25 / 60
a. 王子の後悔<1>
しおりを挟む
――私に国王になれと誰もが言う。
我がオルランド王国は建国以来王政を守る保守的な国だ。
大陸の中でも盤石な地位を築き周辺国との関係は表向き良好。国民が安心して暮らせる国であると自負している。
多くの国民が飢えを経験せず、同程度の教育を受け、親の職業とは関係のない職に就ける。
周辺国を探してもここまで統制の取れた国はないと近年では移民申請が絶えない程だ。
これもひとえに父上や歴代の国王、信じて力を尽くした臣下達の努力の賜物と言える。
年々重税を課せる一部の公爵家や貴族から不満が出ていないではないが。私は現在までのこの国の在り方に対して、確かな誇りを持っている。
――次期国王になる、それ以外に私の道は無いように思えた。
「エリアスまた大臣とやり合ったそうだな!」
自室から廊下へ出ると実兄のテオドールが立っていた。早朝に兄上に会うのは珍しい。知らず胸に重い物を感じる。
「ええ、兄上は昨晩帰国されたそうですね。…ご無事でなによりです」
「ああ!あちらの国もなかなか面白い文化でな」
兄上はよく話し、よく笑う。裏表や腹の探り合いは無い。欲しいものは欲しい、嫌なことは嫌だとハッキリと言う性格だ。
遠い国で自分がまとめて来た交易の話を大まかに私に伝えると、満足したように立ち去ろうとする。
兄上が無事に帰国したということは、兄上の護衛騎士も無事だという事だ。私が知らず安堵の息をつくと兄上が振り返った。
「あとで詳細を報告させよう、私の主任騎士からな」
「……」
王族らしい緑がかった金の髪を揺らし、楽し気に兄上が歩き去る。
「…エリアス殿下」
気遣わし気な護衛騎士サイロの声に我に返る。私は今一体自分がどんな顔をしているのか分からなかった。
兄上の主任護衛騎士――ランベルト・ルイジアス。
彼は私と兄上の乳母の息子でもある。
三年前に一般騎士から王族護衛隊へ配属され、その日に兄上の護衛騎士に就任した。王族への顔合わせの場へも現れず、その決定も翌日になって初めて知った。
私は兄上のことが苦手ではあるが嫌ってはいない。兄上は兄上でご自分の適性を理解されて、私の補佐に回ると主に外交問題や国同士での交渉事に尽力されている。
まさに私は苦手とする部分だから、国内の事象に集中出来てありがたいとは思っている。
ランベルトが護衛騎士になってからは実際に、周辺諸国を精力的に回っている。
「エリアス殿下」
再度サイロに声を掛けられて執務室へ足を向ける。
私が許せないのはランベルトだ。いや彼を傍に置けない私自身が許せない。
他の全ての事象は王子としての明確な判断が出来るのに、彼に向かう感情だけが割り切れない。
私とずっと供にいると、幼い頃に彼と約束したのに。王位に近付くほど彼が遠くなる。
私と距離を置き騎士を目指し、兄上の護衛騎士となり、もう最近はほとんど国にもいない。
公務に取り掛かっている間は忘れられる。だがふとした瞬間に胸に穴が開いたような感覚に陥り、目の前が暗くなる。
ずっと自分の感情を見て見ぬふりをしている。ただでさえ私の反対した騎士になった彼に、兄上の騎士になった彼に、私はやり場のない感情を抱えていた。
どうして私ではないのかと考える度、彼にそう思わせるものが私には無かったのだと思い知らされる。
私にもっと人間としての魅力があれば、もっと素直に何度も頼めば或いは。
「――失礼いたします」
聞き馴染みのある控えめな声が響き顔を上げる。
今まさに考えていた彼…ランベルトが扉の前に立っていた。
我がオルランド王国は建国以来王政を守る保守的な国だ。
大陸の中でも盤石な地位を築き周辺国との関係は表向き良好。国民が安心して暮らせる国であると自負している。
多くの国民が飢えを経験せず、同程度の教育を受け、親の職業とは関係のない職に就ける。
周辺国を探してもここまで統制の取れた国はないと近年では移民申請が絶えない程だ。
これもひとえに父上や歴代の国王、信じて力を尽くした臣下達の努力の賜物と言える。
年々重税を課せる一部の公爵家や貴族から不満が出ていないではないが。私は現在までのこの国の在り方に対して、確かな誇りを持っている。
――次期国王になる、それ以外に私の道は無いように思えた。
「エリアスまた大臣とやり合ったそうだな!」
自室から廊下へ出ると実兄のテオドールが立っていた。早朝に兄上に会うのは珍しい。知らず胸に重い物を感じる。
「ええ、兄上は昨晩帰国されたそうですね。…ご無事でなによりです」
「ああ!あちらの国もなかなか面白い文化でな」
兄上はよく話し、よく笑う。裏表や腹の探り合いは無い。欲しいものは欲しい、嫌なことは嫌だとハッキリと言う性格だ。
遠い国で自分がまとめて来た交易の話を大まかに私に伝えると、満足したように立ち去ろうとする。
兄上が無事に帰国したということは、兄上の護衛騎士も無事だという事だ。私が知らず安堵の息をつくと兄上が振り返った。
「あとで詳細を報告させよう、私の主任騎士からな」
「……」
王族らしい緑がかった金の髪を揺らし、楽し気に兄上が歩き去る。
「…エリアス殿下」
気遣わし気な護衛騎士サイロの声に我に返る。私は今一体自分がどんな顔をしているのか分からなかった。
兄上の主任護衛騎士――ランベルト・ルイジアス。
彼は私と兄上の乳母の息子でもある。
三年前に一般騎士から王族護衛隊へ配属され、その日に兄上の護衛騎士に就任した。王族への顔合わせの場へも現れず、その決定も翌日になって初めて知った。
私は兄上のことが苦手ではあるが嫌ってはいない。兄上は兄上でご自分の適性を理解されて、私の補佐に回ると主に外交問題や国同士での交渉事に尽力されている。
まさに私は苦手とする部分だから、国内の事象に集中出来てありがたいとは思っている。
ランベルトが護衛騎士になってからは実際に、周辺諸国を精力的に回っている。
「エリアス殿下」
再度サイロに声を掛けられて執務室へ足を向ける。
私が許せないのはランベルトだ。いや彼を傍に置けない私自身が許せない。
他の全ての事象は王子としての明確な判断が出来るのに、彼に向かう感情だけが割り切れない。
私とずっと供にいると、幼い頃に彼と約束したのに。王位に近付くほど彼が遠くなる。
私と距離を置き騎士を目指し、兄上の護衛騎士となり、もう最近はほとんど国にもいない。
公務に取り掛かっている間は忘れられる。だがふとした瞬間に胸に穴が開いたような感覚に陥り、目の前が暗くなる。
ずっと自分の感情を見て見ぬふりをしている。ただでさえ私の反対した騎士になった彼に、兄上の騎士になった彼に、私はやり場のない感情を抱えていた。
どうして私ではないのかと考える度、彼にそう思わせるものが私には無かったのだと思い知らされる。
私にもっと人間としての魅力があれば、もっと素直に何度も頼めば或いは。
「――失礼いたします」
聞き馴染みのある控えめな声が響き顔を上げる。
今まさに考えていた彼…ランベルトが扉の前に立っていた。
7
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
大賢者だと言われたが、たぶん違うから、求婚とかやめてください
夜鳥すぱり
BL
目を開けたらそこは、大草原でした。そして、穴があります。ドでかい穴が。何でしょう、この穴は。不思議に思ってボーーッと空を見ていると、遥か遠くから、馬に乗った騎士様たちが近づいてきて、僕のことを大賢者様だと勘違いしちゃって、さぁ、大変。記憶も魔法も何もかもを忘れた僕は、流れに身をまかせてみることにしました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。
みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。
事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。
婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。
いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに?
速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす!
てんやわんやな未来や、いかに!?
明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪
※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
[完結]閑古鳥を飼うギルマスに必要なもの
るい
BL
潰れかけのギルドのギルドマスターであるクランは今日も今日とて厳しい経営に追われていた。
いつ潰れてもおかしくないギルドに周りはクランを嘲笑するが唯一このギルドを一緒に支えてくれるリドだけがクランは大切だった。
けれども、このギルドに不釣り合いなほど優れたリドをここに引き留めていいのかと悩んでいた。
しかし、そんなある日、クランはリドのことを思い、決断を下す時がくるのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
魔術師の卵は憧れの騎士に告白したい
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
魔術学院に通うクーノは小さい頃助けてくれた騎士ザイハムに恋をしている。毎年バレンタインの日にチョコを渡しているものの、ザイハムは「いまだにお礼なんて律儀な子だな」としか思っていない。ザイハムの弟で重度のブラコンでもあるファルスの邪魔を躱しながら、今年は別の想いも胸にチョコを渡そうと考えるクーノだが……。
[名家の騎士×魔術師の卵 / BL]
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
漆黒の瞳は何を見る
灯璃
BL
記憶を無くした青年が目覚めた世界は、妖、と呼ばれる異形の存在がいる和風の異世界だった
青年は目覚めた時、角を生やした浅黒い肌の端正な顔立ちの男性にイスミ アマネと呼びかけられたが、記憶が無く何も思い出せなかった……自分の名前すらも
男性は慌てたようにすぐに飛び去ってしまい、青年は何も聞けずに困惑する
そんな戸惑っていた青年は役人に捕えられ、都に搬送される事になった。そこで人々を統べるおひい様と呼ばれる女性に会い、あなたはこの世界を救う為に御柱様が遣わされた方だ、と言われても青年は何も思い出せなかった。経緯も、動機も。
ただチート級の能力はちゃんと貰っていたので、青年は仕方なく状況に流されるまま旅立ったのだが、自分を受け入れてくれたのは同じ姿形をしている人ではなく、妖の方だった……。
この世界では不吉だと人に忌み嫌われる漆黒の髪、漆黒の瞳をもった、自己肯定感の低い(容姿は可愛い)主人公が、人や妖と出会い、やがてこの世界を救うお話(になっていけば良いな)
※攻めとの絡みはだいぶ遅いです
※4/9 番外編 朱雀(妖たちの王の前)と終幕(最後)を更新しました。これにて本当に完結です。お読み頂き、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる