死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨

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17. もしも

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 主催者の家名を聞いた時点で察しはついていたが。
 まさかこんなに早く本人に会えるとは!

「部下を紹介します」
 マルクス団長に促され一歩前に出る。
「初めてお目に掛かります。ランベルト・ルイジアスと申します」
 儀礼的に挨拶をすると優雅な礼が返って来た。
「まぁ貴方が。剣技大会では健闘されていましたね」
「恐縮です」
 初対面のカリーナ嬢に名前を憶えられていたようだ。前回の剣技大会は最終組までは残ったが、名立たる先輩方にはまたしても勝てなかった。
 当たり障りのない談笑が続いたが、言葉の端々から令嬢の品の良さと博識さが窺えた。


「っ失礼いたします!お嬢様…」
 急に横から慌てた様子の執事が令嬢に声をかけた。
「――そう、すぐにお通しして。…申し訳ありませんが急にお客様が来られたようですので、私はお迎えに…」
 そう言って令嬢が背を向けようとした瞬間、会場がややざわついた。

 会場の入り口は会場全体を見渡せるよう数段高い位置にある。
 そこに見覚えのある綺麗な金髪が見えた気がした。
 ――まさかな。だって今日は特に忙しくない日だから暇を出された訳で…。
 そう思っている間にも、人々の騒めきが耳に入る。
「エリアス殿下だっ」
「王子が来られるなんて聞いてないっ」
「流石公爵家だ」

「…本当にエリアス殿下でしょうか?今夜外出のご予定は聞いていませんでしたが…」
「どうだろうな…あれはサイロ殿ではないか?」
 王子らしき人物の隣に頭二つ分程背の高いサイロ様の姿が見えた。間違いなさそうだ。
「どうして急に――」

 ――その時エリアス殿下がこちらを見ていることに気が付いた。
「!私、失礼いたしますっ」
 その視線に弾かれたように、今度こそカリーナ嬢が淑やかにそれでいて足早にホールを抜けて行く。

 自慢の薄紅色のドレスが花のように広がっている。薄水色の髪もふわりと揺れて妖精のようだ。
 やっと王子の元へ辿り着いた彼女は、きっと頬もバラ色に色付いているだろう。
 エリアス殿下とカリーナ嬢が並び立つ。会場の中で一番遠い我々のところにまで、周囲からの感嘆の溜息が漏れ聞こえてきそうだ。
 幼い頃に童話で見た王子様とお姫様のようだな…と年甲斐もなく思った。


「――ベルト、ランベルト?」
「あっすみません考え事を…」
 しばらくお二人をぼんやり見守っていた事に気が付き、団長の声で現実に引き戻された。

 …そうか婚約から三年前の今頃には既に交流があったのだ。エリアス殿下と嬉しそうに話すカリーナ嬢。
 国内でも有力な公爵家だ。お二人にもっと前から交流があっても不思議ではない。
「私も殿下の警護につくべきでしょうか…」
「いや、お前は非番だろう。ほら」
 マルクス団長が視線で示した先で、サイロ様がこちらに向かって首を振られた。

「せっかくなら楽しんだらどうだ?」
 新しいグラスを団長に渡されて、ありがたく頂く。
「なんだいける口じゃないか」
「…私なんてまだまだです」
 カリーナ嬢を見掛けたら今エリアス殿下のことをどう思っているかなど聞くつもりだった。三年後、婚約者となった彼女が殿下に追手を放ったとは思えないが…。
 それでも自分との婚約を破って逃げた相手を、すこしも恨まない人間は…いない気がする。ましてや個人的に愛していれば尚更。

 公爵家の呼び掛けに応じたエリアス殿下。王子と笑い合う公爵家令嬢。
 明日は国中の貴族の知るところとなるだろう。噂話にはある事ない事、尾ひれが付くかもしれない。
 胸の辺りがチクチクと痛む。過去の婚約発表後のつづきを見ているようだ。
 なにか話題を見付けることも出来ず、黙々と酒を飲む。

「…マルクス団長は」
「うん?」
「もし自分の婚約者が、別の人間と駆け落ちしたら…どうしますか?」
「…ランベルトお前は婚約者はいないよな?」
「いません。例え話です」

「うーんそうだな…」
 真面目に考えてくれている団長の横顔を見て、この人に聞いてどうするんだと思い直した。どうやら思っているより酒が回っているような…。

「――私なら捜し出して…殺してしまうかもしれないな」
「!!」

 およそ華やかな会場で聞く言葉ではなくて、俺は思わず団長を見上げていた。
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