神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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解放と拒否

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オレ達が再会を喜んでいると後ろで呻(うめ)き声が聞こえてきた。
「ゔぅ…あぁぁ…はぁ……はぁ…。」
振り向くとそこには、身動きが取れないまま息が途絶えそうになっている朱李の姿があった。オレが朱李に近づこうとすると撫子がオレの腕を掴んで首を振る。
「永遠様、あの娘はもうダメです。隷属の縛りで死にます。それにあの娘は、蓮華や永遠様を殺そうとした者です。助けるわけにはいきません。」
撫子の言葉にオレが足を止めると今度は、桜が撫子の腕を掴んだ。
「なぁちゃん、ごめん。永遠ちゃん、あの娘を助けてあげて。」
桜の願いに撫子が強い口調で
「分かってるの、桜。あの娘は…」
と言い返す。だが、桜は、撫子の言葉を遮るように
「分かってる。分かってるよ、なぁちゃん。もし永遠ちゃんが許せないなら、その時は、私があの娘を殺す。だから、お願い、永遠ちゃん。」
とオレに頼んだ。桜の必死に頼む姿にオレは、一度頷くと桜と一緒に朱李の元に向かった。朱李の死の呪縛が近づいているのか、目の細かい網タイツから微かに覗かせる内腿の隷紋は、青紫色に変わっていた。オレは、直ぐに剣で指を切り、血を内腿に付けるが隷紋の色が変わらない。
「えっ?どうして。」
思わぬ展開に桜が動揺していると
「その服を脱がしなさい。もしかしたら、そのタイツが血を通さない素材かもしれないわ。」
と撫子が助言をした。撫子の救いの言葉に
「なぁちゃん」
と言って、桜が目が潤む。撫子は、そんな桜の肩を触ると
「仕方ないでしょ。永遠様が助けるって決めたんだから。ほら、さっさと脱がすわよ。」
と言って、朱李を縛る縄を切り始めた。ようやく縄から解放された朱李だが、呼吸は、徐々に浅くなってきている。切迫した状況だが、朱李の忍び装束が思いのほか身体に密着していて脱がしにくい。
「もう、面倒くさいわね。」
苛立ち始めた撫子は、桜の短剣を借りると朱李のレオタード風装束を切り裂いた。そして、身体との隙間ができたレオタードを躊躇なく、膝下まで脱がした。浅い吐息を吐きながら横たわる半裸網タイツ姿の朱李。一刻を争う状態ではあるが、どこか強姦的な犯罪臭がする。だが、撫子の勢いは、止まらない。露わになった網タイツも躊躇なく脱がす。膝下で止(とど)まるレオタードと網タイツが朱李の足を拘束するが、撫子と桜が朱李の足をこじ開け、オレに指示する。
「永遠様、早く血を。」
オレは、撫子に言われるがまま、再び剣で指を切り、朱李の内腿に血を付ける。するとオレの血が朱李の内腿に吸われるように広がっていき、そして、ようやく赤くなりかけていた隷紋が青白い色へと戻っていった。
「…よかったぁ、間に合った。」
桜は、そう言うとペタンと地面に尻をついた。死の呪縛からの解放により、朱李の息も顔色も良くなってきている。ホッとしたのか、撫子も一瞬、安堵の表情を見せたが、すぐさま森の奥に鋭い視線を向け、タープ前にいた蓮華を呼び寄せた。桜も何かを察知したのか、武器を手にすると森の奥へと視線を向けた。再び緊張が走る。オレも蓮華の前に立ち、剣を構えた。森の中から人影が徐々に近づいてくる。そして、その人影は、両手を上げると
「剣を下ろしてくれ。俺に敵意は無い。」
と言って、森から出て来た。男は、両手を上げたまま立ち止まったが、オレ達は、剣を下げる事はできなかった。何故なら、その男は、武器こそ手にしていないが、朱李達と同様に忍び装束を着ていたからだ。オレ達の警戒が解けない事を察した男は、
「あー、もしかして、俺をそいつらの仲間だと思っているのか。…ちっ、ほんと面倒な事をしてくれたぜ。俺は、一馬・タカベ。紅牙様の命でクレア様を迎えに来ただけだ。」
と答えた。
『紅牙?クレア様って、この男、敵じゃないのか。』
一馬の言葉にオレが剣を下げようとすると撫子が俺を制して一馬に尋ねる。
「なら、何故、私達を監視してたの?今朝からずっとつけていたわよね。依頼というなら直ぐに接触して良かったはず。もし陰ながら護衛するにしても貴方の行動は雑すぎる。何より拓朗と言ったかしら、その男と同じ衣装で仲間じゃないなんて無理があるんじゃないかしら。」
撫子の言葉に苛立ちを見せる一馬。一馬は、手を上げるのをやめると拓朗の生首に近づいて、その顔に唾を吐いた。
「まったく、どこまで俺の足を引っ張るんだ。この愚弟は。血が繋がってるかと思うとほんとムカつくぜ。確かにこいつらは、俺の里の人間だったが、今は違う。里から出て行った抜け忍だ。俺とは関係ねえ。俺は、里の為、国の為に任務を遂行してるだけだ。だから、、、」
一馬は、そう言いながら蓮華に手を伸ばす。そんな一馬に対し、オレは、風の刃を返す。鋭い風の刃が一馬の頬を掠める。
「おい、何しやがる。お前、依頼を破棄するつもりか?」
オレの無言の返答に怒りを露わにする一馬に対して、オレが
「お前なんかに蓮華は渡せない。」
と答える。一馬は、語気を強め、
「分かってるんだろうな。ギルド長の依頼を反故にする意味。大問題だぞ。」
と返すが、オレは、そんな一馬を睨みつけると
「なら聞くが、お前に蓮華を守れるのか?お前達の中で何があったかは知らない。だが、家族を無下にするようなお前が君主であろうと他人を命懸けで守れるとは思えない。だから、お前には渡さない。蓮華は、オレ達が守る。どうしても蓮華を渡して欲しければ紅牙を連れて来い。」
と言い放った。オレの言葉に一馬が唇を噛む。だが、武器を構えたままのオレ達を見ると顔を下に向け、
「その言葉、後悔するなよ。」
と言い残して、森の中へと消えて行った。
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