神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

文字の大きさ
上 下
46 / 113

宗睦 鳳来

しおりを挟む
…3日後
巨人の里 医療棟 個室
オレが目を開けると遥か上に見知らぬ天井があった。
「ここは?」
「ようやく目が覚めたのね。」
病室に入ってきた愛里須がオレに声をかけてきた。
「オレは?」
オレは、状況が整理できず、ぼんやり自分の左腕を眺めた。
「何があったか覚えてないの?」
愛里須は、近くにあった椅子に座るとオレに聞いてきた。
「薄らとは覚えています。…洞穴から出るまでですが」
オレの言葉に愛里須は
「そう…」
と一言言うとオレの腕をとり、血圧をとり始めた。
「貴方はね、洞穴から出た後、意識を失ったの。今までずっとね。でも、心配はしないで、体は無傷よ。」
血圧をとり終えると愛里須は、オレの顔をじっと見る。
「ねぇ、貴方って一体何者なの。虎徹が言ってたわ。一瞬の出来事だったけど、洞穴から見た事のない焔が吹き出したって。そんな中にいたのに貴方は無傷だった。衣服は消失したのに。もしかして貴方って…」
愛里須の言葉に動揺する。
「……。」
オレの言葉が詰まる。
「その辺にしておけ、愛里須。俺達の命の恩人が困っているだろ。」
突然、病室の入口から声がする。見ると歐雷に付き添われ、点滴をしながら車椅子に乗せられた鳳来の姿があった。歐雷が車椅子を押し、鳳来が近づいてくる。その姿に愛里須が感極まる。
「技師長。…目が覚めたんですね。」
愛里須の言葉に鳳来は、愛里須の頭を触ると
「心配かけたな、愛里須。」
と声をかける。鳳来の言葉に堪えていた愛里須の目から涙が溢れる。鳳来は、愛里須を安心させる様に肩を叩く。愛里須は、子供のように泣き噦(じゃく)り、鳳来を激しく抱きしめた。
「…いたい。痛いんじゃが、愛里須。愛里須さん。」
鳳来の愛里須への肩叩きが激しくなる。歐雷が慌てて愛里須を止める。
「ねっ姉さん、父さんが本当に死んじゃうから。」
愛里須が鳳来から離れる。愛里須は、涙を拭き取ると
「…よかった…父さん。」
と言って鳳来の胸に頭を置いた。鳳来は、愛里須の頭を撫でると
「何年振りだろうな、お前が俺を父さんと呼んでくれるのは…。俺の為に一生懸命に治療してくれたんだってな。ありがとな、愛里須。」
と応えた。
愛里須が落ち着くと鳳来は、愛里須と歐雷に退室するように言った。
「起きたばかりだってのに騒がしくしちまって、すまんな。」
愛里須達が退室するのを確認すると鳳来が声をかけてきた。
「先ずは名乗らんとだな。俺は、此処の里長、宗睦 鳳来だ。」
鳳来の自己紹介にオレが応える。
「永遠です。」
鳳来は、一度頷くと
「永遠殿、此度(こたび)は、俺の命だけでなく、息子の命も救ってもらったようで本当に感謝しとる。有難う。」
と言って深々と頭を下げた。車椅子から落ちそうなくらい体を傾ける鳳来の姿に
「そんなに畏(かしこ)まらないで下さい。オレは、オレにできることをしただけなので」
と言って鳳来に体を起こすように促した。鳳来は、体を起こすと
「永遠殿は、謙遜しとるが、俺らの様な個体数の少ない種族にとって、命を救ってもらう事は、これ以上無い恩義なんだ。本当に幾ら返しても返し切れない程の恩ができた。俺にできることがあれば何だって言ってくれ。」
と言ってオレの顔を真っ直ぐに見た。そして、しばらくオレを見ると少し口元を緩め
「まあ、そうは言っても竜の巫女殿に返せる恩なんて限られとりますがな。」
と言った。
「なっ…竜の巫女殿って」
オレの反応に鳳来は、落ち着くように仕向けるとベット脇に置いてあった黒竜石の剣を指して
「あの剣、黒竜石の剣だろ。」
と聞いてきた。
「それは…」
返す言葉が見つからなく、吃(ども)るオレに鳳来は話を続けた。
「永遠殿が隠したいなら、ここから先は俺の独り言だ。あの剣は、俺の先祖が鍛えた剣だ。」
「えっ」
「あの剣の柄は、俺の家で代々使っているものだ。一目で分かった。うちには、竜の巫女の伝承があってな。賢神オリバー様の命で2振りの剣を打ったって記録があるのさ。」
鳳来の話にオレの体が前のめりなる。
「その話、詳しく聞かせてもらえますか?」
オレの急な態度の変化に鳳来は少し驚いた様だったが、快く承諾してくれた。
「分かった。それが永遠殿の望みならお話しよう。…ただ、その前に確認したいんだが、永遠殿は、竜の巫女って事でいいんだよな?」
オレは、鳳来の問いに本当の事を話してもいいかと悩んだが、鳳来ならと話すことを決めた。
「オレは、竜の巫女ではないです。竜の巫女は…オレの妹です。オレは、妹を探しているんですが、何の手がかりもなくて…だから、少しでも妹に繋がる情報があるなら聞きたいんです。」
オレの話に鳳来は何かを納得したかの様に頷き
「なるほどな。竜の巫女ではなかったが、逆に納得できたよ。永遠殿が竜の巫女の血縁なら全てを話すことができそうだ。」
と言って、竜の巫女について話し始めようとした。だが、その時だった。急に廊下が騒がしくなってきた。廊下で愛里須達と話す声で分かる。撫子と桜だ。
「どうやら、話はまた今度になりそうですな。体が癒えましたら、ゆっくり話しましょうや。」
鳳来は、そう言うと廊下で待っていた歐雷を呼んで退室していった。鳳来と歐雷が退室すると同時に撫子と桜、愛里須が入ってくる。
「永遠さま。」
「永遠ちゃん。」
潤んだ瞳でオレに抱きついてくる撫子と桜。柔らかな肌の温もり、安らぎを与えてくれる声、心落ち着く香り。撫子と桜の存在が、オレに生きている実感を与えてくれる。オレは、撫子と桜を優しく抱きしめる。撫子と桜の感情が揺れる尻尾で分かる。
「貴方、この娘達にいっぱい感謝しなさいね。私が診てない時は、ずっと貴方の看病してたのよ。」
愛里須が後ろから声をかける。オレは、撫子と桜の頭を撫でると
「ありがとう。撫子、桜。」
と感謝を伝えた。撫子と桜の尻尾の振り幅が大きくなる。
「永遠様が無事に帰ってきて下さって本当に良かったですわ。」
撫子は、そう言うと更に強く抱きついた。そして、顔を上げてオレの顔を見つめる。
「ですが、私達、ちょっぴり怒っています。」
撫子の言葉に桜も顔を上げる。
「永遠様、もう私達を置いていく様な事はしないで下さい。私達を案じての事だとは分かっています。それでも…私達は、常に永遠様のお側にいたいのです。」
撫子の言葉に桜は、何も言わずにオレの手を強く握る事で訴えた。オレは、2人の強い眼差しに一度頷くと
「ごめん、心配かけて…もう置いていったりしないから」
と言って2人を抱きしめた。撫子と桜は、再びオレの胸に頭を押しつけると
「約束ですよ。」
と言って目をつむった。オレ達の抱擁をじっと見ていた愛里須が耐えきれず言葉をもらす。
「貴方達って本当に仲が良いわね。」
愛里須の言葉にオレだけ我に帰る。撫子と桜は、まだオレに抱きつきながら尻尾を振っている。よく見ると撫子も桜も首元の少しあいたYシャツにタイトなスカートを着て、スカートから光沢のあるストッキングを纏(まと)った足を見せていた。
「撫子、桜。この格好は?」
オレの反応に桜が胸から顔を出す。そして、突然メガネをかけると
「永遠ちゃん。私達、エロ賢い?」
と言ってきた。桜の行動に撫子がクスリと笑う。
「違うわよ、桜。こう。」
撫子はそう言うと胸ポケットからメガネを取り出して咥えると上目遣いでオレを見て
「永遠様。私の全て…知りたくないですか?」
と言ってきた。
「・・・」
突然の出来事に言葉を失う。オレの無反応っぷりに撫子の顔が真っ赤になっていく。撫子は、急に後ろを振り向くと
「愛里須さん、話が違うじゃないですか。永遠様、全然ドキドキしてないですよ。」
と訴えた。その光景を見て、愛里須はクスクス笑うと
「ごめん、ごめん。永遠さん、理系男子っぽいから、イケると思ったんだけど。」
と謝った。頬を膨らませる撫子と桜。クールな見た目とは裏腹なその顔にオレも笑ってしまう。
「もう、永遠様まで…むぅぅ。」
「永遠ちゃんのいじわるぅ。」
撫子と桜は、更に頬を膨らませたが、頬が弾けるとお互いを見て笑いあった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...