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生の選択
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一馬が去るとようやく朱李が目を覚ました。朱李は、自分の状況が分からず、怯えながらも周りを確認する。
「ようやく目が覚めたようね。感謝しなさい。うちの桜が永遠様に頼まなきゃ……。」
撫子が朱李に声をかけるが朱李の耳には、入ってこない。朱李は、必死に辺りを探して、ついに拓朗の生首を見つける。そして、今までの惨劇が夢でなかった事を認識する。
「あぁぁぁぁ……。」
朱李は、頭が真っ白になり、言葉にならない声を発しながら、とにかく拓朗の生首へと向かおうとする。だが、膝下まで下ろされた網タイツとレオタードのせいで足がもつれ倒れ込む。それでも拓朗の生首を求めて這いながら向かう朱李。その必死さに桜が手を貸す。ようやく拓朗の生首に辿り着くと朱李は、拓朗の生首を抱きしめ、人目を憚(はばか)らず泣き喚いた。
「たくろぉぉぉ…わぁぁぁぁぁぁ。」
森に響き渡る悲しみの叫び。止めどなく溢れる朱李の涙が土埃と唾で汚(けが)された拓朗の顔に流れ落ちる。その悲しみの深さに誰も声を掛けられずにいると急に朱李が泣き止んだ。そして、近くにいた桜から短剣を奪うと
「すぐ行くよ、拓朗。」
と言って、自分の胸に刺そうとした。鋭い刃先が朱李の胸に突き刺さる瞬間、桜が朱李の腕を掴み止める。
「何するの。離して。私は、死んで拓朗のところに行くの。」
朱李は、そう言って桜の手を振り解(ほど)こうとするが、桜は、それを制するかの様により強く朱李の腕を握った。そして、朱李の顔を一度、引っ叩(ぱた)くと悲しみの涙で赤く腫れ上がった瞳の朱李をしっかり見て、
「死にたいなら死になさい。でも、その前に言っておくわ。その男の最後の言葉は、『朱李、生きろ。』だった。それでも死を選ぶなら、私はもう止めない。」
と言って、朱李の腕を離した。桜の言葉に朱李の決意が崩壊する。朱李は、短剣を落とすと再び拓朗の生首を抱きしめて泣き喚いた。朱李の涙で汚れを洗い流された拓朗の顔は、何処か安堵している様にみえる。桜は、朱李の落とした短剣を回収するとオレ達の元に戻って来た。何も言わず、複雑な表情でオレを見る桜。そんな桜の額を撫子が小突く。
「なんて顔してるのよ、桜。貴方がそうしたいから、そうしたんでしょ。だったら、自信を持ちなさい。私達は、何も言わないわよ。ねぇ、永遠様。」
撫子は、そう言って、オレを見る。オレは、頷くと
「桜は、あの男の思いも、あの娘の命も守ったんだ。誇るべきだよ。」
と桜に伝えた。桜は、こくんと頷くとそのままオレの胸に頭を預けた。桜を安心させる様に頭を撫でるオレの姿に撫子は、大きく息を吐くと
「それは、そうと流石に疲れましたわ。一息つきたいところではありますけど、この状況では、休めるものも休めませんわね。永遠様、一先ず場所を移しませんか?」
と提案した。確かに周囲は、豚人族達の死屍累々の墓場。どれも悍(おぞ)ましい表情のまま物言わぬ肉塊になっている。できる事ならさっさと立ち去りたい。オレ達は、場所を移す為にタープを片づけ、荷物をまとめる。桜は、出発直前まで朱李を気にかけていたが、朱李に反応はない。オレ達は、仕方なく朱李を置いて出発しようとしたが、その時だった。急にオレ達の進行を妨げる様に風が吹き荒れた。
「そんな。」
撫子の言葉の先を見るとそこには、宙に浮かぶ何かがいた。透明感のある光。あえて例えるなら妖精の様な物体。
『物体?いや、違う。どちらか言えば、映像。ホログラムだ。』
オレが不可思議な光景に目を奪われていると撫子達が膝をつき、頭を下げた。
(この惨状は、あなた方が起こしたのですか?)
頭に直接語りかける声。竜王達の時と同じだ。撫子達にも聞こえたのか、撫子が頭を下げたまま答える。
「この地を守護せし風の精霊様。畏(かしこ)まりて申し上げます。確かにこの豚人族達と戦い、滅せしは、私達です。ですが、私達は、自らの身を守ったにすぎません。どうか、お許し下さい。」
精霊は、撫子の釈明の言葉に対し、無視するかの様に敵意を向ける。
(我が森を汚した者には、罰を。それが掟です。彼の者ども同様に森の糧となりなさい。)
そう言うと精霊は、オレ達に向けて、いきなり風の刃を放った。突然の攻撃に撫子も桜も反応できていない。オレは、咄嗟に撫子達を庇う様に立ち塞がった。精霊の風の刃がオレの前で打ち消される。それでも敵意を向ける精霊にオレは、黒竜石の剣を構えた。その時だった。精霊は、黒竜石の剣を見るなり、
(……その剣は……)
と一言を残して沈黙した。
「ようやく目が覚めたようね。感謝しなさい。うちの桜が永遠様に頼まなきゃ……。」
撫子が朱李に声をかけるが朱李の耳には、入ってこない。朱李は、必死に辺りを探して、ついに拓朗の生首を見つける。そして、今までの惨劇が夢でなかった事を認識する。
「あぁぁぁぁ……。」
朱李は、頭が真っ白になり、言葉にならない声を発しながら、とにかく拓朗の生首へと向かおうとする。だが、膝下まで下ろされた網タイツとレオタードのせいで足がもつれ倒れ込む。それでも拓朗の生首を求めて這いながら向かう朱李。その必死さに桜が手を貸す。ようやく拓朗の生首に辿り着くと朱李は、拓朗の生首を抱きしめ、人目を憚(はばか)らず泣き喚いた。
「たくろぉぉぉ…わぁぁぁぁぁぁ。」
森に響き渡る悲しみの叫び。止めどなく溢れる朱李の涙が土埃と唾で汚(けが)された拓朗の顔に流れ落ちる。その悲しみの深さに誰も声を掛けられずにいると急に朱李が泣き止んだ。そして、近くにいた桜から短剣を奪うと
「すぐ行くよ、拓朗。」
と言って、自分の胸に刺そうとした。鋭い刃先が朱李の胸に突き刺さる瞬間、桜が朱李の腕を掴み止める。
「何するの。離して。私は、死んで拓朗のところに行くの。」
朱李は、そう言って桜の手を振り解(ほど)こうとするが、桜は、それを制するかの様により強く朱李の腕を握った。そして、朱李の顔を一度、引っ叩(ぱた)くと悲しみの涙で赤く腫れ上がった瞳の朱李をしっかり見て、
「死にたいなら死になさい。でも、その前に言っておくわ。その男の最後の言葉は、『朱李、生きろ。』だった。それでも死を選ぶなら、私はもう止めない。」
と言って、朱李の腕を離した。桜の言葉に朱李の決意が崩壊する。朱李は、短剣を落とすと再び拓朗の生首を抱きしめて泣き喚いた。朱李の涙で汚れを洗い流された拓朗の顔は、何処か安堵している様にみえる。桜は、朱李の落とした短剣を回収するとオレ達の元に戻って来た。何も言わず、複雑な表情でオレを見る桜。そんな桜の額を撫子が小突く。
「なんて顔してるのよ、桜。貴方がそうしたいから、そうしたんでしょ。だったら、自信を持ちなさい。私達は、何も言わないわよ。ねぇ、永遠様。」
撫子は、そう言って、オレを見る。オレは、頷くと
「桜は、あの男の思いも、あの娘の命も守ったんだ。誇るべきだよ。」
と桜に伝えた。桜は、こくんと頷くとそのままオレの胸に頭を預けた。桜を安心させる様に頭を撫でるオレの姿に撫子は、大きく息を吐くと
「それは、そうと流石に疲れましたわ。一息つきたいところではありますけど、この状況では、休めるものも休めませんわね。永遠様、一先ず場所を移しませんか?」
と提案した。確かに周囲は、豚人族達の死屍累々の墓場。どれも悍(おぞ)ましい表情のまま物言わぬ肉塊になっている。できる事ならさっさと立ち去りたい。オレ達は、場所を移す為にタープを片づけ、荷物をまとめる。桜は、出発直前まで朱李を気にかけていたが、朱李に反応はない。オレ達は、仕方なく朱李を置いて出発しようとしたが、その時だった。急にオレ達の進行を妨げる様に風が吹き荒れた。
「そんな。」
撫子の言葉の先を見るとそこには、宙に浮かぶ何かがいた。透明感のある光。あえて例えるなら妖精の様な物体。
『物体?いや、違う。どちらか言えば、映像。ホログラムだ。』
オレが不可思議な光景に目を奪われていると撫子達が膝をつき、頭を下げた。
(この惨状は、あなた方が起こしたのですか?)
頭に直接語りかける声。竜王達の時と同じだ。撫子達にも聞こえたのか、撫子が頭を下げたまま答える。
「この地を守護せし風の精霊様。畏(かしこ)まりて申し上げます。確かにこの豚人族達と戦い、滅せしは、私達です。ですが、私達は、自らの身を守ったにすぎません。どうか、お許し下さい。」
精霊は、撫子の釈明の言葉に対し、無視するかの様に敵意を向ける。
(我が森を汚した者には、罰を。それが掟です。彼の者ども同様に森の糧となりなさい。)
そう言うと精霊は、オレ達に向けて、いきなり風の刃を放った。突然の攻撃に撫子も桜も反応できていない。オレは、咄嗟に撫子達を庇う様に立ち塞がった。精霊の風の刃がオレの前で打ち消される。それでも敵意を向ける精霊にオレは、黒竜石の剣を構えた。その時だった。精霊は、黒竜石の剣を見るなり、
(……その剣は……)
と一言を残して沈黙した。
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