神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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新たな同行者

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オレが立ち去ると朱李は、拓朗の首を火葬炉に納め、手を合わせた。この短時間で気持ちの整理ができる訳がない。その相手への想いが深ければ深いほどに。だが、それでも朱李が決意したのは、拓朗の最期の言葉に生きる決心をしたからだと思う。朱李は、目に涙を溜めながらも流したりはしない。そして、
「さよなら、拓朗。」
と別れを告げると遂に手にした火種を火葬炉にともした。火に包まれる拓朗。肉が焼かれ、姿を変えていく。それを見つめる朱李の脳裏に拓朗との想い出が走馬灯の様に巡り、遂に溜めていた涙が想いと共に溢れ出てしまう。
「ありがとう…拓朗。」
朱李は、消えゆく想い人にそう語ると最期を見届けた。
ようやく奥にあった屍を引き摺ってきたオレは、一つ一つ大穴へと落とし入れた。落とす度に大穴の底から炎が立ち上る。熱い、そして、焦げ臭い。炎から微かに見える大穴の中は、骨と肉炭で埋め尽くされている。地に還(かえ)すとはいえ、夥(おびただ)しい骸の山は、悍(おぞ)ましいの一言だった。その光景が肉体的な疲労に加え、精神的な疲労を与える。撫子も桜も疲れが顔に出ている。ましてや蓮華は、限界だ。オレは、撫子と桜を呼ぶと
「2人とも蓮華と休んでくれ。後は、オレと風精霊で何とかするから。」
と言った。オレの言葉に撫子は、首を振ると
「私は、まだ大丈夫です。蓮華は、桜に頼むわ。」
と返し、傾き始める陽を確認した。そして、
「それにこのままですとこの惨状の中で一夜を…」
と言って、顔を引き攣らせた。確かにこの場で一夜を過ごすのは、考えたくない。残りは、氷漬けの豚人族が二十数体。オレは、とりあえず3人とも休むように言って、無心で風精霊と一緒に氷漬けの豚人族達を砕きまくった。豚人族達は、芯まで凍っているのか割ると粉々になる。これなら早く終わりそうだ。オレ達が豚人族達を砕き終わると撫子と桜が戻ってきた。蓮華は、荷物のところで眠っている。余程疲れたのだろう。オレ達は、急いで砕氷した肉塊を大穴に落とし入れた。撫子の予想通り、入れ終えると大穴はほぼいっぱいだった。オレは、最後にアースウォールで小高い壁を創るとそれを崩して豚人族を埋め終えた。
(ようやく終わりましたね。)
風精霊は、周囲を確認するとオレ達に声をかけてきた。
(屍の処理、感謝します。これで此処が穢(けが)れる事はないでしょう。礼として今宵は、この地にて滞在する事を許してさしあげます。此処から一刻先に川辺がありますので、そこで一夜を過ごすと良いでしょう。それでは。)
と言い残して消えていった。風精霊が消えたのにホッとしたのか、撫子と桜が顔を見合わせ、抱き合う。ようやく此処から離れられる。陽は傾き、もう2~3時間もすれば日が暮れるだろう。オレ達は、急いで準備をし、風精霊が言っていた川辺に向かおうとした。だが、いつの間にか撫子がいない。オレ達が撫子を探していると森の奥から声がする。
「これを着なさい。それとこれ。」
そう言って撫子が朱李に上着と麻袋を渡す。忘れていた訳ではないが、朱李の姿は、引き裂かれたレオタードのせいで中央の肌が露わになり、下腹部から下は、下着とタイツで隠れている状態だった。あまりにシリアスな状況だった為、気にしなかったが、コスプレ美少女の卑猥な姿に目のやり場が困る。朱李は、撫子から上着と麻袋を受け取ったが、
「どうして…?私は、あなた達を殺そうとしたのに。」
と言って、戸惑いを見せた。撫子は、渡した上着を朱李に押し付けると
「いいから着なさい。それと着替えが終わったら、私達について来なさい。とりあえず、貴女の里まで案内してもらうから。」
と言い放った。戸惑いを隠せないまま言葉を探す朱李。それに痺れを切らした撫子がレオタードを脱がそうとする。そして、レオタードに手をかけると
「貴女、永遠様の隷属になったんだから、その位の手伝いはしなさい。それに…貴女を置いて行くと桜が心配するのよ。でも、いい。一緒に来てもらうけど、もしまた襲って来たら、返り討ちにするから。覚えときなさい。」
と言って、レオタードを脱がした。行動と言葉が合っているのか些(いささ)か疑問があるが、桜を思っての事だったのだろう。朱李は、露わになった胸を手で隠しながら頷くと
「ありがとう。」
と一言言って、撫子に渡された服に手を通した。薄手の浴衣。撫子サイズの浴衣の為、上着だけだが、股下まである。そこから覗かせる網タイツがアンバランスで何故かエロい。だが、朱李は、それを気にせず、着替えを終えると麻袋に拓朗の遺骨を集め入れた。そして、麻袋に遺骨を納め終えるとオレ達に対し改めて頭を下げて、同行した。
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