況。それに追い討ちをかけるようにガイアが口を開く。
「紅牙…クレアはどうした。」
言葉だけで人を押し潰してしまいそうな威圧に耐えながら紅牙は
「すまない、奴等に奪われた。」
と頭を下げた。紅牙の返答に周囲の白狼達は、唸りを上げる。
「覚悟はできているな。」
ガイアの言葉に白狼達がジリジリと紅牙に詰め寄る。死地を決めた紅牙は、
「…っ。覚悟はできている。だが、最期に頼みがある。」
と言って、ガイアを見た。ガイアは、返答はしなかったが、前足を軽く上げ、他の白狼達の威嚇を止めた。紅牙は、
「忝(かたじけな)い。」
と言うと再び頭を下げて
「クレア様救出の為に我らがサハリア軍に協力してもらいたい。」
と頼んだ。紅牙の頼みを鼻で笑う白狼達。
「何を言う。人族と協力だと?」
「この場を見て分からないか?この圧倒的な差。お前達の協力なぞなくとも奴等など一蹴できるわ。」
「そもそもお前ら全員殺さ…」
種族の差を嘲(あざけ)る白狼達にガイアは、目をやると
「黙れ。紅牙、続けろ。」
と制した。長の命に口を紡ぐ白狼達。紅牙は、そんな白狼達をみると
「確かにお主達の言う通りだ。だが、奴等は、狡猾だ。水帝の砦でも爆弾を使い、多くの獣人達が死んだ。奴等を舐めてかかれば、また多くの死者が出る。俺はこれ以上、此の地を血で汚したくない。ましてや2度も尊き人の死を見るなど御免だ。」
と答えた。紅牙の言う尊き人に白狼達が各々目を閉じる。そんな中、ガイアが口を開く。
「詭弁だな。戦えば傷つき血が流れる。そして、その血が多ければ生物は死ぬ。それが戦いを選んだ者達の覚悟だ。奴等もお前らも、そして、我らもその覚悟をもって此の地に立っているのだ。血、無くしては戦いは終わらぬ。」
ガイアの言葉に紅牙も口を開く。
「詭弁…その通りだ。だが、詭弁であっても俺は、仲間の、お主達の血を見たくはない。…もう見たくはないのだ。クレア様の涙もガイア殿、お主の涙もな。」
紅牙の言葉にガイアは、大地を強く叩きつけると紅牙に氷の槍を突きつけた。
「その話は忘れろと言ったはずだ、紅牙。」
睨みつけるガイア。だが、紅牙は、突きつけられた槍を握ると怒るガイアをしっかりと見た。何も言わず目で語り合う1人と1匹。だが、紅牙の死を覚悟した眼差しに沈黙が折れる。
「フンッ、もういい。紅牙、お前の甘い考えを聞いてやる。言ってみろ。」
ガイアは、紅牙への威嚇をやめると紅牙の話に耳を傾けた。紅牙は目で感謝を述べると作戦を話し始めた。
「奴等は、中央都市の防衛軍をお主らと獣人族達を囮にして外に誘(おび)き出した。そして、戦力の薄くなった中央都市に入り込むと門を閉鎖し、本丸である領主様の命を狙いにいっている。クレア様は、領主様を落とす為の切り札として使うつもりなのだろう。」
「ならば、さっさと門を突破して奴等を八つ裂きにすればいいだろ。」
白狼の横槍にガイアが目をやる。
「先程も言ったが、確かにお主達が行けば容易く制圧ができるはずだ。だが、その圧倒的な力が逆にクレア様の命を危険に晒してしまう。奴等にとって交渉の余地のない相手に切り札は、無価値だからな。無価値な存在は、容赦なく切り捨てるか…白西の悲劇を繰り返すかだ。」
紅牙の言葉に白西の事件を思い出した白狼達がまた唸り始める。
「そんな悲劇を繰り返さない為にも先ずは、我らで攻勢をかける。東門は現在、交戦中のはずだ。そして、彼らの軍にもこれから西門へと向かってもらう。排除したはずの防衛軍が戻ってきたとなれば、奴等は、戦力を分散せざるを得なくなるはずだ。この状況に加え、既に日暮れ近く。日を跨いでの戦闘は、奴等にとって不利になる。そうなれば、直ぐにでも領主様の命を狙いにいくはずだ。そして、その時、奴等は、必ずクレア様を切り札として出してくる。手薄になり、足並みの乱れた軍ならチャンスはある。そこでクレア様を助け出す。クレア様を助け出したら、お主達の好きにしてもらって構わない。ただ願わくは、これ以上、此の地で平穏に暮らす民を傷つけてほしくはない。」
紅牙の説明にガイアは、何かを決断するかのように息を吐く。言葉はない。だが、紅牙は、その姿に軽く頷くと白狼達の後ろにいるであろう白炎に向かって
「白炎殿。今の話、聞こえていたはずだ。貴殿の心中は察する。だが、俺からの後生の頼みだ。動ける兵士を連れて西門に向かってくれ。それと…クレア様を頼む。」
と頼んだ。白炎からも返事はない。だが、紅牙は、何かを信じたように一歩ガイアに近づき、
「さあ、けじめだ。すきにしてくれ。」
と言って、目を閉じた。時が止まったように周囲が静まり返る。そんな中、ガイアは、身を委ねる紅牙の喉元に鼻を近づけるとゆっくりと大きな口を開いた。そして、誰もが固唾を飲む中、勢いよく口を閉じた。英雄の死を直視できない兵士達の耳に硬く乾いた音が聞こえる。白炎も例外ではない。だが、共に都市を守り、時に友として肩を並べた者の死に様を確認するべく目を開くとそこには、紅牙の失くした右腕を喰らうように口を閉じたガイアの姿があった。決死の覚悟を受け入れられなかった紅牙は、
「どういうつもりだ、ガイア。」
とガイアを問い詰める。紅牙の怒りにも似た視線にガイアは、
「腕一本は、今までの借りだ。だが、クレアの命がなき時は、その身体(いのち)、我が一族で全て喰ろうてやる。覚悟しろ。」
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