神盤の操り人形(マリオネット)

遊庵

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神の血が創りし世界

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広間に残ったオレと撫子、桜に環が声をかける。
「永遠様、儀式は明後日になります。その前に、お伝えしなければならない事がございます。わしについて来ていただけますか?撫子、桜。お前達もついてきなさい。」
その言葉に撫子と桜は頷き、オレは
「分かりました。」
と返した。環は、オレの返答を聞くと背を向け、神殿の最奥へと俺たちを連れて行った。神殿の最奥には、頑丈な扉で閉ざされた部屋があった。環がその扉に手を翳すと扉の中央に紋様が浮かび上がり、大きな音ともに扉が開いた。扉の中は、外からの光が一切入らない暗闇が広がっていた。
「ここから先は、我ら九尾の禁断の間。さあ、中へお入り下さい。」
オレ達は、環に促されるまま、扉の中へと入って行った。環は、入り口にあった提灯に火を灯すと再び扉を閉めた。提灯の薄明かりが部屋に広がる。環は、提灯を持ちながら部屋の隅に行くと、置いてあった水晶に手を翳す。すると、水晶が光だし、部屋の各所にあった石が光り出した。部屋全体を石の光が包む。部屋には、幾つかの武具と沢山の書物が納められていた。環は、
「永遠様。どうぞ、こちらにお座り下さい。」
と言って、オレ達を部屋の中央に座らせた。環は、オレ達が座るのを見届けるとオレ達の前に座った。環は、部屋を一度見渡すと
「此処には、我ら九尾の歴史と先祖様が与えられた秘術の方法が納められております。九尾の里長は、この歴史と秘術を紡ぐ事を使命としてきました。不知火がいない今、万が一の事を考え、撫子と桜に託す事にします。撫子、桜、よろしいな。」
と言った。撫子と桜は
「分かりましたわ、お婆様。」
「分かったよ、ばば様。」
と答えた。環は、一度頷く。そして、
「本来は、良き夫と契りを交わし、仔を産み、里長になった者に継承するもの。お前達の晴れ姿を見ないうちに継承するのは、ちと不安じゃがな。」
と言った。環の言葉に撫子は、笑顔で
「それなら心配はありませんわ、お婆様。私たちの旦那様なら、ここにおりますので。」
と言って、オレの腕を掴んだ。撫子の胸が腕に当たる。そして、桜も
「私たち、永遠様に何度も求婚されたんだから。」
と言って、抱きついた。オレは、混乱した。
『求婚?オレが撫子と桜にプロポーズ?…いやいや、これは、環を安心させるために言っているのだろう。』
オレは、撫子と桜の顔見て、環に対して頷いた。環は、目を細めると
「それは、何よりですじゃ。良き冥土の土産ができました。」
と答えた。環の孫娘達を愛しむ眼差しがこちらに向けられる。そして、環は、一度目を閉じると
「永遠様。わしの可愛い孫娘達のこと、よろしくお願い致します。」
と頭を下げた。環を安心させるとはいえ、心苦しさを感じる。環は、頭を上げると近くにあった書物を触り、
「この中には、竜の巫女様の事を記した書物もございます。少しでも永遠様のお役に立てばと思い、お連れ致しました。」
と話した。
「竜の巫女、タノガミ ミクの記録があるのですか?」
オレの言葉に環は、頷くと
「ええ、そうです。我ら九尾にとって、竜の巫女様は命の恩人。創造神の1人、アイシャ様と同じように崇められた存在なのです。」
と言い、環の知るこの世界の歴史、そして竜の巫女の事について語り始めた。

「【世界改変(ラグナロク)】。人間族がこの世界を支配していた時代に1人の神が降り立ち、その神の力を授かりし、6人の創造神によって、その文明は滅ぼされました。
世界改変後の世界には、人間族以外に創造神が1人、生物神アイシャ様の血によって、知性と言葉を得る事ができた、獣族、鳥族、水生族、虫族が存在しました。ですが、【全ての生物は平等であるべき】というアイシャ様の信念の下、与えられた血は、巨大化した虫族を中心に、知性など皆無の欲望のままの暴走を引き起こし、世界を崩壊させようとしました。世界の危機を察した創造神が1人、守護神王(わん)様は、神の威の代行者として、その力を解放し、暴走した種族全てを殲滅しました。
その後、創造神が1人、賢神オリバー様の助力もあり、アイシャ様の血を得た種族の暴走は無くなりました。ですが、世界に甚大な被害を与えた責任を感じたアイシャ様は、各族長を呼び、【全ての種族が知性ある生き方をするよう監視する事】を誓わせ、自らの血肉を与えました。血肉を与えられた族長達は、各々を獣神アイシャ、鳥神アイシャ、海神アイシャと名乗り、各種族を治めました。
ですが、血を流す歴史は、変わりませんでした。人間族は、暴走した種族が殲滅されたとはいえ、知恵を持ち、巨大化した生物達がまた襲ってこないかと恐怖したのです。そして、自らを守るためにと武器を手にしたのです。当時の武器は、殺傷能力が強く、人間族有利な戦いが、続きました。ですが、文明の崩壊した人間族にとって武器の生産、供給は難しく、身体能力で上回る獣族達に徐々に支配されていったのです。
武器を失い、絶望した人間族は、希望を見出す為に、かつて自分達の文明を滅ぼした創造神が1人、魔法神ソフィア様に助けを乞いました。ソフィア様は、文明を崩壊させた代わりとして、自らの血、魔法という能力を人間族に与えました。魔法という能力を得た人間族と他の種族の力は、均衡し、冷戦状態となりました。
ですが、その冷戦状態も長くは続きませんでした。支配意欲の強い獣族や鳥族が魔法の能力を求めて、魔法使い狩りを始めたからです。幾人かの魔法使いが捕まり、獣族や鳥族に食されました。しかし、食した獣族や鳥族は、魔法を得るどころか、魔物化し、抑えきれない能力に暴走しました。人間族に適合した魔法の能力は、獣族や鳥族に全く適合しなかったのです。魔物化した者は、同族すら襲い、新たな悲劇を生みました。
多くの獣族や鳥族は、魔法の能力を得る事を諦めましたが、袁族の長パブロは、魔法を得る方法を探究し続けました。その結果、産まれたのが、我ら人獣や獣人、人鳥や鳥人といった亜人種族なのです。パブロは、魔法を持つ人間族と獣族や鳥族を交配させる事で我らを生み出したのです。
遺伝的に違いのある種族間での交配は、極めて低いものでした。さらに魔法の能力を受け継いだ者は極めて稀でした。ですが、アイシャ様の血を色濃く受け継いだ一部の種族の中から、徐々に魔法能力を有した亜人種族が産まれるようになりました。そして、ついに魔法の能力を有した亜人種族を食し、獣族や鳥族も魔法を手に入れたのです。
魔法の継承率は、低かったのですが、獣族や鳥族が魔法を手に入れた話は瞬く間に世界に広がり、再び魔法を求める獣族や鳥族の魔法使い狩りが始まりました。そして、何千種という亜人種族が産まれました。
ある程度の亜人種族が手に入ると獣族や鳥族は、魔法使い狩りをやめました。魔法使い狩りは、人間族の抵抗に合うリスクが高い割に捕獲しても交配の成功率が低いという現状がありました。それに対し、生まれた時から抵抗する事を許されず、生産性の高い亜人種族を飼い、奴隷とする方が有意義と考えたからです。
その頃の亜人種族は、はっきりとした棲み分けがされていました。人獣や人鳥は、家畜として飼われ、魔法の能力を持つ者は、権力を持つ獣族や鳥族達に献上されました。獣人や鳥人は、見た目から食用とされる事はなく、獣族や鳥族達の奴隷として扱われました。獣人や鳥人の中で魔法の能力を持つ者は、権力者の護衛役として重宝される事もあった様です。お互いが亜人種族として産み出されたにも関わらず、家畜と奴隷として扱われた歴史が、今も人獣と獣人・人鳥と鳥人の間に隔たりを与えているのです。
このまま歴史が続いていれば、我ら人獣は仔を産み、食べられるだけの人生を送っていたでしょう。ですが、家畜でしかなかった我らを救って下さった存在がいるのです。それが竜の巫女様である、タノガミ ミク様なのです。
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