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イヴァイルの襲撃
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イヴァイル達と獣人族達の繋がりに何か納得した様子の真奈美は、話を続けた。
「獣人族達の襲撃は、先日まで続きました。複数の獣人族達が次々と砦に押し寄せてくる状況に厳しい戦いになる事は明らかでした。ですが、都市中央の防衛を優先した結果、その対処は、紅牙様をはじめとする私達紅南の里と蒼馬様達蒼東の里の少数精鋭で行う事になりました。」
『どんな獣人達が襲ってきたかは知らないが、2日間も続く襲撃。いくら近隣の砦とはいえ、2里だけで対応するのは、負担が大きい。シコタは、言葉にしないが、今回の責任を取らされたのだろう。』
「激しい戦いの末、何とか都市中央への突破は防ぎましたが、蒼馬様は戦死され、他にも多くの仲間達が死にました。生き残った仲間達も満身創痍で、傷を癒やすために何とか里に戻ってきましたが、そんな時にイヴァイル達がやって来たんです。…奴ら…イヴァイル達は、里の入り口に陣取ると私達の仲間2人と大きな麻袋を見せて、、、」
急に真奈美が言葉を詰まらせた。オレが
「大丈夫ですか?」
と気遣うと真奈美は、
「えぇ、すみません。」
と返したが、その目は、心なしか潤んでいた。
「イヴァイル達の数は、20人程度。捕虜がいるとはいえ、この戦いの首謀者を殺る絶好の機会でした。ですが、獣人達との戦いで疲弊し切った私達の中で、まともに戦えるのは、数人しかいませんでした。膠着状態が続く中、紅牙様がイヴァイル達の前に立ちはだかるとイヴァイルは、紅牙様と何やら話して、そして、捕虜を使って大きな麻袋を紅牙様の元に運ばせました。………」
再び言葉を詰まらせる真奈美。明らかに顔色が悪くなっている。声のかけ難い沈黙が空気を重くしていく。
「……。麻袋の…中身は…麗奈だった。」
その沈黙を切り裂いたのは、意識を取り戻した紅牙だった。
「お父さん。」
そう言って抱きつく朱李の頭を紅牙がまだ覚束(おぼつか)ない手で優しく撫でる。そして、
「紅牙様。…良かった。」
と涙を流す真奈美に対し、
「すまない…真奈美さん。…迷惑をかけた。」
と声をかけた。意識が戻ったとはいえ、体を動かすのもやっとの紅牙は、オレを見ると
「…薄らだが…覚えている。どうやら俺は…君に助けられた様だ…ありがとう。」
と頭を下げた。オレは、それに応えるように頭を下げる。周りへの認識。たしかに紅牙の意識は、戻ったようだが、言葉も体も思うように動かせていない。何とか息を整えている紅牙に真奈美が水を飲ませる。一息ついた紅牙は、オレを近くに呼ぶと
「君は…不知火殿の遣い…だったか?クレア様は…?」
と聞いてきた。紅牙の問いに答えたのは、オレではなく、真奈美だった。
「クレア様は、近くの丘に待機されてるそうです。今、ヤマモトとカトウが迎えに向かっています。」
真奈美の言葉に一安心した紅牙は、
「そうか…クレア様は…無事か。不知火殿の遣いよ…感謝する。」
と言って、改めて頭を下げた。そして、
「先の話…この者には…酷な話だ。後は…俺が言おう」
と言って、真奈美を庇うように惨劇の続きを語り始めた。
紅南の里の爆発10分前
紅南の里の入り口付近にイヴァイル軍20数名が陣取る。イヴァイルの近くには傷ついた紅南の兵士2名。そして、体を麻袋に入れられ、目隠しと猿轡をされた女性が横たわっていた。対する紅南の里は、紅牙と数名の兵士。膠着状態のまま数分が経った。好機を逃さまいとイヴァイルの動きを慎重に窺う紅牙。するとイヴァイルの乗った馬が前に出た。
「どうした?紅牙。わざわざ俺様が自ら出向いてやったのに、そこで見ているだけか?」
イヴァイルの挑発に紅牙の後ろに控えていた兵士が武器を構えるが、紅牙が止める。
「安い挑発だな。お前こそ何をしに来た。此処で決着をつけたいなら、かかって来い。」
紅牙の言葉にイヴァイルは、不適な笑みを見せると部下に指示して、捕虜になった2人の兵士の縄を解いた。そして、
「なに、俺様の為に戦ってくれたお前達に褒美をくれてやろうと思ってな。」
と言い放った。その言葉に紅牙は、イヴァイルを睨みつけると
「お前の為だと?」
と語気を強めて返した。紅牙の怒りを気にもしないイヴァイルは、
「ああ、そうだ。もう直ぐこの領地は、俺様のものになるからな。獣人共に荒らされては、後々困るんだよ。お前達のおかげでその被害は、最小限で済んだ。ほら、褒美だ。受け取れ。」
と言って、捕虜の兵士達に麻袋に入った女性を持たせ、紅牙の元に運ばせた。イヴァイルの不可解な行動。罠と感じていても下手に動けない。兵士達の後ろでは、イヴァイルの部下達が弓矢で狙っていたからだ。無事、兵士達が麻袋を運び終える。紅牙の後ろでは、仲間の帰還を喜ぶ一方で紅牙は、殺意に満ち溢れていた。目隠しに猿轡。顔は浮腫み、髪は乱れている。麻袋からは、異臭が漏れている。ゴミの様な扱いをされた女性。だが、紅牙には、すぐ分かった。その麻袋に入っている女性が麗奈であると。紅牙は、麗奈の顔を抱きしめると怒りのままに
「イヴァイル、貴様ぁぁ!!」
と叫んだ。だが、イヴァイルは、その光景をニヤニヤしながら見ると
「何だ、紅牙。気に入らなかったのか?俺様は、お前のお気に入りと聞いていたんだがな。最後の最後で裏切った女だ。使えん駒は…いや、そうだった。最後は、奴等の慰み物として使ったんだ。ふっふっ、悪い悪い。獣臭くて堪らなくてな。その袋に入れたんだった。」
と言って、部下達と一緒に大笑いした。だが、その瞬間
(ビュンッ)
風を切るような音と共にイヴァイルの後ろにいた兵士が馬から落ちた。落ちた兵士の顔は、矢で打ち抜かれ、その先端には、イヴァイルの耳がついていた。
「うぎゃぁぁ。」
笑いは、一瞬にして悲鳴に変わった。それに驚いて馬が暴れ出す。馬から落ちたイヴァイルは、血が流れ出る耳を手で抑えながら
「紅牙ぁぁ!!許さん、許さんぞ。貴様ぁぁ!殺してやる。」
と叫び散らした。だが、紅牙は、イヴァイルに向けて2射目を放つと
「それは、こっちの台詞だ。殺してやるから、そこで待ってろ。」
と言って、殺意を向けた。その殺意に怯むイヴァイルに部下が声をかける。イヴァイルは、唇を噛みながらも馬に乗り直し、
「覚えていろ、紅牙。この借りは、いずれ返してやる。…まあ、また会うことがあればだがな。」
と恨み節を吐くと東の平野へと走り去った。イヴァイル達が去り、紅牙は、再び麗奈の元に駆け寄った。よく見ると麗奈の耳には耳栓もされている。五感を奪われ、生気のない屍のように横たわる麗奈。紅牙は、そんな麗奈の目隠しを取った。どれだけの涙を吸ったのか目隠しは、触るだけで分かる程に濡れていた。突然の光と共に紅牙を目の当たりにした麗奈は、何かを訴えるように激しく首を振った。更に猿轡からは、噛み締めた唇から血が流れ出る。麗奈の異常な反応に紅牙が猿轡を取ると麗奈は、
「逃げて!!!」
と叫んだ。その瞬間、麗奈の入っていた麻袋が爆発した。
「獣人族達の襲撃は、先日まで続きました。複数の獣人族達が次々と砦に押し寄せてくる状況に厳しい戦いになる事は明らかでした。ですが、都市中央の防衛を優先した結果、その対処は、紅牙様をはじめとする私達紅南の里と蒼馬様達蒼東の里の少数精鋭で行う事になりました。」
『どんな獣人達が襲ってきたかは知らないが、2日間も続く襲撃。いくら近隣の砦とはいえ、2里だけで対応するのは、負担が大きい。シコタは、言葉にしないが、今回の責任を取らされたのだろう。』
「激しい戦いの末、何とか都市中央への突破は防ぎましたが、蒼馬様は戦死され、他にも多くの仲間達が死にました。生き残った仲間達も満身創痍で、傷を癒やすために何とか里に戻ってきましたが、そんな時にイヴァイル達がやって来たんです。…奴ら…イヴァイル達は、里の入り口に陣取ると私達の仲間2人と大きな麻袋を見せて、、、」
急に真奈美が言葉を詰まらせた。オレが
「大丈夫ですか?」
と気遣うと真奈美は、
「えぇ、すみません。」
と返したが、その目は、心なしか潤んでいた。
「イヴァイル達の数は、20人程度。捕虜がいるとはいえ、この戦いの首謀者を殺る絶好の機会でした。ですが、獣人達との戦いで疲弊し切った私達の中で、まともに戦えるのは、数人しかいませんでした。膠着状態が続く中、紅牙様がイヴァイル達の前に立ちはだかるとイヴァイルは、紅牙様と何やら話して、そして、捕虜を使って大きな麻袋を紅牙様の元に運ばせました。………」
再び言葉を詰まらせる真奈美。明らかに顔色が悪くなっている。声のかけ難い沈黙が空気を重くしていく。
「……。麻袋の…中身は…麗奈だった。」
その沈黙を切り裂いたのは、意識を取り戻した紅牙だった。
「お父さん。」
そう言って抱きつく朱李の頭を紅牙がまだ覚束(おぼつか)ない手で優しく撫でる。そして、
「紅牙様。…良かった。」
と涙を流す真奈美に対し、
「すまない…真奈美さん。…迷惑をかけた。」
と声をかけた。意識が戻ったとはいえ、体を動かすのもやっとの紅牙は、オレを見ると
「…薄らだが…覚えている。どうやら俺は…君に助けられた様だ…ありがとう。」
と頭を下げた。オレは、それに応えるように頭を下げる。周りへの認識。たしかに紅牙の意識は、戻ったようだが、言葉も体も思うように動かせていない。何とか息を整えている紅牙に真奈美が水を飲ませる。一息ついた紅牙は、オレを近くに呼ぶと
「君は…不知火殿の遣い…だったか?クレア様は…?」
と聞いてきた。紅牙の問いに答えたのは、オレではなく、真奈美だった。
「クレア様は、近くの丘に待機されてるそうです。今、ヤマモトとカトウが迎えに向かっています。」
真奈美の言葉に一安心した紅牙は、
「そうか…クレア様は…無事か。不知火殿の遣いよ…感謝する。」
と言って、改めて頭を下げた。そして、
「先の話…この者には…酷な話だ。後は…俺が言おう」
と言って、真奈美を庇うように惨劇の続きを語り始めた。
紅南の里の爆発10分前
紅南の里の入り口付近にイヴァイル軍20数名が陣取る。イヴァイルの近くには傷ついた紅南の兵士2名。そして、体を麻袋に入れられ、目隠しと猿轡をされた女性が横たわっていた。対する紅南の里は、紅牙と数名の兵士。膠着状態のまま数分が経った。好機を逃さまいとイヴァイルの動きを慎重に窺う紅牙。するとイヴァイルの乗った馬が前に出た。
「どうした?紅牙。わざわざ俺様が自ら出向いてやったのに、そこで見ているだけか?」
イヴァイルの挑発に紅牙の後ろに控えていた兵士が武器を構えるが、紅牙が止める。
「安い挑発だな。お前こそ何をしに来た。此処で決着をつけたいなら、かかって来い。」
紅牙の言葉にイヴァイルは、不適な笑みを見せると部下に指示して、捕虜になった2人の兵士の縄を解いた。そして、
「なに、俺様の為に戦ってくれたお前達に褒美をくれてやろうと思ってな。」
と言い放った。その言葉に紅牙は、イヴァイルを睨みつけると
「お前の為だと?」
と語気を強めて返した。紅牙の怒りを気にもしないイヴァイルは、
「ああ、そうだ。もう直ぐこの領地は、俺様のものになるからな。獣人共に荒らされては、後々困るんだよ。お前達のおかげでその被害は、最小限で済んだ。ほら、褒美だ。受け取れ。」
と言って、捕虜の兵士達に麻袋に入った女性を持たせ、紅牙の元に運ばせた。イヴァイルの不可解な行動。罠と感じていても下手に動けない。兵士達の後ろでは、イヴァイルの部下達が弓矢で狙っていたからだ。無事、兵士達が麻袋を運び終える。紅牙の後ろでは、仲間の帰還を喜ぶ一方で紅牙は、殺意に満ち溢れていた。目隠しに猿轡。顔は浮腫み、髪は乱れている。麻袋からは、異臭が漏れている。ゴミの様な扱いをされた女性。だが、紅牙には、すぐ分かった。その麻袋に入っている女性が麗奈であると。紅牙は、麗奈の顔を抱きしめると怒りのままに
「イヴァイル、貴様ぁぁ!!」
と叫んだ。だが、イヴァイルは、その光景をニヤニヤしながら見ると
「何だ、紅牙。気に入らなかったのか?俺様は、お前のお気に入りと聞いていたんだがな。最後の最後で裏切った女だ。使えん駒は…いや、そうだった。最後は、奴等の慰み物として使ったんだ。ふっふっ、悪い悪い。獣臭くて堪らなくてな。その袋に入れたんだった。」
と言って、部下達と一緒に大笑いした。だが、その瞬間
(ビュンッ)
風を切るような音と共にイヴァイルの後ろにいた兵士が馬から落ちた。落ちた兵士の顔は、矢で打ち抜かれ、その先端には、イヴァイルの耳がついていた。
「うぎゃぁぁ。」
笑いは、一瞬にして悲鳴に変わった。それに驚いて馬が暴れ出す。馬から落ちたイヴァイルは、血が流れ出る耳を手で抑えながら
「紅牙ぁぁ!!許さん、許さんぞ。貴様ぁぁ!殺してやる。」
と叫び散らした。だが、紅牙は、イヴァイルに向けて2射目を放つと
「それは、こっちの台詞だ。殺してやるから、そこで待ってろ。」
と言って、殺意を向けた。その殺意に怯むイヴァイルに部下が声をかける。イヴァイルは、唇を噛みながらも馬に乗り直し、
「覚えていろ、紅牙。この借りは、いずれ返してやる。…まあ、また会うことがあればだがな。」
と恨み節を吐くと東の平野へと走り去った。イヴァイル達が去り、紅牙は、再び麗奈の元に駆け寄った。よく見ると麗奈の耳には耳栓もされている。五感を奪われ、生気のない屍のように横たわる麗奈。紅牙は、そんな麗奈の目隠しを取った。どれだけの涙を吸ったのか目隠しは、触るだけで分かる程に濡れていた。突然の光と共に紅牙を目の当たりにした麗奈は、何かを訴えるように激しく首を振った。更に猿轡からは、噛み締めた唇から血が流れ出る。麗奈の異常な反応に紅牙が猿轡を取ると麗奈は、
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