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18. 騎士団長

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「そこまで…ですか?」
 我ながら情けない返事だとは思った。だが他に言葉が浮かばない。
「私が婚約までしたなら相手を真に愛していた筈だ。そんな相手に裏切られるなら…婚約者を殺して私も死ぬかもな」
 婚約者を殺す…。追手の目的も王子だったのだろう。俺が殺された後やはり王子は――。

「…では婚約者の駆け落ち相手は?どうされますか?」
 好奇心からこの人生の先輩に聞いてみたくなった。
「どうだろうな…向かってくれば返り討ちにするが。逃げるなら追わんな」
 少し考えてから出て来た団長の答え。内心、俺には思い至らない発想だなと思った。

「お前はどうだ?ランベルト。…いや待てよ」
 爽やかに笑った団長が、指で俺の心臓のあたりを軽く突いた。
「――お前はきっと婚約者の幸せでも願って、潔く身を引くタイプだ」
「そんなことは…」…ないとも言い切れず何も言えなくなる。
「…あっさり諦められたとも受け取れる相手からは、お前の真意は伝わらないかもな」
 確信を突かれてハッとした。

「言葉にせねば伝わらぬことも多い…。いやぁそれにしてもお前から恋愛相談とはなぁ!!」
「いやっこれは」
「照れるな照れるなっ!お前を連れ出して正解だったなぁ!」
 上機嫌に笑った上司にまた新しいグラスを渡された。俺は酒にそこまで強くない。


 もう飲むのは止めた方が良いと頭の醒めた部分が言っている。
 しかし嫌でも視界に入る"お似合いの二人"に、胸の底がモヤモヤしてそれを液体で流したくて杯を空けた。

「おい大丈夫か?」
「…へーきです」
「そうか、平気でない奴は皆そう言うよ。夜風にでもあたるか」
 任務中ではないにしても酒に呑まれるとはひどい失態だ。怒るどころか身体を支えてくれた団長に申し訳なくなる。
 正常な頭であれば、団長に身体を預けていること自体を拒絶していたはずだが…。

 ――次に意識が浮上した時、俺は団長によってソファーに押し倒されていた。


「団長…?」
 すぐ目の前に見える団長の顔の後ろには、立派なシャンデリアが見える。ここはどこだ?

「ランベルト…私はお前の秘密を知っているぞ」

「えっ!?」
 ドキリとした。秘密って?まさか三年後に殺されて…今ここにいる事を言っている?それなら、まさか団長も?
「お前はエリアス殿下のことが好きだろう」
「っ!!」
 驚きと安堵が同時にきた。どうして分かったんだ?という驚きと、なんだその事かという安堵の気持ち。

 実は過去…といっても今からだと一年後くらいに、団長には全く同じことを指摘されていた。
「図星だろう?わかりやすい奴だなぁ」
 はははと面白そうに笑った団長が、そのままの軽い口調で続ける。
「だが最初から諦めている。なぁランベルト…」

 つづく言葉は分かっていた。自意識過剰でなければだが。
 団長の騎士らしい硬い指先が頬をなでた。
「お前さえ良ければ、私にしておけ」
「団長…」
「マルクスだ」
「……」
 騎士団長の男らしいが端整な顔立ちに、一瞬言葉に詰まる。

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