神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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指輪

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新年の朝日が障子戸の隙間から差し込む。その明るさとは裏腹に目が覚める様な冷たい空気が鼻を通過する。
『そういえば撫子は、あの姿のまま』
そう思い、撫子の脱いだ寝衣を探したがない。寝衣どころか両隣にいたはずの撫子も桜もいなくなっていた。数時間前の濃厚な時間から一転、虚無感におそわれ、とりあえず寝室から出る。吐く息が白い。芯まで冷える寒さに身震いしていると
「永遠様、おはようございます。」
「おはよう、永遠ちゃん。」
と撫子と桜が挨拶してきた。
「おはよう。な…」
挨拶を返そうとして息が詰まる。2人は、真っ白な生地に赤い紡ぎ糸と金の刺繍が施(ほどこ)された巫女服を身に纏い、雪光に照られた廊下で佇(たたず)んでいた。髪には、華飾りの簪(かんざし)。色白の顔に紅色の化粧が映えている。美に磨きがかかっている。いつもながら見惚(みと)れてしまう。
「どうしたんですか?永遠様。」
見惚れて言葉を失うオレに撫子が声をかける。
「いやぁ、2人とも綺麗だなぁって」
オレの素直な感想に撫子も桜も笑みが溢れる。
「やだぁ、永遠様ったら朝からもぅ」
「えへへ。永遠ちゃん、もう一回…もう一回言って」
満面の笑みが朝日の様に輝く。
『輝く…あっ』
撫子と桜は、笑顔でオレの腕に至高の膨らみを当てると
「永遠様。今日は、朝から神事がありますので、早いですが、これから朝食なんです。」
「早く食べに行こう、永遠ちゃん。」
と言って、オレを広間に連れて行こうとした。胸という名の誘惑に負けそうになる。だが、オレは、
「ちょっと待ってくれないか。」
と言って、2人を寝室に連れて行った。何事かと困惑した表情を見せる2人を尻目にオレは寝室に隠していた小箱を取り出す。オレは、2人を座らせると目の前に2つの小箱を置いた。
「これは、愛里須さんが永遠様に渡していた。」
何かを思い出したかのように撫子の声が漏れる。
「本当は、結婚をする前に渡すものなんだけど、貰ってくれるかな。」
撫子と桜は、オレからの小箱を受け取ると中身を確認した。小箱を開けた瞬間に撫子も桜も目を見開く。
「永遠様、これは…」
「婚約指輪と結婚指輪だよ。ずっと前から渡そうと…」
オレの言葉が全部出切る前に撫子と桜が勢いよく抱きつく。
「嬉しいです、永遠様。ありがとうございます。」
「永遠ちゃん、ありがとう。だい、大、ダァい好き。」
満面の笑みでオレの頬に口づけするとそのままオレの耳をハムハムする。2つの大きな尻尾が激しく揺れる。どうやら喜んでくれた様だ。2人の愛情表現に応える様に頭を撫でる。
(じーっ)
視線と同時に声がする。
「ほぉ…あまりに遅いのでお迎えにあがったのですが、朝からお盛んな事ですね。」
その声に撫子も桜もびくんっとなり、身体を起こす。そして、ゆっくりと振り向くとそこには、誾が立っていた。この朝の情事にも慣れたのか、もうこっそり覗くような事はない。堂々と立っている。
「これなら私が生きているうちに後継様を見れそうで何よりです。まあ、それはそれとして、お2人とも早く朝食を…」
誾の小言が続き、反省の合図か桜が両手で耳を塞ぐ。
「ごめんなさい。直ぐに行きますから。誾は、先に行って下さい。」
撫子の言葉に誾は、一度2人を見て、
「それでは、広間にてお待ちしておりますので、お早めにお越しくださいね。」
と言って、廊下を歩いて行った。どうやら神事の時間が迫っているようだ。早く広間に行こうと寝衣から着替えると撫子が小箱を手にして、オレを上目遣いで見ている。少しの間をおいて撫子の紅色の潤った唇が動く。
「永遠様、そのお願いが…つけていただけませんか、指輪。」
愛おしい撫子のお願いにオレは、一度頷くと撫子の左手を取った。撫子は、瞳をキラキラさせながら、指輪とオレの手を見つめる。独特の緊張感。オレは、撫子の薬指に結婚指輪、そして、ピンクダイヤのついた婚約指輪をつける。流石、愛里須。ピッタリとはまった指輪が撫子の指で輝く。撫子は、左手を自分の前に翳(かざ)すと、うっとりとした表情で指輪を眺めている。
「永遠ちゃん、桜にもつけて。」
今度は、桜が左手を差し出してお願いする。オレが撫子と同じ様に桜の左手に指輪をつけると桜の表情がキラキラと輝く。桜が子供の様にはしゃいで撫子に抱きつく。そして、お互いの指輪を見せ合うと
「なぁちゃん、綺麗だね。」
「そうね、桜。私ね、今とっても幸せなの。」
と言葉を交わした。2人の視線がオレに注がれる。
(がばっ)
再び撫子と桜に押し倒され、何度も口づけされる。そして、撫子は、その艶やかな唇を耳元に近づけると
「この指輪は、宝物です。一生大切にいたしますわ。」
と囁いて、桜と一緒に再び耳をハムハムし始めた。癖になりそうな快感。だが、それを打ち消す様な音が鳴り響く。
(パシッ…パシッ)
張りのある音と共に
「あぁん」
「ひぃぃっ」
と撫子と桜の喘(あえ)ぎ声がこだまする。撫子と桜が恐る恐る後ろを振り向くと、そこには2人のお尻を叩き終えた誾が見下ろしていた。
「私を追いやってまた色事とは。これは、節度というものを教え直さないといけない様ですね。」
誾の言葉と表情に撫子も桜も顔が引き攣る。
その後、撫子と桜は、誾に小言を言われながら、乱れた衣装を直され、広間に強制連行された。広間に続く廊下で会う侍女達がクスクス笑う。新年も誾と撫子達の関係は良好のようだ。広間に着く前に誾がチラリとオレを見て笑う。
「それと永遠様。広間に入る前に顔にある無数の口紅は落とされた方がよろしいかと思いますよ。」
誾の言葉に顔に残ったキスマーク以上に顔が赤くなる。オレは、洗面所へと小走りで駆け込むとキンキンに冷えた水を顔へとぶちまけた。
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