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竜の巫女と二振り剣
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3日後、鳳来に呼ばれ、オレは、鳳来の工房に来た。工房は、爆発の影響で鉄屑などが散乱していた。
「すまんな、永遠殿。まだ散らかったままなんだが、許してくれ。竜の巫女の話をするなら此処がいいと思ってな。」
鳳来は、そう言うと工房にあった椅子に腰掛けた。一時的な外出は許されたが、まだ体力は戻っていない様だ。もしもの事に備えて工房の外では歐雷が待機している。
「こちらからお願いしていて何ですが、大丈夫ですか?無理されなくても。」
オレが心配し、鳳来に声をかけると
「心配かけますな。だが、永遠殿のおかげで傷は完全に塞がっとるんですわ。ただ、まだ力が入らんところもあるもんでね。」
と返した。鳳来の言葉に竜戦の時を思い出す。
『オレが身体を失った時に感覚がなかったのと一緒だな。オレの場合は、一時だったけど、再生の際は、神経が接続される迄に時間がかかるみたいだな。』
「しかし、大きな爆発だったんですね。一体何があったんですか?」
オレがそう聞くと鳳来はあの日を思い出すかのように目をつむった。
「すみません、嫌なことを思い出させてしまって。」
俺の言葉を手で遮ると鳳来は、ボロボロになった工房全体を見渡して
「いや、いいんだ。この光景を見れば、誰でも抱く疑問だ。他の者達にも聞かれた。ここで起こったのは…水素爆発だ。」
と答えた。
「それって錬成過程で生じた水素でという事ですか?」
オレが再び訊ねると鳳来は一度頷いて、
「永遠殿は、錬成については、もう知っているようですな。そうだ。錬成によって生じた水素に引火して爆発したんだ。」
と答えた。
『引火した?エネルギー反応を省略できる錬成で?』
オレの疑問に満ちた視線に鳳来が気づく。
「永遠殿は、科学的な知識もお持ちのようですな。この話は、一族、それも一部の者しか知らない事。永遠殿も他言無用でお願いしたい。」
鳳来の言葉にオレが頷くと鳳来は
「今回の爆発は、人為的に起こったものだ。黒マントを纏った者によってな。」
と答えた。
『黒マントを…』
鳳来が話を続ける。
「彼奴は、この工房に現れるなり、俺に白竜石の剣を造るように言ってきた。だが、材料が無ければ造れる訳がない。それに求められれば何でも与える訳じゃないだ。俺達巨人族は、それが本当に必要な物か判断できなければ造らない。俺が断ると彼奴は急に火を放ってきやがった。それが副産物で発生していた水素に引火して爆発したってわけだ。」
『白竜石の剣…あの角輪と同じ能力を有する物を求めてきたという事は、撫子達を隷属化した黒マントの仲間で間違い無いだろう。』
「その黒マントの奴は、どうなったんですか?」
オレの質問に鳳来は
「爆発に巻き込まれて死んだよ。あの爆発は、彼奴にとっても予想外だったんだろ。」
と答えた。そして、少し間を置くと
「いや、正確には、死んだはず…なんだろうな。」
と加えた。オレが
「どういう事ですか?」
と聞くと鳳来は焦げついた壁を見て
「俺は、爆発に巻き込まれ火だるまとなった彼奴が、その壁に倒れかかったのを見たんだ。だが…彼奴の遺骨は見つからなかった。いくら神子持ちでも骨は残る。」
と答えた。
「黒マントの仲間…協力者がいるという事ですか?」
オレの言葉に鳳来がため息を吐く。
「正直、考えたくないが、その可能性が高いな。しかも此処の警備体制、事故後の処理を考えると身内である可能性がな…」
『なるほど。だから、事故の真相を隠していたという事か。』
「もし、黒マントの仲間が予想通りなら炙り出せるかもしれません。」
オレは鳳来にそう言うと思いついた作戦を鳳来に話した。鳳来は、その作戦を受け入れると、外にいた歐雷の部下を呼び、阿天坊へ作戦指示を書いた封書を届けさせた。
鳳来は、工房の扉を閉めると
「すまんな。永遠殿には、また世話になってしまった。」
と声をかけた。オレは顔を横に振ると
「いえ、オレも黒マントの仲間に聞きたい事ができたので。」
と返した。オレの言葉に鳳来は
「白竜石の剣ですか…」
と一言言うと再び椅子に腰掛け
「では、そろそろ竜の巫女の伝承について話しましょうか。」
と言い、オレに近くにあった椅子に座るよう促した。オレが椅子に座ると鳳来は、竜の巫女の伝承について話し始めた。
「伝承を話す前に言っておくが、俺達巨人族は、賢神オリバー様の眷属だ。俺達の技術も知識も錬成術もオリバー様から賜ったものだ。その能力を高め神子を介し、受け継いでいくのが俺達巨人族の使命だ。その継承されてきた知識の中に竜の巫女について記録があるんだ。竜の巫女が現れたのは、今から約1,300年前。竜神母アメリア様と一緒に竜神リアム様の鱗を持って、初代宗睦の前に現れたそうだ。当時、竜族に対抗できる武器はなく、あの強固な皮膚を切り裂くには、同質以上の武器が必要だった。だが、初めて見る黒竜の鱗に初代宗睦は頭を抱えた。剣に鍛えるための技術がなかったんだ。そのため初代宗睦は、里長のみに引き継がれる技術、"神代共鳴技法"を使ってオリバー様とシンクロする事で黒竜の鱗を剣に鍛えたそうだ。その期間は、数ヶ月。これほど長く神代共鳴技法を使用できたのは、初代宗睦だけだと聞いている。そして、その長い期間は最強の武器と共に強力な副産物も生み出した。それが対価神撃だ。俗にいう魔剣の理(ことわり)だな。だが、ここで問題が生じた。完成した黒竜石の剣の対価神撃の代償が生命だったんだ。完成した瞬間に手に持つ事すらできなくなった武器に初代宗睦は絶望したそうだ。だが、世界の危機が近づく状況に初代宗睦とオリバー様の出した結論はもう一振り剣を打つ事だった。その時使用したのが竜神母アメリア様の鱗だ。ただ、鍛えてもリスクを伴う武器では意味が無いと考えた初代宗睦は、まだ真偽が定かでなかった技術、神子持ちの血肉を加える事で武具に能力を与える内包神力という技術を使う事にしたんだ。賭けではあったが、アメリア様の鱗と血を加えて鍛えた剣は、対価神撃が備わず、魔法を打ち消すという内方神力を備えた武器になった。しかも、携える事で対価神撃の代償を無効にはできないが、抑える事ができる事が分かった。まあ、その原理の解明が魔剣造りの普及になっちまったんだがな。その偶然の副産物によって竜の巫女は、万物を斬り裂く最強の剣と魔法を打ち消し生命を守る剣の2振りを持つ事になったんだ。その後、竜神リアム様を打ち倒した竜の巫女は、再びこの地に戻り、一つの宝玉の作成を頼んだそうだ。その宝玉は、あらゆる魔法の干渉を拒み、弾き返すという能力を有する神具だったそうだ。竜の巫女は、その神具を黒竜石の剣の鞘に取り付けると聖戦の地に奉納し、彼の地に戻ったそうだ。これがこの里に残っている竜の巫女の伝承だ。」
鳳来は、話し終えると隠し持っていた葉巻を取り出し、一服し始めた。
「すまんな、永遠殿。まだ散らかったままなんだが、許してくれ。竜の巫女の話をするなら此処がいいと思ってな。」
鳳来は、そう言うと工房にあった椅子に腰掛けた。一時的な外出は許されたが、まだ体力は戻っていない様だ。もしもの事に備えて工房の外では歐雷が待機している。
「こちらからお願いしていて何ですが、大丈夫ですか?無理されなくても。」
オレが心配し、鳳来に声をかけると
「心配かけますな。だが、永遠殿のおかげで傷は完全に塞がっとるんですわ。ただ、まだ力が入らんところもあるもんでね。」
と返した。鳳来の言葉に竜戦の時を思い出す。
『オレが身体を失った時に感覚がなかったのと一緒だな。オレの場合は、一時だったけど、再生の際は、神経が接続される迄に時間がかかるみたいだな。』
「しかし、大きな爆発だったんですね。一体何があったんですか?」
オレがそう聞くと鳳来はあの日を思い出すかのように目をつむった。
「すみません、嫌なことを思い出させてしまって。」
俺の言葉を手で遮ると鳳来は、ボロボロになった工房全体を見渡して
「いや、いいんだ。この光景を見れば、誰でも抱く疑問だ。他の者達にも聞かれた。ここで起こったのは…水素爆発だ。」
と答えた。
「それって錬成過程で生じた水素でという事ですか?」
オレが再び訊ねると鳳来は一度頷いて、
「永遠殿は、錬成については、もう知っているようですな。そうだ。錬成によって生じた水素に引火して爆発したんだ。」
と答えた。
『引火した?エネルギー反応を省略できる錬成で?』
オレの疑問に満ちた視線に鳳来が気づく。
「永遠殿は、科学的な知識もお持ちのようですな。この話は、一族、それも一部の者しか知らない事。永遠殿も他言無用でお願いしたい。」
鳳来の言葉にオレが頷くと鳳来は
「今回の爆発は、人為的に起こったものだ。黒マントを纏った者によってな。」
と答えた。
『黒マントを…』
鳳来が話を続ける。
「彼奴は、この工房に現れるなり、俺に白竜石の剣を造るように言ってきた。だが、材料が無ければ造れる訳がない。それに求められれば何でも与える訳じゃないだ。俺達巨人族は、それが本当に必要な物か判断できなければ造らない。俺が断ると彼奴は急に火を放ってきやがった。それが副産物で発生していた水素に引火して爆発したってわけだ。」
『白竜石の剣…あの角輪と同じ能力を有する物を求めてきたという事は、撫子達を隷属化した黒マントの仲間で間違い無いだろう。』
「その黒マントの奴は、どうなったんですか?」
オレの質問に鳳来は
「爆発に巻き込まれて死んだよ。あの爆発は、彼奴にとっても予想外だったんだろ。」
と答えた。そして、少し間を置くと
「いや、正確には、死んだはず…なんだろうな。」
と加えた。オレが
「どういう事ですか?」
と聞くと鳳来は焦げついた壁を見て
「俺は、爆発に巻き込まれ火だるまとなった彼奴が、その壁に倒れかかったのを見たんだ。だが…彼奴の遺骨は見つからなかった。いくら神子持ちでも骨は残る。」
と答えた。
「黒マントの仲間…協力者がいるという事ですか?」
オレの言葉に鳳来がため息を吐く。
「正直、考えたくないが、その可能性が高いな。しかも此処の警備体制、事故後の処理を考えると身内である可能性がな…」
『なるほど。だから、事故の真相を隠していたという事か。』
「もし、黒マントの仲間が予想通りなら炙り出せるかもしれません。」
オレは鳳来にそう言うと思いついた作戦を鳳来に話した。鳳来は、その作戦を受け入れると、外にいた歐雷の部下を呼び、阿天坊へ作戦指示を書いた封書を届けさせた。
鳳来は、工房の扉を閉めると
「すまんな。永遠殿には、また世話になってしまった。」
と声をかけた。オレは顔を横に振ると
「いえ、オレも黒マントの仲間に聞きたい事ができたので。」
と返した。オレの言葉に鳳来は
「白竜石の剣ですか…」
と一言言うと再び椅子に腰掛け
「では、そろそろ竜の巫女の伝承について話しましょうか。」
と言い、オレに近くにあった椅子に座るよう促した。オレが椅子に座ると鳳来は、竜の巫女の伝承について話し始めた。
「伝承を話す前に言っておくが、俺達巨人族は、賢神オリバー様の眷属だ。俺達の技術も知識も錬成術もオリバー様から賜ったものだ。その能力を高め神子を介し、受け継いでいくのが俺達巨人族の使命だ。その継承されてきた知識の中に竜の巫女について記録があるんだ。竜の巫女が現れたのは、今から約1,300年前。竜神母アメリア様と一緒に竜神リアム様の鱗を持って、初代宗睦の前に現れたそうだ。当時、竜族に対抗できる武器はなく、あの強固な皮膚を切り裂くには、同質以上の武器が必要だった。だが、初めて見る黒竜の鱗に初代宗睦は頭を抱えた。剣に鍛えるための技術がなかったんだ。そのため初代宗睦は、里長のみに引き継がれる技術、"神代共鳴技法"を使ってオリバー様とシンクロする事で黒竜の鱗を剣に鍛えたそうだ。その期間は、数ヶ月。これほど長く神代共鳴技法を使用できたのは、初代宗睦だけだと聞いている。そして、その長い期間は最強の武器と共に強力な副産物も生み出した。それが対価神撃だ。俗にいう魔剣の理(ことわり)だな。だが、ここで問題が生じた。完成した黒竜石の剣の対価神撃の代償が生命だったんだ。完成した瞬間に手に持つ事すらできなくなった武器に初代宗睦は絶望したそうだ。だが、世界の危機が近づく状況に初代宗睦とオリバー様の出した結論はもう一振り剣を打つ事だった。その時使用したのが竜神母アメリア様の鱗だ。ただ、鍛えてもリスクを伴う武器では意味が無いと考えた初代宗睦は、まだ真偽が定かでなかった技術、神子持ちの血肉を加える事で武具に能力を与える内包神力という技術を使う事にしたんだ。賭けではあったが、アメリア様の鱗と血を加えて鍛えた剣は、対価神撃が備わず、魔法を打ち消すという内方神力を備えた武器になった。しかも、携える事で対価神撃の代償を無効にはできないが、抑える事ができる事が分かった。まあ、その原理の解明が魔剣造りの普及になっちまったんだがな。その偶然の副産物によって竜の巫女は、万物を斬り裂く最強の剣と魔法を打ち消し生命を守る剣の2振りを持つ事になったんだ。その後、竜神リアム様を打ち倒した竜の巫女は、再びこの地に戻り、一つの宝玉の作成を頼んだそうだ。その宝玉は、あらゆる魔法の干渉を拒み、弾き返すという能力を有する神具だったそうだ。竜の巫女は、その神具を黒竜石の剣の鞘に取り付けると聖戦の地に奉納し、彼の地に戻ったそうだ。これがこの里に残っている竜の巫女の伝承だ。」
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