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最高の食料
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環は、一息つく。そして
「これが、我ら九尾の一族が紡いできた歴史です。」
と言って、歴史の語りを締めた。話を聞き終えたオレ達は、しばらく無言の時間を過ごした。撫子と桜の手が自然と重なる。撫子と桜は、自分達が知っている神話の裏にあった悲しい過去が、現在と重なり、必死に受け入れようとしている様だった。そして、オレは、自分が永い時を何も知らないままタイムリープしてしまった事に言葉を失った。【世界改変】、【創造神】、【生物進化】、【能力(ちから)の争奪】、【解放戦争】、【竜神戦】、【秘術】オレが生きていた時代では、想像できない歴史。ただ、その中にタノガミ ミク、妹の存在があった。オレは、妹の情報を少しでも知りたくて、環に訊ねた。
「未来は、この地を去った後、何処へ行ったのですか?」
オレの問いに環が答える。
「ミク様は、この地を去った後、ソフィア様の居城のあるフレイヴェールに行かれたと言われています。」
そう答えると今度は、環がオレに聞いてきた。
「続きをお話しする前にわしも1つお聞きしてもよろしいですか?永遠様とミク様はどの様なご関係なのですか?」
環の問いにオレは、一度目を瞑り、そして
「確証はありません。ですが、今までの状況、環さんの話から、オレの妹の可能性が高いと思っています。」
と答えた。オレの答えに環は
「そうでしたか。ミク様は、永遠様の妹君。」
と言って、一息ついた。そして、
「これからお話しする事は、永遠様にとって酷な話になるかもしれませんが、よろしいですか?」
と言った。オレは、妹との時間を思い出し、一度頷くと
「はい、お願いします。もう会う事はできない、死んでしまったかもしれない、そう思っていた妹がこの世界で生きていた。そして、まだ生きているかもしれない。なら、少しでも妹の事を知りたいんです。」
と言って、環にお願いした。環は、
「分かりました。」
と言うと未来について話し始めた。
「先ずは、ミク様の現在をお話をする前にミク様の能力についてお話をさせていただきます。永遠様は、もうお気づきかもしれませんが、ミク様の能力は、【不老不死】です。身体の大半を失っても直ぐに再生してしまう自己再生能力。そして、人智を超えた再生能力は、もう一つの能力を生みました。それが【神子の遺伝(きおく)】です。自身より強い者や強い能力により身体を失った際、再生と同時にその能力を取り込む能力です。その2つの能力により、ミク様は、竜神リアム様と戦える程の力を身につけたのです。」
環の言葉にオレは自分の右腕を見る。そして、
「もしオレが未来と同じ能力を持っているなら、先の戦いで失った身体に竜達の能力を宿しているという事ですか?」
と聞いた。環は、頷くと
「その通りです。長門から聞きましたが、おそらく永遠様の失った身体には、竜様方の能力、力が宿っていると思われます。見た目は変わらなくともその皮膚は、竜様方と同等の硬度を持っているのでしょう。その辺の武器では、永遠様を傷つけることすら叶わないはずです。」
と答えた。オレは、左手で右腕を触る。
『もう普通の人間には戻れないという事か。オレも未来も。分かってはいたが、流石に堪えるな。」
オレは、居た堪れない気持ちを心に秘め、環の話の続きを聞いた。
「今の話でご理解いただけていると思いますが、ミク様の能力は、非常に強力なものです。それは、神の領域と言われても過言ではないでしょう。ですが、それ故にミク様は、能力を求める者に好色の目で見られてきました。つまり、最高の食料として見られていたのです。」
『……。最高の食料。未来が食料。………吐き気がする。』
思いもよらない衝撃にオレは、思考が止まり、血の気が下がった。顔色の青ざめたオレを心配して、撫子と桜がオレの傍へと近寄る。そして、
「大丈夫ですか、永遠様。」
と撫子が声をかける。
「……。」
声が出て来ない。
『情けない。覚悟をしていたのに、現実を受け止められない。撫子や桜でさえ、祖先が食料だった歴史を受け止めているのに。』
力の入らない手を握る。自分で震えているのが分かる。そんなオレの姿を見て、環は、1つ息を吐くと
「少し休憩といたしましょうか。わしも話し疲れました。茶を用意しますので、永遠様は、休んでて下さい。桜や、手伝ってくれるかの。」
と言って、桜を連れて部屋から出て行った。オレは、気持ちの整理ができないまま、ただ目の前を呆然と見ることしかできなかった。急に目の前が暗くなる。でも、柔らかな温もりが顔を包み込む。
「大丈夫ですよ、永遠様。私が側にいますわ。」
撫子の声が、そして、胸の鼓動がオレの頭の中の暗闇を晴らしいく。でも、決して消えない闇。手の震えが消えたオレは、それに抗うかの様に撫子を強く抱きしめた。
「んっ」
撫子の吐息が漏れる。それでも撫子は、それに応えるかのようにオレの頭を優しく包み込んだ。
どれだけの時が経ったのだろうか?まだ桜達が帰って来ない。数分程度の時間だったのだろう。でも、オレにとって撫子の抱擁は、心を癒すための十分な時間を与えてくれた。オレは、強く抱きしめていた腕をほどき、撫子の顔を見た。その時のオレの顔は歪んでいたに違いない。でも、撫子は、そんなオレを愛しむ様に見て、
「もう落ち着かれましたか、永遠様。」
と声をかけた。オレは一度頷くと、撫子の顔をしっかり見て
「もう大丈夫だ。ありがとう、撫子。」
と返した。オレの言葉に安心したのか、撫子の頭がオレの胸に当たる。
「永遠様のお気持ちは痛いほど分かりますわ。もし、桜が食料にされていたなら、私も同じ様に取り乱していました。お婆様のお話は、まだ続きます。耐えられない時は、また私をお求め下さい。私は、永遠様の側にずっと居ますから。」
撫子は、そう言うとオレの顔を下から覗き込んだ。その献身に満ちた愛らしい顔にオレは惹かれている事を実感した。自然と撫子との顔が近づいていく。そして、唇と唇が重なり合おうとする瞬間、桜達が戻ってきた。オレは、咄嗟に撫子の顔から距離を取り、我に返った。
『未来と同じ年下の娘に、こんな愛情(きもち)を感じるとは……』
恥ずかしさのあまり、撫子を直視できなかった。だが、何故か撫子の顔は膨れてる気がした。
「これが、我ら九尾の一族が紡いできた歴史です。」
と言って、歴史の語りを締めた。話を聞き終えたオレ達は、しばらく無言の時間を過ごした。撫子と桜の手が自然と重なる。撫子と桜は、自分達が知っている神話の裏にあった悲しい過去が、現在と重なり、必死に受け入れようとしている様だった。そして、オレは、自分が永い時を何も知らないままタイムリープしてしまった事に言葉を失った。【世界改変】、【創造神】、【生物進化】、【能力(ちから)の争奪】、【解放戦争】、【竜神戦】、【秘術】オレが生きていた時代では、想像できない歴史。ただ、その中にタノガミ ミク、妹の存在があった。オレは、妹の情報を少しでも知りたくて、環に訊ねた。
「未来は、この地を去った後、何処へ行ったのですか?」
オレの問いに環が答える。
「ミク様は、この地を去った後、ソフィア様の居城のあるフレイヴェールに行かれたと言われています。」
そう答えると今度は、環がオレに聞いてきた。
「続きをお話しする前にわしも1つお聞きしてもよろしいですか?永遠様とミク様はどの様なご関係なのですか?」
環の問いにオレは、一度目を瞑り、そして
「確証はありません。ですが、今までの状況、環さんの話から、オレの妹の可能性が高いと思っています。」
と答えた。オレの答えに環は
「そうでしたか。ミク様は、永遠様の妹君。」
と言って、一息ついた。そして、
「これからお話しする事は、永遠様にとって酷な話になるかもしれませんが、よろしいですか?」
と言った。オレは、妹との時間を思い出し、一度頷くと
「はい、お願いします。もう会う事はできない、死んでしまったかもしれない、そう思っていた妹がこの世界で生きていた。そして、まだ生きているかもしれない。なら、少しでも妹の事を知りたいんです。」
と言って、環にお願いした。環は、
「分かりました。」
と言うと未来について話し始めた。
「先ずは、ミク様の現在をお話をする前にミク様の能力についてお話をさせていただきます。永遠様は、もうお気づきかもしれませんが、ミク様の能力は、【不老不死】です。身体の大半を失っても直ぐに再生してしまう自己再生能力。そして、人智を超えた再生能力は、もう一つの能力を生みました。それが【神子の遺伝(きおく)】です。自身より強い者や強い能力により身体を失った際、再生と同時にその能力を取り込む能力です。その2つの能力により、ミク様は、竜神リアム様と戦える程の力を身につけたのです。」
環の言葉にオレは自分の右腕を見る。そして、
「もしオレが未来と同じ能力を持っているなら、先の戦いで失った身体に竜達の能力を宿しているという事ですか?」
と聞いた。環は、頷くと
「その通りです。長門から聞きましたが、おそらく永遠様の失った身体には、竜様方の能力、力が宿っていると思われます。見た目は変わらなくともその皮膚は、竜様方と同等の硬度を持っているのでしょう。その辺の武器では、永遠様を傷つけることすら叶わないはずです。」
と答えた。オレは、左手で右腕を触る。
『もう普通の人間には戻れないという事か。オレも未来も。分かってはいたが、流石に堪えるな。」
オレは、居た堪れない気持ちを心に秘め、環の話の続きを聞いた。
「今の話でご理解いただけていると思いますが、ミク様の能力は、非常に強力なものです。それは、神の領域と言われても過言ではないでしょう。ですが、それ故にミク様は、能力を求める者に好色の目で見られてきました。つまり、最高の食料として見られていたのです。」
『……。最高の食料。未来が食料。………吐き気がする。』
思いもよらない衝撃にオレは、思考が止まり、血の気が下がった。顔色の青ざめたオレを心配して、撫子と桜がオレの傍へと近寄る。そして、
「大丈夫ですか、永遠様。」
と撫子が声をかける。
「……。」
声が出て来ない。
『情けない。覚悟をしていたのに、現実を受け止められない。撫子や桜でさえ、祖先が食料だった歴史を受け止めているのに。』
力の入らない手を握る。自分で震えているのが分かる。そんなオレの姿を見て、環は、1つ息を吐くと
「少し休憩といたしましょうか。わしも話し疲れました。茶を用意しますので、永遠様は、休んでて下さい。桜や、手伝ってくれるかの。」
と言って、桜を連れて部屋から出て行った。オレは、気持ちの整理ができないまま、ただ目の前を呆然と見ることしかできなかった。急に目の前が暗くなる。でも、柔らかな温もりが顔を包み込む。
「大丈夫ですよ、永遠様。私が側にいますわ。」
撫子の声が、そして、胸の鼓動がオレの頭の中の暗闇を晴らしいく。でも、決して消えない闇。手の震えが消えたオレは、それに抗うかの様に撫子を強く抱きしめた。
「んっ」
撫子の吐息が漏れる。それでも撫子は、それに応えるかのようにオレの頭を優しく包み込んだ。
どれだけの時が経ったのだろうか?まだ桜達が帰って来ない。数分程度の時間だったのだろう。でも、オレにとって撫子の抱擁は、心を癒すための十分な時間を与えてくれた。オレは、強く抱きしめていた腕をほどき、撫子の顔を見た。その時のオレの顔は歪んでいたに違いない。でも、撫子は、そんなオレを愛しむ様に見て、
「もう落ち着かれましたか、永遠様。」
と声をかけた。オレは一度頷くと、撫子の顔をしっかり見て
「もう大丈夫だ。ありがとう、撫子。」
と返した。オレの言葉に安心したのか、撫子の頭がオレの胸に当たる。
「永遠様のお気持ちは痛いほど分かりますわ。もし、桜が食料にされていたなら、私も同じ様に取り乱していました。お婆様のお話は、まだ続きます。耐えられない時は、また私をお求め下さい。私は、永遠様の側にずっと居ますから。」
撫子は、そう言うとオレの顔を下から覗き込んだ。その献身に満ちた愛らしい顔にオレは惹かれている事を実感した。自然と撫子との顔が近づいていく。そして、唇と唇が重なり合おうとする瞬間、桜達が戻ってきた。オレは、咄嗟に撫子の顔から距離を取り、我に返った。
『未来と同じ年下の娘に、こんな愛情(きもち)を感じるとは……』
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