神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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死に至る毒

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網タイツ?鎖帷子(くさりかたびら)なのか?その上からレオタードを装飾した様な忍び装束を身に纏った少女。見た目はセクシーコスプレだが、手には鋭い小太刀を持っている。明らかに殺意を持って向かってくる少女にオレ達も武器を構える。
(ぶんっ)
突如始まった戦闘に撫子が逸早く動き、薙刀を振って少女の動き止める。そして、桜が短剣で追い討ちをかけるが、少女は、素早く避け、森の中に姿を消す。
「早いですわね。」
人孤の身体能力でも仕留め切れない素早い刺客に撫子も桜も警戒を更に強める。魔法を使えば、直ぐに炙り出せるのだろうが、精霊の住まう森のため、撫子も桜も慎重になっている様だ。風が強くなってきて、少女の位置が分かりにくくなっていく。
(がさっ)
草が踏まれる様な音がして反応する。だが、誰もいない。
(がさがさっ)
『しまった。』
少女は、音の反対側から蓮華に襲いかかっていた。
『間に合わない。』
そう思った瞬間、桜が少女のみぞおちに蹴りを入れ、吹っ飛ばした。急所への一撃に蹌踉(よろ)めく少女。呼吸が定まっていない。
(カチャン)
ついに少女は、握っていた小太刀を落とし、膝をつく。武器を失い、満身創痍(まんしんそうい)の少女の姿にオレ達は、お互いの顔を見て、ホッと息を吐く。想定をしていなかった訳ではないが、精神的な疲れがドッとくる。オレは、怯える蓮華を安心させようと近づく。その時だった。少女は、捕縛しようと近づいた桜を退け、背に隠していた吹き矢で蓮華を狙った。
「……つっ。」
間一髪だった。蓮華の近くにいた事が幸いし、吹き矢は、蓮華を庇ったオレの顔を掠(かす)め、後ろの木に刺さった。油断大敵とは、この事だ。少女は、桜に馬乗りになられ、うつ伏せで倒れて……
『んっ、何かおかしい。…目が霞む』
急な異変に周囲を見渡す。撫子が木に刺さった吹き矢を触ろうとしている。
「なれしこ、さわるわぁ!」
オレは、撫子に危険を知らせようとするが、呂律(ろれつ)が回らない。足にも力が入らず、立ち上がれない。
『気持ち悪い……視界が歪む。』
オレの異変に気づき、撫子が駆け寄り、オレを抱き抱(かか)える。オレの姿に桜が短剣を少女に向けて振り上げている。
「ころ、ふな…。」
「桜!!」
撫子の声に桜の短剣が少女の首筋寸前で止まる。
『殺すな…何でそんな事を言ったんだろう…頭が痛い。頭が回らない。』
オレの頬に温かいものが当たる。吹き矢が掠めた頬が爛(ただ)れ落ちるオレの姿に撫子が涙を流し、呼びかけている。
『………何か聞こえる。何だ…分からない……うっ…気持ち悪い、頭が痛い。…何も見えない…。撫子…桜…。』
連鎖する嗚咽(おえつ)と痛みに精神と思考が閉ざされていく。爛れた頬は、既に再生し、息もあるが、苦しみ悶え続ける永遠。時々、発作と同時に吐瀉物を撒き散らす。そんな永遠を撫子は、抱き抱えながら呼びかけ続けている。オレの意識を戻そうと必死な撫子の姿に桜も我慢の限界がきた。桜は、少女を仰向けにすると喉元に短剣を突きつけ
「言え!!貴様、何をした!!」
と恫喝(どうかつ)する。
「………。」
だが、少女は、顔を背向(そむ)け、何も言わない。桜の瞳が怒りで細くなる。そして、
(ガンっ)
桜は、短剣を持ち替えると柄で少女の顔を殴った。少女は、口の中を切り、血を吐き出す。それでも黙(だんま)りを決める少女に桜の顔が映る。桜は、怒りに任せ再び短剣を振り上げているが、その目には、大粒の涙を抱えていた。愛する者の為に何もできない怒りに感化され、静かに少女の口が開く。
「即死毒…」
少女の言葉に桜の振り下げた短剣が少女の寸前で止まる。そして、桜は、少女の忍び装束を掴むと
「毒…。なら、解毒剤をよこせ。」
と言って、睨んだ。少女は、口に溜まった血を吐き出すと
「バカなの。そいつがくらったのは、即死毒って言ったのよ。解毒剤なんてないわ。大型獣族だって、1分経たずに死ぬのに。まだ息をしているそいつが化け物なのよ。」
と言い返した。少女の言葉に桜の掴む手に力が入る。忍び装束に首を絞められ、少女が苦しそうに悶える。
「なぁちゃん。やっぱり、この女殺していい?」
桜は、不気味に笑い、少女を絞め上げる。完全にキレている。
「桜、その辺りにしておきなさい。私も頭にきているけど、永遠様の言葉は絶対よ。」
撫子の言葉に桜は、舌打ちをすると少女にかけていた手を放した。泡を吹きながら意識を失い、地面へと崩れ落ちる少女。桜は、少女を縄で拘束した上で、近くの木に縛りつけた。そして、すぐさま撫子と永遠の元に向かった。
「なぁちゃん。永遠ちゃんは大丈夫なの?」
桜の泣きそうな声に撫子は、永遠の頬を触ると
「頬の傷は、なくなったし、嘔吐も落ち着いてきたわ。…でも、まだ意識がないの。」
と答えた。そして、下腹部を触ると
「隷紋(これ)が変わってないから、命は大丈夫なはずだけど…どうしたらいいのか。なんとか体内の毒を中和さえできれば…」
と加えた。少しの沈黙。
「ごめんなさい、私のせいで。」
永遠の状態に責任を感じて蓮華が俯(うつむ)く。そんな蓮華を桜は抱きしめると
「蓮華ちゃんのせいじゃないよ。それにきっと大丈夫。永遠ちゃんは、竜の巫女の血縁で、私達の旦那様なんだから。こんな事で死んだりなんかしないよ。」
と慰めた。蓮華は、桜の言葉に頷くと桜の腕に抱きついた。桜は、それに応える様に蓮華に笑顔を見せる。だが、その表情とは裏腹に心配な気持ちが桜の手を永遠の頭へと伸ばさせた。その時だった。
(ばさっ)
永遠の髪が束で抜け落ちた。衝撃な光景に撫子も桜も声を失う。抜けた先から白い髪が生えてきているが、次々と黒い髪が抜けていく。そして、その抜けた髪を風が森の奥へと連れていってしまう。そのまま永遠まで遠くに連れていかれそうで、撫子が抜け落ちた髪を掴み取る。全ての黒髪が抜け落ち、白髪へと変わり果てた永遠。その姿に桜の堪えていた気持ちが崩壊していく。
「永遠ちゃん…永遠ちゃん。起きて、永遠ちゃん。」
取り乱したかの様に桜が永遠を揺らす。だが、永遠は、起きない。溜まっていた大粒の涙が桜の瞳から流れ落ちる。その姿に撫子も顔を手で覆う。ただ、それは偶然だった。撫子のその行為が、撫子に何かを気づかせた。
「桜、涙を拭きなさい。永遠様は、まだ死んではいないわ。」
桜は、涙を溢しながら撫子を見る。
「でも、永遠ちゃんが…」
涙の止まらない桜を尻目に撫子が上着を脱ぎ始める。急な展開に桜が
「なぁちゃん、何してるの。こんな時に。」
と尋ねると、撫子は、上着と手にした永遠の髪を桜に差し出した。
「注意して嗅ぎなさい。」
桜は、撫子に言われた通り、撫子の上着に付着した吐瀉物と永遠の髪の臭いを嗅いだ。
「……似た臭いがする。」
撫子は、桜の反応を確認すると
「これらと似た臭いがもう一つあるわ。」
と言って、木に刺さった吹き矢を見た。
「これは、憶測でしかないけど、永遠様の吐瀉物や抜けた毛は、体内から毒素を排出したものかもしれないわ。私達が触っても嗅いでも影響がないところを見ると毒性は失われているようだけど。」
撫子の言葉を聞いて桜が撫子の手を取る。
「なぁちゃん。それじゃあ、永遠様助かるの。」
桜の問いに撫子は、永遠を一度見て
「まだ、安心はできないけど、少なくとも永遠様は、生きようとしている。だから、私達は、できる事をしましょう。」
と答えた。桜は、頷くと
「分かった。永遠ちゃんの為なら私、何でもする。」
と言って、涙を拭った。桜の気持ちが落ち着いたところで、撫子が指示をする。
「蓮華ちゃんは、そこに茣蓙を敷いて。桜は、永遠様の着替えさせたら、そこに寝かせて。」
蓮華も桜も撫子に言われた通りに淡々と作業を進める。撫子は、着替えると来た道から姿を隠す様にタープを張った。そして、タープを張り終えると自分の脱いだ上着、永遠の上着、永遠の吐瀉物を1箇所に集めた。
「なぁちゃん。永遠ちゃん寝かせてきたよ。」
撫子は、桜の報告を聞くと、周囲を確認して、集めた上着等に火をつけた。そして
「桜、この煙をあなたの風であっちに吹かせてちょうだい。」
と桜に指示した。桜は
「あっちって。うん、分かった。」
と言って、魔法で風を吹かせた。煙が、来た道の方へ流れていく。しばらくして
「間違いなかったわね。」
と撫子がつぶやく。桜は、風を吹かせながら
「どういうこと?」
と尋ねる。撫子は、
「あの監視者は、その女の仲間って事よ。その女が襲いかかってきた時、あの監視者、一瞬こちらに近づいたのよ。それで、その女が捕まったら、また一定の距離を取った。そして、毒の臭いを向けたら煙の届かない場所まで距離を取った。あれは、毒の臭いを知らなければ、できない行動でしょ。」
と答えた。そして、監視者が感知できない程距離を取ったところで、火を消した。
「これで邪魔者は、消えたわね。」
撫子は、そう言うと桜の手を引いて永遠の元に向かった。そして、桜を永遠の側に座らせると
「あとは、桜のこれ次第ね。」
と言って、桜の胸を触った。
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