神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

文字の大きさ
上 下
83 / 113

四門会議

しおりを挟む
何とか無事に朝食を終えたオレ達は、野営の片付けをし、朱李の里へと向かった。精霊の森は、朱李達でも滅多に入る事がない神聖な場所の為、朱李も位置を把握するのに戸惑っていたが、遠くに見える大きな杉を見つけるとオレ達を案内した。数時間後、オレ達は、精霊の森を抜け、小高い丘に出た。開けた場所で心地よい風が通る。朱李は、丘に立つ一本杉に手をつくと
「すみません、少し時間をもらってもいいですか?」
とオレ達に願い出た。オレは、朱李の申し出に
「いいよ。それじゃあ、少し休憩を取ろうか。」
と言って、腰を下ろした。オレ達が休憩をとる中、朱李は、丘からの景色を眺め、目に焼き付けると何かを決心したように、一本杉のたもとで土を掘り始めた。
「此処にするの?」
桜が何かを察し、朱李に声をかける。
「2人でよく来た場所なの。里の墓には入れたくないから。」
朱李の言葉に桜が手を貸す。桜の行動に朱李は、一瞬手を止めると
「あなた、何を」
と尋ねる。桜は、朱李と一緒に土を掘りながら答える。
「見て分かるでしょ、手伝ってるの。それとあなたじゃない、桜。これからは、桜って呼んで。」
桜の言葉に朱李は、頷くと
「ありがとう、桜。」
と言って、土を掘り進めた。肘ほどの穴を掘り終え、布に包まれていた拓朗の遺骨を納める。生前の面影を失った骨。だが、失った面影と裏腹に鮮明に残る想い出。朱李は、その想いを心の奥にしまう様に拓朗の遺骨に土を重ねていった。最後に拓朗の小太刀を墓石代わりに立てる。完成した墓に手を合わそうとする朱李に蓮華が声をかける。
「お姉ちゃん、これ。」
拙い言葉で蓮華が朱李に差し出したのは、花飾りだった。近くに花がほとんど無く、草冠の様な花飾りだったが、朱李は、受け取ると笑顔で
「ありがとう。」
と一言言って、花飾りを小太刀にかけた。オレ達は、名も刻まれない小さな墓に手を合わせると拓朗の冥福を祈った。
拓朗の埋葬も終わり、一息ついていると朱李がオレに話かけてきた。
「色々とありがとうございました。これから里に案内しますが、その…私は、里には入れません。だから…」
朱李の言葉にオレは、森での事を思い出した。
「抜け忍、だからか?」
オレの言葉に朱李は、驚き
「どうしてそれを?」
と聞き返す。オレは、森でのやりとりを朱李に伝える。
「君が気絶している時に一馬という男が来たんだ。蓮華を保護する為と言って。その時、一馬が君達は、里の抜け忍だと言っていた。」
オレの説明に朱李は、納得するとともに落胆の表情を見せた。
「そうですか。蓮華さんを…なら私は、抜け忍のうえに重罪人ですね。」
朱李の凹んだ様子に躊躇したが、オレが今までの経緯について尋ねると朱李は、重たい口を開いた。
「改めてですが、私の名前は、朱李・アトミノ。サハリア領南部を守護する紅南(こうなん)の里の里長、紅牙・アトミノの娘です。」
朱李の告白に反応する。
「紅牙の娘?里長の娘が何で抜け忍になったんだ?」
オレの質問に朱李は、今までの経緯について話し始めた。
「10日前です。私の里で四門会議が行われました。」
「四門会議?」
「はい。サハリア領は、広大な領土を有しているため、その領地を守るために南北東西に守護之門里(しゅごのもり)があります。四門会議は、その守護之門里、紅南の里、北翠(ほくすい)の里、東蒼(とうそう)の里、白西(はくさい)の里の里長による会議です。本来は、領地の防衛や都市の自治等、領主様の補佐を行うもので、都市中央にある領主様の城で行いますが、今回は、違いました。今回は、私の里、紅南の里で行われたんです。里長達の重要会議。私達には、関係ないと思っていました。ですが、東蒼の里長であり、拓朗の叔父である蒼馬(・タカベ)様の様子がおかしくて、私と拓朗は、こっそり会議を覗いてしまったんです。その会議の内容は、再び内乱が起こるというものでした。そして、その首謀者は、イヴァイル・ボウナ。前回の内乱で改革派のリーダーをしていた者です。イヴァイルは、前内乱で敗れた後、東方の監獄に幽閉されていました。ですが、何者かの手を借り、数週間前に脱獄。今は、身を隠しながら、各地に散った改革派の貴族を集めて、再び内乱を企てているとの事でした。それなら、イヴァイルを探し出し、事前に制圧すれば良いのですが、イヴァイルの手助けをしたのが、拓朗の父、拓馬さんだったんです。更に今回の蓮華さんの情報を漏らしたのは、現領主奥様の御側付きである拓朗の母、麗奈さんだったんです。信じられませんでした。でも、大規模に動けば、領主様や奥様を人質にされる可能性があると考えた里長達は、麗奈さんを暗殺する事を決めたんです。それを聞いた私と拓朗は、居た堪れなくなって、里から暗殺忍具を盗んで里を出ました。その後は、永遠様のご存じの通りです。拓朗と一緒に南東の里に行く途中に豚人族達に捕まって、あんな事を。」
朱李の話が終わり、オレは悩んだ。
『つまりサハリア領は、再び内乱の危機に面していて、蓮華の命が狙われている。状況が悪い。蓮華を連れて引き返すか?いや、豚人族達は、蓮華の殺そうとしていた。イヴァイルと繋がっているとしたら、既に包囲されている可能性がある。だが、人族と獣人族が連(つる)む事があるのか?』
情報の整理が追いつかないが、ヤバい事に巻き込まれている事は分かる。オレは、撫子達を呼んでこれからの事を相談しようとした、その時だった。
(ドカン)
遠くから聞こえる爆発音が丘に鳴り響いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...