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【閑話】国王殿下はそんなに困ってない。

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私は実はそんなに困っていない。


「……陛下、お時間です。」


今日も政務を終えた私は王宮を出ると自宅に帰る。

一軒家だ。

王宮の隅にひっそりと建てられた茅葺き屋根の古民家はヨーロッパ建築を思わせる石造りの家々に住むこの国の国民からすると粗末でみすぼらしく見えるらしい。藁の家に貧民街のイメージがある様で、毎度痛ましげな視線を向けられる。


間取りは3LDKで特別広くもなく涙を誘うらしいが、私からしたら平屋造りな時点で贅沢だと思う。庭も広い。しかし土地の有り余っているこの国ではそこは大して評価されないのだから価値観の違いとは不思議なものだ。


部屋に入れば即ジャージに着替える。
どうせインクで汚れるので式典の時以外はシャツとカーディガンにチノパンで比較的楽な格好ではあるがそれでもジャージほどの楽さはない。

人と会うときは着替えるのだからいっそ仕事着もジャージにしたいが、流石に装飾ゼロだと雑巾でも着ている様に見えるらしく、従者が泣き出すので配慮している。


畳に横になると、厨房で余っていたチーズとワイン、パンなんかを1人ちびちび摘まむ。

后達とは早くから別居状態だ。ソファも無い部屋で床に寝るなど考えられないそうだ。



王位も古民家も本来兄が継ぐ筈だったが、盆栽は好きだがベットじゃないと寝られないタイプらしく、古民家での暮らしは嫌だったようで頼み込まれて代わってやった。

囲炉裏に憧れがあったので棚からぼた餅だ。
世間ではボロを着て質素倹約に勤める王に見えるらしい。

何のことはない、ただの転生者だ。


好き好んでこの生活をしている。
なんなら兄も転生者だ。

彼は元造園業者でこの世界では貴族向けの造園業務で成功している。私が元々事務方の公務員で起業に向いたスキルではなかったし、交代して正解だったと思う。

古の魔法の影響で代々王族は転生者だった。
その殆どが日系の転生者だった様で、いつ頃か気が休まるスペースとしてこの古民家が建てられ、色々勘違いを訂正しないまま現在に至るのだろう。


しかし私と兄の子供達は10才まで観察してもどの子も転生者の片鱗はみられなかった。どうも「千年に一度の流星群」の影響で古の魔法が打ち消されてまったらしいと今では判明している。

理由が分かるまではもう大騒ぎだった。

后の托卵を疑い泥沼の罵り合いと愛人騒動の末、第2第3王子までつくった私は離婚こそなかったが、あれ以来后とは口も聞いてもらえない。

息子である事を疑った王太子は勿論、愛人騒動で増えた第2第3王子にも同じ様に各々の后に拒まれ会えていない。

自業自得である。

勘違いとはいえ、私はやり過ぎてしまったのだ。寂しいがこれは仕方の無いことだ。はらわた煮えくり返っているだろうに国の跡継ぎに困らないよう留まってくれたのだ。感謝しかない。

継いでくれるだけありがたいので、せめて安定した統治で引き継げるよう政務に専念している。

しかし今後王子が転生者でないならわざわざ言い訳をしてまでこのような暮らしをする必要も無いだろう。
この家に価値も見出だせないに違いない。

使わないようであるなら隠居した後もここに住まわせてもらいたい。


私は自分の老後生活の算段をつけると
どんな建前なら都合良くいけるか
考えを練る作業を始めた。
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