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「永遠様、あれを」
撫子の指差す方向を見ると黒煙に混じって、赤色の煙が立ち昇っていた。
「あれは、私が桜に預けた物です。きっとあそこに桜達がいるはずです。ただ、他の煙が気になります。あの煙は、おそらく。」
撫子の言葉が、紅南の里の爆発を連想させる。オレは、並走する紅牙に
「紅牙さん、あそこには何が?」
と尋ねると紅牙は、険しい顔で
「あそこには、水帝の砦がある。気になるのは、煙の昇っている場所だ。あそこは、砦の外側。先日の戦いとは、別の場所だ。今や戦力のないあそこで戦いが起こる事は考えにくいが、何かが起こっているのは、間違いない。急いだ方が良いだろう。」
と答えた。そして、一緒に乗っていた朱李に
「朱李。永遠君は、馬に不慣れの様だ。お前は、永遠君の馬に移って、補助をしてやりなさい。」
と言うと馬から下ろした。身軽になった紅牙は、
「俺達は、先に行く。永遠君は、朱李と一緒に来てくれ。」
と言って、白狼達と共に急いで砦へと向かった。一刻を争う状況で紅牙の判断は正しい。オレは、朱李に乗ってもらうと
「撫子も先に行ってくれ。桜達の事を頼む。」
と言った。撫子は、一瞬、顔を膨らませた様に見えたが、
「分かりました。朱李、永遠様を頼みます。」
と言って、馬を走らせた。遠ざかる撫子の姿に朱李は、ため息をつくと
「永遠様。こんな時で何ですけど、この戦いが終わったら、撫子さんと桜さんに優しくしてあげた方がいいですよ。」
と言った。朱李の唐突な進言にオレが頷き、
「分かった。」
と返すと、朱李は、再び息を吐いて
「はぁ…私達も急ぎますね。」
と言って、馬を走らせた。
同刻 水帝の砦
「ゔぁぁ……」
悲壮な叫びをあげて倒れる獣人。周囲には、まだ数匹の獣人が武器を構えている。撫子への目印の為に焚いた煙だったが、その煙に気づいた獣人達が砦に戻り、桜を襲っていたのだ。1人、また1人と増える獣人。桜は、獣人達と距離を取りつつ、魔法で攻撃していた。
「はぁ…はぁ…はぁ…。雑魚のくせにぞろぞろと」
息を切らしながら、桜が呟く。体力が尽きそうな上に増え続ける獣人達に桜の苛立ちが募っていく。一馬は、増える獣人達の姿に暴行された事を思い出し、動かない足を引き摺ってナメクジの様に逃げようとしていたが、桜には、それを止める余裕すらなかった。そんな桜に対し、鹿人族が突進し、その勢いのまま大きな木槌(きづち)を振り下ろす。桜は、寸前のところでそれを躱すが、木槌によって弾かれた石が足に当たり、体勢を崩した。倒れ込んだ桜に鹿人族は、ゆっくりと詰め寄ると
「仲間の無念を思い知れ!」
と叫びながら再び木槌を振り上げた。避けられないと察した桜は、残りの力を振り絞り、風の刃を飛ばしたが、鹿人族は、それを物ともせずに木槌を振り下ろした。絶体絶命の危機に桜が腕で顔を覆った瞬間
(ぼふっ)
・・・。
「…ぐぅあぁぁぁ…」
悲痛な叫びと共に鹿人族の頭部が燃えた。
(ぼふっ…ぼふっ、ぼふっ)
次々と刺さる火の矢に火達磨になった鹿人族は、その場でのたうち回ると糸が切れた様に生き絶えた。仲間の無惨な死にその場にいた獣人達は、逃げ出そうとしたが、白狼達が全て噛み殺していく。白狼達の姿に砦から戻ってきた獣人達は、慌てて逃げ戻る。突然現れた白狼達。だが、獣族が人獣である自分を助けるわけがない。新たな命の危機に桜は、下腹部を抑え、息を荒くする。次第に過呼吸になる桜。霞む目に燃え続ける鹿人族が映る。その後方からは、白狼達が近づいてくる。桜は、何とかその場を離れようとするが、絶望が体を縛りつける。
「……!…ら!」
遠くから微かに聞こえる見覚えのある声に桜の耳が反応するが、聞き取れない。白狼達に囲まれ、
「ごめん…なぁちゃん…とわ…ちゃん。」
と桜が呟く。静かに心と目を閉ざす桜。そんな桜を温かい腕が抱き起こす。
「さくら!…桜。しっかりしなさい。」
はっきりと聞こえた撫子の声に桜は、目に光を取り戻すと何も言わず、撫子を抱きしめた。撫子の胸で声の無い訴えを続ける桜を撫子は、優しく受け止める。そして、桜の耳元で
「桜。無事で良かった。…本当に良かった。」
と声をかけた。撫子の言葉にようやく落ち着いたのか桜が撫子の胸から顔を出す。だが、霞む目で見た獣族の姿。それを受け入れられない桜は、恐る恐る周囲を確認する。するとそこには、犬座りで自分達を見守る白狼達の姿があった。消えてなかった絶望に再び撫子へと目を背ける桜に対し、撫子は、安心させるように
「大丈夫よ、桜。この方達は、蓮華の家族。私達を襲ったりはしないわ。」
と話した。撫子の言葉に桜がそっと白狼達を見ると1匹の白狼が立ち上がり、桜を嗅ぎに来た。桜の匂いを嗅いだ白狼は、
「うむ。微かだが、この雌からも我ら白狼族特有の匂いがする。クレアと同行していたのは、間違いないようだ。で、人孤の雌よ。クレアは何処だ。」
と聞いてきた。桜は、撫子の言葉を信じつつも怯えながら首を振り、
「分からないです。あの男なら何か知っているかもしれませんが…」
と言って、紅牙が介抱する一馬を指差した。白狼達は、その言葉を聞くと
「そうか。」
と一言残し、紅牙達の元に向かって行った。丁度時を同じくしてオレと朱李が到着する。オレは、馬から降りると直ぐに撫子と桜の元へと駆け寄った。大きな怪我は無いものの撫子に担がれ、憔悴した桜に
「大丈夫か、桜。」
と声をかけると桜は、頷き、オレに抱きついた。言葉はない。だが、弱々しくも決して離さない桜の姿が先程の頷きの嘘を物語っていた。オレは、桜を抱きしめると無事に再会できた事に安堵した。
撫子の指差す方向を見ると黒煙に混じって、赤色の煙が立ち昇っていた。
「あれは、私が桜に預けた物です。きっとあそこに桜達がいるはずです。ただ、他の煙が気になります。あの煙は、おそらく。」
撫子の言葉が、紅南の里の爆発を連想させる。オレは、並走する紅牙に
「紅牙さん、あそこには何が?」
と尋ねると紅牙は、険しい顔で
「あそこには、水帝の砦がある。気になるのは、煙の昇っている場所だ。あそこは、砦の外側。先日の戦いとは、別の場所だ。今や戦力のないあそこで戦いが起こる事は考えにくいが、何かが起こっているのは、間違いない。急いだ方が良いだろう。」
と答えた。そして、一緒に乗っていた朱李に
「朱李。永遠君は、馬に不慣れの様だ。お前は、永遠君の馬に移って、補助をしてやりなさい。」
と言うと馬から下ろした。身軽になった紅牙は、
「俺達は、先に行く。永遠君は、朱李と一緒に来てくれ。」
と言って、白狼達と共に急いで砦へと向かった。一刻を争う状況で紅牙の判断は正しい。オレは、朱李に乗ってもらうと
「撫子も先に行ってくれ。桜達の事を頼む。」
と言った。撫子は、一瞬、顔を膨らませた様に見えたが、
「分かりました。朱李、永遠様を頼みます。」
と言って、馬を走らせた。遠ざかる撫子の姿に朱李は、ため息をつくと
「永遠様。こんな時で何ですけど、この戦いが終わったら、撫子さんと桜さんに優しくしてあげた方がいいですよ。」
と言った。朱李の唐突な進言にオレが頷き、
「分かった。」
と返すと、朱李は、再び息を吐いて
「はぁ…私達も急ぎますね。」
と言って、馬を走らせた。
同刻 水帝の砦
「ゔぁぁ……」
悲壮な叫びをあげて倒れる獣人。周囲には、まだ数匹の獣人が武器を構えている。撫子への目印の為に焚いた煙だったが、その煙に気づいた獣人達が砦に戻り、桜を襲っていたのだ。1人、また1人と増える獣人。桜は、獣人達と距離を取りつつ、魔法で攻撃していた。
「はぁ…はぁ…はぁ…。雑魚のくせにぞろぞろと」
息を切らしながら、桜が呟く。体力が尽きそうな上に増え続ける獣人達に桜の苛立ちが募っていく。一馬は、増える獣人達の姿に暴行された事を思い出し、動かない足を引き摺ってナメクジの様に逃げようとしていたが、桜には、それを止める余裕すらなかった。そんな桜に対し、鹿人族が突進し、その勢いのまま大きな木槌(きづち)を振り下ろす。桜は、寸前のところでそれを躱すが、木槌によって弾かれた石が足に当たり、体勢を崩した。倒れ込んだ桜に鹿人族は、ゆっくりと詰め寄ると
「仲間の無念を思い知れ!」
と叫びながら再び木槌を振り上げた。避けられないと察した桜は、残りの力を振り絞り、風の刃を飛ばしたが、鹿人族は、それを物ともせずに木槌を振り下ろした。絶体絶命の危機に桜が腕で顔を覆った瞬間
(ぼふっ)
・・・。
「…ぐぅあぁぁぁ…」
悲痛な叫びと共に鹿人族の頭部が燃えた。
(ぼふっ…ぼふっ、ぼふっ)
次々と刺さる火の矢に火達磨になった鹿人族は、その場でのたうち回ると糸が切れた様に生き絶えた。仲間の無惨な死にその場にいた獣人達は、逃げ出そうとしたが、白狼達が全て噛み殺していく。白狼達の姿に砦から戻ってきた獣人達は、慌てて逃げ戻る。突然現れた白狼達。だが、獣族が人獣である自分を助けるわけがない。新たな命の危機に桜は、下腹部を抑え、息を荒くする。次第に過呼吸になる桜。霞む目に燃え続ける鹿人族が映る。その後方からは、白狼達が近づいてくる。桜は、何とかその場を離れようとするが、絶望が体を縛りつける。
「……!…ら!」
遠くから微かに聞こえる見覚えのある声に桜の耳が反応するが、聞き取れない。白狼達に囲まれ、
「ごめん…なぁちゃん…とわ…ちゃん。」
と桜が呟く。静かに心と目を閉ざす桜。そんな桜を温かい腕が抱き起こす。
「さくら!…桜。しっかりしなさい。」
はっきりと聞こえた撫子の声に桜は、目に光を取り戻すと何も言わず、撫子を抱きしめた。撫子の胸で声の無い訴えを続ける桜を撫子は、優しく受け止める。そして、桜の耳元で
「桜。無事で良かった。…本当に良かった。」
と声をかけた。撫子の言葉にようやく落ち着いたのか桜が撫子の胸から顔を出す。だが、霞む目で見た獣族の姿。それを受け入れられない桜は、恐る恐る周囲を確認する。するとそこには、犬座りで自分達を見守る白狼達の姿があった。消えてなかった絶望に再び撫子へと目を背ける桜に対し、撫子は、安心させるように
「大丈夫よ、桜。この方達は、蓮華の家族。私達を襲ったりはしないわ。」
と話した。撫子の言葉に桜がそっと白狼達を見ると1匹の白狼が立ち上がり、桜を嗅ぎに来た。桜の匂いを嗅いだ白狼は、
「うむ。微かだが、この雌からも我ら白狼族特有の匂いがする。クレアと同行していたのは、間違いないようだ。で、人孤の雌よ。クレアは何処だ。」
と聞いてきた。桜は、撫子の言葉を信じつつも怯えながら首を振り、
「分からないです。あの男なら何か知っているかもしれませんが…」
と言って、紅牙が介抱する一馬を指差した。白狼達は、その言葉を聞くと
「そうか。」
と一言残し、紅牙達の元に向かって行った。丁度時を同じくしてオレと朱李が到着する。オレは、馬から降りると直ぐに撫子と桜の元へと駆け寄った。大きな怪我は無いものの撫子に担がれ、憔悴した桜に
「大丈夫か、桜。」
と声をかけると桜は、頷き、オレに抱きついた。言葉はない。だが、弱々しくも決して離さない桜の姿が先程の頷きの嘘を物語っていた。オレは、桜を抱きしめると無事に再会できた事に安堵した。
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