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14. 手合わせ
しおりを挟むよく見れば騎士団長は制服のままだった。
少しでも時間があれば訓練場の団員の様子を見に来る。
騎士団長の鏡のような人だ。
「そうだルイジアス先程の手合わせだがな」
「はいっ!」
あまりに酷くて見ていられなかった…とでも言われるかと、緊張する。
「いつものお前らしくない手を使っただろう?あそこで斬り込むと足元に隙が出来る」
「すみません、お恥ずかしいです。最近見た手法を真似てみたのですが…」
さっきまでハーベスを相手に試した動きは、あの森で俺を殺した追手の動きを真似たものだ。
暗く太い木の根もあり足元が悪く、地の利もなかった。
しかしあの奇抜ともいえる一太刀で利き腕を傷付けられてさえいなければ、勝算はあったかもしれない。
「ラインリッジ剣術の型だろう?相変わらず勉強熱心だな。だがなぁ下手に取り入れるとお前の元々の綺麗な型が崩れるぞ」
「ラインリッジ…隣国のですか?」
「なんだ知らずにやっていたのか?熱心なくせに面白い奴だなぁ!」
ぐりぐりと大きく頭を撫でられた。
今のは向上心の強い部下を純粋に褒めただけだ。他意はない、と思いたい。
「我が騎士団でも使い手は少ないが…ああ、そうだミール!」
爽やかな呼び声で団長が呼んだのはミール副団長だ。
騎士団長と副団長の職は五年毎に解任と任命を繰り返す。
社交的で華のあるマルクス団長と、無口だが部下からの信頼が厚いミール副団長はバランスが良いように思う。
「わるいがルイジアスに見せてやってくれないか?」
団長が片手で剣の軌道を表現すると、それだけで分かったようで副団長は木剣を手にした。
「…わかった」
同じく木剣を持つように促され、滅多に手合わせをしない副団長の前に立つ。
副団長の灰色の髪が、一陣の風に揺れた。
「軽く打ち込んでこい」
「はい!お願いします」
隙なく構えたミール副団長にまずは正面から一歩踏み込む。
――カンッ!木剣を振り下ろした瞬間に強く弾かれた。
何度か打ち込んでは弾かれる。もっと強く来いという事だろうか…?
――カンカンカツンッ!何度目かでやっと出来た隙、渾身の力で水平に振り抜く。
「……!!」
半歩後ろに飛び退いた相手の身体が、木剣の切っ先を避ける。
次の瞬間だった。自分の振った木剣の影に重なるように刀身が現れ、手の甲を打った。
「いっ!!」
なんとか声は抑えられたが、予想していなかった痛みに顔を歪めた。
「それまで!」
マルクス団長の声に揃って剣を下ろす。
打ち返し方や間の取り方…森での襲撃者の動きとよく似ていた。
「すまない、加減を誤った…」
「いえ避けられなかった自分が悪いので。副団長ありがとうございます」
利き手と反対の手で手合わせ後の握手をした。団長よりも剣の腕が立つ副団長…。
「その剣術を習得されている方は、この城にも多いのでしょうか?」
俺の質問に肩眉を上げた副団長が、少し考えてから答えてくれた。
「実際扱える者としては片手で数える程度だろう…」
「教えていただいても?」
「…ああ城内では――」
「おっと!その話待った待った!」
ハーベスと話していた筈のマルクス団長が俺達の間に割って入る。
「ルイジアス!情報はタダではない…」
「えっ…いや副団長に聞くので…」
そう言ってミール副団長を見上げると、困ったように閉口している。
「はははっ残念だったなぁ、なに簡単な仕事だ今夜時間はあるだろう?」
ぐっと近付いた距離に冷や汗が出る。
「…そうですね非番です」
「よしっでは着替えてすぐに部屋に来てくれ!」
上機嫌に去っていく上司の思考が理解出来ない。
「え…部屋って…ええ…?」
助けを求めるように副団長とハーベスを見たが、首を横に振られるばかりだった。
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