死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨

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49. 雪解け

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「私が王を目指すよう仕向けたのはお前だ――ランベルト」
「わた…しが?」
 仕向ける?全くなんの事か分からない。
 混乱する俺の両手を王子が取った。

「大好きなお前が、望むから私は王を目指した。ランベルトが傍にいると言うなら…王になることも耐えようと思った」
「たえる…?じゃあエルは……ずっと……」

 嫌だったのか?それを俺が強いていた…?あの幼かった頃から今まで?
 …言葉だけで顔面を殴打されたような気分だ。立ち直れない。

「幻滅したか?…お前が望む私でいられず、すまない…」

 どうして王子が謝る必要があるだろう?謝るのは俺の方だ。
 だが思ってもいなかった心情の吐露に、俺は嗚咽を堪え切れなかった。
「ラン…どうしてお前が泣くんだ…」

「っ俺がエルを追い詰めた…?王でなければなんて…そんなつもりで……」
 言った訳ではないんだと言いたいのに。
 思い出されるのは幼いエリアス殿下を褒める自分の言葉だ。
『エルは王様になるんだね』『勉強頑張っていて偉いね』『きっとエルが治める国はもっと素敵なる』だとか。
 かつて自分から出た言葉が呪いのように反響する。
 王族に生まれて、周囲からも望まれて、俺もそんな前提できっとエリアス殿下は王位を継がれるだろうと、そう思っていた。

 王にはなりたくないとか、それでは俺が離れて行くかもとか、そんな事を考えているとは気が付けなかった。
 自分は今までこの方の何を見てきたのかと、後悔の渦に呑まれそうだ。
 次々と溢れる涙を王子の指先が優しく撫でる。そんな事してもらう価値、俺にはない。


「ずっと聞いてみたかった…王ではない私は嫌か?ランベルト…」

 指先ではない、柔らかな感触が片目に触れた。

「…ずっと俺は、エルが好きです」
「貴方がなにに成っても成らなくても、俺の気持ちは変わらない」

 昔のように抱き締めようと伸ばした手が縛られていることを思い出す。
 両手を上げるとその輪の中に殿下が自ら頭を通した。先程の片目に感じた感触が今度は唇に落ちる。

「ランが望むような自分でいたかった…そうすれば傍にいてくれると思ったから…」
 腰に回っていたエリアス殿下の腕が背中を優しく撫で上げた。
 今度こそ触れるだけではない口付けを受け入れる。

 目を開け焦点の合わないくらい近くなった殿下を見詰めて思い出す。
 ああ、そうだ殿下には出来ない事を出来ないと言い出せない、負けず嫌いな一面がある。
 解決策も自分で見付けようと、努力をするのが幼少期の彼の特徴だ。
 そういう所は全く変わらないんだなと、息継ぎの合間に気が付けば笑っていた。

「一緒に帰ろう、ラン。望むなら別の国へ逃げたって良い」
「ふははっ、二人で?それは…楽しそうだけど。テオドール殿下が何処までも捜しに来そうだ」
 想像しただけでもテオドール殿下が怒って国中にお触れを出すのは目に見えている。
「兄上には…今からでも真剣に王位を目指していただこう」

「テオ殿下が?嫌がる姿が目に浮かぶ…」
 笑い合うとまた殿下の顔が近付いて、俺は自然と瞳を閉じた…。




「――いや!!二人の世界のトコ悪いんだけどさ!?僕もいるの忘れてない⁉」

 二人揃って驚いて前方を見ると、慣れない手綱捌きに四苦八苦するツヴァイの背中があった。
「あっツヴァイ。…か、代ろうか?」
 慌てて殿下の首から腕を退け、努めて明るくツヴァイに話し掛けた。
 同時に不思議な事に、その背中に妙な既視感のような物も感じた。

「いや!!あのさ振り向かなくてもナニしてたかなんて分かるんだからね!?ってか緊張感無いのアンタら!!」
 エリアス殿下が渋々といった様子で腰に回していた腕を解き、俺の両手の縄を解いた。
 両手を軽く振ってから、ツヴァイの背後に回って手綱を貰い受け席を代わる。

「あー!可哀想な僕っ!!こんな茶番に付き合わされて!」
「茶番ってなんだよ…大体君がもっと早くに…」
「はぁ!?えっ僕に説教でもしようって言うの!?オッサンの勝手でこんな辺境まで来たのに!?」
 よほど鬱憤が溜まっていたようでツヴァイの勢いは止まらない。

「大体さぁアンタ達お互いもっとスナオならこんなコトにまでなってなかったんじゃないのー!?」
 馬車の騒音と関係なく、治癒師は声を張り上げている。

「それは…まあ、確かに申し訳ない…」
「苦労を掛けたな」
 エリアス殿下とほぼ同時に謝ると、後ろから盛大な溜め息が聞こえた。


「…それで?こんなんで逃げ切れんの?眠りクスリの効果ももう切れるかもよ?」
 眠り薬と聞いて廊下に倒れていたヤーズの様子が思い出された。
 どうやってあの宿で俺以外に飲ませたのか、気になっていた。
「もしかしてあの野菜に…?」
 俺だけが口にしなかったもの…それはおそらく夕食に出た見慣れない野菜だ。

「そうそう結構調合大変だったけど、あの野菜クスリとも相性良いんだよね」
 ツヴァイが普段からやっているとでもいうように、気軽に言うので驚く。
「詳しいんだな」
「治癒師ってさ、結局求められてる機能は医者だから。医学も薬学も必須項目なんだよね」
「…成程なぁ」
 そんな話をしていると、エリアス殿下が妙に静かになったことに気が付いた。
 素早く振り向くと、どうやら荷台にそのまま伏せているらしい。

 ――恐らく”急な眠気”で。


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