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裏切りの予兆
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意識が戻って間もない紅牙から語られた話は、悲惨なものだった。爆発までの真相を聞いた真奈美は、涙を堪(こら)える事ができなかった。朱李も涙を流している。爆発により紅牙は、生死の境を彷徨ったが、それでも即死を免(まぬが)れたのは、爆発の瞬間に麗奈が逃げるように伝えたからだろう。自分は、確実に死ぬ。更に精神的にボロボロにされた状態で相手の命を守ろうなんて決して簡単にできる事ではない。そんな行動ができた麗奈は、よほど紅牙や里を大切にしていたのだろう。麗奈は、ただの裏切り者だったのか、騙され、操られていたのか、その真実は、紅南の里に起きた悲劇によって明らかになったように思える。だが、もう麗奈は救えない。彼女は、胴体を引き裂かれ、部屋の片隅に放置される肉塊になってしまったのだから。紅牙は、語り終えると俯(うつむ)きながら一息ついた。紅牙にとっても辛い話だったのだろう。だが、俺には、腑に落ちない事があった。
「紅牙さん、一つ教えて欲しい。何故、こんな状況にも関わらずクレアさんをこの地に呼んだですか?この状況なら人孤の里で匿っていた方が安全だったはずです。」
病人の心を挫く様で気が引けるが、蓮華はオレ達の家族同然。その命が脅かされる状況に聞かずにはいれなかった。
「それは、紅牙様も四門会議が開かれるまで知らなかったんです。当然、依頼を出した時は、、、」
紅牙を庇う様に真奈美が口を出すが、紅牙は、真奈美を制すると
「真奈美さん。彼の言っている事は正しい。それに兆候はあったんだ。次期領主候補であるカイト様の事故。イヴァイルの投獄されていた監獄の看守の不審死。麗奈が領主様の屋敷に行く時に一馬君や拓朗君を此処に預けて行った事も今思えば、違和感があった。それに気付けなかった俺の落ち度だ。不知火殿にも君にも申し訳ないと思っている。」
と答えた。潔い謝罪。そして、
「こんな姿で何を言っているのかと思われるかもしれないが、これからクレア様は、俺達が命を賭けて守り抜くと誓おう。」
と頭を下げた。紅牙のオレを見る目は、信じるに値する眼差しだった。
『一馬の件があって、クレアを預ける事に対し、不安があったが、紅牙なら任せられそうだ。そう言えば、一馬は、どうなったのだろう?』
突然、湧き上がった疑問と同時に不安が過(よ)ぎる。
「分かりました。クレアさんは、紅牙さんにお任せします。ところで一馬さんは、何処にいますか?」
オレの質問に紅牙は、
「ありがとう。」
と礼を言うと、質問の答えを確認する様に真奈美を見た。真奈美は、首を振り答える。紅牙は、
「君は、一馬君を知っているのか?一馬君は、弟の拓朗君が暗殺忍具を持って里を出たと聞いて、直ぐに朱李お前達を追ったんだ。それから戻ってきていない。俺達もお前達や一馬君を探そうとしたんだが、あの状況下では、数名の捜索隊を編成するのがやっとで、今に至ってしまった。」
と答えた。
『戻っていない?』
オレの脳裏に悪い予感と同時に撫子達の顔が過(よぎ)り、オレは、席を立った。オレの血相が変わった事に紅牙が
「急にどうしたんだ。一馬君に何かあったのか?」
と尋ねた。オレは、紅牙に
「一馬は、クレアの事を知っているのか?」
と確認すると紅牙は、依頼書について知っている者について話した。
「いや、知らないはずだ。知っているのは、領主様と領主様の奥様、それと四門会議の出席者、里長とその側近だけだ。朱李達は、会議で、聞いてしまったが……おい、まさか。」
オレは、紅牙の話が終わる前に部屋を飛び出した。大凡(おおよそ)の事を理解したのか、紅牙もベットから降りようとしたが、真奈美に止められた。同時に朱李から真実を告げられる。
「お父さん。永遠様は、精霊の森で一馬さんに会ったの。私は、気絶をしていて、その詳しい事は分からないけど、一馬さんは、依頼書の事を知っていたって。それにお父さんの命で来たと言っていたらしいの。」
朱李の言葉に紅牙も最悪のシナリオが頭を過った。紅牙が動かない体を無理矢理起こし、真奈美の静止を振り切ろうとした時、部屋の扉が勢いよく開き、1人の兵士が入ってきた。
「シコタ様!ま、魔法を使う人獣が永遠という人間を出せと攻めてきました。」
兵士の言葉に朱李が
「その人獣は、人孤ではなかった?」
と尋ねると兵士は、
「は、はい。尾の大きい人孤です。」
と答えた。朱李は、紅牙の腕を掴むと
「お父さん。その人孤は、永遠様の仲間です。早く止めないと。それにクレア様は、その方達と一緒にいたはずです。永遠様が戻る前に来たという事は、何かあったんです。」
と訴えた。紅牙は、朱李の言葉を聞くと
「そうか、最悪の事態が起こっているようだ。こうしてはいられない。」
と言って、兵士に
「人孤が現れたのは、南門だな?」
と聞き、兵士が
「はい。」
と答えると真奈美に
「真奈美さん、悪いが直ぐにその人孤の所へ向かってくれ。おそらく永遠君もそこに向かったはずだ。俺も後を追う。」
と頼んだ。真奈美は、紅牙を兵士と朱李に頼むと部屋を出て行った。
「紅牙さん、一つ教えて欲しい。何故、こんな状況にも関わらずクレアさんをこの地に呼んだですか?この状況なら人孤の里で匿っていた方が安全だったはずです。」
病人の心を挫く様で気が引けるが、蓮華はオレ達の家族同然。その命が脅かされる状況に聞かずにはいれなかった。
「それは、紅牙様も四門会議が開かれるまで知らなかったんです。当然、依頼を出した時は、、、」
紅牙を庇う様に真奈美が口を出すが、紅牙は、真奈美を制すると
「真奈美さん。彼の言っている事は正しい。それに兆候はあったんだ。次期領主候補であるカイト様の事故。イヴァイルの投獄されていた監獄の看守の不審死。麗奈が領主様の屋敷に行く時に一馬君や拓朗君を此処に預けて行った事も今思えば、違和感があった。それに気付けなかった俺の落ち度だ。不知火殿にも君にも申し訳ないと思っている。」
と答えた。潔い謝罪。そして、
「こんな姿で何を言っているのかと思われるかもしれないが、これからクレア様は、俺達が命を賭けて守り抜くと誓おう。」
と頭を下げた。紅牙のオレを見る目は、信じるに値する眼差しだった。
『一馬の件があって、クレアを預ける事に対し、不安があったが、紅牙なら任せられそうだ。そう言えば、一馬は、どうなったのだろう?』
突然、湧き上がった疑問と同時に不安が過(よ)ぎる。
「分かりました。クレアさんは、紅牙さんにお任せします。ところで一馬さんは、何処にいますか?」
オレの質問に紅牙は、
「ありがとう。」
と礼を言うと、質問の答えを確認する様に真奈美を見た。真奈美は、首を振り答える。紅牙は、
「君は、一馬君を知っているのか?一馬君は、弟の拓朗君が暗殺忍具を持って里を出たと聞いて、直ぐに朱李お前達を追ったんだ。それから戻ってきていない。俺達もお前達や一馬君を探そうとしたんだが、あの状況下では、数名の捜索隊を編成するのがやっとで、今に至ってしまった。」
と答えた。
『戻っていない?』
オレの脳裏に悪い予感と同時に撫子達の顔が過(よぎ)り、オレは、席を立った。オレの血相が変わった事に紅牙が
「急にどうしたんだ。一馬君に何かあったのか?」
と尋ねた。オレは、紅牙に
「一馬は、クレアの事を知っているのか?」
と確認すると紅牙は、依頼書について知っている者について話した。
「いや、知らないはずだ。知っているのは、領主様と領主様の奥様、それと四門会議の出席者、里長とその側近だけだ。朱李達は、会議で、聞いてしまったが……おい、まさか。」
オレは、紅牙の話が終わる前に部屋を飛び出した。大凡(おおよそ)の事を理解したのか、紅牙もベットから降りようとしたが、真奈美に止められた。同時に朱李から真実を告げられる。
「お父さん。永遠様は、精霊の森で一馬さんに会ったの。私は、気絶をしていて、その詳しい事は分からないけど、一馬さんは、依頼書の事を知っていたって。それにお父さんの命で来たと言っていたらしいの。」
朱李の言葉に紅牙も最悪のシナリオが頭を過った。紅牙が動かない体を無理矢理起こし、真奈美の静止を振り切ろうとした時、部屋の扉が勢いよく開き、1人の兵士が入ってきた。
「シコタ様!ま、魔法を使う人獣が永遠という人間を出せと攻めてきました。」
兵士の言葉に朱李が
「その人獣は、人孤ではなかった?」
と尋ねると兵士は、
「は、はい。尾の大きい人孤です。」
と答えた。朱李は、紅牙の腕を掴むと
「お父さん。その人孤は、永遠様の仲間です。早く止めないと。それにクレア様は、その方達と一緒にいたはずです。永遠様が戻る前に来たという事は、何かあったんです。」
と訴えた。紅牙は、朱李の言葉を聞くと
「そうか、最悪の事態が起こっているようだ。こうしてはいられない。」
と言って、兵士に
「人孤が現れたのは、南門だな?」
と聞き、兵士が
「はい。」
と答えると真奈美に
「真奈美さん、悪いが直ぐにその人孤の所へ向かってくれ。おそらく永遠君もそこに向かったはずだ。俺も後を追う。」
と頼んだ。真奈美は、紅牙を兵士と朱李に頼むと部屋を出て行った。
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