神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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巨人の里

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翌日の正午。オレ達は、巨人の里へと着いた。
巨人の里。ー鱗割渓谷ー
里の入り口は、一ヶ所しかなく、巨人の里らしく大きな門で閉ざされていた。門の前には、様々な種族の商人やら患者やらで数十人が列をなしていた。
「おかしいですな。この時間なら門は開いているはずなのですが。」
八咫が見慣れぬ行列を見て呟く。するとようやく大きな門が開き始めた。待っていた大衆は、ここぞとばかり里へと入ろうとするが、門から出てきた人族達に遮られた。大衆からは、怒号が飛び交うが、出てきた人族は、冷静に対処する。
「本日は、神代技師の先生方の都合により、里入りを制限させていただきます。」
人族の言葉に一部から罵声が聞こえる。だが、
「従って頂けない方は、今後の里入りを禁止する様にとも言われております。」
の一言に全体が静まり返った。大衆が落ち着いたのを確認すると人族は、幾つかの班に分かれ
「お待たせしました。では、治療に来られた方は、こちらからお入り下さい。案内します。」
「商談に来られた方は、こちらに並んで下さい。ご予約のない方は、今日はお受けできません。」
「…は、こちらに」
と言って、門の前の大衆をドンドン仕分けていく。
「予約…?儂が以前来た時には、予約なんて無かったのですが。」
八咫は、不測の事態に困惑しているようだ。不安になった桜がオレの服の裾を引っ張る。
「永遠ちゃん、どうするの?」
「神楽さんの依頼書はありますが、予約はされていないでしょうし。」
撫子も不安そうだ。オレは、八咫に何か良い方法はないかと目線を向けるが、八咫は首を横に振って答える。
「しょうがない。また明日来よう。」
オレ達が今日の里入りを諦め、予約の手続きをしに行こうとすると、1人の武装した人族が大衆をかき分け、こちらに向かって来た。
「どなたかギルド会員の方はいませんか?いましたら、自分にお声がけ下さい。」
武装した人族の言葉に桜が反応する。
「はい、はーい。私たちギルド会員です。」
桜の言葉に武装した人族が近づいてくる。武装した人族は、オレ達の前で立ち止まると
「初めまして。自分は、この里のギルド、天津麻羅(あまつまら)の支部員をしている渋川 珠三郎と言います。」
と挨拶をした。そして、
「早速で申し訳ないのですが、会員証を見せていただいてもよろしいですか?」
と聞いてきた。オレ達は、言われた通りに会員証を見せる。渋川は会員証を確認すると
「あなたは、アイアン。そうですか…。お二人は…ブロンズ!?ブロンズですか。是非、うちの支部に来て下さい。事情は、道すがらお話ししますので。」
と言って、オレ達の返答を待たずして、馬車を誘導し始めた。馬車の操車を任せていた八咫がオレに指示を仰いでいる。
『里入りの制限に高位のギルド会員を探していた事を考えると何か非常事態が起きているのだろう。』
オレは、八咫に頷き返すと八咫の隣に座った。撫子と桜が馬車の中に入ると渋川の誘導に合わせて馬車を走らせた。里に入る途中、撫子が顔を膨らませてオレに声をかける。
「あの渋川っていう人族の態度、納得できませんわ。永遠様を私達より下に見ている感じ。」
オレは、後ろを振り向くと
「仕方ないさ。あの人は、オレ達の事情を知らないわけだし。それに不知火さんも言ってただろ。オレの素性は、知られない方がいいんだよ。」
と返した。それでも納得できていない撫子の顔は、まだ膨れたままだった。オレは、
「ありがとう、撫子。」
と言って撫子の頭を撫でる。膨れた撫子の顔が赤くなり、それにつれて萎(しぼ)んでいった。
里に入るとようやく渋川が事情を話し始めた。
「これから話す事は、内密にお願いします。里に混乱を招きますので。」
オレが
「分かりました。」
と返すと、渋川がこれまでの経緯を話し始めた。
「昨夜の事です。この地の里長であり、神代技師長である宗睦 鳳来(むねちか ほうらい)様の工房で爆発が起こりました。その爆発により、宗睦様は、全身に大火傷を負い、現在、他の神代技師の先生方から治療を受けています。ですが、火傷の範囲が広く、生死の境を彷徨っておられる状態です。それを知った宗睦様の御子息が秘薬を取りに単身出て行かれてしまったのです。ただ、その秘薬のある場所は、非常に危険で、神代技師の方々も高ランクの護衛者がいなければ、行かないような場所なのです。そこで貴方方には、その御子息を救援し、連れ戻していただきたいのです。」
渋川の話が終わると撫子が小声で聞いてくる。
「どうしますか、永遠様。」
危険が伴う依頼に心配はあったが、人の生死が関わっている状況に躊躇はしていられなかった。
「受けよう。それと念の為にオレの髪を少し切り取っておいてくれないか。」
オレの言葉に撫子は、少し考えると
「分かりましたわ。ですが、宜しいのですか。ともすれば永遠様の能力を晒す事にもなりますが。」
と懸念を示した。撫子の懸念は、尤もだったが、一度は医療を目指した者として、目の前の命の危機に何とかしたいとの気持ちの方が勝った。
「そこは、上手く話すさ。」
オレがそう言うと撫子は、一度頷き、こっそりとオレの髪を切った。オレと撫子のやり取りを待って、渋川が改めて聞いてくる。
「どうでしょう。依頼を受けていただけますか?」
渋川の依頼にオレは、
「受けましょう。」
と返した。渋川は、
「ありがとうございます。」
と感謝を述べると
「詳しい話は、ギルドでお話ししますので、急ぎましょう。」
と言って、ギルドへと向かった。
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