死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨

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a. 王子の後悔<1>

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 ――私に国王になれと誰もが言う。

 我がオルランド王国は建国以来王政を守る保守的な国だ。
 大陸の中でも盤石な地位を築き周辺国との関係は表向き良好。国民が安心して暮らせる国であると自負している。
 多くの国民が飢えを経験せず、同程度の教育を受け、親の職業とは関係のない職に就ける。
 周辺国を探してもここまで統制の取れた国はないと近年では移民申請が絶えない程だ。
 これもひとえに父上や歴代の国王、信じて力を尽くした臣下達の努力の賜物と言える。

 年々重税を課せる一部の公爵家や貴族から不満が出ていないではないが。私は現在までのこの国の在り方に対して、確かな誇りを持っている。
 ――次期国王になる、それ以外に私の道は無いように思えた。


「エリアスまた大臣とやり合ったそうだな!」
 自室から廊下へ出ると実兄のテオドールが立っていた。早朝に兄上に会うのは珍しい。知らず胸に重い物を感じる。
「ええ、兄上は昨晩帰国されたそうですね。…ご無事でなによりです」
「ああ!あちらの国もなかなか面白い文化でな」
 兄上はよく話し、よく笑う。裏表や腹の探り合いは無い。欲しいものは欲しい、嫌なことは嫌だとハッキリと言う性格だ。
 遠い国で自分がまとめて来た交易の話を大まかに私に伝えると、満足したように立ち去ろうとする。

 兄上が無事に帰国したということは、兄上の護衛騎士も無事だという事だ。私が知らず安堵の息をつくと兄上が振り返った。
「あとで詳細を報告させよう、私の主任騎士からな」
「……」
 王族らしい緑がかった金の髪を揺らし、楽し気に兄上が歩き去る。

「…エリアス殿下」
 気遣わし気な護衛騎士サイロの声に我に返る。私は今一体自分がどんな顔をしているのか分からなかった。
 兄上の主任護衛騎士――ランベルト・ルイジアス。
 彼は私と兄上の乳母の息子でもある。

 三年前に一般騎士から王族護衛隊へ配属され、その日に兄上の護衛騎士に就任した。王族への顔合わせの場へも現れず、その決定も翌日になって初めて知った。
 私は兄上のことが苦手ではあるが嫌ってはいない。兄上は兄上でご自分の適性を理解されて、私の補佐に回ると主に外交問題や国同士での交渉事に尽力されている。
 まさに私は苦手とする部分だから、国内の事象に集中出来てありがたいとは思っている。
 ランベルトが護衛騎士になってからは実際に、周辺諸国を精力的に回っている。

「エリアス殿下」
 再度サイロに声を掛けられて執務室へ足を向ける。
 私が許せないのはランベルトだ。いや彼を傍に置けない私自身が許せない。
 他の全ての事象は王子としての明確な判断が出来るのに、彼に向かう感情だけが割り切れない。
 私とずっと供にいると、幼い頃に彼と約束したのに。王位に近付くほど彼が遠くなる。
 私と距離を置き騎士を目指し、兄上の護衛騎士となり、もう最近はほとんど国にもいない。

 公務に取り掛かっている間は忘れられる。だがふとした瞬間に胸に穴が開いたような感覚に陥り、目の前が暗くなる。
 ずっと自分の感情を見て見ぬふりをしている。ただでさえ私の反対した騎士になった彼に、兄上の騎士になった彼に、私はやり場のない感情を抱えていた。

 どうして私ではないのかと考える度、彼にそう思わせるものが私には無かったのだと思い知らされる。
 私にもっと人間としての魅力があれば、もっと素直に何度も頼めば或いは。

「――失礼いたします」
 聞き馴染みのある控えめな声が響き顔を上げる。
 今まさに考えていた彼…ランベルトが扉の前に立っていた。

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