神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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大人の嗜み

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入り口から差す陽の光に目が覚める。横には、肌けた撫子。毛布に包(くる)まる桜。それに……えっ?蓮華がいない。まさかと思い、オレは、咄嗟に起き上がり、入り口を出た。
「蓮華っ」
「…お、おはようございます。永遠様。」
急に出てきたオレに驚きながら蓮華が挨拶をする。蓮華の顔を見て、安心したオレに対して、キョトンとした表情の蓮華。オレは、平静を装って
「おはよう、蓮華ちゃん。今日は、早起きだったんだね。」
と返す。蓮華は、オレの言葉に頷くと手に持っていた毛布を入り口の前で寝ていた朱李にかけた。
「朝起きたら、お姉ちゃんが此処で寝てて。寒そうだったから」
咄嗟の事で気付かなかったが、どうやら朱李は、一晩中入り口の前で見張りを兼ねて寝ていたらしい。そんな朱李に対する蓮華の優しさに思わず、蓮華の頭を撫でてしまう。
『はっ、つい頭を撫でてしまった。こんなところを撫子達に見られたら』
そう思っていると撫子と桜が寝惚けながら入り口から出てくる。
「おはよう御座います、永遠様。」
「おはよう。永遠ちゃん、蓮華ちゃん。」
いつもの挨拶。つい浮気者とか幼女にまで手を出してと怒られると思ったが、どうやら見られていなかったらしい。
「おはよう、な…」
オレが撫子達に挨拶を返そうとしたその時、蓮華が桜に駆け寄り、
「おはようございます。桜お姉様、撫子お姉様。今日は、朝から永遠様に頭を撫でてもらいました。」
と報告した。
『蓮華ちゃん、何故…これは、怒られる。』
覚悟を決め、怒られる準備をしたオレだったが、桜は、
「良かったわね、蓮華ちゃん。」
と言って、蓮華の頭を撫でた。
『怒られない??』
オレが困惑を隠しながら立っていると
「どうしたんですか?永遠様。蓮華ちゃんは、私達の妹ですのよ。何か言葉を止めるような想いでもありまして?」
と撫子が耳元で囁く。心を見透かしたような言い方にオレは、首を振って答えた。そんなやり取りをしているうちに朱李が目を覚ます。
「おはよう。昨日は、見張りをしてくれたんだね。ありがとう。」
オレが朱李に声をかけると朱李は、
「おはようございます、ご主人様。」
と返した。挨拶を交わしただけだが、朱李の様子がおかしい。オレに続いて撫子が朱李に声をかける。
「それにしても貴女、意外と従順なのね。初日から見張りをしてくれるなんて。まあ、でも精霊様の森で騒ぎを起こすなんて、魔物かあの低脳な豚人族達(やつら)くらいだけどね。」
撫子の言葉に朱李は、少し黙ると撫子と桜をちらりと見て、
「違うわよ。その…何…あなた達っていつも、そんな卑猥な下着で寝ているわけ?大胆というか、恥ずかしくて…」
と呟いた。朱李の言葉に撫子も桜も自分の姿を確認すると、顔を真っ赤にして居住施設の中へ戻って行った。蓮華の事で動揺して気付かなかったオレもだが、撫子と桜が誾の忠告も忘れて、あの姿を晒すとは、余程、疲れが出ていたんだろう。
「あれって、ご主人様の趣味ですか?」
自分の身の危険を感じたのか、朱李が聞いてくる。
「ご主人様って、永遠でいいよ。それとあれは、趣味ではなくて、その…色々な事情で」
苦しい弁解を返すが、そこに蓮華がトドメを刺す。
「でも、桜お姉様と撫子お姉様のお気に入りですよね。毎晩着ていますし。」
蓮華の告白に動揺する。
「蓮華ちゃん、それを何処で?」
オレの言葉に蓮華は、何かを思い出しながら
「うーん。夜、目が覚めて、お手洗いに行くとお姉様達は、いつもあの格好でした。私もいつかお姉様達の様な大人な下着を着けたいです。」
と答えた。
「・・・」
何も言葉が出ない。何だったんだろう、撫子と桜の努力は。いつの間にか領主の孫娘に危険な性癖をつけてしまった。その沈黙を破るように朱李が呟く。
「私は、着ませんから。」
僅かに縮まった朱李の距離が大きく遠ざかった気がする。そのうち、着替えを終えた撫子と桜が出てきた。何となく状況を察した撫子は、開き直って
「あら、どうしたの?もしかして大人の嗜(たしな)みを知らなかったのかしら。」
と言ったが、空気は変わらない。そもそもあの下着は、大人の嗜みなのだろうか?嫌いじゃないオレも否定はできないが。それでも動じない撫子は、
「さあ、食事を取ったら行くわよ。折角だから大人な私が作って差し上げようかしら。」
と言って、小刀を手に取った。その姿にオレも桜も青ざめる。蓮華は、何かトラウマがあるのか怯えている。何が起きたのか分からない朱李に桜が
「大人の嗜みについて、もっと知りたいわよね?」
と声をかける。戸惑う朱李。そんな朱李に桜が耳元で
「朝から死にたくないでしょ。いいから頷いて」
と圧をかける。朱李は、圧倒され、頷く。桜は、それを確認すると
「なぁちゃん、朱李ちゃんがもっと大人の嗜みについて学びたいって。一緒に料理の手伝いをさせてもいい?」
と言って、魚の頭を握り潰そうとしている撫子の手を止めた。
『何で手で??小刀は?』
動揺する朱李。そんな朱李に桜は、
「ごめん、後はお願い。私達、まだ死にたくないから」
と言って、その場から離れようとする。朱李は、逃げようとする桜の肩を掴むと
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。何が起こるの?説明しなさいよ。っていうか、朱李ちゃん、て何?」
と桜に説明を求める。何故か距離の縮まっている2人を他所に撫子が小麦粉を取り出す。頭を握り取られた魚に小麦粉…ムニエル?いや、内臓も取らずに??やばい気がする。混乱する頭を何とか落ち着かせ、勇気を出して撫子に聞く。
「撫子、何を作ってるんだ。」
オレの問いに撫子は、とびっきりの笑顔で
「煮付けです。」
と言って、小麦粉をまぶした魚を火に入れた。バチバチと音を立て、魚と小麦粉だけなのに不思議な臭いを漂わせる物体。オレは、反射的に撫子を取り押さえると桜と朱李に調理を任せた。
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