神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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世界地図

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鳳来は、久しぶりの葉巻を味わうようにゆっくりと吸った。
「鳳来さん、体に障(さわ)るんじゃないですか。」
オレが鳳来の体に気を使うと鳳来は、顔を排気口の方に向け、息を吐いて
「なんだ。永遠殿も愛里須みたいな事を言うんだな。入院中は、1本も吸えなかったんだ。今くらい目をつむってくれんか。それと愛里須には内緒に頼む。」
とオレに頼んだ。オレは、鳳来が一服を終えるのを待って、竜の巫女について確認した。
「竜の巫女は、黒竜石の剣を奉納した後、彼の地に戻ったと言ってましたが、その場所は分かりませんか?」
オレの質問に鳳来は
「場所は、フレイヴェール。魔法神ソフィア様の居城があった都市だ。」
と答えた。
『環から聞いた話と同じだ。間違いなく未来は、フレイヴェールにいる。』
「そのフレイヴェールは、何処にあるんですか?」
オレが前のめりになりながら聞くと鳳来は首を振り
「残念だが、フレイヴェールの場所は分からん。信憑性のない話をするのは、意に反するのだが、フレイヴェールは、竜の巫女が戻った後、忽然(こつぜん)と世界から消えたって話だ。」
と答えた。
『消えた?環が言ってた国ごと外界から切り離したって話か。巨人族の知識で場所が分からないとなると物理的に行き来できない、または認識できない状況。だが、そんな事できるのか?』
オレが続けて質問する。
「フレイヴェールの場所を探す方法はありませんか?」
オレの質問に鳳来は少し考えると
「無いわけではないんだが。」
と答えた。オレが
「あるなら教えて下さい。」
と言うと鳳来は、
「オリバー様に聞く…それしかないだろうな。」
と返した。オレが
「それは、鳳来さんにオリバー様を憑依させる神代共鳴技法でという事ですか?」
と聞くと鳳来は首を振った。
「神代共鳴技法は、あらゆる技術や知識を与えてくれるが、それは万人対して救済する為のモノのみなんだ。個人に対するモノには応えてはくれん。」
「それじゃあ、どうやって」
オレが聞き返すと鳳来は
「実際に会いに行くしかないな。オリバー様は、直接会いに来た者に対して、どんな事でも応えてくれるという話だ。だが、オリバー様のいるシドニーは、内海(うちうみ)にある大島。行く方法は、幾つかあるが、どれも危険を伴う。」
と答えた。知っている知識と知らない知識が混ざった答えに更に尋ねる。
「シドニーは分かりますが、内海って何ですか?」
オレの質問に鳳来は、不思議そうな顔をすると
「永遠殿は、有識者だと思っていたが、内海を知らんかったか。」
と言って立ち上がった。そして、工房に転がっていた鉄金庫をこじ開けると中から大きな布紙を取り出した。鳳来は、その布紙を見せると
「流石に少し燻(くず)んじまったな。これが世界地図だ。内海は、大陸に囲まれたこの海の事だ。因みに大陸の外にあるのは、外海(そとうみ)だ。」
とオレに教えた。オレは言葉を失う。地殻変動でも起こったのか?そこには、ベーリング海峡がなくなり、アフリカ大陸と南アメリカ大陸が南に大きく伸びることで南極大陸と繋がったリング状の大陸が描かれていた。驚愕と共に疑問が過ぎる。
「鳳来さん、内海は分かりました。でも、これじゃあ、至る所で異常気象が起こるんじゃないですか?」
オレの質問に鳳来がニヤリと笑う。
「永遠殿は、流石だな。巨人族でもない者がこの地図を見て、その疑念を抱いたのは初めてだ。先程は、大陸に囲まれているとは言ったが、実際、以前海峡や海だった場所は、潮の満ち引きで外海と繋がる時間があるんだ。だが、それが要因となって異常気象が起こるようになった。自然災害と言ってしまえば、それまでだが、それを未然に防いでいる方がいる。自然神リリアナ様だ。リリアナ様は、自身の眷属である精霊を各地に配置する事で自然状態を管理し、異常を検知すると自身の神力を駆使して事前に対処しているとの事だ。逆に言えば、リリアナ様の怒りを買えば、加護を失い…そこまで言えば、永遠殿は理解できるでしょうな。」
『ふるわれたら決して抗えない脅威。リリアナ様の敵にはならない様にしよう…って、まてよ。オレは、その精霊を食べて…』
オレは、不安という名の生唾を飲み込むと頷いて答えた。鳳来が話を続ける。
「海流や大気。それを考慮した上で、シドニーに行くとなると鳥族などの飛翔生物の能力を借りるか、一番近い港から船を出してもらうかだな。ただ、船の場合は、それなりの規模の船でなければ、大型の水生族に襲われた時にまず助からない。奴らは、念話で会話はできるが、外界と繋がりを持とうしない者が多くてな。何を考えているか分からんのだ。それ故に海航には、それなりの準備が必要になると思っていた方がいい。」
「ありがとうございます。とりあえずシドニーへ向かう方法を考えようと思います。」
オレの返答に鳳来が地図を片付けようとする。オレは、それを引き止め、更に確認する。
「すみません。もう一つ教えてもらってもいいですか?」
「ん?」
「鳳来さんは、竜の谷の場所は知りませんか?」
オレの質問に鳳来は、再び地図を広げると
「詳しい場所は、分からんが、この辺りの山間部に竜の住処があると聞いたことがあるぞ。」
と言って、指を差した。そこは、カナダの西岸部に伸びるカナディアンロッキーの辺りだった。鳳来は、地図を畳むと
「永遠殿は、竜族にも用があるのか?そういえば、竜族の宝具を持って来たって言ってたな。どういう関係なんだ?」
と聞いてきた。オレは、竜戦の事、そして、その裏にいた黒マントの男について話した。
「なるほどな。それでオレを襲った黒マントの奴を。…しかしだ、竜族に貸しがあるなら、シドニーへの移動は、竜族に頼むのが良いかもしれんな。竜王への貸し、それに竜の巫女の縁者の頼みなら竜族は断らないだろう。何より竜族が運んでくれるなら他の種族から襲われる事はない。安全にシドニーに行く事ができる。」
『確かに竜族なら安全に行く事ができるだろう。でも、シドニーからは離れる事になる。それに竜族に会える確証があるわけじゃ…いや、ここは安全をとるべきだ。それに竜族も未来の情報を持っているかもしれない。』
「分かりました。鳳来さんの言う通り、まず竜の谷を目指そうと思います。」
オレの返答を聞くと鳳来は、畳終わった地図をオレに渡した。
「そうか。旅の道筋が決まった様で良かった。これは、旅の選別だ。ちと汚いが旅の役に立つだろう。」
「ありがとうございます。」
オレは、鳳来に感謝を言って世界地図を受け取った。
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