神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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馬人族襲来

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オレ達は、里に戻る途中の森で、野宿をする事にした。今回は、寒くなってきた事もあり、陽が高いうちから準備を始めている。大和と八咫は、森に薪(たきぎ)を探しに行き、撫子と咲が料理の支度をしている。桜は、馬の世話をしている。オレは、いつもの様にソルアで居住施設を作成する事にしたが、今回は、寒さ対策として、暖炉の作成も試みた。何度も作っているうちに分かってきたが、ソルアの強度は、広さが6畳程度で高さが2.5メートル位が限界のようだ。だが、その範囲であれば、凹凸は、イメージ通り作る事ができるようになっていた。オレは、居住施設を二つ、馬の宿舎を一つ作成して、暖炉に火を入れてみた。暖かい。暖炉は、上手く機能している。だが、外からの通気口が入り口しかない事が分かり、入り口は、保温と通気を考え、布で覆う事にした。更に、地べたが冷たい事が分かり、暖炉から離れた場所にレジャーシート代わりに枯葉を敷き詰め、その上に茣蓙(ござ)を敷く事にした。まだまだ、旅をするには、準備が足りない。そう思い、落ち込んでいると撫子と桜が串焼きを手に中に入ってきた。
「お疲れ様です、永遠様。」
「永遠ちゃん、どーしたの?疲れた?」
オレの表情を見て、桜が心配そうにオレを見る。オレは、茣蓙を整えると
「大丈夫だよ。ただ、これから長い旅をする事になるから、しっかり準備をしないといけないなって思ってさ。」
と答えた。オレの言葉を聞いて、撫子と桜がオレを優しく抱きしめる。
「大丈夫ですわ。私達は、永遠様と一緒なら、どんな所でも生きていけますもの。」
「そうだよ、永遠ちゃん。ずーっと一緒だよ。」
2人の言葉にオレの不安が消え去っていく。オレは、2人を抱きしめると
「そうだな。」
と返した。撫子と桜は、オレの顔を見ると笑顔で答える。話が落ち着いたところで、撫子が
「それじゃあ、食事にしましょう。今日は、私の自信作です。」
と言って、オレの手を引いた。桜は、手に持っていた串焼きを一口食べて、頷いている。どうやら美味しく焼けているようだ。その後、皆で食事を取り、眠りについた。
翌朝、準備を整えると里に向けて出発した。大和は、前回と同じ様に見張りを買って出てくれたため、馬車の中で眠りについている。桜が大和に毛布をかける。冬の澄んだ空気の中、馬車を走らせると里の方から誰かが走ってきた。八咫が馬を止める。突然の事にオレ達が馬車から顔を出すと、そこには、馬人族の男が立っていた。馬人族の男は、オレ達を見ると驚いた様な表情を見せて、里の方へと引き返した。八咫が振り向く。
「永遠殿。」
八咫が指示を伺う様にオレを見る。嫌な予感がする。オレは、八咫に
「里に急いでくれ。」
と指示して、急いで馬を走らせた。里に近づくにつれて、焦げ臭い匂いが馬車に入ってくる。その匂いに大和も目を覚ます。里の方から煙が立ち上っている。
「永遠ちゃん…」
桜がオレの腕を掴んで離さない。その時だった。八咫が急に馬車を止めた。里の入り口まで数十メートル。オレ達が馬車から降りるとそこには、人孤の門兵の死体と20体程の馬人族がいた。里の入り口からは、金属がぶつかり合う音が聞こえる。ただならぬ状況にオレ達も武器を構える。すると、先程会った馬人族が一際(ひときわ)デカい馬人族を連れてオレ達の前に現れた。
「武盧芭(ぶのば)様、奴らが先程お話しした者共です。」
武盧芭は、大きな斧を肩に担ぎ、オレ達を見下すように見た。そして、ニヤついた表情を見せると
「九尾の娘がいないってのは、本当だったようだな。もう、里には用はない。火を放って皆殺しにしろ。あぁ、いい女がいたら、お前達の玩具にしていいぞ。」
と言って、部下達に突撃の指示を出した。その言葉に馬人族達が、奇声を上げて門へと傾(なだ)れ込んで行く。
「やめてー!!」
桜の悲痛な叫びが響き渡るが、馬人族達の耳には届かなかった。オレが馬人族達に攻撃を仕掛けようとすると、武盧芭は、担いでいた斧を大地に突き刺し、牽制した。だが、その一瞬の隙をついて大和が門の方へと向かった。
「武盧芭様、どうしますか?」
武盧芭と一緒に残った副官らしき馬人族が武盧芭に声をかける。武盧芭は、手を振ると
「ほっておけ。所詮、老兵だ。何もできん。それよりもだ。」
と言って、こちらを見る。
「噂通り良いメスじゃないか。」
武盧芭は、そう言うと、イヤらしい眼差しで、撫子と桜を隅々まで見定める。その視線に撫子は、嫌悪するように
「気持ち悪い。」
と吐き捨てた。そして、桜は、変質者から身を守るようにオレの後ろに隠れた。その光景に武盧芭は、撫子達を睨みつけて
「態度には、気をつけろよ。これから、俺様の玩具になるんだからな。」
と言い放った。撫子は、武盧芭を睨み返すと
「何言ってんの?馬鹿なんじゃない。」
と返し、オレの後ろにいた桜も姿を見せ、
「私達は、永遠ちゃんのものなんだから。」
と言った。その言葉を聞いた武盧芭は、副官に何かの合図をして
「あぁ、知っているよ。コイツから聞いたからな。」
と言って、副官の持って来た大きな麻袋を取り上げ、オレ達の前に投げ捨てた。その衝撃で麻袋の口が開き、中から颯の死体が顔を出した。その衝撃に撫子も桜も言葉を失い、たじろぐ。撫子達の状況を見て、武盧芭は、ゲラゲラ笑うと
「俺様はな、お前達を助けてやろうと言ってるんだ。非力な人族の代わりに俺様がお前達の主人になってやる。感謝しろよ。」
と言って、副官から何かを受け取ると、撫子達の前に投げ捨てた。地面に投げ捨てられたのは、首輪だった。撫子と桜の心が過去のトラウマに囚われる。引き攣る2人の表情を見て、武盧芭は、
「それをつけろ。そしたらお前達を俺様の家畜妻として飼ってやる。嬉しいだろ。」
と言って、ニヤける。恐怖に怯える撫子と桜の姿見て、オレの中で何かが弾けた。オレは、ゆっくりと武盧芭に近づく。オレを目の前にした武盧芭は、不敵な笑みを浮かべる。そして、地面に突き刺していた斧を持ち上げると
「そう言えば、今は、コイツがお前達の主人だったな。コイツの首が落ちるところを見れば、お前達も俺様の家畜妻になるという自覚ができるだろう。よく見ておけ。」
と言って、斧を振り下ろした。オレの強さを知っている撫子達も振り下ろされる大きな斧(恐怖)を見る事ができず、目を背ける。オレは、笑いながら斧を振り下ろす武盧芭を睨みつけると
「死ね。」
と一言言って剣を振り上げた。切った感覚がない。だが、武盧芭の腕と体は、切り離されていた。斧を持った腕が回転しながら、後方にあった木に突き刺さる。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
武盧芭の叫びとともに血飛沫(ちしぶき)が舞い散る。副官は、その光景に腰を抜かし、地べたに腰をつけながら後退りをしている。涙を浮かべ、のたうち回る武盧芭の目に煙と雲が真っ二つに割れている空が映る。その時、武盧芭は、死を悟った。無様に逃げようとする武盧芭の足をオレがぶった斬る。
「逃げんじゃねぇよ、馬面。オレの女に手を出した以上、簡単に死ねると思うなよ。」
片腕、両足を失った武盧芭は、口をパクパクさせながら、言葉になっていない謝罪をし続けた。だが、頭が怒りで満たされているオレに届くはずがなかった。オレが武盧芭の残っている腕を切り落とそうとした時、撫子と桜がオレを強く抱きしめた。
「永遠ちゃん、やめて。」
「永遠様。私達、大丈夫ですから。…だから、もう、やめて下さい。」
撫子達の言葉は、武盧芭を助ける為の言葉ではない。それをオレに伝えるかのように撫子も桜も、強く、強く抱きしめた。頭に満たされていた怒りが薄れていく。オレは、剣についた血を振り払うと、怯えた目でオレを見る副官に
「さっさとコイツを連れて出て行け。だが、覚えておけ。次にオレの家族に手を出した時は、容赦はしない。」
と言い放った。副官は、何度も頷く。そして、余裕が無かったのか、武盧芭を見捨てて、逃げ去った。放置された武盧芭は、生きてはいるが、出血と痛みで意識を失っている。我に返って自分の残虐性が怖くなる。撫子達が止めずに、あのままオレが惨虐の限りを尽くしていたらと思うと手が震える。そんなオレの手を撫子と桜の手が優しく包む。
「ありがとう、撫子、桜。」
オレが礼を言うと撫子と桜は、
「永遠様は、私達のために戦ってくださいました。とても嬉しかったです。ありがとうございます。」
「永遠ちゃん、大好きだよ。」
と言って、オレの胸に頭を押し付けた。また、オレは、愛しい2人に救われた。オレは、2人の頭を優しく撫でると武盧芭を放置して、里の救援に向かった。
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