神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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新たな宝具

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雪が溶け始め、春の陽気が里を包む。この数ヶ月は、何事もなく平和な日々だった。唯一変わった事があるとしたら、長門の稽古が厳しくなった事だろうか。正直、八つ当たりな気もするが、実戦的な鍛錬は、良い経験になった。オレの稽古に付き合うように撫子と桜も不知火や神楽から稽古を受けていた。稽古の動きを見て実感したが、撫子達の身体能力は高い。俊敏性は、明らかにオレより上だ。撫子達だけじゃない、馬人族は、巨大な斧を振っていた。おそらく亜人種は、各々が獣族の特性を多少なりと受け継いでいるのだろう。
いつもの様に道場で長門と木刀を交えていると神楽が突然入って来た。
「永遠様、兄貴。ちょっと手伝ってくれない。」
神楽の焦った表情に、長門は汗を拭きながら
「急にどうしたんだ、神楽。」
と返した。神楽は、里の入り口を指すと
「ついに頼んでいた金庫が来たんよ。」
と言って、オレ達の腕を引いて道場を出た。
オレ達が里の入り口に着くと同時に不知火と撫子達もやって来た。桜が入り口にいた見知った顔に大きく手を振る。そこには、鳳来と愛里須が待っていた。その後ろには、荷車の上に1部屋位あるんじゃないかと思われる鋼鉄製の金庫と数人の従者。そして
(えっ??)
目を疑う様な巨大なシベリアンハスキーが座っていた。鳳来が手を上げてオレ達を呼んでいる。オレは、巨大な犬の存在に内心ドキドキしながら、鳳来達の所にむかうと
「お久しぶりです、鳳来さん。体の方は、もう大丈夫なんですか?」
と挨拶した。鳳来は、オレの肩を軽く叩くと
「おぉ、永遠殿。久しぶりですな。お陰様でこの通りじゃ。あの時は、世話になった。」
と返してきた。
「何がこの通りじゃよ。来る途中、腰が痛いだの、肩が凝っただの、こりゃ火傷の後遺症だ、なんて言ってたの誰よ。」
横から愛里須が割って入る。最初は、プンプンしていた愛里須だが、いつの間にか笑顔になっている。心なしか以前より愛里須と鳳来の関係が縮まっている気がする。
「ところで、後ろにいる…そのイヌ?は、どうしたんですか?」
オレがそう尋ねると鳳来は、
「ああ、こいつか。」
と言って、巨大なシベリアンハスキーの頭を撫でに行った。
「こいつは、ペロって言ってな。俺の相棒だ。」
その言葉を聞いてペロが鳳来の体に頭を擦り付ける。だいぶ鳳来に懐いているようだ。オレも恐る恐る近づくとペロは、オレの頭を一度嗅ぎ、
「ヌシが我が主人(あるじ)を救ってくれたヒト族か。感謝するぞ。」
と頭を下げた。後から聞いた話だが、ペロは、犬種の獣族で、小さい頃に群から逸(はぐ)れて死にかけたところを鳳来に助けられたそうだ。そして、その恩に報いるためにと今回の様な護送や鳳来の護衛をしているとの事だった。鳳来が襲撃された時は、別の護送でいなかったらしい。
オレ達は、久しぶりの再会を終えると総出で巨大な金庫をギルド支部に押し込んだ。採寸は、ピッタリ。これだけ頑丈で大きな金庫なら滅多な事がない限り盗まれる事はないだろうが、最後の仕上げにと金庫の背を土壁と木材で覆った。ギルドの中に入ると神楽が目を輝かせながら、オレ達を金庫のある奥へと連れて行った。神楽は、自分サイズの扉の前に立つと、鳳来から聞いたダイヤル操作と預かった鍵で扉を開けた。神楽のドヤ顔がすごい。金庫の中は、見た目通り六畳間程の広さがあった。これなら大金がきても大丈夫だろう。
その後、里の広場に鳳来達用のテントを立てて、宴会をする事になった。本来なら他里の要人は、神殿でもてなすのだが、鳥居が障害になったり、神殿の大広間でも鳳来達には手狭になってしまうため、広場に設営される事になったのだ。設営の間、オレと撫子達は、鳳来に呼ばれて頼んでいた装備の説明を受けた。最初に武器。
撫子
武器 薙刀(宝具 焔(ほむら))
特性 炎系魔法の威力増強
武器 鉄扇(宝具 鳳凰炎姫(ほうおうえんき))
特性 炎系魔法の範囲拡大

武器 短剣(宝具 疾風乱舞(しっぷうらんぶ))
特性 風系魔法の威力増強
武器 短剣(宝具 華月(かづき))
特性 風系魔法の範囲拡大
新しい武器に撫子も桜も喜んでいる。不知火達からの特訓の成果もあって、各々の武器を上手く使えているようだ。続いて防具だが、その前に鳳来から謝罪があった。
「永遠殿、申し訳ない。実は、永遠殿から頂戴した毛髪の数本をうちの研究員が隠し持っていたのだ。当然、その研究員は破門にしたのだが、外里の研究員とはいえ身内の失態だ。本当に申し訳ない。」
頭を下げる鳳来にオレが
「別に鳳来さんが悪い訳ではないので、気にしないで下さい。それでその髪の毛はどうなったんですか?」
と返すと鳳来は、
「それなんだが、貴重な素材だったのでな。事後承諾で申し訳ないが、今回の防具に組み込んでみたんだ。駄目だっただろうか。」
と返してきた。
『竜の巫女の能力の付与?魔力、それとも不死。どちらにせよ大きな能力になるじゃないか』
感謝しかない。
「ありがとうございます。すごく助かります。」
オレの少し興奮気味の返答に鳳来は、
「それは良かった。あの毛髪を組み込んだ事で回復力が通常より高くなったんだが…そのなんだ…」
と言って困った表情を見せた。
「どうしたんですか?」
オレの言葉に鳳来が箱から宝具を取り出す。
「・・・・。」
置かれていく宝具を見て、言葉が止まった。
『これって防具?防具というより、下着じゃないか。確かに軽装備をお願いしたけど。」
目の前に出された宝具の中には、数点のコルセットとキャミソールがあった。しかも生地部が非常に薄い。明らかに肌が透けて見える。
「これは?」
オレの疑問に鳳来は、若干目を逸らしながら
「貴重な能力の付与には成功したんだが、能力を均一にしたら、薄生地になってな。一応、弁解しておくが、デザインは、お袋と愛里須だ。俺は断じて関与していない。」
と答えた。鳳来の顔が少し赤い。憤り、いや恥ずかしさからだろう。だが、誰も鳳来を責められない。あのコルセットやキャミソールを着た撫子達を妄想したら、大抵の男は興奮してしまうと思う。言葉の続かない鳳来は、愛里須を呼ぶと撫子達を連れて、宝具の試着をさせに行かせた。元凶がなくなり、再び鳳来の口が開く。
「まあ、なんだ。優秀な能力が故にあんな感じになったわけだ。まあ、お袋が言うには、長旅になるなら、薄手の方が良いってよ。」
鳳来の歯切れが悪い。微妙な空気が包む中、鳳来が装備の説明をする。
撫子 桜
防具 コルセット(宝具)
特性 魔法耐性(コルセットのワイヤーに使用した神石により、属性が異なる)
   自然回復力の向上
防具 キャミソール(宝具)
特性 自然回復力の向上
防具 ……(宝具)
特性 ……
鳳来の説明が続く中、オレが尋ねる。
「確認ですけど、先程の品って、能力的には神具じゃないんですか?」
オレの問いに鳳来は、首を振った。
「俺もあれだけの素材があったんだ。何とか神具に昇華できないかと試みたんだが、無理だった。まだ、俺の技術では初代には及ばない事を実感させられたよ。だが、神石の性質を変える事はできた。お陰で宝具に新しい特性を付与できた訳だが、宝具は宝具だ。」
「つまり、特性を維持するためには…」
「その特性に準じた魔力補給が必要って事だな。まあ、夫婦なんだろ。問題あるまい。」
鳳来は、それ以上の説明をしなかった。
『宝具としての能力を維持したいなら、オレの魔力を補給をしろと…まさか、その為にあの形にしたのか?』
「鳳来さん」
オレの言葉に鳳来は、目を合わさず
「だから、先程言ったではないか。デザインは、お袋と愛里須だと。」
と答えた。
『マダムと愛里須の策略かぁ』
オレの口からは、言葉の代わりにため息しか出なかった。
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