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賢神オリバー
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翌朝。障子戸から朝日が差し込む。その眩しさにオレは目を擦りながら身体を起こす。そして、大きく息を吸いながら、身体を伸ばす。
「永遠様、お目覚めになられましたか?」
障子戸の後ろから誾の声が聞こえる。
「はい、起てます。」
オレの返事に誾は淡々と話す。
「朝食の用意が整いました。お支度ができましたら、ご案内致します。」
誾の言葉に急いで身支度を済ませる。風呂上がりにそのまま寝たせいか、髪がボサボサのままだ。折を見て髪を切ろう。身支度を終えると誾が昨日の客間に案内する。客間には既に撫子と桜が座って待っていた。撫子と桜は、髪を解かした状態で、落ち着いた色の浴衣を身に纏っていた。浴衣のせいか、胸元がいつもより強調されて目のやり場に困る。オレは目を逸らし、客間を見渡す。客間に環の姿は無かった。
「おはようございます、永遠様。」
「おはようございます、永遠ちゃん。」
撫子と桜が挨拶をする。撫子は諦めたのか、桜のオレに対する敬称について何も言わなくなった。
「おはよう。撫子、桜。」
オレが挨拶を返すと撫子と桜が堪え切れず笑う。
「どうした??」
オレが聞くと桜が笑いながら
「永遠ちゃん、髪の毛ボサボサだよ。」
と答えた。オレはボサボサの髪を触ると
「だよな。オレもその内切ろうとは思っているんだけど。」
と笑い返した。
「それでしたら、食事が済みましたら私が切って差し上げますわ。」
撫子は、手で口元を抑えながら声をかける。その言葉に桜もあの誾さえも慌てる。
「ダメだよ、なぁちゃん。永遠ちゃんの頭が無くなっちゃう。」
桜の言葉に背筋が凍る。
『撫子…さん。もしかして相当な不器用さんですか?』
撫子の顔が膨れている。
「大丈夫ですよね。永遠様。」
『何が大丈夫なんでしょうか…撫子さん。』
変な汗が出てくる。
「撫子様。殿方の髪を切るなと淑女のする事ではございません。侍女である私が致します。」
誾の言葉がオレを救う。撫子は納得していない様子だったが、オレが
「それじゃ、今回は…誾さんにお願いしようかな。」
と言うと渋々納得した。誾は、
「さぁ、お食事が冷めないうちにお食べ下さい。」
と言って、食事を勧めた。オレは、席に着くと誾に訊ねる。
「環さんは、来られないんですか?」
誾は、
「環様は、自身のお部屋で摂られるとの事でしたので、此方には来られません。」
と答え、それ以上は何も言わなかった。オレもそれ以上は何も聞かず、箸を取った。
食後は、予定通り誾がオレの髪を切った。切った髪は、この地の者の治療薬として丁重に保管される事になった。
その後、オレは撫子と桜に連れられ、神殿内を回った。里には、桜お勧めの人兎の作る甘味処などがある様だが、今は不知火の訃報で里が混乱している事もあり、里に降りるのは落ち着いてからする事にした。神殿を一通り回った後に八咫がいる宝物殿に向かった。八咫は鑑定士兼九尾の宝物殿の管理者も担っていた。宝物殿の前には武装した人孤の兵士が警備をしていたが、撫子達を目にすると頭を下げて、すんなりと宝物殿に通してくれた。
「失礼します。」
撫子が八咫に声をかけ、宝物殿に入る。宝物殿では、八咫が竜達の遺品を念入りに調べていた。八咫は、オレ達に気づくと鑑定の手を止めて
「これは、これは永遠様に撫子様、桜様まで。どうなさいました。」
と言った。オレは軽くお辞儀をすると
「今2人に神殿内を案内をしてもらっていて。お邪魔でしたか?」
と八咫に聞いた。八咫は手を横に振ると
「いえいえ、どうぞゆっくりしていって下さい。」
と返した。オレは周りを見渡す。宝物殿の中は、煌びやかな装飾品から二尺以上ある太刀等が置かれていた。そして、床には竜達の遺品。八咫は、オレの視線に気づくと鑑定士の性なのか竜達の遺品について語り始めた。
「永遠様も気になりますか。この竜様方の遺品が。そうですな。どれもが国宝級。滅多にお目にかかる事ができない品々です。物によっては神具レベルの能力を有している物さえあります。例えばこの【炎帝の指輪】なんかは、炎属性の耐性を上げるだけでなく、炎属性の能力を格上げする事もできるでしょうな。本当に鑑定冥利に尽きる品々です。ところで、永遠様はこの遺品達をどうされるつもりですか?」
八咫の問いにすぐ答えが出ない。あの場に放置できないと思い、回収して来たが、その後の事は考えていなかった。オレは正直なところを八咫に話した。
「正直、何も考えていませんでした。竜達に託されたのは、あの角輪と宝石で、他は自由にして良いと言われました。あの場に放置できないと回収してきましたが、どうしたらいい物なんでしょうか?」
オレの返答に八咫は頭を悩ます。
「そうでしたか。確かに、この品々の所有者は、永遠様になっております。それが竜様方の意思なのでしょうな。ですので、永遠様の意のままにしてよろしいかと思いますが。」
オレは、八咫の言葉に疑問を投げかける。
「この剣の時も気になっていたのですが、鑑定は、その物だけでなく、所有者も分かるものなのですか?」
オレの問いに八咫が答える。
「そうです。鑑定するとその物の組成だけでなく、特性、能力、効果等に加えて所有者も分かります。所有者は、現所有者の意思によって変える事ができます。盗難や殺害などで奪い取った場合には、扱う事はできますが、所有者が変わる事はありません。」
八咫の言葉にオレは改めて黒竜石の剣を見る。
『この剣の所有者がオレになっていたという事は、未来自身の意思で変えたという事。…待てよ。それじゃあ、未来は、この剣をオレが扱える事を知っていたという事になる。つまりオレも不老不死だと。不老不死の根源であるオレの願いは、オレと神しか知らないはず。何故、未来が…』
「永遠様、大丈夫ですか?」
撫子の声に我に帰る。撫子と桜が心配そうに見つめている。
「ごめん、また考え事を。2人には心配させてばかりだね。」
そう言ってオレは2人に頭を下げた。そして、八咫に竜達の遺品についてオレの考えを相談をした。
「オレは、不知火さんの件が落ち着いたら旅に出ようと思っています。」
「えっ」
撫子の声が漏れる。唐突に出たオレの言葉に動揺した様だった。
「永遠ちゃん、何処に行くつもりなの?」
桜が直ぐに聞いてくる。
「とりあえず、竜の谷を目指すつもりだよ。」
「そうですか。竜の谷へ」
撫子はそう一言言うと何かを決意した様だった。オレは話を続ける。
「それで、この遺品を旅の為の装備か路銀にしたいと思うのでしょうが、どうでしょうか?」
オレの提案に八咫はまた頭を悩ませる。
「永遠様の考えは分かりました。旅の是非は、儂には何とも言えませんが、もし竜の谷へ向かわれるなら色々と準備が必要でしょう。儂が言える事は、まず路銀にするというのは難しいという事でしょうか。確かにこの品々を売る事はできます。所有者は、永遠様なので正規のルートで売る事ができます。ですが、それを買い取れる所はないでしょう。」
「それはどういう事ですか?」
オレの問いに八咫が話を続ける。
「先程申しました様に、この品々はどれもが国宝級なのです。相場で言うなら、1点で一国家予算の1~2割程度はするのです。それ程の金額を払える店はおそらくないでしょう。」
「となると、装備に…」
と言って、改めて竜達の遺品を見る。竜達の遺品は、全てが竜使用。生地類は転用できそうだが、金属製品は難しそうだ。炎帝の指輪とは言われているが、サイズは完全にベルトだ。無意味かと思ったが、念の為聞いてみる。
「この遺品を加工するのは、できますか。」
八咫は首を振ると
「この里では無理ですな。それを加工できるほどの鍛冶師がいないのです。下手に加工すれば、能力を失いかねません。」
と答えた。そして、少し間を置いて
「ただ、西にある巨人族の里なら加工ができる者がいるやもしれません。巨人族は、賢神オリバー様の眷属。その黒竜石の剣もオリバー様の指示のもと巨人族が鍛えたと言われています。」
と追加した。
「この世界には巨人族がいるのですか?」
オレの問いに八咫が頷く。
「そうです。巨人族は、オリバー様より授かった知識を元に、万物の生産と医療を生業としている種族です。」
「医療もですか?」
「ええ、そうです。そもそも、回復に関わる能力を授かった者は、ほとんどいないのです。ですので、治療を必要とする者は、巨人族に診てもらうか、巨人族が創薬した薬で対応する事が多いのです。ただ、巨人族は、辺境の地に住んでいる事が多く、個体数が他の種族と比べて少ない。故に、回復に関する商品は、高価に取引きされるのです。」
人間が高めてきた医療が衰退し、無くなったのではないかと嫌な予感が過り、恐る恐る聞いてみる。
「人間族に医者、日々医療の研鑽をしてきた者はいないのですか?」
「いないわけでは無いのですが、どうしても設備や技術的な面で巨人族とは劣ってしまうのです。ただ、永遠様の【医者】という言葉に思い当たる節があります。賢神オリバー様は、創造神になられる前は医者と呼ばれる存在だったと言われています。オリバー様は、【生きたいと思う者には必ず手を差し伸べる。それが自分の天命だ】と名言を残しています。そして、その言葉通り、世界改変後の世界で傷ついた者達を救い続けたと言われています。」
『賢神オリバー。この創造神は、オーストラリアの名医オリバー・ウィルソンじゃないのか。オレが憧れ、目指した医者。あの名言、その行動力、間違いない。』
思わぬ情報に目が輝いてしまう。
「巨人族の里は、数十人の巨人族とその従者達で構成されています。従者達は、そこで巨人族に仕えながら、その技術を学び、故郷へと持ち帰っているのです。」
『つまり巨人族の里は、大学みたいなもので、巨人族は、教授といったところなんだろう。』
「八咫さん、ありがとうございます。とりあえず、旅立つ前に巨人族の里に行ってみようと思います。」
オレの言葉に八咫の顔がうかない。オレが
「どうかしましたか?」
と訊ねると
「今更で申し訳ないのですが、巨人族は、その知識や技術を生業としています。故に高度な知識や技術程、費用がかかるのです。この品々を加工するとなると、それこそ莫大な費用がかかるかもしれません。」
と返された。無一文のオレに返す言葉は無かった。これこそ宝の持ち腐れというのだろうか。オレ達は、貴重な情報をくれた八咫に礼を告げ、宝物殿を後にした。外は、茜色に染まっていた。
「永遠様、お目覚めになられましたか?」
障子戸の後ろから誾の声が聞こえる。
「はい、起てます。」
オレの返事に誾は淡々と話す。
「朝食の用意が整いました。お支度ができましたら、ご案内致します。」
誾の言葉に急いで身支度を済ませる。風呂上がりにそのまま寝たせいか、髪がボサボサのままだ。折を見て髪を切ろう。身支度を終えると誾が昨日の客間に案内する。客間には既に撫子と桜が座って待っていた。撫子と桜は、髪を解かした状態で、落ち着いた色の浴衣を身に纏っていた。浴衣のせいか、胸元がいつもより強調されて目のやり場に困る。オレは目を逸らし、客間を見渡す。客間に環の姿は無かった。
「おはようございます、永遠様。」
「おはようございます、永遠ちゃん。」
撫子と桜が挨拶をする。撫子は諦めたのか、桜のオレに対する敬称について何も言わなくなった。
「おはよう。撫子、桜。」
オレが挨拶を返すと撫子と桜が堪え切れず笑う。
「どうした??」
オレが聞くと桜が笑いながら
「永遠ちゃん、髪の毛ボサボサだよ。」
と答えた。オレはボサボサの髪を触ると
「だよな。オレもその内切ろうとは思っているんだけど。」
と笑い返した。
「それでしたら、食事が済みましたら私が切って差し上げますわ。」
撫子は、手で口元を抑えながら声をかける。その言葉に桜もあの誾さえも慌てる。
「ダメだよ、なぁちゃん。永遠ちゃんの頭が無くなっちゃう。」
桜の言葉に背筋が凍る。
『撫子…さん。もしかして相当な不器用さんですか?』
撫子の顔が膨れている。
「大丈夫ですよね。永遠様。」
『何が大丈夫なんでしょうか…撫子さん。』
変な汗が出てくる。
「撫子様。殿方の髪を切るなと淑女のする事ではございません。侍女である私が致します。」
誾の言葉がオレを救う。撫子は納得していない様子だったが、オレが
「それじゃ、今回は…誾さんにお願いしようかな。」
と言うと渋々納得した。誾は、
「さぁ、お食事が冷めないうちにお食べ下さい。」
と言って、食事を勧めた。オレは、席に着くと誾に訊ねる。
「環さんは、来られないんですか?」
誾は、
「環様は、自身のお部屋で摂られるとの事でしたので、此方には来られません。」
と答え、それ以上は何も言わなかった。オレもそれ以上は何も聞かず、箸を取った。
食後は、予定通り誾がオレの髪を切った。切った髪は、この地の者の治療薬として丁重に保管される事になった。
その後、オレは撫子と桜に連れられ、神殿内を回った。里には、桜お勧めの人兎の作る甘味処などがある様だが、今は不知火の訃報で里が混乱している事もあり、里に降りるのは落ち着いてからする事にした。神殿を一通り回った後に八咫がいる宝物殿に向かった。八咫は鑑定士兼九尾の宝物殿の管理者も担っていた。宝物殿の前には武装した人孤の兵士が警備をしていたが、撫子達を目にすると頭を下げて、すんなりと宝物殿に通してくれた。
「失礼します。」
撫子が八咫に声をかけ、宝物殿に入る。宝物殿では、八咫が竜達の遺品を念入りに調べていた。八咫は、オレ達に気づくと鑑定の手を止めて
「これは、これは永遠様に撫子様、桜様まで。どうなさいました。」
と言った。オレは軽くお辞儀をすると
「今2人に神殿内を案内をしてもらっていて。お邪魔でしたか?」
と八咫に聞いた。八咫は手を横に振ると
「いえいえ、どうぞゆっくりしていって下さい。」
と返した。オレは周りを見渡す。宝物殿の中は、煌びやかな装飾品から二尺以上ある太刀等が置かれていた。そして、床には竜達の遺品。八咫は、オレの視線に気づくと鑑定士の性なのか竜達の遺品について語り始めた。
「永遠様も気になりますか。この竜様方の遺品が。そうですな。どれもが国宝級。滅多にお目にかかる事ができない品々です。物によっては神具レベルの能力を有している物さえあります。例えばこの【炎帝の指輪】なんかは、炎属性の耐性を上げるだけでなく、炎属性の能力を格上げする事もできるでしょうな。本当に鑑定冥利に尽きる品々です。ところで、永遠様はこの遺品達をどうされるつもりですか?」
八咫の問いにすぐ答えが出ない。あの場に放置できないと思い、回収して来たが、その後の事は考えていなかった。オレは正直なところを八咫に話した。
「正直、何も考えていませんでした。竜達に託されたのは、あの角輪と宝石で、他は自由にして良いと言われました。あの場に放置できないと回収してきましたが、どうしたらいい物なんでしょうか?」
オレの返答に八咫は頭を悩ます。
「そうでしたか。確かに、この品々の所有者は、永遠様になっております。それが竜様方の意思なのでしょうな。ですので、永遠様の意のままにしてよろしいかと思いますが。」
オレは、八咫の言葉に疑問を投げかける。
「この剣の時も気になっていたのですが、鑑定は、その物だけでなく、所有者も分かるものなのですか?」
オレの問いに八咫が答える。
「そうです。鑑定するとその物の組成だけでなく、特性、能力、効果等に加えて所有者も分かります。所有者は、現所有者の意思によって変える事ができます。盗難や殺害などで奪い取った場合には、扱う事はできますが、所有者が変わる事はありません。」
八咫の言葉にオレは改めて黒竜石の剣を見る。
『この剣の所有者がオレになっていたという事は、未来自身の意思で変えたという事。…待てよ。それじゃあ、未来は、この剣をオレが扱える事を知っていたという事になる。つまりオレも不老不死だと。不老不死の根源であるオレの願いは、オレと神しか知らないはず。何故、未来が…』
「永遠様、大丈夫ですか?」
撫子の声に我に帰る。撫子と桜が心配そうに見つめている。
「ごめん、また考え事を。2人には心配させてばかりだね。」
そう言ってオレは2人に頭を下げた。そして、八咫に竜達の遺品についてオレの考えを相談をした。
「オレは、不知火さんの件が落ち着いたら旅に出ようと思っています。」
「えっ」
撫子の声が漏れる。唐突に出たオレの言葉に動揺した様だった。
「永遠ちゃん、何処に行くつもりなの?」
桜が直ぐに聞いてくる。
「とりあえず、竜の谷を目指すつもりだよ。」
「そうですか。竜の谷へ」
撫子はそう一言言うと何かを決意した様だった。オレは話を続ける。
「それで、この遺品を旅の為の装備か路銀にしたいと思うのでしょうが、どうでしょうか?」
オレの提案に八咫はまた頭を悩ませる。
「永遠様の考えは分かりました。旅の是非は、儂には何とも言えませんが、もし竜の谷へ向かわれるなら色々と準備が必要でしょう。儂が言える事は、まず路銀にするというのは難しいという事でしょうか。確かにこの品々を売る事はできます。所有者は、永遠様なので正規のルートで売る事ができます。ですが、それを買い取れる所はないでしょう。」
「それはどういう事ですか?」
オレの問いに八咫が話を続ける。
「先程申しました様に、この品々はどれもが国宝級なのです。相場で言うなら、1点で一国家予算の1~2割程度はするのです。それ程の金額を払える店はおそらくないでしょう。」
「となると、装備に…」
と言って、改めて竜達の遺品を見る。竜達の遺品は、全てが竜使用。生地類は転用できそうだが、金属製品は難しそうだ。炎帝の指輪とは言われているが、サイズは完全にベルトだ。無意味かと思ったが、念の為聞いてみる。
「この遺品を加工するのは、できますか。」
八咫は首を振ると
「この里では無理ですな。それを加工できるほどの鍛冶師がいないのです。下手に加工すれば、能力を失いかねません。」
と答えた。そして、少し間を置いて
「ただ、西にある巨人族の里なら加工ができる者がいるやもしれません。巨人族は、賢神オリバー様の眷属。その黒竜石の剣もオリバー様の指示のもと巨人族が鍛えたと言われています。」
と追加した。
「この世界には巨人族がいるのですか?」
オレの問いに八咫が頷く。
「そうです。巨人族は、オリバー様より授かった知識を元に、万物の生産と医療を生業としている種族です。」
「医療もですか?」
「ええ、そうです。そもそも、回復に関わる能力を授かった者は、ほとんどいないのです。ですので、治療を必要とする者は、巨人族に診てもらうか、巨人族が創薬した薬で対応する事が多いのです。ただ、巨人族は、辺境の地に住んでいる事が多く、個体数が他の種族と比べて少ない。故に、回復に関する商品は、高価に取引きされるのです。」
人間が高めてきた医療が衰退し、無くなったのではないかと嫌な予感が過り、恐る恐る聞いてみる。
「人間族に医者、日々医療の研鑽をしてきた者はいないのですか?」
「いないわけでは無いのですが、どうしても設備や技術的な面で巨人族とは劣ってしまうのです。ただ、永遠様の【医者】という言葉に思い当たる節があります。賢神オリバー様は、創造神になられる前は医者と呼ばれる存在だったと言われています。オリバー様は、【生きたいと思う者には必ず手を差し伸べる。それが自分の天命だ】と名言を残しています。そして、その言葉通り、世界改変後の世界で傷ついた者達を救い続けたと言われています。」
『賢神オリバー。この創造神は、オーストラリアの名医オリバー・ウィルソンじゃないのか。オレが憧れ、目指した医者。あの名言、その行動力、間違いない。』
思わぬ情報に目が輝いてしまう。
「巨人族の里は、数十人の巨人族とその従者達で構成されています。従者達は、そこで巨人族に仕えながら、その技術を学び、故郷へと持ち帰っているのです。」
『つまり巨人族の里は、大学みたいなもので、巨人族は、教授といったところなんだろう。』
「八咫さん、ありがとうございます。とりあえず、旅立つ前に巨人族の里に行ってみようと思います。」
オレの言葉に八咫の顔がうかない。オレが
「どうかしましたか?」
と訊ねると
「今更で申し訳ないのですが、巨人族は、その知識や技術を生業としています。故に高度な知識や技術程、費用がかかるのです。この品々を加工するとなると、それこそ莫大な費用がかかるかもしれません。」
と返された。無一文のオレに返す言葉は無かった。これこそ宝の持ち腐れというのだろうか。オレ達は、貴重な情報をくれた八咫に礼を告げ、宝物殿を後にした。外は、茜色に染まっていた。
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