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16. 夜会へ
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慣れない煌びやかな広間が眩しい。
着慣れないスーツで居心地も良くない。
「――それでいい加減教えていただけませんか?」
グラスの中の琥珀色の液体を見詰めて、俺は団長を見上げた。
「ああ、剣術の使い手の話だったか?」
「それもそうですが…我々がここにいる理由もです」
――俺は隣国ラインリッジ剣術の使い手によって殺されたのではないか。
その疑問は今日の副団長との手合わせによって確信に変わっていた。
あくまで実行犯が、ということだがそこから何か分かることもあるかもしれない。
「そうだな副団長のミールは勿論のこと、騎士団にあと二人…お前の同期のニコライもそうだし」
そこで言葉を切った団長を見ると、面白そうに笑っていた。
「テオドール殿下も実戦レベルではないだろうが触れられている」
「そうでしたか…」
隣国であるラインリッジは歴史ある国だ。学ぶことも多く王族は特に友好関係の証としてその文化を学ぶことは多い。
王子が兄弟であれば、兄は隣国の剣術を、弟には自国の剣術をといったように。
「ではこのパーティーにはどうして参加を?」
見渡す限り侯爵家以上の婚期を満たした若い貴族ばかりの会場だ。
二十代も後半の俺と、四十を過ぎた所の団長はやや浮いているように思う。参加条件の独身という部分は満たしているが…。
「私ならこの規模での公爵家邸宅での会合には、警備をもっと入れる」
「そ…うですね」
城の騎士団も外の警備に駆り出されているとはいえ、出入口付近や主要な場所にしか衛兵も見当たらない。
「主催のクインシア家にも再三進言したんだが、会場の空気が硬くなるから止めてくれだと。それでこうして参加者として様子を見に来たお節介者になっているわけだ」
お道化て団長がグラスをあおぐが、その理由は騎士として仕事の範疇を超えた真っ当なものだった。
「…普段からこのような事をされているのですか?」
仕事以外で?気になったから非番に直接関係もない現場の見廻りだって?
「独り身で暇だからな。それに今日はお前を捉まえられたしな」
今まで見た余裕のある笑顔ではなく、ごく自然に弧をかいた緋色の瞳を見た。
過去ではこの若手の騎士への手が早い団長を、すこし勘違いしていたのかもしれない。
人の一面しか見ずにその人を判断するべきでない。俺は自分の浅はかさが恥ずかしくなった。
「私は…マルクス団長のことを誤解していたのかもしれません…」
思ったまま口にすると団長の緋色の瞳が見開かれた。
「…それはもっと深く知りたいということか?」
自然に腰に腕を回され驚いた。危うく持っていたグラスを落としそうになる。
「あのっそういうところは団の風紀を乱すかと思いますが…」
「そうか?男同士で婚姻証明を取る者も増えている。ランベルトが誤解しているのは私というよりもむしろ…」
急に名前で呼ばれて、今度こそ動揺でグラスの中の液体が跳ねた。
「わっ…あっすみません!」
「いや問題ない」
団長のスーツに掛けてしまったワインを急いで拭く。よく見ようと思ったら自然と距離が縮まった。
あっこれはマズイかもしれない…そう思った瞬間、横手から声をかけられた。
「お仕事熱心…と思ったら、プライベートをお邪魔したかしら?」
鈴を鳴らすような高い音。声を掛けてきたのは主催者であるこの家の…。
「騎士団長様にお会いするなんて珍しいわ」
「これはカリーナ様、今夜は殊更お美しい」
「母上が選んでくれましたの」
目の前で自慢のドレスを披露しようとその場で一周ターンして見せたのは、カリーナ・クインシア嬢。
――三年後エリアス殿下と婚約を発表された公爵家の令嬢、その人だった。
着慣れないスーツで居心地も良くない。
「――それでいい加減教えていただけませんか?」
グラスの中の琥珀色の液体を見詰めて、俺は団長を見上げた。
「ああ、剣術の使い手の話だったか?」
「それもそうですが…我々がここにいる理由もです」
――俺は隣国ラインリッジ剣術の使い手によって殺されたのではないか。
その疑問は今日の副団長との手合わせによって確信に変わっていた。
あくまで実行犯が、ということだがそこから何か分かることもあるかもしれない。
「そうだな副団長のミールは勿論のこと、騎士団にあと二人…お前の同期のニコライもそうだし」
そこで言葉を切った団長を見ると、面白そうに笑っていた。
「テオドール殿下も実戦レベルではないだろうが触れられている」
「そうでしたか…」
隣国であるラインリッジは歴史ある国だ。学ぶことも多く王族は特に友好関係の証としてその文化を学ぶことは多い。
王子が兄弟であれば、兄は隣国の剣術を、弟には自国の剣術をといったように。
「ではこのパーティーにはどうして参加を?」
見渡す限り侯爵家以上の婚期を満たした若い貴族ばかりの会場だ。
二十代も後半の俺と、四十を過ぎた所の団長はやや浮いているように思う。参加条件の独身という部分は満たしているが…。
「私ならこの規模での公爵家邸宅での会合には、警備をもっと入れる」
「そ…うですね」
城の騎士団も外の警備に駆り出されているとはいえ、出入口付近や主要な場所にしか衛兵も見当たらない。
「主催のクインシア家にも再三進言したんだが、会場の空気が硬くなるから止めてくれだと。それでこうして参加者として様子を見に来たお節介者になっているわけだ」
お道化て団長がグラスをあおぐが、その理由は騎士として仕事の範疇を超えた真っ当なものだった。
「…普段からこのような事をされているのですか?」
仕事以外で?気になったから非番に直接関係もない現場の見廻りだって?
「独り身で暇だからな。それに今日はお前を捉まえられたしな」
今まで見た余裕のある笑顔ではなく、ごく自然に弧をかいた緋色の瞳を見た。
過去ではこの若手の騎士への手が早い団長を、すこし勘違いしていたのかもしれない。
人の一面しか見ずにその人を判断するべきでない。俺は自分の浅はかさが恥ずかしくなった。
「私は…マルクス団長のことを誤解していたのかもしれません…」
思ったまま口にすると団長の緋色の瞳が見開かれた。
「…それはもっと深く知りたいということか?」
自然に腰に腕を回され驚いた。危うく持っていたグラスを落としそうになる。
「あのっそういうところは団の風紀を乱すかと思いますが…」
「そうか?男同士で婚姻証明を取る者も増えている。ランベルトが誤解しているのは私というよりもむしろ…」
急に名前で呼ばれて、今度こそ動揺でグラスの中の液体が跳ねた。
「わっ…あっすみません!」
「いや問題ない」
団長のスーツに掛けてしまったワインを急いで拭く。よく見ようと思ったら自然と距離が縮まった。
あっこれはマズイかもしれない…そう思った瞬間、横手から声をかけられた。
「お仕事熱心…と思ったら、プライベートをお邪魔したかしら?」
鈴を鳴らすような高い音。声を掛けてきたのは主催者であるこの家の…。
「騎士団長様にお会いするなんて珍しいわ」
「これはカリーナ様、今夜は殊更お美しい」
「母上が選んでくれましたの」
目の前で自慢のドレスを披露しようとその場で一周ターンして見せたのは、カリーナ・クインシア嬢。
――三年後エリアス殿下と婚約を発表された公爵家の令嬢、その人だった。
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