神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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世界協定ギルド

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今更ではあったが、重婚についてよかったのか確認すると、この世界では重婚は珍しい事ではなかった。むしろ能力を持つ者は、その子孫をより多く授かる為に当たり前の様に行われていた。ただ、能力をもつ者同士の結婚は珍しいとの事だった。それは仔を成した時に、その仔が胎児の時点で能力を得た場合に複数の能力に身体が耐え切れず死産したり、母胎内で魔物化し母を殺したりする事があるからだった。その為、能力を持つ者同士の結婚は、同族間が前提であり、事前に能力の系統・適正の相性を調べてから行われるとの事だった。オレ達の結婚は大丈夫なんだろうか?という心配に不知火は
「おそらくは大丈夫なはずです。我ら九尾は、竜の巫女様の血を授かりし種族。竜の巫女様の縁者である永遠様なら問題ないはずですわ。」
と言って我が娘の結婚に浮かれていた。それでも心配が拭い切れないオレに対し、不知火はオレに耳打ちをする。
「それに娘達は永遠様と隷属契約をしております。仔に能力が継がれたとしても隷属者の能力が主人の能力と同時に又は制して現れる事はありませんので、相性の心配もありませんわ。」
撫子達の隷紋については、一部の者を除いて緘口令が敷かれていた。それを不知火が口にした事が問題ない事への十分な確証だった。オレが納得して頷くと不知火は
「永遠様の心配も解消されたようで良かったですわ。じゃあ、誾。里への知らせは任せてもよいかしら。」
と言って、誾に指示を出した。
オレと撫子、桜の結婚は、その日のうちに里へと通達された。里では、環の埋葬の儀にオレ達の婚姻の儀にと準備で慌ただしくはなったが、混乱や反乱が起きる事はなかった。
里や神殿で儀式の準備が進められれる中、オレは、不知火、撫子、桜と今後について話をした。不知火には、禁断の間で環からこの世界の歴史、九尾の歴史を聞いて、そして、その話から竜の巫女であるタノガミ ミクがオレの妹であった事を伝えた。不知火は、その事実を納得するかの様に聞いていた。そして、オレの旅の目的が妹の未来を探す事だと伝えると不知火が口を開いた。
「という事は、目的の地はフレイヴェールですね。」
「はい。」
オレの答えに不知火は一度沈黙し、そして、
「魔法神ソフィア様が創られた都市フレイヴェール。今や幻の都と言われ、その場所を知る者はいないと言われています。永遠様は、そんな場所にどうやって行くつもりですか?」
と聞いてきた。オレは、自分の考えを正直に伝えた。
「今のところ場所の検討も行く術も何もありません。なので、まずは世界を回って情報を集めようと思っています。」
そう言って、オレは、傍に置いた竜の遺品に手を置いた。
「とりあえず、この竜の遺品を届けに遥か東にあるという竜の谷に向かうつもりです。」
オレの答えに不知火は少し考えると
「確かに危険を伴う果てなき旅ですね。九尾の長として、里長の後継者である娘達を同行させるのは反対です。」
と口にした。不知火の言葉に撫子も桜も俯く。九尾の存在は、里の象徴であり、平和の礎。その重責が撫子と桜の言葉を失わせる。
「ですが、1人の母としては、娘達の幸せを考えたい。永遠様、今一度お願い致しますわ。娘、撫子と桜の事をよろしくお願い致します。」
不知火の言葉に撫子と桜は目を潤わせ、頭を下げる。不知火は、2人の側に寄ると頭を撫でる。
「それで、永遠様はいつ程に旅立たれる御予定ですか?」
不知火の問いに応える。
「まだ決めてはいません。ただ、旅立つ前に西あるという巨人族の里に行こうと思っています。」
「巨人族の里にですか?」
「はい。そこで他の竜の遺品を加工してもらおうと思っています。」
「加工ですか?確かに巨人族なら可能かと思いますが。加工してどうするつもりですか?」
「旅の装備品にしようと思っています。あのままでは、ただの大きな荷物になってしまいますし、旅の危険度を少しでも軽減できれば助かりますので」
不知火は、納得すると八咫と同じ問いを投げかける。
「それでその加工の為の資金はどうされるつもりですか?」
それについてもまだ悩んでいたが、オレなりに考えていた事を話した。
「遺品の恩恵を確認して、不要な遺品を売ろうかと思います。一つでも売れれば加工に必要な金額にはなるかと思うのですが。ただ、八咫さんから売るのは難しいと聞いています。売れなければ、多少の損を覚悟で、遺品自体を加工代金として交渉しようと思っています。それが無理なら諦めようかと。」
オレの答えに不知火は手を口元に置くと
「永遠様や娘達の安全を考えれば、装備品への加工は賛成です。ですが、竜様の遺品を売るのは、勿体ない気がします。かと言って、私が管理している資産では、足りないでしょうし。」
と口にし、何かないかと思案した。オレは、不知火の悩む姿に悪い気がして、声をかけようとすると不知火が何かを思い出したかの様に口を開き
「永遠様は、世界協定ギルドに登録はしていませんか?」
と聞いてきた。オレが
「いいえ。そもそも、世界協定ギルドって何ですか?」
と返すと不知火は世界協定ギルドについて話し始めた。
「世界協定ギルドは、言わば仕事の斡旋所です。世界各地に拠点があり、その多くは、都市や巨人族の里の様に高度技術や商業施設のある所に設置されるのですが、ある友好国の勧めもあって、数年前にこの里にも設置しました。仕事内容は、地元規模から世界規模まで様々で、依頼料は、依頼主や内容によって異なります。ギルドに登録すると会員証が発行され、世界中で依頼を受ける事ができます。また会員証は、身分証兼依頼料の振込口座になります。通常、依頼の達成は、依頼主の確認書や討伐の証が必要です。ただ、神子持ちは、それを省略できます。神子が身分や口座内容、依頼の達成等を証明してくれるからです。」
不知火の説明の意図が分からないオレは訊ねる。
「それが資金調達と関係しているんですか?」
不知火は軽く頷くと
「例えば、永遠様が旅の途中に魔物を討伐したとします。その魔物が討伐依頼のあった魔物だった場合、ギルド登録をしていなくても依頼料がもらえるのです。ただ、報酬は半額、討伐から7日を過ぎると無効になります。当然、討伐した証が必要です。」
と答えた。オレは更に訊ねる。
「でも、オレは何も依頼になる様な事はしてないですよね?」
不知火は首を横に振ると
「いいえ、しております。竜王様の討伐という偉業を。」
と答えた。オレは不知火の言っている意味が分からず
「どういう事ですか?確かに白い竜に頼まれて戦いましたが、それが依頼という事ですか?もし、そうなら遺品という報酬を頂いていると思うのですが。」
と聞いた。不知火は再び首を横に振ると
「いいえ。依頼主は、創世神様です。」
と答えた。そして、話を続ける。
「世界協定ギルドは、リアム様とミク様の戦いの後、創世神 王様の指示の元、世界各地に創設されたそうです。今は仕事の斡旋所ですが、元々は、世界に危機が迫った時に創世神様達の命の下、その危機を未然に防ぐ為のものだったのです。」
「ちょっと、待って下さい。世界レベルの危機なら、創世神自身が何とかすれば、いいじゃないですか?何故、自身で動かないんですか?」
オレの疑問に不知火が答える。
「永遠様は、環より聞いているかと思いますが、創世神様達の能力はあまりにも強すぎるのです。一度能力を振るえば、幾つもの種を滅ぼす事さえできます。それに唯一神様により、創世神同士の戦いは禁じられています。またリアム様の様な事があれば、世界が滅びるかもしれません。その為に創設されたのだと思います。」
不知火の説明に腑に落ちない事はあったが、オレは不知火の話を聞き続けた。
「今回の竜様方の戦いは、正に世界的な危機だった筈です。察知した創世神様が依頼を出している可能性が高いのです。それを永遠様が防いだとなれば、半分とは言え、かなりの報酬が得られると思います。」
不知火の話が終わり、オレは竜達との戦いからの日数を数え始めた。
「不知火さん。登録していない場合は、依頼達成から7日以内でしたよね。だとすると、もう時間がないです。そのギルドは、何処にあるのですか?」
オレの言葉に不知火は
「あら、悠長に話している場合ではなかったのね。それでしたら直ぐに向かいましょう。ギルドは、里の北門近くにありますので。撫子、桜。貴女達も準備なさい。」
と言って準備をし始めた。
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