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21. どうして
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殿下と別れて邸宅内を歩く。
先頭を歩く侍女が持つ、ランタンの灯りが大きく揺れている。
不気味なほど静かで使用人の一人にも出会わない。…不用心過ぎやしないか?
「ルイジアス卿は、エリアス殿下の護衛騎士になられたのでしょう?」
「はい。つい先日ですが…」
もう噂になっていたのか?貴族というものは本当に情報収集が早い。
「なんでも殿下とは幼馴染でいらっしゃるとか?」
「ええ。私の母が両殿下の乳母を」
「まぁそれで王妃様とも交流があるとか、羨ましいわ」
思ったよりも自分の事を知られていて内心驚いた。
エリアス殿下のことが余程お好きで調べたのだろうか。
「…ルイジアス卿から殿下の護衛騎士へ志願されたのでしょう?」
「はい。殿下は国にとっても大事な方ですから…」
早く部屋に着かないだろうか。階段を上がっては下りる。公爵家の一人娘の部屋へ向かうにしては道程が複雑すぎる。
「申し訳ありません、迂回しなければいけない場所が多くて…」
「いえ」
すまなさそうな侍女の声に納得した。防犯上、部外者に見られたくない場所も多いだろう。仕方がない。
「――実は今夜エリアス殿下は出席の予定ではなかったのです」
「そのようですね」
「ルイジアス卿は…その理由を聞いておられますか?」
「それは…気になる方がおられたので仕事を早く切り上げて、無理に時間を作られたのではないでしょうか」
エリアス殿下の気になる方…もちろん俺のすぐ後ろを歩くカリーナ嬢だ。三年後に婚約されるお二人はこうして何度もパーティーなどで顔を合わせたに違いない。
「…今まで何度も何度も、招待状はお送りしたのに…」
俺の話を聞いていなかったのか、独り言のように令嬢が呟いた。
「貴方に会うために時間を作られたのだと…私は思いますよ」
廊下の角に来て、また階段が見えてきた。窓からは夜風が吹き込んでいる。
「それは違いますわ」
鈴を転がすように高い令嬢の声が、ぐっと低くなった気がした。
「あの方には私より気になる方がおられますの」
――まさか駆け落ちの相手…?会場にいたのか!?咄嗟に会場にいた面々の顔は思い出せない。
「…貴方はその方がどなたかご存じなのですか?」
知りたくない。でも知らなければ前に進まない。いつの間にか侍女も足を止め手近な蝋燭へ灯りを移していた。
「本当にお分かりにならないの?」
じりじりと令嬢が俺に近付く。未婚の令嬢の身体になど決して触れてはいけない。俺は同じ分だけ後退る。
「ルイジアス卿…可哀想な人」
大きな窓が背に触れて、これ以上後ろに下がれない。侍女は無表情で令嬢の隣に立っている。
「カリーナ様…どうか落ち着いて」
「これ以上なく落ち着いています…わ!」
「――あっ!!」
強く胸を押され慌てて片手で窓枠を掴む。侍女も加わって強引に窓の外へ押し出される。その手には火のついたランタンが…。
「あつっ!ぁっっ――!!!」
身体が宙に投げ出された感覚に瞬間――死を覚悟した。
先頭を歩く侍女が持つ、ランタンの灯りが大きく揺れている。
不気味なほど静かで使用人の一人にも出会わない。…不用心過ぎやしないか?
「ルイジアス卿は、エリアス殿下の護衛騎士になられたのでしょう?」
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もう噂になっていたのか?貴族というものは本当に情報収集が早い。
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「ええ。私の母が両殿下の乳母を」
「まぁそれで王妃様とも交流があるとか、羨ましいわ」
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「いえ」
すまなさそうな侍女の声に納得した。防犯上、部外者に見られたくない場所も多いだろう。仕方がない。
「――実は今夜エリアス殿下は出席の予定ではなかったのです」
「そのようですね」
「ルイジアス卿は…その理由を聞いておられますか?」
「それは…気になる方がおられたので仕事を早く切り上げて、無理に時間を作られたのではないでしょうか」
エリアス殿下の気になる方…もちろん俺のすぐ後ろを歩くカリーナ嬢だ。三年後に婚約されるお二人はこうして何度もパーティーなどで顔を合わせたに違いない。
「…今まで何度も何度も、招待状はお送りしたのに…」
俺の話を聞いていなかったのか、独り言のように令嬢が呟いた。
「貴方に会うために時間を作られたのだと…私は思いますよ」
廊下の角に来て、また階段が見えてきた。窓からは夜風が吹き込んでいる。
「それは違いますわ」
鈴を転がすように高い令嬢の声が、ぐっと低くなった気がした。
「あの方には私より気になる方がおられますの」
――まさか駆け落ちの相手…?会場にいたのか!?咄嗟に会場にいた面々の顔は思い出せない。
「…貴方はその方がどなたかご存じなのですか?」
知りたくない。でも知らなければ前に進まない。いつの間にか侍女も足を止め手近な蝋燭へ灯りを移していた。
「本当にお分かりにならないの?」
じりじりと令嬢が俺に近付く。未婚の令嬢の身体になど決して触れてはいけない。俺は同じ分だけ後退る。
「ルイジアス卿…可哀想な人」
大きな窓が背に触れて、これ以上後ろに下がれない。侍女は無表情で令嬢の隣に立っている。
「カリーナ様…どうか落ち着いて」
「これ以上なく落ち着いています…わ!」
「――あっ!!」
強く胸を押され慌てて片手で窓枠を掴む。侍女も加わって強引に窓の外へ押し出される。その手には火のついたランタンが…。
「あつっ!ぁっっ――!!!」
身体が宙に投げ出された感覚に瞬間――死を覚悟した。
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