神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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妖狐の宴

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婚姻の儀を終えた後、里を挙げて宴会が開かれた。オレは、神殿の広間に連れて行かれ、撫子と桜は、誾と一緒にお色直しに向かった。広間には、豪華な料理が用意されており、客席には、九尾の縁者と神殿の役所に就いている者達で埋まっていた。オレは、上座に用意された席に座り、撫子と桜が来るのを待つ。外が賑やかになってきた。他の者達は、境内や中央広場で宴会を開いている。どうやら一足早く宴会が始まったようだ。太鼓や笛の音色が流れてくる。それに併せたかのように障子戸が開く。広間にいた者達から歓声があがり、色打掛けに着替えた撫子と桜が現れた。これもまた誾、渾身の作。白無垢と同様に撫子と桜の美しいピンク色の華を入れつつ、煌びやかに装飾が施してある。更に胸元は、少しあいており、歩くと撫子と桜の白い足が垣間見える大胆な仕上がりになっていた。綿帽子が無いせいか、化粧のせいか、先程よりも色っぽく見える。2人から漂う甘い香りとその美しさに改めて心を奪われる。撫子と桜がオレの横に座る。動揺で我を忘れているオレに、撫子が横目で合図をし、オレ達は客席に向けて頭を下げた。それを確認して長門が立ち上がる。
「今宵は、我が娘、撫子と桜、そして、竜の巫女様の縁者で有らせられる永遠様の婚姻の儀に御立会頂き、誠に感謝致します。心ばかりの席では有りますが、御存分に御堪能下さい。」
長門がそう言うと侍女達が客席に酒を注ぎにまわる。オレが頭を上げると撫子と桜が、うっすら笑みを浮かべて、酒の入った赤い急須を持って待っていた。2人がオレの盃に酒を注ぐ。美女からのお酌に酒を飲まずして体が熱くなる。
「顔が赤いですよ、永遠様。」
「大丈夫?永遠ちゃん。」
式が始まって初めて聞く、2人の声に大きく脈つくのが分かる。オレは、何とか気持ちを落ち着かせ、
「大丈夫。」
と一言返した。2人は、それを笑みで受け止める。撫子と桜の盃にも酒を注がれ、広間の全員が盃を持って立ち上がる。それを確認した長門は盃を高々と上げると
「我らが九尾の里の更なる繁栄を祝して、乾杯!!」
と言って、乾杯の音頭をとった。客席から次々と乾杯の声が上がる。
「乾杯。」
オレもそう言うと2人に注がれた酒を飲み干した。何度かしか飲んだ事のない酒の味を美味しいと感じたのは初めてだった。乾杯が終わり、席に着くと早速、撫子が寄り添ってくる。
「永遠様、ようやく夫婦になれましたわね。」
撫子は、そう言うと胸を押しつけ、上目遣いでオレを見る。酒のせいか、少し潤んだ目が艶めかしくみえる。撫子の色っぽさにドキドキしていると今度は桜が頭を押し付けてくる。
「永遠ちゃん。ねぇ、私達、綺麗ぃ♪」
桜は、顔を赤らめてニヤけながら聞いてくる。オレは、
「2人とも綺麗だよ。」
と答えると撫子も桜も人目を憚(はばか)らず、抱きついてきた。客席から歓声が上がる。照れや恥ずかしさから体が火照ってくる。桜は、抱きついたままニヤニヤしていた。大きな尻尾は、ゆっくりと揺れ、いつもの大きな瞳はとろ~んとしている。
『ん?もしかして、桜は酔っているのか?そういえば、2人とも16歳だった。』
そう思って撫子の方を見ると撫子は、口を開けて何かを待っていた。そして、
「撫子ぉ、玉子が食べたいなぁ。」
と言って、再び口を開ける。いつもと口調が違う。オレは、皿から玉子焼きを取ると撫子の口に近づける。そんなオレに撫子は、口を閉じると
「ダメぇ。あ~んってして。あなた。」
と甘えた声を出す。完全にキャラが崩壊している。だが、この妖艶な美女のおねだりにオレは言われるがままだった。
「あーん。」
オレは、そう言って、撫子の口に玉子焼きを入れる。撫子は、幸せそうな顔を浮かべて、
「おいひぃ♪」
と言って、大きな尻尾を激しく振った。撫子も桜も完全に酔っている。オレが2人を介抱?していると、年配の人孤が来て、オレの前に座った。
「いやはや、孫達には、まだ酒は早かったようですな。」
年配の人孤は、そう言うとオレに酒を勧めた。
『孫達?』
オレが年配の人孤に尋ねる前に後ろで控えていた神楽が口を出す。
「もう、父さん。挨拶は済んだん?…ホントうちの男どもは。」
神楽の言葉に年配の人孤は、頭を掻きながら
「いや、ははっ。すまん、すまん。」
と言って、頭を下げ
「儂は、長門とこの神楽の父、名を大和と申します。この度は、我が孫達が永遠殿の妻に迎えられた事を誠に嬉しく存じます。」
と述べた。長門と同じく大柄な体格だが、顔は、丸みを帯び、温和な感じだった。大和は、挨拶を終えると改めてオレに酒を勧めた。オレは、酒を頂戴し、
「ありがとうございます。」
と一言礼を言って、酒に口をつけた。
「いやぁ、しかし、伝説の竜の巫女様、その所縁の方と世帯を持てるとは、孫達は、幸せ者ですな。」
大和は、そう言うと豪快に笑って、持参した酒を一気に飲み干した。空になった酒を見て、近くにいた侍女が大和に酒を注ぎに来たが、神楽が止める。
「あぁ、酒の追加はええよ。もう飲ませんといて。酔っ払ったら、連れて帰るのが大変なんで。」
神楽の言葉に大和は
「何言ってる、神楽。こんなめでたい席で酒を飲まずして、いつ飲むんだ。」
と返した。大和の言葉に神楽の眉間にシワがよる。
『ヤバい』
そう察したオレは、話題を変えるため、神楽に
「神楽さん、今日の着物姿よく似合ってますね。」
と声をかけた。オレの言葉に神楽の目が穏やかになっていく。
「そやろ。お金もたんまり入ったし、この日の為に新調したんよ。」
神楽に笑顔が戻った。だが、ホッとしたのも束の間だった。
「いやぁ、神楽をお褒め頂くとは。永遠殿もお好きですな。じゃじゃ馬娘ですが、ワシの妻に似て見た目は、上々。この際、永遠殿の側しっ……っ。」
大和が言い切る前に神楽の鉄拳が炸裂した。気を失った大和は、神楽と付き人によって引きづられて行った。代わりに長門が顔を出す。
「永遠殿、申し訳ない。親父が失礼な事を。」
長門の謝罪に首を振る。
「気にしないで下さい。面白い方なんですね。お父さん。…そうだ。オレもこれから長門さんの事をお義父さんとお呼びしていいですかね。」
オレの言葉に長門は笑みを溢すと
「永遠殿にお義父さんと呼ばれるとむず痒いですな。今まで通り、長門とお呼び下さい。」
と返した。
「そうね。私もお義母さんは、恥ずかしいわね。名前で呼んでもらった方が嬉しいわ。」
そう言って豪華絢爛に着飾った不知火も顔を出した。明らかに撫子や桜よりも派手だが、それが不知火らしい。不知火が目を細める。
「寝ちゃってるわね。」
不知火の言葉で気付かされる。撫子も桜もオレに寄り掛かり寝息をたてていた。朝から里を練り歩いて疲れていたのだろう。オレは、愛おしい2人の頭を優しく撫でた。その光景を見て長門は、一度目をつむり、
「永遠殿、娘達のこと、よろしくお願い申す。」
と言って頭を下げた。オレは
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」
と返した。不知火は、何も言わなかった。ただ、笑みだけを残して、長門を連れて客席へと向かった。
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