神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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竜の巫女に連なる者は、極馳走なり

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撫子達の試着が終わり、愛里須が2人を連れて戻って来た。
「技師長、サイズはピッタリでしたよ。」
愛里須は、鳳来に報告するとチラッとオレを見て、微笑んだ。どうやら確信犯で間違いないようだ。
「愛里須さん。」
オレが声をかけると愛里須は、その意図を察したのか直ぐに答えが返ってきた。
「まぁまぁ、そんな顔しないでよ。とっても似合っていたわよ。さすがは撫子ちゃん、桜ちゃんって感じで。それに本当に高性能なのよ、あのランジェリー。」
「あのランジェリー?」
「あっ」
愛里須の落ちた墓穴に詰め寄るオレ。そこで愛里須に手を差し伸ばしたのは、桜だった。
「永遠ちゃんは、あーいうの嫌い?」
「嫌い?いや、嫌いじゃないけど…。」
もう何も言えなかった。その後、愛里須と鳳来は、話題を変えるように残りの宝具について説明し始めた。撫子達の武器、防具以外は、全て剣などの武器になっている。馬人族の襲撃ではないが、ギルドに国家予算を遥かに超える大金が貯蔵されていれば、里を襲撃してくる者が出てくると思い、その防衛の足しになればと造ってもらったのだ。オレは、鳳来から渡された武器に魔力を込めていく。オレが渡された武器に魔力を込め終えると鳳来が最後にともう1本剣を取り出した。
「それにも魔力を込めたらいいですか?」
オレが確認すると鳳来は
「いや、こいつは宝具じゃねえんだ。」
と答えて、オレに剣を手渡した。
「そいつは、オレが永遠殿の為に打った剣だ。抜いてみろ。」
「オレの為に。」
オレは、そう言うと鞘から剣を抜いた。白銀に輝く剣身。剣先まで洗練されているのが、見た目で分かる。振ってみる。黒竜石の剣より少し重いが、手に吸いつくように馴染む感じがする。
「どうだ?」
「とても振りやすいです。」
鳳来は、
「そうか。それは良かった。能力こそ無いが、そいつは、俺の生涯の中でも指折りの一振りだ。」
と言って満足そうな顔を見せた。
「でも、どうしてこれを?」
「永遠殿の黒竜石の剣の代わりにと思ってな。」
「この剣の代わりに?」
「その剣は、知る者が見れば素性を推測されてしまうからな。隠せるなら隠しておいた方がいいだろ。まあ、オレからの餞別(せんべつ)だと思って使ってくれ。」
鳳来も稀有(けう)の能力者に対する末路をよく理解しているのだろう。オレは、剣を鞘に納めると
「ありがとうございます。大切にします。」
と礼を言って、頭を下げた。オレの貰った剣は、元々里の武器として造った剣だったが、鍛えた際に神石が壊れてしまったのか、宝具に成らなかった一品だった。だが、素材自体は、一級品だった為、鳳来が鍛え直し、至高の一品へと生まれ変わらせた剣だった。
その後、鳳来から請求書を渡された。
撫子・桜の武器(4点)   4億5000万
撫子・桜の防具?(26点)   26億2600万
里の武器(12点)   12億
合計金額(42点)   42億7600万
『宝具のリメイクには、お金が必要とは聞いていたけど、相当の金額がかかったものだ。それこそ国家予算の数年分。普通なら払えない。お金があって良かった。…でも42億かぁ。黒鬼蟲の討伐報酬が消えたな。』
オレは、ギルドで宝具の請求金額を払うと再び広場へと戻った。夕暮れとともに広場に明かりが灯されていく。今回は、巨人族の里長へのおもてなしという事もあり、広場には手の込んだ料理や上手い酒が並べられた。準備が整ったところで清楚な着物を着て不知火が現れた。里の民からも巨人族の従者からも賛美(さんび)の声が漏れる。不知火は、鳳来の前に座ると
「宗睦様。この度は、我が里の依頼を快く受けて下さり、感謝申し上げます。今宵は、里をあげて歓迎させていただきます。どうぞ心ゆくまで御寛(おくつろ)ぎ下さい。」
と言って頭を下げた。その美しい所作に誰もが声を失う。鳳来も見惚れてしまったのか固まっている。見かねた愛里須が鳳来の頭を下げさせ、ようやく宴会が始まった。
不知火が鳳来の横に座り、酒を注ぐ。鳳来の酒が進む、進む。その姿を見て、愛里須が呆れ顔でため息を吐く。
「ねぇ、桜ちゃん。どうして男ってあーなのかしら。綺麗なのは、分かるけどさ。あれが私のお父…技師長かと思うと情けないわ。」
愛里須の言葉に流石の桜も笑うしかなかった。
「すみません、愛里須さん。うちのお母様が」
撫子が愛里須の汁物を用意しながら謝る。その言葉を聞いて、愛里須が慌てて
「えっ?…えぇー、撫子ちゃん達のお母さん??ご、ごめんなさい。」
と返す。そして、
「でも、撫子ちゃん達のお母さんなら、あの美貌も納得だわ。というか、凄く若くない??いったい何歳なの?」
と聞いてきた。
「かぁ様はね、たしかひゃ…」
桜が得意げに応えようとした瞬間に不知火の目が光り、桜の言葉が止まる。
「桜。今、何を言おうとしたのかしら。」
不知火の言葉に桜が身震いしながら愛里須の後ろに隠れる。
「すみません、私が失礼な事を聞いてしまって。」
桜の代わりに愛里須が謝ると不知火は
「あら、気にしないでちょうだい。それと私は、20代だから。」
と答えた。嘘だと分かっていても誰も反論できない。
「ところで、愛里須さん?だったかしら。その手の指輪は?」
不知火の言葉に愛里須は、
「これですか?」
と言って、左手の薬指で輝く指輪を見せた。撫子と桜が目を輝かせる。そして、
「それってもしかして」
と聞くと愛里須は、照れながら
「私ね、阿天坊 愛里須になったの。」
と答えた。愛里須は、今年の初めに虎徹と結婚していた。撫子と桜は、大はしゃぎで
「おめでとう、愛里須ちゃん。」
「おめでとうございます、愛里須さん。」
と愛里須に祝福の言葉を贈った。3人の笑顔と同じくらいに左手の指輪がキラキラしている。
「あら素敵な指輪ね。どうやら世の中では、結婚指輪は当たり前のようね。ねぇ、な、が、と。」
3人とは裏腹な殺気のこもった不知火の声色に長門の姿は既になかった。不知火は、先程の清楚な姿は何処へやらムスッとした姿で鳳来の横に座った。それを気遣ってか、鳳来が不知火の酒を注ぐ。不知火が落ち着いたところで、鳳来が声をかける。
「人孤の里長よ。ヌシは、隠さないんだな。」
鳳来の視線の先には、不知火の9本の尾がある。不知火は、自分の尾を触ると
「そうですね。いつもなら尾の輪をつけて隠していますわ。でも、隠したところでご存じだったのでしょ。わざわざ今回の依頼に宗睦様自らが来られたんですから。」
と返した。鳳来は一度口を紡ぐと
「【竜の巫女に連なる者は、極馳走(ごくちそう)なり】。誰が言ったか分からんが、その言葉が世界に広がった後、竜の巫女に関する者は、歴史から消えていった。俺も伝承を受け継ぐ身ではあったが、その能力は信じ難いものだった。永遠殿に会うまではな。」
と言った。不知火は、目を細めて鳳来を見ると
「それで宗睦様は、その存在をどうするつもりですか?」
と問う。鳳来は、その問いに
「ただ、感謝を言いたい。俺の命は、其方達がいてくれたからこそ救われた。有難う。」
と頭を下げた。不知火は、鳳来から注がれた酒に口をつけると
「そうですか。ですが、礼なら永遠様に言って下さい。私達は、何もしておりませんので。」
と返した。そして、撫子達に囲まれている永遠を見ると
「本当に永遠様は、不思議な方ですね。実は、私達も永遠様に救われたんです。まるで、窮地から私達を救う為に神様から遣わされたかのように。」
と加えた。鳳来も永遠を見る。そして、何かに頷くと
「なら、永遠殿に恩を返す為にも此処を俺達の里の友好里にしてもらえないだろうか?」
と不知火に提案した。急な提案に不知火が
「巨人族の友好里ですか?それは願ってもない事ですが。」
と返すと鳳来は、
「永遠殿は、此処が襲撃されないかと憂いておってな。此処の防衛用にと宝具を依頼してきたんだ。だが、此処が巨人族の友好里となれば、襲撃の抑止力になるだろう。」
と加えた。不知火は、
「そうでしたか。永遠様は、この里を離れた後の事まで。本当に感謝しきれませんね。」
そう言うと再び鳳来と自分の盃に酒を注ぎ、
「宗睦様。その申し出、有り難く、お受けさせていただきます。今後とも我らが里をよろしくお願い致します。」
と言って、酒を酌み交わした。その後、宴会は、夜遅くまで続いた。
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