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焔の復讐鬼
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永遠が洞穴に引きづり込まれて数十分。日は既に沈み、半月が空に登っていた。撫子と桜は、不安そうに洞穴を見つめている。周りでは、大和からの救難信号に集まったギルド支部員達が火を焚き、歐雷の救出を行っていた。そして、阿天坊と数人のギルド支部員は、洞穴から出てくるであろう黒鬼蟲を警戒し、武器を構えていた。気の抜けない緊張感が阿天坊の武器を持つ手を汗ばませる。そこに渋川が駆け寄ってきた。
「支部長、歐雷様の救出が完了しました。まだ意識は戻っていませんが、命に別状はないそうです。」
渋川の言葉に阿天坊は頷くと
「分かった。」
と一言返し、武器を構え続けた。それを見た渋川は
「支部長、何をしているんですか。歐雷様の救出は、達しました。こんな危険な場所、早く去りましょう。」
と部隊の退却を提言した。渋川の言葉に撫子が侮蔑(ぶべつ)の眼差しを向ける。その時だった。洞穴から爆風と共に焔が噴き出した。一瞬の出来事に皆が目を疑う。噴き出した焔が周囲の木々を焼き、夕闇を焔という灯りで染めていった。信じられない光景に支部員達の動揺と不安が広がり、響(どよ)めきが起こる。阿天坊は、周囲を確認すると
「皆、落ち着け。まずは各々で安全を確保するんだ。」
と一喝した。阿天坊の言葉に支部員達は落ち着きを取り戻していく。それを確認した阿天坊は、
「オイは、これから火のついた木を切り倒す。余裕のある者は、周囲に火が広がらない様に消火にあたれ。」
と言って、支部員達に消火をするように指示をした。消火で慌ただしくなる中、撫子と桜は、永遠のいる洞穴を心配そうに見つめていた。何もできないもどかしさに目に涙が溜まってくる。
「永遠様…」
「永遠ちゃん…」
2人が帰らぬ愛しい者の名を呼んだ時だった。
「うっ…」
突然、撫子と桜が下腹部を押さえて倒れた。その異変に大和が駆け寄る。
「どうした?撫子、桜。」
声をかける大和に撫子と桜は、洞穴の方に手を伸ばし、永遠の名を呼び続けた。
封鎖された洞穴。閉ざされた空間で続く狩(ころし)合い。灼熱の中、オレは、異形の蜘蛛・黒鬼蟲と対峙していた。焔の中枢であるオレから距離をとり続ける黒鬼蟲。それは正しい判断だった。オレの出した焔は、全てを焼き尽くす焔。復讐の終焉に相応しい焔だった。全てを焼き尽くす、つまりオレ自身も焼いていたのだ。髪の毛は、焼失し、皮膚は焼き爛(ただ)れていく。
『うわぁぁぁぁぁ』
激痛に声にならない叫びが頭に響く。目は、蒸発し、暗闇の世界を作り出した。黒鬼蟲を見失い、足取りは覚束(おぼつか)ない。酸素が薄くなり、何度も意識を失いそうになる。その朦朧(もうろう)とする意識を保っていれたのは、頭部と左腕の皮膚が焼失しては再生するという地獄の苦しみとオレから大切なものを奪い続けるこの世界への憎しみがあったからだ。全てを壊して終(し)まいたい衝動がオレを復讐鬼にし、閉ざされた空間を彷徨い続けさせる。生ある者は死へ、形ある物は無へと誘(いざな)う煉獄の焔は、その勢いを更に増していく。その光景は、焦熱(しょうねつ)地獄の牢獄の様だった。
(ぐぁぁぁ)
ついに息を潜め、逃げ続けていた黒鬼蟲から声が漏れる。触肢が爛れ始め、その痛みに発狂する黒鬼蟲。目が怒りで紅く発光する。そして、その怒りの刃をオレに向ける。
(この人族(にく)がぁ。もう許さん。この生物の頂点たる妾に歯向かいおって。味わうのはもう止めだ。一思いに喰ろうてやるわ。)
黒鬼蟲は、そう言うとなりふり構わずオレに襲い掛かってきた。黒鬼蟲の触肢が、鋏角がオレの首元に近づく。…だが、その凶器は、オレの元に届くことはなかった。黒鬼蟲の触肢や鋏角は、近づいた側から、オレに触れる事すらできず、焼失していった。
(ぐぁぁぁ)
再び黒鬼蟲の叫びが聞こえる。オレは、混濁する意識の中、黒鬼蟲の声のする方に歩を進める。
(来るな。…近寄るな。この穢(けが)らわしい、魔物が!)
黒鬼蟲の声が聞こえるが、何を言っているか分からない。オレは、一歩、また一歩と黒鬼蟲に近づく。近づくにつれて、黒鬼蟲の身体が溶けていく。もはや再生はしない。黒鬼蟲は、抗う事を諦め、地面に臥した。
(くちおしや…ぬし何ぞに…妾の覇道を…くっ…呪おうてやる……忘れぬぞ、その味…その声、その顔……んっ…ぬしの頭の紋様…そうか、ぬしも王とぉなじ…神の…くぐっ…か………)
黒鬼蟲は、恨み節を残して消え去った。洞穴を埋め尽くしていた焔が消え、暗闇と静寂に変わっていく。
『終わった。』
憎しみの矛先が無くなった。後悔の元凶はいなくなった。空虚(からっぽ)になった心に身を委ねる。
『もう…つかれた』
希望(ひかり)を失い、未来(おと)を失い、心を失う。虚無となった世界にオレは倒れ込んだ。
「支部長、歐雷様の救出が完了しました。まだ意識は戻っていませんが、命に別状はないそうです。」
渋川の言葉に阿天坊は頷くと
「分かった。」
と一言返し、武器を構え続けた。それを見た渋川は
「支部長、何をしているんですか。歐雷様の救出は、達しました。こんな危険な場所、早く去りましょう。」
と部隊の退却を提言した。渋川の言葉に撫子が侮蔑(ぶべつ)の眼差しを向ける。その時だった。洞穴から爆風と共に焔が噴き出した。一瞬の出来事に皆が目を疑う。噴き出した焔が周囲の木々を焼き、夕闇を焔という灯りで染めていった。信じられない光景に支部員達の動揺と不安が広がり、響(どよ)めきが起こる。阿天坊は、周囲を確認すると
「皆、落ち着け。まずは各々で安全を確保するんだ。」
と一喝した。阿天坊の言葉に支部員達は落ち着きを取り戻していく。それを確認した阿天坊は、
「オイは、これから火のついた木を切り倒す。余裕のある者は、周囲に火が広がらない様に消火にあたれ。」
と言って、支部員達に消火をするように指示をした。消火で慌ただしくなる中、撫子と桜は、永遠のいる洞穴を心配そうに見つめていた。何もできないもどかしさに目に涙が溜まってくる。
「永遠様…」
「永遠ちゃん…」
2人が帰らぬ愛しい者の名を呼んだ時だった。
「うっ…」
突然、撫子と桜が下腹部を押さえて倒れた。その異変に大和が駆け寄る。
「どうした?撫子、桜。」
声をかける大和に撫子と桜は、洞穴の方に手を伸ばし、永遠の名を呼び続けた。
封鎖された洞穴。閉ざされた空間で続く狩(ころし)合い。灼熱の中、オレは、異形の蜘蛛・黒鬼蟲と対峙していた。焔の中枢であるオレから距離をとり続ける黒鬼蟲。それは正しい判断だった。オレの出した焔は、全てを焼き尽くす焔。復讐の終焉に相応しい焔だった。全てを焼き尽くす、つまりオレ自身も焼いていたのだ。髪の毛は、焼失し、皮膚は焼き爛(ただ)れていく。
『うわぁぁぁぁぁ』
激痛に声にならない叫びが頭に響く。目は、蒸発し、暗闇の世界を作り出した。黒鬼蟲を見失い、足取りは覚束(おぼつか)ない。酸素が薄くなり、何度も意識を失いそうになる。その朦朧(もうろう)とする意識を保っていれたのは、頭部と左腕の皮膚が焼失しては再生するという地獄の苦しみとオレから大切なものを奪い続けるこの世界への憎しみがあったからだ。全てを壊して終(し)まいたい衝動がオレを復讐鬼にし、閉ざされた空間を彷徨い続けさせる。生ある者は死へ、形ある物は無へと誘(いざな)う煉獄の焔は、その勢いを更に増していく。その光景は、焦熱(しょうねつ)地獄の牢獄の様だった。
(ぐぁぁぁ)
ついに息を潜め、逃げ続けていた黒鬼蟲から声が漏れる。触肢が爛れ始め、その痛みに発狂する黒鬼蟲。目が怒りで紅く発光する。そして、その怒りの刃をオレに向ける。
(この人族(にく)がぁ。もう許さん。この生物の頂点たる妾に歯向かいおって。味わうのはもう止めだ。一思いに喰ろうてやるわ。)
黒鬼蟲は、そう言うとなりふり構わずオレに襲い掛かってきた。黒鬼蟲の触肢が、鋏角がオレの首元に近づく。…だが、その凶器は、オレの元に届くことはなかった。黒鬼蟲の触肢や鋏角は、近づいた側から、オレに触れる事すらできず、焼失していった。
(ぐぁぁぁ)
再び黒鬼蟲の叫びが聞こえる。オレは、混濁する意識の中、黒鬼蟲の声のする方に歩を進める。
(来るな。…近寄るな。この穢(けが)らわしい、魔物が!)
黒鬼蟲の声が聞こえるが、何を言っているか分からない。オレは、一歩、また一歩と黒鬼蟲に近づく。近づくにつれて、黒鬼蟲の身体が溶けていく。もはや再生はしない。黒鬼蟲は、抗う事を諦め、地面に臥した。
(くちおしや…ぬし何ぞに…妾の覇道を…くっ…呪おうてやる……忘れぬぞ、その味…その声、その顔……んっ…ぬしの頭の紋様…そうか、ぬしも王とぉなじ…神の…くぐっ…か………)
黒鬼蟲は、恨み節を残して消え去った。洞穴を埋め尽くしていた焔が消え、暗闇と静寂に変わっていく。
『終わった。』
憎しみの矛先が無くなった。後悔の元凶はいなくなった。空虚(からっぽ)になった心に身を委ねる。
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